【 誰かさんの暇つぶし 後編 】
フェイルとリュオイルが小さくなってしまってからかれこれ3時間ほど経とうとしていた。
事の発端のアスティアの話しによると、彼女が作った若返り薬は1日で切れるらしい。
と言うことは、1日だけ乗り越えれば何とかなるということだ。
黒魔術、という怪しげな単語が飛び交うが、人体に影響がないならまだいい。
それに、滅多にお目にかかれないフェイルとリュオイルの子供バージョン。
日々疲れている彼らだったが、目の保養が出来る可愛らしいお人形のような2人は皆を和ませた。
だが、2人の記憶も退化している事を忘れてはいけない。
物事を判断する能力なんてまだ備わってないだろうし、子供は子供らしくするのが尤もである。
しかし子供とは言え、昨日までは他愛もない会話をしていた仲間。
そんな2人が、たとえ身なりが小さくなろうとも変わってしまったら、冷静に判断出来る者は少なからず動揺する。
それも、意外な人物が変われば・・・
「シーくん。シーくーん!」
とてとてと小走りに駆け寄ってきたのはフェイルだった。
シーくん、と言って走り回っているが、彼女が呼んでいる者はシギではなくシリウス。
最初に名前を教えたのがシリウスだったので、同じ文字で始まるシギはシーちゃんと呼ばれている。
ちなみにアレストはアーちゃん。リュオイルはリューくん。
どうやら3歳ほどでは滑らかに名前を唱えられないらしい。
一方のリュオイルはと言うと、シリウスさん、アレストさん、シギさん、フェイルちゃんだった。
流石貴族の出。既に彼の知能は通常より2〜4歳ほど発達していた。
天真爛漫で何を見ても興味津々のフェイルと比べると、倍以上リュオイルは大人しい。
自分から話しかけるのが苦手なのか、ずっと聞き手に回るし、相手の顔色を伺いながら会話をしている。
随分と世渡り上手な子供だが、無邪気さが欠けていて年相応ではない。
ぶっちゃけて言うと、暗い。
「走ると転ぶぞ。」
元気な声に振り返ったと同時に、両足に軽い重みがきた。
小さい腕でぎゅっとする姿は大変愛らしい。
流石のシリウスも少しだけ頬が緩んだ。
「なあ、シギ・・・。」
「みなまで言うな。・・・あれが父子に見えるのはアレストだけじゃない。」
軽々とフェイルを抱き上げたシリウスはそのまま肩車をすると、こちらの方に歩いてきた。
剣の手入れが終わったようで、ずっと前からそわそわとフェイルは待っていたのだ。
本当はずっと一緒にいたかったようなのだが、刃物を扱うので子供は駄目だ、と
断固拒否したあの姿は良識を持った兄にも見えるし、父親にも見える。
極めつけは微笑みと肩車。
「確かあいつって、20は超えてたよな?」
「えーっと・・・せやなあ、確か22だったちゃうっけ?」
「それから3〜4歳引いても、18そこらか・・・。」
2人にとってシリウスの姿は「父親」にしか見えない。と言うか、あの絵になるような図はまさしく親子。
金髪と銀髪は相対的ではあるが、どちらも透けるような色を持っている。
もしフェイルがお母さんになってシリウスがお父さんなら、
フェイル似の子供はああなるんだろうなぁ、と心の中でぼやいていた2人だったが
さっきから隣で黙々と本を読んでいる少年に視線を移した。
うんと背が小さくなってしまったので、赤毛のくせっ毛はよく目立つ。
ひょこひょこと覗く触覚のようなくせ毛は、思わず引っこ抜きたくなる衝動に駆られる。
難しそうな本を無言で読んでいる彼に、シギは少し苦笑した。
彼の読んでいる本の種類は政治。難しい言葉や単語があるのに、あの年でよく読めるものだと感嘆してしまう。
同時に、子供らしくない読み物に悲しくなってしまった。
「面白いか?」
横から覗きこむとびっくりしたのかギョッとして身を縮ませた。
驚かせすぎたかな、と一瞬思ったものの、シギは人懐っこい笑みを浮かべて安心させようとする。
