愛を込めて手料理を・・・1300hit 魔族を倒すために旅を続けている一行が一つ。 大陸を転々とし、彼らは最終決戦に向けて日々精進していた。 旅をすれば武器や防具は勿論の事、道具や食料だって消費する。 メンバーが増えれば消費も早い。 只今のメンバー数は6人。1つの町で補給を済ませても、2週間ほどで底が尽きてしまう。 そんなある日、彼らの道具袋や食料袋の中からとうとう悲鳴が漏れ始める。 薬草は勿論、明日食べる食べ物さえもがすっからかんになっていたのだ。 「どうしよう・・・。」 途方にくれる仲間たち。 この大陸に着いた時に購入した地図は、悪い意味で期待を裏切らないアレストが、先日川に落としてしまったのだ。 つまり、黙々と道を歩くわけにも行かず、ほとほと困っている。 が、天は彼らを見放さなかった。 「町や!!」 遠く北に離れた場所に、賑やかな村を発見。 ■天と地の狭間の英雄■ 【愛を込めて手料理を】 農業が盛んな村「フランゲート」 アーチ状の看板には、この周辺に咲き誇る花達が美しく装飾されていた。 どうやら農業だけではなく、生花の輸出でも栄えているらしい。 決して大きくない村だが、何やら奥から賑やかな声が聞こえてくる。 十中八九この村の人達の声だろう。 少しだけ不思議な顔をしたフェイル達であったが、これで野道で途方に暮れることはない。 早急に補給を済まし、もし宿屋があるのならここで一泊してから再度旅を続ける方がいいだろう。 「しっかし、なんやこの騒ぎ。」 「さあ?」 先頭を歩くのはメンバーの中でも一番好奇心旺盛なアレストだった。 その後ろをつまらなさそうに歩くエルフはアスティア。アレストの問いにも冷たくさらっと流す。 「門だけじゃなくて、村の中一色がお祭りみたいだね。」 「そうだね。随分華やかだし、この時期だと農業祭があちこちで盛んだから。」 仲睦まじく肩を並べて歩く男女は、どこの誰が見ても微笑ましいフェイルとリュオイルだ。 過疎と言っていいほどの小さな、孤立した村出身の彼女は、どうやらこの騒ぎにピンとくるらしい。 都市に住んでいながらも、自ら様々な村に足を運ばせていたリュオイルもどうやら検討がついているようだ。 「とにかく奥に言ってみようぜ。幾らこの周辺が平和でも、流石に道具屋や食料屋ががら空きってのもな。」 「同感だ。」 なけなしの道具でここまで来た彼らは、普段よりずっと疲れ切っている。 出来れば早く布団の中に入って休みたいのが真情だ。 が、この村のあまりにも警戒心のなさ過ぎる祭り状態に、少し心配なシギとシリウスであった。 「おや?貴方たち旅人かい?」 この村の広場だと思われる場所に辿り着いた一行は、暫し呆然としていた。 何故彼らが一瞬呆けてしまったのかと言うと、そこにはこの村のほぼ全員の女性が集まって何やら作業をしていたのだ。 それだけならまだいいが、片手に包丁。片手に野菜。まな板に並ぶキノコや魚介類。 勢いよく出火している火の上にある鍋は、今にも吹きこぼれそうなほど沸騰している。 「あの、これは一体・・・。」 先に硬直が解けたのはリュオイルだった。 未だ呆然とする思考を振り切って、話しかけてくれた老婆に尋ねた。 何かの会場と思われる場所には、若い女性ではなく老婆たちも混ざっているのだが、彼女は参加していないらしい。 「今日は念に一度の農業祭でね。 女性が村で採れた野菜や家畜を料理してそれを男性が残さず食べる。 そうする事で食べ物の神様に感謝を捧げているんだよ。」 「へー、と言うことはこの村の女性陣は皆料理が上手いってことか。」 そりゃ感心だ、と一人呟くシギを見て老婆は微笑んだ。 そして何を思いついたのか、妙案が浮かんだような顔つきで 彼女はここにいる女性陣、つまりフェイルとアレスト、そしてアスティアを見つめた。 当の3人はというと、不思議そうに首を傾げるばかり。 