● 唐紅の記憶  ●




第23話 『いつかまたと手を振って』



燦々と降り注ぐ太陽の光に、ジリ、と鈍い痛みが肌を襲う。雲一つない晴天の中、時折海
鳥が空を飛び交う時だけ、甲板に小さな影が走る。その行く先を見遣れば、木々や人々で
溢れた活気ある港に目が留まる。

ハーティス港と同じく商業に富んだ貿易港、ガレオラ港だ。
気候は穏やかではあるが、ハーティス港周辺よりも日照時間が長く、この大陸の人間でな
ければ熱中症になる者も少なくない。南部地帯のガレオラ港は、温暖で雨が少なく乾燥し
ていて過ごしやすい沿岸域である。それとは対照的に北部地帯は、雨は多いが夏は涼しく
冬は暖かいという独特の海洋性気候を持っている。様々な食べ物や天然鉱物に恵まれたこ
の一帯は、他の大陸からは、是非とも移住したいと密かに囁かれているほどであった。

小舟を漕げば数分で丘に上がることが出来るだろう。港から微妙な距離を保っている不審
な船は、ガレオラ港に現れてからかれこれ一時間弱ほどその場に停泊していた。異様な黒
船の姿に港の人間も流石に気付いたのか、野次馬宜しく人が壁を成し、船を見つめていた。
中には軍服を纏う人間もいる。恐らく巡回兵士なのだろうが、これは不味かった。

「ひとまずここでお別れだな、兄弟」
「ひとまずじゃなくて多分もう逢わないと思うけど」
「ははは何冷たいこと言ってんだ!お前のやりたいこと終わったら海山賊になれよ」
「……そこは遊びに来いって言ってよ」

同じ黒髪を持つもの同士の噛み合っているような、そうでないような会話を傍観していた
ヒューガは、胡乱気に港を睨みつけた。―――不味い。予想以上に兵士の数が住民を上回
っている。だがしかし、この船ではそうなっても仕方がないと言えるだろう。一般的な船
は木造の茶色、あるいは茶褐色の側面であるのに、この船はどうしてなのかわざわざ黒く
塗り直している。これでは「ここにいます」と自己主張をしているようなものだ。今のと
ころは警戒をするだけで様子見のようだが、下手にこちらが動けば攻撃しかねない。

(そんな状況下で、この小舟に乗れと?)

ヒューガは憤っていた。腸が煮えくり返っていた。おまけに顔が引き攣っていた。
それもこれも、この船の船長あらため海山賊の頭領ことシークエンドが別れることを拒む
かのように、やたらシリュウと話し込んでいるからだ。きっぱり断られているといのに、
性懲りもなく勧誘することを忘れず。怒りを通り越して呆れる、という心の現象など、生
憎ヒューガは持ち合わせていなかった。苛立ちが募れば、更に苛立つだけだ。チッ、と一
つ舌打ちをして、船の横に繋げてある小さな小舟を見下ろす。全員が乗るには少々窮屈の
ような気もするが、贅沢は言っていられない。陸地までは目と鼻の先。少しの辛抱だ。

「そこまで。…まったく、あんたはいつになったらこの子たちを出発させてあげるんだい?」

こちらは怒りを通り越しているようで、呆れ返ることは勿論、溜息さえ一緒に付いてきて
いる。シリュウと半ば無理やり肩を組み出したシークエンドの後頭部を、一欠片の遠慮も
なしに小突いた女は、ようやく解放されホッと安堵の色を見せたシリュウを見て微笑む。

「師匠…」
「忘れ物はないかい?ここに忘れたらもう二度と取りには来れないよ」
「寧ろ忘れていけ兄弟。ああ、そうすれば戻ってくる口実が出来るな」
「あんたは黙ってな」