先にシリウスがしていたように大きな手で彼の頭を撫でると、ぎこちなくだがはにかんで笑ってくれた。
「うん・・・ちちうえの、おてつだいしたいから。」
「そうかそうか、良い息子じゃねえか。」
「うちがこれくらいの時は散々親父を振り回しとったけど・・・。」
「そりゃあ、育ちが違うからじゃね?」
ああそうか、と軽く手を打ったアレストだったが暫く頭の中で復唱してシギの頭を殴る。
「失礼なっ!」
シギの脳天に見事ヒットしたはいいが、被害者はゴン、と音がしたと同時に顔からテーブルにぶつかった。
その反動でテーブルが揺れ、コップに入っていた紅茶が少し零れた。
思いがけない事態にビクリと肩を震わせたリュオイルは、何度も瞬きしながら2人を見ている。
それでも大事な本は守ろうとしたのか、小さな腕の中にぎゅっとしまわれていた。
「いででで・・・。」
「自業自得やで。」
「の割には、最初納得してたじゃねえかー。」
テーブルに突っ伏したまま顔だけ上げると、余計な言葉を言ってしまったせいでもう一発殴られるはめになる。
更に驚く行為が続くと、リュオイルはどうしていいか分からずキョロキョロと忙しく辺りを見回した。
止めさせるべきなのだろうか。だとしても自分では止めららないと分かっている。
放っておくべきだろうか、と思案するが、シギが可哀想で仕方がない。
「アレストさん。」
リュオイルが選んだのは前者だった。
頼りない力でアレストの服を引っ張ると、流石に気付いたのかもう一度振り下ろそうとしていた拳を止めた。
「シギさんがいたそうです。」
服を掴んだまま、少し首が痛くなるところまで顔を上げると、アレストの瞳とぶつかった。
それはアレストも同じであって、大きな青い瞳がまっすぐこちらを向いてくる。
何だろう、蛇に睨まれた蛙のような気分だった。
悪い事をしたわけではない(アレストにとって)のに、まるで悪役の大魔王のような感覚がするのは気のせいだろうか。
純粋無垢な目を向けられているからだろうか、シギに対しての殺気とも言えるオーラが消える。
「・・・ちびリュオに免じて許しちゃる。」
深い溜息を吐くとテーブルに置いてあった零れた紅茶をぐっと飲み干して宿屋から出て行く。
怒らせてしまっただろうか、と段々不安になってきたリュオイルは、しどろもどろしている。
そんな彼を安心させるのは、事の発端のシギの手だった。
ぽふ、と軽い音をたててまたリュオイルの頭を撫でる。
段々慣れてきたのか、今度はびっくりしたような顔はしなかった。
「サンキュー・・・死ぬところだった。」
にへら、と笑いかけるシギはずっと幼く見えた。
ぼんやりとそれを見ていたリュオイルは、先ほどアレストにぶたれた頭を撫でる。
「だいじょうぶですか?」
小さく呟かれたのはシギの身を案じる言葉だった。
短いが、多くの意味を含んでいるように聞こえる。
まだ小さくて知能が低い子供ではここまでが限界なのだろう。
だけどシギにとったらそれで十分だった。いや、十分すぎた。
「うーわーっ!可愛いやつだなぁおい!!」
「・・・・。」
うっすら感動の涙を溜めたシギは勢いに任せてリュオイルを抱きしめた。
一瞬リュオイルは、息が詰まるような声を出したが、抗議の声を出すこともなくなすがままになっている。
もとのサイズの時のリュオイルは労わるような言葉を言わない。
寧ろ先ほどのアレストのように「自業自得だ」と吐き捨てるだろう。
それを踏まえると、子供とはなんと純粋なのだろうと感心してしまう。
たとえそれが自分に原因があっても、何も知らない子供は最終的に被害を受けたほうに味方してくれる。
そんな事を考えているなんてこれっぽっちも思っていないリュオイルは、
おずおずと右手を上げ、そのままもう一度シギの殴られた頭を撫でた。
痛くない痛くない、とまじないをかけている彼の表情は少し満足そうだ。