と言うよりも、嬉しそうな視線を送られて困っている状態だ。 「あんた達にも可愛らしいお嬢さん方がいるみたいだねぇ。 どうだい、そこの3人もこの祭りに参加してみない?」 「「は?」」 「ちょうどお昼時だし、私はいいと思うな〜。」 意見は別れた。 パーティー内での料理はほぼ任せっきりのフェイルは、今日の献立は何にしようか既に考え込んでいる。 一方、味は人並み程度だが、見た目はそれ以下のアレストは少々顔が引きつっていた。 初めて彼らの前で料理を披露した時、(特に男性陣の)引き具合は今でも鮮明に覚えている。 自慢じゃないが、自分でもあまり料理は向いていいないと思っている。 リンゴの皮むきなら持って来いだが、調理しろと言われると、きつい。 その隣で同じく硬直してるアスティアはと言うと、こちらも料理が得意ではない。 と言うよりも、旅を始めて彼らの前で料理を披露した事がない。 フェイルが体調を崩さない限り、手伝うことはあっても先頭をきって作る者はいなかった。 意外だが、フェイルの次に料理の上手いシリウスはしょっちゅう包丁を握っていたような気がする。 盲目の妹を持っていれば、自然と上手くなるものだと、料理が苦手な者たちは感嘆していた。 「いやぁ、うちのはあんま見た目良くないし、なぁ?」 「私が作る理由はないわ。」 却下。 そう言い放った2人に対して相変わらず老婆は微笑を絶やさない。 ・・・どこか不気味だ。 「まあまあ、いいじゃないかい。料理なんてパパッと作ればいいんだからさ。 何か困った事があれば村娘たちに聞けばいいし、折角のお祭りだから食料もただで分けてあげるよ。」 「ぐっ・・・!!た、ただと言う言葉ほど光り輝くものなし、や・・・。」 「見た目より味、腕前より愛情さ。どうだい、参加してみる気になったかい?」 旅をすれば金はかかる。 特に食費は馬鹿にならない。一番消費が激しい品でもある。 しかも場所によって値段の差が大きいものだから、買い物は慎重にしなければならないのだ。 その貴重な食料を、ただで分けてくれるのならば、料理の1つや2つこなさなくてどうする、な話である。 「は?ふざけないでよ、それならあんた達2人で作ればいいでしょ。」 「えー、一緒に作ろうよ。」 「せやでせやで。村娘たちが手伝ってくれるって、あの婆ちゃん言ってたやないか。」 「別に手伝えとは言っていないわ。私は・・・」 「まーまー!とにかく挑戦や。レッツチャレンジや!!」 「はぁ!?ちょ、ちょっと・・・」 半ば強引にアスティアの腕を引きずるアレスト。 格闘術と弓使いの体力差は勿論かなりある。 その辺の岩なんて平気で砕くアレストなのだから、振り払うことも出来ない。 露骨に不機嫌っ面を見せるアスティアにフェイルは苦笑するばかりだ。 ずるずると会場に連れて行かれる3人を呆然と見送ったリュオイル達は どう反応すればいいか分からず、ただただ老婆を見るばかり。 「あ、あの・・・。」 「お前さんたちは村の男どもと一緒に座っていればいいさ。」 かくして、吉と出るか凶と出るかの料理大会の幕が開ける。 「さぁ皆さん今年も始まりましたよ!フランゲートで最も素晴らしい料理を作るのは誰か!? 包丁を握るその姿は一流剣士よりも輝いてるぜ!!」 「ほっほっほ。馬鹿息子を気にしないでどんどん作っておくれ。」 進行役はこの村の村長とその息子らしい。 ちなみに奥さんと妹さんらしき人は会場でせっせと準備をしている。 老婆に連れられて会場に足を運んだリュオイルとシリウス、そしてシギは予想以上の大盛況に気圧しされていた。 長テーブルは一体幾つあるのだろう。 料理を待っている男どもは酒を片手にゲラゲラと笑いあっていた。 (酒くせぇ・・・) 思わず顔をしかめたシリウスは些か不機嫌そうな顔をして勧められた椅子に着席した。 酒はザルな方なのだが、好んではいない。 