良いことを思いついた、と言わんばかりに明るい表情になったシークエンドを、問答無用
でシェンリィが叩き潰す。一連の言動に慣れているのか、普通ならばへこむところを見事
に笑顔でスルーしたシークエンドは大物なのか、それともただ単に馬鹿なのか。シークエ
ンド曰く、愛情の裏返しなのだろう。これがシェンリィでない他の人物ならば多少噛み付
くのであろうが、相手が惚れ込んでいる女ならば何を言われても幸せ。恋は盲目とはよく
言ったものだが、シークエンドの場合その意味とは微妙に異なっている気がしないでもな
い。

「どうするのですか。波止場には既に憲兵らしき人物が十数揃ってますが」

ヒューガと同様、剣呑に目を細めて港を食い入っていたカインは、ここまで騒ぎ立てた間
接的な犯人をジト、と恨めしそうに睨みつける。今にも腰に下げた鞘から剣を抜き出しそ
うな勢いだ。その様子にギョッと目を剥いたシリュウは、口元だけを不自然に吊り上げて
いるカインを必死で宥める。最近その割合が高くなりつつあるシリュウは、知らず知らず
の内に大きな溜息を一つ吐いた。何とも不憫な姿だ。

「あ、あんな所に行ったら捕まっちゃいそう…」
「そうですね。その線がまず妥当でしょう」

眉をハの字にし、不安げに港を見つめていたエリーナは、困惑気味に小舟と港を交互に見
る。今小舟で港に辿り着いたとしても、有無を言う前に捕らえられ、良ければ兵士の宿舎、
悪ければ牢獄に放り込まれるだろう。その場合、無実を訴え釈放されたとしても、最低一
週間ほどは足止めを食らう。しかし、要らぬ疑惑でもかけられでもすれば、釈放どころか
裁判にまで持って行かれる可能性がある。…どちらにせよ、シリュウ達に良いことなど一
つもないのだ。

「真正面からは無理のようだね…。どこか別の場所から入り込むしかなさそうだ」

下唇を噛み、シェンリィは港の周辺をぐるりと見渡す。波止場自体はそれほど広くはない。
陸地へ行けば行くほど開拓されているのか、沿岸沿いは細くなっていた。それを囲うよう
に、新緑の葉をたっぷりつけた木々が数え切れないほど生い茂っている。強風から港町を
守るためにあるのだろう。

「あの場所から乗り込めば見つからないんじゃねーの?」

す、とヒューガが指した場所は、海側から見て最も鬱蒼としている場所だった。一瞬、本
当に森なのではないかと疑いたくなるようなほど、木々が立ち並んでいる。他の場所より
ずっと暗いせいか、そこだけが景観として浮いているように見えた。この大型船な近づく
ことは出来ないが、小舟ならば気付かれずにガレオラ港に上陸出来そうだ。

「そうだな。それじゃあ一旦沖に出てから、港から見えない場所に船を停泊させるか」
「最初からそうすれば良いものを…。全く、時間の無駄にもほどがありますよ」

背後に黒い気配を漂わせながら、カインはブツブツと呟きながらシークエンドを見据えた。
彼の逆鱗に触れぬようビクついているシリュウを余所に、原因を作った張本人であるシー
クエンドは涼しそうな顔で受け流していた。この中で最年長であるシークエンドには、カ
インでさえ子供のように見えるのだろう。彼がどんな暴言を吐いたとしても、この短い船
旅の中、決して感情的になることはなかった。ヒューガとまるで正反対の男をそれなりに
評価しつつも、食えない笑みを浮かべたまま諭す様子を、カインは好きにはなれなかった。

「兄貴ぃー。いつでも出発出来ますぜー?」
「よし、じゃあ小島がある方に進んでくれ。港の連中に不審がられないように頼むぜ」
「また無理な注文つけますねぇ」
「お前を信じてるぜ、サルジュ」
「…そう言われると、期待に添わなくちゃあなりませんね」