「シーちゃんシーちゃん。」
ふと足元でちょこんと座り込んでいるフェイルがシギのズボンを引っ張った。
リュオイルを抱きしめたまま振り返ると、大きな目を更に大きく見開き、期待するような目で訴える。
「わたしもなでて。」
「え、ああ?」
リュオイルを抱え込んでいた片方の腕を外し、少し荒っぽく艶のよい子供の髪を撫でた。
右左、とわしゃわしゃと撫でるにつれ、フェイルの頭もそちらの方に揺れる。
それが楽しいのか、そして何が楽しいのか、随分嬉しそうにしているフェイルはきゃっきゃ、と声を立てて笑っていた。
シギに抱きこまれ、半ば宙吊りになっているリュオイルはぶらーんとしながらも決して抵抗はしていなかった。
それよりも表情がころころ変わるフェイルをじっと見ている。
「なぁに?」
その視線に気付いたのか、きょとんとしながらフェイルは首を傾げた。
いつの間にかシギのなでなでタイムは終わっていたらしい。
ばっちり目が合ったリュオイルは思わずぷい、と顔を逸らした。
子供ながらに避けられたのだと思ったフェイルは、不満そうに頬を膨らませお気に入りのシリウスの所へ駆けていった。
「・・・どうしたんだ?」
あからさまに不機嫌な顔を見せて踵を返したフェイルを見て唖然としたが、
それよりもリュオイルが無視するなんて信じられなかった。
やはり育った環境が一般と違うから他の子供よりも警戒心が強いのだろうか、と心配するが
優しい声色で尋ねると、リュオイルは悲しそうな目をしてうろたえていた。
「え、あ・・・。」
「あれじゃあフェイルが怒ってもしょうがないぜ?」
「あ、はい。そうですね、すみません・・・。」
「いやいや、そう言うのは本人に直接言わなきゃ意味ないだろ?」
相変わらずの他人行儀めいた喋り方に苦笑する。
しかしやはり子供と言うべきか、思考回路は大人に負けている。
「その、あの・・・。」
沈みがちに呟かれる言葉は心なしか覇気がない。
何を躊躇っているのか、次の言葉が出てこなかった。
それでも辛抱強くシギは待っていた。
膝にリュオイルを乗せたまま、何度かそのくせっ毛のある髪を触れながら、ゆっくりと時を過ごす。
子供に無理強いをさせる必要はない。寧ろ悪影響だろう。
自分が言える時までまって、それを最後まで来て上げるのが子供に対して出来る大人の仕事だ。
急かすような気配がない、と知ってか知らずか、リュオイルはなかなか話を切り出そうとしなかった。
寧ろ早く言え、と言われるのではないかとびくびくしていたのだが、彼はそうではないらしい。
父や母からの教育でも、あまり人を待たせることを由としなかった。
貴族の出だから、言葉ははきはきと、相手の目を見て話す。これが最も重要な家訓の1つ。
当然のことだが、いざ対面してみるとなかなか目を見て話すことが出来ない。
同じ貴族から品定めされるようにじろじろと見られることはよくあったが、
あの金髪の女の子のような天真爛漫で輝いている瞳を向けられたことがなかった。
だから、どんな顔をすればいいか分からず顔を逸らしてしまった。
つまり照れ隠し。
「嫌いなわけじゃないんだろ?」
今までの沈黙が破られ、唐突にシギの声が頭上から聞こえた。
ぱっと顔を上げたリュオイルはこくりと小さく頷く。
「じゃあ簡単だ。今度はお前がフェイルを誘えばいい。」
「さそう・・・。なにに、ですか?」
「そうだなぁー。あの歳だとあいつは本に興味なさそうだし。
かと言って俺もあんまりあいつの好きなもの知らないし。・・・どうしようか。」
「・・・フェイルちゃん、ぬいぐるみすきでしょうか?」
ふと妙案を思いついたかのように明るい顔つきになったリュオイルは、ぽんと手のひらを打って薄く笑った。
彼の提案に一瞬きょとんとしたシギだったが、ほほう、と感心したのか嘆息した。
「へー、お前そんな器用なこと出来きるのか?」
