[PR] この広告は3ヶ月以上更新がないため表示されています。
ホームページを更新後24時間以内に表示されなくなります。

04 せめて今だけはこの手に触れて











「お前、色白いな」

「ん?そうかなぁ」



ふと、彼女の指に触れてみた。
フェイルは気にも留めた様子はない。
寧ろ手を繋ぐことが好きなのか、甘えるように握り返してくる。
勿論、相変わらず人を穏やかにさせる最高の笑顔を忘れないで。
それがあまりにも可愛らしくて、つい錯覚してしまうのだけれど。

最近はその笑顔が見たくて、用もないのにわざと手を握る。
いつもなら「手、冷たいね」と言われる立場なのだが、
今日は俺の方が口を開くのが早かった。

今更な気もするが、本当に白い。
ハッと目を奪われるほど、雪のように。



「旅をしていれば日焼けしてもおかしくないが…」

「あんまり焼けない体質なのかも。
 海で泳いだりしない限り黒くならないのかな?」



仲間で一番の美白はフェイルだ。
陶磁の肌に金の髪、そして碧眼はかなり栄える。
まるで、作りものの人形のようだ。



「シリウス君は丁度良いくらいの日焼けだね」

「これはもとからだ。大して日焼けはしていない」

「そうなんだ。健康的な色だね」



黒過ぎず白過ぎず。
やや浅黒さが入っているが、小麦色に似たシリウスの肌の色は健康的だ。



「でも私、シリウス君の色好きだなあ。
 リュオ君やアレスト達とは違うシリウス君だけの色が好き」

「………………」



一体、何を言い出すんだ。
これは計算なのか。それとも素なのか。
後者だとすれば、何という性質の悪さ。

はぁ、と耳に残る溜息を吐けば、不思議そうに見上げるフェイルの姿が。
どうしてこう、いちいち人の心を掻き乱すのだろうか。
無意識であることは十二分に理解している。
分かっているのだが、その無意識が酷く心を揺さぐ。

本当に、困ったものだ。
自覚がないだなんて、どうすれば良いのだ。



「俺はお前が心配だ」



色んな意味で。

暖かい地方で、彼女はかなり浮いている。多分気付いていないだろう。
人形のような彼女に、地方の連中はその白さに時折目を剥いている。
華奢な部分も加算されて、体力が無さそうに見えるのだろう。
実際彼女はぴんぴんしているから何も心配することはないのだが、
何故だろう、こんなにもフェイルを気遣ってしまうのは。



「頼むから、あまり無理をするな」



フェイルの温かい手に触れても、癒えない。
握り続けていると余計に不安が生じる。

これは、何だ。



「うん?」



ああ、でもこれだけは確かなんだ。
どんなに俺がフェイルに手を伸ばしても、
どんなに俺がフェイルを想っても、

彼女が先に掴むのは俺の手じゃない。











せめて今だけは  この手に触れて










それさえ許されないのなら


多分、俺は









Copyright(c) 2009 rio all rights reserved.