酒は勿論のこと、煙草も、バクチにさえ興味のない、今時珍しい好青年過ぎる好青年である。 しかも料理や裁縫がさりげなく得意なのだから、婿には持ってこいな男だ。 (うわぁ、どうすればいいんだ?) シリウスの隣に座ったリュオイルはぼんやりと辺りを見回していた。 随分気さくな村人に断る前に注がれた酒を見て溜息を吐く。 弱くはないが、フィンウェルなどの宴など以外では、彼もまた好んで飲まないたちである。 が、折角好意で渡されたものを無下には出来ないので、仕方なしにそれを口にする。 初めて口にした味で、とても喉越しがいい。 アルコールも思っていた以上に軽く、これならば酒に弱い者以外はそう簡単に潰れる事はないだろう。 「いやー、悪いっすね。」 遠慮する気が全くないシギは、村人の好意をそのまま素で受け取っていた。 さっぱりした性格が受けたのか、村人の反応も良好だ。 酒を飲まなくても生きていける天使は、本当に天使なのか?と疑いたくなるほど飲み続ける。 顔は赤らんでいるが、酔っているのか酔っていないのか、テンションはいつもと変わらないので判断しづらい。 しかしこうやって大勢で騒ぐことが好きなせいか、盛り上げ方や進行は心得ているらしい。 ものの数分で村人たちの心を掴んだシギは「凄い」と称するほかない。 「少しは遠慮したらどうなんだ?」 「いやいやリュオイル君、こういう時は遠慮するもんじゃなくってよ。」 「酔ってるな、お前。」 寒気がしたリュオイルは自分の腕をさすった。 どうやらこの中で先に潰れるのは彼のようだ。 「フェイル。」 馬鹿は放っておこう。そう判断したシリウスは少し離れた場所で腕まくりをする少女を見つけた。 金髪で民族的衣装を身にまとっているのは彼女だけだ。すぐに確認する事が出来る。 その横で不器用ながらに包丁を構えて野菜の皮を剥こうとしているのがアレストだろう。 相変わらずアスティアは不機嫌な顔をしたまま、取りあえず手を洗っている。 「お?今回は飛び入り参加で旅人のお嬢さん方も混じっているようですねぇ。」 村長の息子はマイクを持ってフェイル達に近づいた。 「金髪のお嬢ちゃん、こんにちはー。」 「あ、こんにちは。」 「今日は何を作る予定ですかー?」 「えっと、えっと・・・・リュオくーん!何がいいー!?」 結局献立が決まらなかったフェイルは、遠くに座っているリュオイルに声を張り上げた。 それに驚いた彼は少し顔を赤くして頬を掻く。 そりゃあ全員の視線が彼に集まるのだから、リュオイルは答えていいものか悩むところだ。 かと言って彼もこれと言って食べたい物が浮かばない。 フェイルの料理は何でも好きだし、何より好き嫌いがないのだ。 「どうやら彼は何でもいいようだね。」 リュオイルの思いが通じたのか否か。息子はフェイルに微笑んだ。 それを見て微笑み返すフェイルなのだが、さて困った。献立が一向に浮かばないではないか。 「うーん、じゃあ鶏肉と野菜のミルク煮と、具沢山リゾットでいっかな?」 「おお!随分凝った料理名が出てきました!彼女に作ってもらった男ども、残さず食い切れよ!!!」 「それじゃあちゃっちゃと取り掛かるね。」 ジャガイモ、人参、たまねぎ、きのこを探し出して皮を剥きはじめる。 流石パーティーのお母さん。その手際はなかなかのものだ。 一口サイズより少しだけ大きく切り揃えたジャガイモのアク抜きをするために暫し水の中へ。 人参は火が通りやすいように、今度は一口より少しだけ小さく切りはじめる。 先に熱しておいたフライパンの上に鶏肉をそっと置き、皮部分を香ばしい匂いがするまで焼く。 ある程度火が通ればそれをまな板の上に出し、火傷をしないようにタオルを乗せてこれもまた一口サイズへカット。 鍋にバター、そして少し油を入れ、パチパチと音が鳴りはじめたら火が通りにくい物から順に入れる。 