「はい。ははが、なんどか、ボクやクレイスにぬいぐるみをつくってくれて・・・。
それをなんどかみているうちに、ボクもやってみたくなって。」
「そりゃ感心だ。それならフェイルも喜ぶかもしれないな。」
もとのサイズの時のリュオイルは絶対にこんなことをしないだろう。
武術に関してはピカイチだが、家庭面となると上手くいかないらしい。
日頃からフェイルの手伝いをしてはいたが、包丁を持つ手は危なっかしく、とても任せてはおけない。
それでも味オンチ料理オンチのアスティアと比べれば月とすっぽん並みだが
レパートリーが少ないせいか、一週間しないうちに栄養が偏りそうだ。
しかし、裁縫系が得意だとは驚きだ。
宿の女将に毛糸の余りと編み棒を借り、いそいそと準備をしている。
どうやらぬいぐるみはぬいぐるみでも編みぐるみらしい。
編み棒と彼の手には収まらない毛糸を持ったリュオイルは、少し頼りなくフェイルのもとに歩み寄る。
シリウスの膝に乗っている彼女は、何が楽しいのかばたばたと足をばたつかせてはしゃいでいる。
リュオイルに気付いていないフェイルは相変わらずのはしゃぎっぷりだった。
その様子を見てどうしようか、と悩んでいる姿をシリウスは少しだけ頬を緩めて苦笑した。
困ったような瞳で訴えかけてくるリュオイルに折れたのだろう、右手をちょいちょいと曲げて「おいで」の仕草をする。
一瞬きょとんとしたリュオイルだったが、恥ずかしいのか俯き加減でよたよたよ近寄る。
やっと手の届く範囲に来ると、シギがしていたように大きく彼の頭を撫でた。
小さく悲鳴を上げたリュオイルだったが、その声色は驚きだけで拒絶はない。
気が済んだシリウスは、膝の上ではしゃいでいるフェイルを持ち上げ、床に下ろした。
不思議そうに首を傾げてシリウスを見上げるが、彼は何も言わない。
ただ微笑ましそうに眺めているだけだった。
「・・・それなーに?」
シリウスが何も言わなかったのは、シギの目配せがあったからだ。
最初はリュオイルが近づいてきた事に驚いたが、手に持っている可愛らしい道具に何となくだが察しがついていた。
自分の仮説が正しいかどうか判断するためにシギの方を向くと、案の定彼は朗らかに笑っていた。
そして声に出すことなく、「だいじょうぶ」と確かに口を動かしていた。
ならば大丈夫だろう。・・・特にリュオイルが。
シギとシリウスが心配することはなかった。
先ほど目を逸らされたことを忘れたのか、フェイルはリュオイルが編んでいるものに夢中になっている。
「すごいすごーいっ!リューくんすごいね!!」
「クマのぬいぐるみ・・・つくろうとおもって。」
「クマさん?わたしもほしいなー。」
「・・・これ、フェイルちゃんに、あげるよ。」
「ほんと?」
「う、ん。ほんとう。」
輝いている目を見た瞬間、リュオイルは戸惑ったように頷いた。
不安の気持ちもどこかに吹き飛んだのか、微かにだが笑顔を浮かべる余裕も出てきた。
まだ十分に発達していない指は小さくて、編み棒を持つには少しおぼつかないが
一つ一つゆっくり、段を間違えることなく編んでいく。
まるで魔法を見るかのように興味津々のフェイルは驚きのあまり声も出ないのか
ぽかん、と口を開けたままそれを凝視していた。
「フェイルちゃんは、クマすき?」
「うん。あとね、ネコさんとかーウサギさんもだいすきだよー。」
手を動かしながら、ちらちらとフェイルを盗み見たリュオイルは、
彼女を退屈させないように話題を探すが、なかなか思いつかない。
今日はいい天気だとか、家族の事とか、本当に他愛もない話。
それでもフェイルは嫌な顔せずしっかり聞いてくれていた。
中身を理解しているかどうか定かではないが、何度も頷いて時々問い返すことさえあった。
流石に政治の話になると首を傾げて唸ったので、それは禁句だと学習する。
「リューくん、おとうとがいるんだね。」
「うん、ふたごなんだけど・・・。」
