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10 僕じゃない誰かにその笑顔は向けられて









「それじゃあ、恒例の役割分担はじめます!」


旅をすれば、その日の内に町に着く割合など低いわけで。
炊事などの家事は、当然のことながら自分達で行わなければならない。
幸いなことに、温室育ちで包丁も握れないという人物はこの中にはおらず、
一部を除いてほぼ全員が一般庶民で、生活面において苦労することはなかった。



「よっしゃ!
 今日はうちが腕によりをかけてうまいもん作っちゃるさかいな」



家事が趣味だと豪語するフェイルが、常に食事事情を預かっているのだが、
七日に一度、まるで王様ゲームをするかの如く、くじ引きで役割が変わることがある。
本日の食事担当はアレストだ。
彼女の料理は何度か口にしたことがあるが、
見た目は少々不格好で、時たま焦げていることがあるが、味は至って普通だ。

問題は、残った他の役割分担員だ。


「えーと……薪拾いの人、挙手!」


アレストが下準備をしている間に、水汲みと薪拾いをする必要がある。
両者とも、二人ずつ。
元気良く右腕を上げたフェイルは、どうやら薪拾い組になったようだった。



「げ」

「……何だそのあからさまな声は」



フェイルの声に遅れて反応したのは、
のろのろと片手を上げたシリウスであった。
自分が引いてしまったものははずれの水汲みであるから、
せめてフェイルのペアがシギであれば良いのに、と思った刹那。

リュオイルが思わず上げてしまった嫌そうな声に、
不機嫌面した男が、双眸を細めてこちらを睨む。

実はシリウスが仲間に加わってから、
フェイルとペアになる確率が急速に激減しているのだ。
更にここ数週間、一度も彼女と一緒になった試しがない。
しかも、だ。何故か八割がたフェイルとシリウスがペアになる。
最初はくじ引きのくじ自体に何か細工がしてあるのかと疑ったが…。


「あんたの運がないだけや」


と、アレストに一蹴される始末。

確かに、よくよく考えてみればそうだ。
いくらなんでも、こんなくじに偽造工作するほど暇な奴は誰もいない。
勿論、それは宿敵であるシリウスにも言えること。
しかもこれを管理しているのはフェイルの鞄なのだから、疑いは完全に晴れる。

……晴れる、のだが。



「それじゃあシリウス君、行こう!」



こちらの心は、ここ最近曇天である。
しまいには落雷しそうなほど、ある意味病んでいた。

七日に一度の、この運命をかけたくじ引き。
この日ほど恨めしく思った日はない。



「分かった」

「今日は私の方がいっぱい拾うからね?」

「……フッ、先週も同じこと言ってたな」

「うう、今日は絶対拾うもん」




あの場所を取られた。
ずっと隣にいられると思ったのに、あっさり奪われてしまった。

当然のように彼女は笑う。
楽しそうに、嬉しそうに、シリウスを見つめながら。



――――ズキリ



「おーいリュオイル。俺達も行くぞ」

「………うん、分かってる」




君が、遠いよ。











僕じゃない誰かにその笑顔は向けられて










何でこっち向いてくれないの?


僕は毎日、君ばかり見ているのに









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