02 振り払ったのは自分











「アスティア!」


朝っぱら聞こえた明るい声に、気だるげに振り返る。
ああもう、耳障りだわ。


「おはようアスティア」

「……………おはよう」

「今日もいい天気だね」

「……………そうね」


何故かは分からないが天界に来てから、
最高峰大天使ミカエルの側近、イスカにやたら構われる。

天使の中では珍しい漆黒の髪を持つ青年。いや、少年と言うべきか。
実年齢はさておき、幼さが抜けきっていない顔は庇護欲をくすぐられるとか。
そんなことはアスティアにとってどうでも良いことこの上ないのだが、
彼の前でポロリと言えば、顔を真っ赤にして憤慨すること間違いないだろう。
見かけも精神面も多少幼い部分が残っているが、
そんじょそこらの大人に負けないほど芯が強く、尚且つ義理堅い。

剣の腕は確かだ。が、まだまだ未熟な面が多々あることをアスティアは知っている。
それでもミカエルの側近という大きな地位に就けたことは、胸を張っても良いだろう。

彼の今の力が、崇拝する上司に認められたということ。
しかし、それを妬む輩がいることも、また確かである。
だからなのか、素直になりきれず少々皮肉っぽい面があったが、
ここ最近はそれも大分抜けてきており、少年らしい一面を多々見せている。



「アスティアは弓が上手いんだね」

「……あんたたちみたいな天使と比べればどうってことないレベルでしょ」

「そんなことない!アスティアは凄いよ!!」

「………そんなムキにならなくても」



天使の中で、今や超がつくほど有名である彼が、何故ここにいるのだろうか。

波長が合うのだろう、最近はフェイルと一緒にいる所を見かける。
新しい仲間が出来ることは素晴らしいことだ。…と世間は言う。

だが、アスティアは人付き合いが苦手だ。寧ろ嫌いで面倒だ。
それを他所に、イスカは何かとアスティアに付きまとう。



「俺は、剣以外は何しても駄目だから。純粋に羨ましいなぁって」

「確かに癒しの術は多少使えるけど、あんたみたいに翼があるわけでもないわ」

「それでも!……俺、アスティアは凄いって思う」



ああ、このような攻防が、一体何日続いているのか。
似たような台詞を何度も聞かされては、いい加減こっちが参る。

イスカがアスティアに、何の返答を求めているかなんて分かったもんじゃない。
どれだけ邪険にしても「構って構って」と、
まるで千切れんばかりに尻尾を振った犬のように、彼は走り寄ってくるのだ。

それでも、だ。我慢の限界というものがある。
たまにきつく言ってやると気まずそうな顔をするのだが、
それでも毎日最低三回以上は、意図的にアスティアのもとへ来る。


フェイルやアレスト達に向ける笑顔とは少し違う、大人びた微笑を浮かべて。


アスティアは、そういう表情があまり好きではない。
これといって明確な理由はないが、
イスカが顔に似合わない笑みを浮かべると、無性に苛立つ。



「そう」



だから最近は特に素っ気無い態度を取ることが多い。



「だから?」



ほら見ろ。
こう吐き捨てるといつもしょぼくれた顔をする。

ミカエルの側近ならもう少ししゃんとしなさいよ。私が悪いみたいじゃない。
だから他人と話すなんて嫌いなのよ。
いちいち相手の顔色を伺って話すなんて、冗談じゃないわ。
私だって話すのが下手なことくらい重々承知している。
だから今まで突き放してきた。だから人は寄ってこなかった。
心地よい独りの空間に土足で踏み込んでくれば、誰だって警戒だってする。

そう、私の警戒が異常なことは、私が一番分かっているのだ。



「いや、あの………ごめん」



わざと突き放して、もう近づきたくないと思わせれば私の勝ち。



「俺の話しは、退屈だよね」



さっさと諦めてミカエルのもとに戻ればいいのに。



「じゃあ、またあとで」



……………戻った。


そう、これで私の勝ちなのに。





「ああ、もう」








振り払ったのは 自分








何故こんなにイライラするのだと感じながらも、

どうしようもない罪悪感が胸の中を巣食い続ける











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