「ふたご?」
「ぼくとおなじ、かおしてるおとうとだよ。」
「すごーいっ!みてみたいなー。」
「・・・そう、かな。」
「うん、リューくんみたいに、いっしょにあそびたい。」
「え?」
思いがけない言葉に驚いたリュオイルは、作業を一旦止めてフェイルを凝視した。
怒ることがないのだろうか、と思うほど彼女は笑みを絶やさない。
それは愛想笑いでもなければ、嘲笑するような笑みでもない本物の笑顔だった。
「・・・クレイスと、ともだちになってくれる?」
「クレイスくんってゆーの?」
「う、ん。クレイス。」
「じゃあリューくんとクーちゃんも、きょうからおともだちっ!!」
クーちゃんときたか・・・。
相変わらずの不思議ネーミングに顔を引きつらせたシギとシリウスだったが
リュオイルは初めて嬉しそうに笑った。
友達が出来るということが余程嬉しいのだろう。照れたように、少しだけ頬を染めていた。
やっと子供らしい表情が出てきた彼に一番喜んでいたのは、傍からその光景を見ているシリウス達であった。
すっかり親の気持ちになっているのか、特にシギの頬の緩み具合ときたら・・・少しだらしない。
にへら、と笑っている様は年に反して幼く見えていた。
だらしがない、と喝を入れる人物も今はここにいないし、シリウスは隣の人物など眼中にない。
恐らく、自分の幼少期と重ねているのであろう。
彼の中には幼い自分と、今のフェイルと同じくらいの妹の姿が垣間見える。
「ちっ。・・・もとのサイズの頃と大して変わらないわね。」
「(今舌打ちしなかった?この子)・・・アスティア、今までどこにいたんだ?」
「は?今までいたじゃない。・・・あの物陰の所に。」
「(ストーカー!?)・・・悪い、気付いてなかった。」
「あんたもまだまだよね。」
「すんません。」
突然現れたエルフにシギはびくりと反応した。
アスティアの言動にいちいち驚いて何ともまあ見苦しい。
シリウスは最初から彼女が物陰に潜んでいたのを知っていたのか、受け答えすることはなかった。
最初の頃よりずっと仲良くなっている2人をただ微笑ましそうに見ているだけ。
見ているだけでは段々飽きてきたのか、今度はフェイルも編みぐるみに挑戦していた。
流石のフェイルも初めてのことに四苦八苦しており、所々編み抜かしの部分がある。
それでもリュオイルは「上手だよ」と微笑みながらアドバイスをしている。
彼のクマはラストスパートに入っているのか、残りは耳の部分を編み上げて、縫い合わせれば完成だ。
途中針で指を刺したが、一瞬痛そうに顔を歪めただけで喚いたりはしない。
さすがリュオイル。彼の親は幼い頃から徹底的に教育しているらしい。
赤く滲んだ人差し指をじっと見つめていると、横からフェイルが覗きこんでいた。
痛い?と問いかければ、笑って平気だと返す。
しかしじんわりと滲んでいる赤い血は見るからに痛々しい。
編み物を中断したフェイルは、そっとリュオイルの指を取った。
それに目を白黒させていると、あろうことか少女は、ぱくりと指を口に含んだ。
ギョッとしたのは傍観者だ。
シリウスは頬を引きつり、シギはぽかんと口を開けている。
やっと興味を示したアスティアは、どこからともなく取り出したメモ帳に何やら書き込んでいた。
ざかざかと軽やかに執筆される内容が、気になる・・・。しかし命は惜しい。
「こうするとね、しょうどくになるって、おじいさまがいってたの。」
張り詰めた空気を作った原因のフェイルは悪びれた様子もなく、寧ろ笑顔で自慢げにそう教えた。
えへん、と胸を張る仕草は子供らしい。
「うん、ありがとう。」
きっと混乱してあたふためいているだろう、と思われていたリュオイルは、淡白だった。
それがさも当然のことのように、笑っている。
一瞬彼が貴族の出だと言うことを忘れてしまった。
貴族のはずなのだが、一体どういう教育をしているんだ?