面舵いっぱい、とサルジュが甲板に並んでいた船員たちに声を上げる。切れの良い了解の
合図とともに船員が駆けだし、船首はゆっくり右へと移動する。少しずつ沖に進む様子を、
シリュウは海面を見つめながらぼんやりとしていた。隣に立っているヒューガは再び船酔
いの気が現れたのか、口元を押さえて青褪めている。しかしそれでも座りこもうとしない
姿勢は意地なのか。ブツブツと不満を呟きながら気分の悪さを誤魔化していた。カインは
と言うと、エリーナに忘れ物はないかと再度確認を取っている。先ほどシェンリィが言っ
たように、この船を降りれば二度と荷物は取りには来れない。男の荷物などたかが知れて
いるが、女の荷物は男には分からないようなものも多くある。既に三回ほど荷物の点検を
しているエリーナ達には、呆れを通り越して感嘆せずにはいられなかった。

「何神妙な顔になってんだ。そんな顔するくらいならここに残れよ」

いつの間にかシリュウとヒューガの間に現れたシークエンドは、辛気臭い顔をしているシ
リュウの肩を数回叩いた。気分が悪いだけなのか、シークエンドがいるからなのか、途端
にヒューガの表情が露骨に嫌そうに歪められる。

「本当にそればっかりだな、あんたは」

毎日毎日本当に飽きもせず、まるで意中の人物を口説くかのように、あるいは義務的なよ
うにシークエンドは勧誘し続けた。二日三日経てばあしらうことは簡単に出来るようにな
ったが、本気なのか冗談なのか判別し辛かった初日は困惑した。本気だったからこそ、今
ははっきりきっぱり断っているのだが。

「―――お前には、お前を受け入れる場所や人間がいるのか?」

ザア、と一陣の風が吹く。強風から微風へと。

「どうかな」

視界に移る青い世界を閉ざす。素っ気無い返答とは裏腹にその声色は、今吹いている風の
如く穏やかだった。そんな風に返されると思っていなかったのか、驚いた様子のシークエ
ンドは少しだけ瞠目してシリュウの横顔を見つめた。目を伏せているからその色は伺えな
いが、子供はやはり子供らしからぬ雰囲気を醸し出していた。

「ヒューガもエリーナもカインも、まだ出逢って間もない人たちだよ。
 嫌われていないことは分かってる。好かれているのかどうかはよく分からないけど、
 ……一緒にいて楽しいって思えるんだ。フィライン以外ではそんなことなかったのに」

会話の中にシェンリィを入れなかったのは、彼女がシリュウにとって別格の人物だからだ
った。母親のように包容力がありながらも、姉のような気軽さも持っている。降り注ぐ摩
擦から自身を守る術を教えられ、人としての生きる術を懇々と諭された。師匠と一括りに
呼んではいるが、本当はそんな一言では言い表せることが出来ないほど、彼女はシリュウ
にとって偉大な存在だった。

「シークエンド。俺って俺には勿体ないくらい、幸せ者だよ」

ともに笑いあえて。同じ鍋の料理を突いて。剣を握る時は背中を預けたり、誰かを守った
り。ごくごく一般的な普通がなかったシリュウには、それが新鮮で心地よくて堪らなかっ
た。心の底から信頼しているかと問われれば、恐らく何も言い返すことが出来ない。即答
出来ないのならば、それは否ということだ。例え相手がこちらに歩み寄って来ても、シリ
ュウにはどうしても一線を越えることが出来ない理由がある。黒髪と赤い瞳ではどうして
も目立つ。それも悪い方向に。石を投げられることは勿論のこと、下手をすれば殺されか
ねない。そんな危険を伴う相手と、親密になってはいけない。シリュウは幼い頃から自分
自身に言い聞かせていた。それは年と重ねるにつれ義務感のようになり、今では意識せず
とも相手から離れるような形になってしまっている。なかなか目敏い仲間達は、それを敏
感に感じ取っている。それはあのエリーナでさえもだ。