ダシとなるスープを入れ、水を注ぎ、暫く煮込む。 アクが出てくればすぐにすくい取り、ローリエを入れて待つ。 後は牛乳を入れ、塩コショウで味を整えれば完成したも同然だ。 「あと一品あと一品。」 鼻歌混じりで料理をするフェイルの姿はどこかお母さんの面影を感じさせる。 思わず彼女の調理に見とれていた村長の息子は、はっと我に返り、今度は隣にいるアレストに突撃インタビューをする。 「ワイルドなお嬢さんこんにちは!今日のメニューは何にするのかな?」 「ども・・。・・・だあぁぁあ!!指切ってしもたーーーー!!!」 「・・・だ、大丈夫か?」 「こんの人参め。根野菜の分際でうちに盾突く気やなぁ!?」 「・・あの・・・。」 「待ってるんやでオムライス。うちが愛情を込めて、尚且つ目の前に立ちはだかる憎き野菜どもを蹴散らしてやる!!」 「・・・どうやら彼女はオムライスのようです。」 既に自分の世界に入っているアレストに何を言っても無駄だと判断した村長の息子は、 彼女の持つ、一際ギラギラ輝く包丁に苦笑して、怖気づいたような姿勢で一歩、また一歩下がった。 彼らの仲間と思われる青年達が「頑張れよー」と軽く手を振っている姿を見る限りでは どうやら旅の中でも彼女の料理する雰囲気は1つも変わっていないらしい。 気を取り直し、飛び入り参加の最後の女性に突撃インタビュー。 薄いアメジストの髪を1つにまとめているせいで、彼女のチャームポイントの尖った耳がよく見える。 初めて見るエルフに感嘆していた息子だったが、本来の目的を思い出し、 人を寄せ付けないオーラを持つアスティアの傍に駆けて行った。 「初めましてエルフのお嬢さん!今回は何を作ってくれるんだい?」 「・・・・・・。」 いきなり話しかけられたアスティアは、ただでさえ他人と話すのが嫌いな性格なのに こんな良く分からない農業祭の料理大会に巻き込まれたのだから、当然彼女の不機嫌さはピークを達している。 隠すことなく露骨に不機嫌さを放つその視線は、今ならその辺の魔獣を睨みで殺すことの出来るほど。 そんな恐ろしい、殺気のこもった視線を間近で受けた村長の息子は、「ひっ」と小さく悲鳴を漏らすが ここで退散すれば男が廃る!と、震える足を叱咤して、(ある意味)命を投げ捨てる覚悟でアスティアに寄った。 「お、お、おや?ま・・まだ調理に、は・・・取り掛かって、な・・・・」 「目障りね。これで切り刻まれたくなかったら消えてちょうだい。」 「・・・・す、すみません。」 果物ナイフと肉切り包丁を装備したアスティアが彼の喉仏にその鋭利な部分を突きつける。 うっすら血が流れている事を肌で感じた息子は、緊張と恐怖が極限状態まで陥ったのか 進行役という役目をすっかり忘れてじりじり後に下がって行っていた。 そしてもう一睨み。 ギロリと向けられた明らかな殺気に、息子は何度も何度も謝って後ろ足で退散した。 やっと静かになった所で1つ溜息。 馬鹿煩い進行役がいなくなって清々したが、メニューが全く浮かばない。 最後に料理したのはいつだっただろうか。いや、そもそも料理した事があっただろうか。 生まれてまだ19年ほどしか経っていないが、どんなに記憶を手繰らせてもその光景は見えない。 「あれ、もしかしてまだメニュー決まってない?」 パーティー内では厨房の母親、と言われるほどの料理の腕前を持つフェイルがアスティアの後ろで食料を探していた。 どうやら2品目に取り掛かり、ついでにデザートでも作る気なのか、ありとあらゆる果物を小さい腕で抱え込んでいた。 「早いのね。」 「うん。メニューが決まればパパッと作れるし。」 「私は、料理になんて縁がないもの。旅の間もあんたが作ってたから。」 「そっか・・・うーん、簡単なのって言えば、やっぱりカレーとかかな?」 「カレー?」 「うん。