多少の怪我ぐらいで喚かないことは素晴らしいが、変なところで教育が行き届いていない。
と言うよりも、意外性を感じられる。
普通考えられる貴族のような品のある仕草ではなく、かなりワイルドな躾をされているような気がする。
(ああ悲しきかな、もとのサイズのあいつが、すげぇまともに見える・・・)
「小さくなったら、もっとこう、インパクトのあるキャラが出てくると思ったんだけど・・・失敗ね。」
「イ、インパクト?あの2人にか?」
「例えば、小さい頃は実は我が侭で暴れ放題のフェイルとか。」
「(ありえねー・・・)」
「小さい頃泣き虫なリュオイルとか。」
「(・・・うーんどうだろう、有り得るような有り得ないような・・・ありえない、か)」
「はたまたどっちもナルシストだったとか。」
「「有り得るか。」」
「ま、フェイルはともかくリュオイルの珍情報は手に入ったかしら。」
2人の揃った声などまるで聞こえなかったかのように、ざかざかと少し乱暴にメモを取る。
訝しげに眉をひそめたシリウスとシギは、彼女の前に立つとその小さな紙切れを覗きこんだ。
フェイル・・大して変わらないがシリウスに懐く犬。リュオイルに対する関心は基本的に薄い(物に釣られる傾向あり)
リュオイル・・シャイなウサギ。比較的白い人格。黒い部分が出るかどうかは確定できず(調査中)
「おい、調査中ってまた騒動起こす気か?」
「さぁ〜?ターゲットをまたあの2人にするとも限らないわ。
・・・そうね、例えばシギとかシギとかシギとかシギとかシギとか・・・」
「うわあぁぁぁあああっ!!や、やめろアスティアーーーーーーっ!!!」
にやり、と不気味に笑うアスティアを見て寒気が走ったシギは、顔色を真っ青にして疾風のごとく宿屋から脱出した。
呆然とそれを見送ったシリウスは、複雑な顔をしてアスティアを軽く睨んだ。
多少脅しをきかせたところで、あのアスティアに対抗出来るはずがない。
寧ろ自分もシギと一緒になって逃げるべきだったのだろうか、
何を考えているのか、シギの逃げた方向を見ながらクツクツと笑っている。
・・・とてもじゃないが人間には見えない笑い方だ(エルフだけど)
何か邪気を感じる。これは一体何なんだ?
背筋が凍り、嫌な汗が頬を伝う。
ああ、例えるならあれは悪魔なんだろう。
普段から笑わない分、時々見せる嘲笑の笑みが不気味で仕方がない。
何を企んでいるかは知らないが、今の奴は自分の敵だ。関わらないほうがいい。
「ああ、シリウス。」
「・・・なんだ。」
凝視していた視線をずらそうとした途端、タイミングよくうっすら笑顔を浮かべたアスティアが振り向いた。
引きつる頬を何とか堪え、至って平然を保ったシリウスは、落ち着いた声で軽く咳払いをした。
「逃げようったって、そうはいかないわよ?」
・・・・・・悪魔なんて可愛いもんじゃない。鬼だ、いや・・・魔王だ。
<オマケ>
チュンチュン・・・・
「うー、ん・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・うん?」
変わらぬ朝。いつもと同じように起床したリュオイルは、寝ぼけ眼で目を擦っていたが
隣に感じる不自然な温もりに思考が停止する。
・・・・不自然な温もり?
いや、僕一人でベッドがこんなに温かいわけないし・・・
ガバリッ!!
「・・・・・・・・・・・・・・・・え?」
「なあ、そういやあの2人一緒に寝かせたけど、今日もとに戻るんとちゃったっけ?」
「「あ・・・。」」
「うわぁぁぁぁぁあああああああああああ!!!!フェ、フェイルーーーーーーーーーーーーーっ!!?」
「騒々しいわね。」
紅茶を飲んで、溜息。
大変長らくお待たせしましたっ!!い、いかがでしたでしょうか傍観者さま。
キリリク内容が「天英キャラの意外な一面」でしたが、出し切れず玉砕(まて)
本当はもっと性格が悪いキャラを出そうとしたんですが、出来ませんでした・・・。
特にフェイルがほとんど変わってなくて自分でもショック。
でも小さい時のフェイルのお気に入りはリュオではなくシリウスです(断言)
多分この話の中で一番濃いキャラはアスティアじゃないかと(出番は少ないけど)
流石のシリウスも、色んな意味で彼女には勝てません
リクエストありがとうございましたっ!!!
06/7.25