ゆっくりと、噛みしめるように微笑んだ姿をシークエンドはまるで他人事のように眺めて
いた。

驚くほど不器用だ。けれど感情の突起が一般よりも乏しい分、どんな些細な表現でさえも
美しく栄える。それ以外の要因もあるのだろうが、シェンリィがフィラインという名でこ
の少年を必死で守ろうとする意味が、ようやく分かった。

「良い顔するようになったじゃねぇか」

くしゃり、と少し癖のある黒髪を撫ぜる。突然の行動に目を白黒させているシリュウは、
何度か瞬きをした後に少し苦笑して見せた。

「そんなんじゃあ、無理にここに引き止めるわけにはいかねぇな」

もし一抹の不安要素があればシェンリィもろとも掻っ攫っていこうと、実は心の奥底で企
んでいたのだが。

(俺の入る隙間はないってことか……)

喜ぶべきなのか、残念に思うところなのかは分からない。大袈裟に息を吐き、少年を取り
巻く者たちをぐるりと見渡す。どれもこれもシークエンドにとっては子供同然で、成人を
迎えてそれなりの年月が経っている男二人でさえ、未だ不安な点が幾つか見受けられた。
本人たちはそれを上手く隠している。けれど彼らよりもずっと長く生きているシークエン
ドには、隠しても隠しきれていない不穏なものを直に感じ取っていた。

その中で、大の大人を退け置いて、この少年は強い。芯が強い。揺れ動いたとしても、す
ぐに修正してもとの形に戻る。何度崩れかけても、何度でも立ち直る。その強さが誰より
も強い。きっとそれは本人も、他の仲間たちだって気付いていない。庇護しなければなら
ない存在のように見える儚げな雰囲気とは裏腹に、少年はいつの間にか仲間を守っていた。

「今までありがとうシークエンド。あんたに逢えて本当に良かった」
「その言葉、そっくり返すぜ。…………達者でな、兄弟」

これまでの中で一番綺麗に笑う姿を見て、シークエンドは目を細める。


もう、大丈夫だ。

老婆に石を投げられ、一滴だけ涙を零した脆い少年の姿は、既にない。






「いいのかい?もう二度と逢わないってのに」

陸地に最後の荷物を放り投げたシェンリィは、不思議そうに首を傾げながら、小舟に当然
のように居座っている男を見下ろした。その手にはオールが握られている。何故か陸地に
渡るための漕ぎ手に、この男が自ら挙手したのだ。それを胃痛に悩まされながらも渋々承
諾したサルジュは、気の毒としか言いようがなかった。忙しいというのにお供を申し出た
サルジュは、心の底からシークエンドを慕っているのだろう。今は小舟の端でどんよりと
した雰囲気を漂わせているが。

「俺とお前は赤い糸で結ばれてんだ。否応がなしにまた逢うさ」
「寒い決め台詞をドウモアリガトウ」
「冷たいなあ。こんな時くらい別れを惜しんでくれよ」
「清々するわ」

きっぱりと言い放たれて打ちひしがれているシークエンドを余所に、既に陸に上がってい
るシリュウ達は辺りを警戒しながら二人の様子を呆然と見つめていた。今となってはお馴
染みの光景なのだが、ことごとく玉砕するにも関わらずよくもまあ毎日シェンリィを口説
き続けることが出来るものだ。冗談なのか本気なのかいまいち判断しにくいシークエンド
の言動だが、口説くたびに見せる真剣な瞳をシリュウは知っていた。彼は本気なのだ。

「それはともかく。本当に良いんだね?まあどうせその内抜け出すつもりでいたから
 私は全くもって構わないんだけど……まさかあんたが私を追い出すとは思わなかったよ」
「追い出すなんて人聞きの悪い。未来の妻にそんな非道なことはしないぜ?」
「よく言うよ。一体何を企んでいるんだい?一応私は人質として船に乗っていたんだけど」