お鍋にお肉とお野菜入れて、水入れて、スパイス入れて、煮込むだけ。」 「カレー、ね・・・。」 考える素振りを見せ、アスティアはおもむろに野菜を取り出す。 どうやらフェイルの案は取り入れてくれるらしい。 包丁の持ち方も、芋の皮剥きも危なっかしいが、調理する意欲は(多分)あるらしい。 その姿を見て満足そうに微笑んだフェイルは、自分の持ち場に戻り、最後の仕上げに取り掛かる。 (皮剥き・・・皮なんて剥く必要あるのかしら?) 日頃からフェイルの料理を食べているおかげで、カレーに何が入っているのかは分かった。 が、いまいち調理法がピンとこない。 フェイルに大まかに説明してもらったが、自分は一度も作った事がないので 皮を剥くのか、どれがスパイスなのか、どの肉を入れるのか。全く検討がつかないのである。 取りあえず目星のついた野菜を並べる。 ジャガイモ、人参、たまねぎ。 必須野菜はこれだったと思う。 が、何となく足りない感じがする。 そう思ったアスティアは、後ろに並べられている野菜を無造作に選び取る。 新たに鍋の中に混入されることとなった物は、カボチャ、ピーマン、シシトウ、白菜。 ・・・ここまでは、多分、まだいい。 (これも入れてみればいいわよね。) 誰かに相談すればいいものを、あろう事かアスティアはスイカ、イチゴ、桃にまで手を伸ばした。 「んー?」 オムライスを作っている途中でアレストは隣にいるアスティアをひょいと覗き込んだ。 丁度その時、アスティアはスイカとイチゴと桃を手に持っている時だったため、 自然と彼女がデザートを作り始めていると見てしまう。 勿論、先に選び抜いた野菜達はアスティアが影になって見えない。 (はやっ!アスティアって、意外と料理上手いん?) 何かとんでもない勘違いをしたアレストは、こうしてはいられない!と調理のスピードを上げる。 たまねぎを炒めていた火力もアップし、混ぜる手にも力が入る。 その頃の男性陣はと言うと・・・ 「なあシリウス、フェイルとアレストはともかくアスティアの料理どう思う?」 リュオイルは何か不吉な予感を感じていた。 自ら「料理は嫌い」と公言していたアスティアの料理・・・想像もつかない。 「俺に聞くな。あいつが今まで料理を拒んだのなら、何らかの事情があるんじゃねえのか?」 「事情、ねえ。」 まさか火が駄目だとか? いや、それはありえない。彼女の1つの技に不知火がある。あれはどう見ても火をまとっていた。 それにフェイルの魔法にだってビクともしない。 他に考えられるのは、包丁が駄目だとか、前に火傷した事があって恐怖感が残っているとか・・・。 が、ここから見た限りではそんな様子は微塵も感じられない。 時々フェイルと目が合い、微笑んで手を振ってくれる。 それにつられて手を振り返すが、一番心配なのはアスティアの料理だ。 お世辞にも上手いと言えないシギだって料理はしている。 自分が下手なのを分かっているのかいないのか分からないが、彼は進んで料理当番の編成に加入するのだ。 食べられない事もないのだが、どうせ食べるのなら美味しい物の方が断然良い。 「おや?アスティアの持ってる球体のやつって、スイカか何かか?」 「スイカ!?」 酒を飲むスピードを少し緩めたシギは、赤らんだ顔を会場の方に向けた。 ぽつりと呟いた言葉に敏感に反応した、この中で最もまともと思われる2人は一斉にそちらの方に目をやる。 「・・・なあシリウス、スイカ使った料理なんて、あるのか?」 「だから俺に聞くな。・・・文献では読んだ事はない。ミラにだってスイカはそのままでしか出した事はない。」 「お前が知らないって事は、スイカを使ったものなんてそうそうないって事だろ?」 「・・・否定は、しないな。」 ザアッ、と2人の顔色が変わった。 一番蒼白なリュオイルは、心の中で1つの事を祈るばかり。 ((食べられるものが食べたい・・・)) 珍しくリュオイルとシリウスの意見が心の中で共通した。 「スパイスって、どれよ・・・。」 一方、一番心配されている事を知らないアスティアはカレーの決め手となるスパイスを探してた。 エルフの村でも何度か目にした事がある。 村長に味を知るように、とそのまま味見させられたこともあった。 「・・・これかしら?」 彼女が手に取ったのは、見事瓶詰めにされたスパイスだった。 さぁ、後はこれを入れれば何とかなる。 「そういえば・・・。」 (アスティア、カレーにもひと工夫すると上手いぞ。) こんな時に蘇った村長の、今となってはありがたくない言葉を、アスティアは運良く、いや運悪く思い出した。 (チョコレートを入れるとコクが出る。) ・・・確かにそうなのだが、アスティアは何を勘違いしたのか、 板状のチョコレートを片手では抱えきれないほど持ってきた。 既に野菜と果物を煮込んである鍋にそれを入れ、チョコレートの何分の一か分からないほどのスパイスを少し入れる。 が、流石にカレーに甘い匂いは少しおかしいと判断した彼女は、瓶に入っていたスパイスを全て入れ、 最後の仕上げに醤油、コショウ、塩を入れてかき混ぜる。 濃度が濃いせいか、ボコッと音をたてて煮詰まる茶色のそれは、見事な出来だった。 「さあさあ、女性陣の皆さん出来ましたでしょうか!?」 調理終了の鐘の音が村全体に響き渡る。 満足そうな顔を浮かべた村の女性たちは、渾身の作品を、夫や兄弟のもとへ運び出す。 待ってました、と言わんばかりに男達が吼えた。 耳障りな声に思わず耳を塞いだリュオイルは、またもや溜息を吐いて自分たちの仲間を探す。 「リュオくーん。」 人数分の皿を持って小走りに駆けてくるフェイルを見てホッと安堵した。 その後ろにアレスト、そしてアスティアが続く。 並べられた皿には蓋がしてある。どうやら冷めないように、という魂胆が見える。 周りを見ると既に様々な料理を食している者が大勢いた。 豪快に食べる者もいれば、テーブルマナーに則って紳士に食べる者さえいる。 先に蓋を開けたのはフェイルだった。 予想通り、彼女の料理は見た目も匂いも問題ない。 取りあえず一口、口の中に入れその美味しさに思わず笑みが浮かぶ。 「うん、美味しいよフェイル。」 「本当?良かった〜。」 「ありがとな。」 あっという間に彼女の料理を平らげた3人は次にアレストの料理を待つ。 指に包丁で切った痕が生々しくて、シギは少し心配そうにその手を取った。 「おいおい大丈夫なのか?」 「へ、平気や!こんなんでへこたれとったら、戦闘の傷なんて病院行きやで。」 「それもそうか。」 軽く話した後で、勢い良く蓋が開けられる。 彼女はオムライスを作る、と言っていたが、予想通り卵は焦げていた。 おまけにちゃんと包みきれておらず、所々穴があいており、中のライスがはみ出していた。 が、いち早くそれにパクついたシギは、「美味い」と一言漏らして、余すことなく全てを平らげてしまった。 それに遅れてシリウスやリュオイルも口に運ぶ。見た目は悪いが、味は問題ない。 少し焦げが強いが、香ばしさがある、と言えば何の問題もないだろう。 「・・・で、最後はアスティアだね。」 「何よその目は。」 不安そうな顔をするリュオイルに少し不機嫌になったアスティアは、少し乱暴にテーブルの上に皿を置いた。 リュオイルとシリウスが思うのは唯一つ。「スイカはどうなったんだ!?」という事ばかり。 2人の異変に気付いていないシギは、どんな料理が出てくるのか楽しみにしている。 「さぁ、全部食べなさい。」 整った綺麗な手が蓋を開ける。 白いライスの上に乗っている茶色い物体は、見た目だけならカレーと言えたかもしれない。 蓋を開けたと同時に広がる異臭にリュオイルは思わず引いた。 シリウスは冷静さを保っていたつもりなのだろうが、額には脂汗が滲み出ている。 