あれだけ「妻になれ」と場所や時間を関係なしに豪語していた男が、いざ皆と別れるとい
う瞬間に「シェンリィも共に行け」と言ったのだ。何か裏があると疑ってもおかしくはな
い。……まあ、例えシークエンドがここでシェンリィを解放せずとも、シェンリィは船か
ら抜け出す気満々でいたのだが。手間が省けた、というのが今の彼女の心情だ。

「理由?それはな――――」

ふいに、小舟に立っていたシェンリィの腕を引っ張る。座っていたままのシークエンドに
引っ張られたシェンリィは、虚を突いた行動に驚きを隠せないでいた。シークエンドのも
とへ雪崩れ込むように体勢を崩したシェンリィは、ふと耳にかかる小さな声に抗議しよう
とした口を真一文字に結び、剣呑に目を細めた。

「あいつを頼んだ」

たったそれだけであるはずなのに、ずしりと重く圧し掛かる。

どういうことだと詳細を聞き出そうとした瞬間、頬に感じる生々しい感触に思わず鳥肌が
立つ。挙句の果てにはわざと音を出してするものだから、虫を払うかのように手を振り回
して距離を置けば、にやにやとこちらの気分を逆撫でするような気色の悪い笑みを浮かべ
たシークエンドが堂々と座っている。頬を引き攣らせたまま、有無を言わさずその腹を足
蹴りする。蛙が潰れたような声を出したような気がするが、気にしない。我関せず、とそ
っぽを向いたままのサルジュだったがほんの少し顔色が悪くなっていた。

「全くあんたってやつは…っ!!」

口付けられた頬をこれでもかと拭ったシェンリィは、勢いよく小舟から皆が待っている陸
へと上がる。後ろでシークエンドが笑っていたが、今はその声を聞くだけでもムシャクシ
ャした。口付けられたことよりも、あの男のペースに嵌ってしまったことの方がショック
だったのだ。

「ほら行くよシリュウ!」
「え、あ、はいっ」

ずかずかと大股で町の方向へと歩き出すシェンリィに、シリュウは戸惑いながらも続く。
ヒューガ達も何か言いたそうではあったが、鬼のような形相と機嫌の悪さの彼女には誰も
刃向かうことは出来ない。それぞれの荷物を担ぎ、慌てた様子で二人の姿を追いかける。


「―――愛しているぜ、シェンリィ!」


やかましい、という怒声にも似た声にシークエンドは苦笑する。こちらを向いていないこ
となど分かっているのに、ついつい手を振り続けてしまう。名残惜しいと言われれば、是
と答える。本当は手放したくなどなかった。もしここで解放せずとも彼女のことだ、あれ
これと手段を使って逃げ出していたに違いない。シークエンドは分かっていた。彼女を人
質として船に乗せた時から。

「…良かったんですかい、兄貴」

四人の姿がなくなった後、ようやく手を下したシークエンドにサルジュは尋ねた。サルジ
ュの敬愛する男は背中を向けていたが、そこには哀愁も何もなかった。

「良い。待つことは慣れてる」

ずっと恋い焦がれていた。かれこれ何年、十数年待ち続けていた。それの延長戦なだけだ。
多少の年月など、痛くも痒くもない。シークエンドは満足げに微笑む。そう思えるように
なったほど、自分は大人になったのだ。

「それに、無理強いは俺のポリシーに反するんだよ」

ニッ、と白い歯を輝かせて振り返れば、呆れた様子で溜息を吐くサルジュがオールを抱え
ながら頭を掻く。散々振り回されているというのに、嫌ではないのだ。

船に戻る準備をするサルジュを余所に、シークエンドは港を見つめた。もう姿さえも確認
出来ない。彼らのことだ、上手くやっていくだろうが多少不安な部分もある。しかしシェ
ンリィがいるのでそこまで気に掛ける必要はなかった。


「またな、二人とも」


バサバサと頭上を渡り鳥が通過する。真っ白な翼を持つそれを仰ぎ見ながら、シークエン
ドはゆっくりと皆が待つ船へ帰るためにオールを握りしめた。






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