何も知らなかったシギは、一目その物体を目にした途端硬直した。 明らかにおかしい匂いがたちこめた。 異臭は風に乗り、他の村人たちも顔をしかめて臭いの原因となっている料理を探し始める。 簡単に見つかったそれを見て、あっという間に顔が青ざめる者が多数だ。 「ア、アスティア・・・一応聞くけどこれは・・・。」 「カレー以外に何に見えるっていうの。」 「カレー?カレーはこんな甘ったるい臭いはしない。」 遠まわしに「これはカレーではない」と言ったシリウスに対して、アスティアは眉を少し上げた。 「ふーん、食べないつもりなのかしら?」 「いや、そんな事はないぜ?ほら、見た目と臭いに反して、もしかしたら美味いかもしれないし。」 パク 勇気ある男、恐れを知らぬ男、もといシギは恐る恐るスプーンでそれをすくい、口に入れた。 その瞬間、ギャラリーと化していた村人から喚声が響く。 「すげー!」「死ぬんじゃないかあいつ!?」「ブラボー!!」と、何やら無責任な言葉が飛んでくるが、この際無視だ。 が、スプーンを口に入れた瞬間シギの動きが完全にストップする。 流石に心配になってきたフェイルは、水を入れたコップを彼に手渡し、背中をさすり始める。 タイミングよくシギが動いた。 だが苦しそうに咳をして、今にも吐きそうなほど青白い顔をしている。 これは尋常ではない・・・。 「随分失礼な男ね。」 誰のせいだよ!と思わず叫びたくなる衝動をこらえて、リュオイルは引きつった笑みを浮かべながらアスティアを見た。 相変わらず涼しい顔をしている彼女には、自分がどれだけ料理が下手なのか全く分かっていないらしい。 彼女は彼女なりに作ったのだろう。 料理なんて本当にしたことがなかったのだろう。 良く頑張った、褒め称える行為だと思う。 が、死人が出そうなほどの壊滅料理を作る君って・・・・。 「さあ、あんた達2人も食べなさい。」 有無を言わさぬ鋭い視線がリュオイルとシリウスに突きつけられる。 嫌だと言えば、彼女は背中にある弓を戸惑うことなく彼等の頭部に狙いを定めるだろう。 生きるか死ぬか。食べて死ぬか弓で射られるか。 ・・・結局どちらも死を見る事に変わりはない。 「い、いただきます!!」 その後、不味い事を知っていながらも全て平らげたリュオイルは真っ青になりながら宿屋で寝込み、 食べ切れなかったものの、半分以上を胃に収める事が出来たシリウスは暫く胃痙攣を起こしていたとか。 一口食べ、そのまま失神してしまったシギも勿論宿屋行き。 フェイルとアレストの手厚い看病を受け何とか復活した3人だったが、 特にシギとリュオイルが鬱気味に陥っていたことはアスティアは知らなかった。 結局旅を再開したのはそれから1週間後。 明らかに病気的な症状だった彼等を心配してくれた親切な村人たちは、 ここの村の特産の野菜や果物、肉を袋に入りきれないほど分けてくれたと言う。 ところで、鍋に残ったアスティアのカレー(と思われる)はどうなったのか。 「美味しいじゃない。」 料理オンチ、味オンチのアスティアがきれいに平らげたのであった。 教訓 アスティアに料理を作らせるな!!!
<コメント> い、いかがでしたでしょうか守水さん・・・。 リク内容「天英で女性陣の料理を男性陣が食べて評価する」ですが、ご希望に添えているかどうか不安です。 最初構成を立てていたはずなのに、どうしてなのかアスティアが出張ってます。 ちなみに料理の腕前はフェイル→シリウス→リュオイル→アレスト→シギ→アスティアの順です。 なのでフェイルとシリウスは一緒にエプロンつけて料理している事がしばしば・・・。 比率的に何故か男性陣の方が料理上手いんじゃない?と気付いたのは最近だったりします(汗) 1300リクありがとうございました!!こんなものでよければ貰ってやってください!