■天と地の狭間の英雄■
【嵐の中の激闘】〜キノコ大量発生〜
リール港で足りないものは全て買った。
体力も十分だ。天気も良し、雨の降る様子なんてこれっぽっちもない。
絶好の登山日和と言える。
「さ〜て、最初の難関。ファンデル山脈攻略に出るでーーーー!!!」
「はいはい、元気なのは良いが、ほら。」
「?」
「アレストの分の非常食、回復アイテム、
こっちはフェイルね。」
均等に分けられた袋に意外とどっしりと入っている中身は非常用の物だった。
個人個人持っていても邪魔にはならないように、少し小さめで服につける事が出来る。
その点は嬉しい。
「もし遭難しても大丈夫なようにね。
まぁ、滅多な事がない限りはそんなことないんだろうけど・・・」
じと目で見るその方向、フェイルだった。
それに驚いたフェイルは、思わず指を自分の顔にさした。
「え・・・わ、私?」
「あ〜、なーるほど。ま、うちらが気いつけば良いんやさかいな。」
「ア、アレストまで――!!」
頬を膨らませるがそんなのは全く通用せず、代わりに笑われるだけである。
歳相応のその姿が可愛らしくて、年上組みはとても心が和むのだ。
時々孤独そうにボンヤリとしている事を2人は知っている。
いつの日だったか、夕日を眺めていたフェイルが1人寂しそうにしていた。
後姿しか見ていないが、その小さな肩は更に小さく見え、そして泣いているのかと思ったほどだ。
だから、そんな顔しないように毎日欠かさず明るく声をかけている。
自分自身の事も、彼女の事も、まだ仲間の内で話していない。
話す機会も無いし、話さなくても特に支障は無さそうなので言わないだけ。
ただせがまれれば話すと思う。
お互い自分自身の事を言っていないから悪いのかもしれないが、やはりあんな表情をされると心配になってしまう。
「よし、それじゃあ本題に入るぞ。
まず午前の目標はファンデル山脈の頂まで行くこと。
戦闘のことも考えて余裕を持って行動するんだ。」
「ファンデル山脈の特徴は大して標高が高くないことやな。
空気が薄うなることもありはせんやろし。」
「でも崖とかが多いみたいだよ?
できれば戦闘はほどほどにしてなるべく避けたいな・・・」
それぞれ港で集めた情報を言い合いながら作戦を立てていく。
そしてその情報の中で嬉しいのは急な崖があること。
崖があれば足場はかなり悪いだろう、それに無防備に進めば誰かは崖から落ちるかもしれない。
「あ、そういえばね、ファンデルだけに生息する『ナマスギロウタケ』っていうのがあるんだって。
それでそのナマスギロウタケってのは、かなり強い毒性臭を発生させるって。」
「な、なますぎ・・ろうたけ?」
「そんなん、誰が言ったんや?」
「あのね、港に散歩してるときに教えてくれた人が・・・」
「誰それ。」
かなり黒いオーラがリュオイルの後ろから流れている。
アレストは真っ青、フェイルは気づいているのかいないのかそのまま話している。
リュオイルはと言うとと意味不明な事をブツブツと呟いていている。
アレストは更に恐怖した。
まだ日は浅いが、彼女はリュオイルの性格の性質を肌から感じ取っているようだ。
こいつ・・・・実は真っ黒!?
「んー、あの人も旅人だったのかなぁ?」
「と、とにかく今日の目標はファンデル攻略やな!?
ヨッシャア!!ほな行くでーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー。」
もう限界です。とでも言わんばかりにアレストはスタスタと去って言ってしまった。
それを暫く呆然と眺めていた2人であったが、置いて行かれた事に気付くと、すぐに彼女を追いかけた。
「ア、アレスト!!
待ってってば!!!ほら、リュオ君も急いで!!」
しばらく呆けていたがすぐに笑みを取り戻して二人の姿を追いかけた。
「うっわぁ、すごい霧!!朝早いからかなぁ?」
何後とも無く中間地点に到着すると、あたり一面霧だらけと言う事に気付いた。
右を向いても左を向いても霧霧霧霧霧・・・(以下略)
流石にこれ以上昇ると危なそうなので一旦止まっている。
今いる場所を確認しながら、慎重に道を選んでいた。
「そろそろこの辺で休憩したほうが良いかもしれない。道を間違えたら困るし。」
そう言うと、リュオイルは近くにあった岩に腰を下ろした。
地図と睨めっこしながら、最も安全な道を捜している。
「そういえばフェイル、ナマスギロウタケってのはどんな大きさ形なん?
毒キノコなんてようさんあって分からへんで。」
「えっと、大きくないけど一つの場所に無数に生えてるって。
・・・・・・あ、こんなの。」
「・・・・・・・・・・・・ちょっと待ってくれフェイル。
こんなのって、もしかしなくてもこれじゃないのか?」
リュオイルの足場にある無数のキノコ。
お世辞にも食べられそうに無い、なんとも表現しにくい悪臭を漂わせるそれは、
今フェイルが説明した通りのナマスギロウタケであった。
「これかいな。」
「調理法はあるかなぁ。」
「フェイル、そこは疑問に思う所じゃないだろ?」
今いた場所から数歩下がりまじまじと見る。
青紫色の形はいびつな毒キノコ。
よく目を凝らしてみると青い瘴気が噴出している。
「もしかしてこの道にあるのって全部そうなの?」
これから渡るルートの先を見ると道全体がナマスギロウタケで埋め尽くされている。
キノコ独特の臭いが辺り全体を覆い尽くし、新鮮な空気が完全にそれによって遮られている。
はっきり言おう。気持ちが悪い。
「気づかなかったらこのまま進んでたかもしれないが・・・。
知ってしまった以上、どうも抵抗がある。」
律儀に返答するリュオイルだがその顔は引きつっている。
そりゃあ数百と言えるキノコが目の前にあり、挙句の果てには青い瘴気が大量に噴出されているのだ。
しかもボヒュゥ、という良く分からない嫌な音つきで。
「じゃあ、・・・・やる?」
「ああ、やろう。」
「こればかりはしゃあないもんな。」
何を決心したのか、3人は武器を構えて戦闘態勢に入る。
その表情はいつも通り真剣だが、やはり心の奥底で「アホらしい・・・。」と考えている者もいた。
「調理出来ないのは残念だけど・・・・・まぁいっか。エクスプロード!!!!!」
「さっさと消えろっ、秋海堂!!!!!!」
「キノコの風上にも置けへんで!!?
透過桜花乱で真っ二つやーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」
―――――――チュドーーーーーン!!!!!
「よし、お掃除完了!!」
「空気が悪いな・・・・。」
「うっわぁ、燃やしきれてないのは変に溶け残ってるで〜?」
フェイルはエクスプロード、リュオイルは秋海堂、アレストは透過桜花乱をぶちかました。
先ほどまであったナマスギロウタケは黒こげ(一部溶けている)になっていた。
吐き気がするほどの悪臭が辺りを覆い、そして黒焦げになったキノコはプスプス・・・と音を立てながら、
生命力が強いか知らないがそれでも尚、瘴気を出している。
でもさっきよりは大分ましになったので一応掃除完了と言う事になるだろう。
「でも皆今までどうやってここを通っていたのかな?
やっぱり踏んで行ったとか・・・・」
「いや、その形跡は無いからどこか別のルートを使用していた可能性がある。
だけど、おそらくその道は険しい崖を上り下りしないとダメだと思う。」
「そうやなぁ。・・・あ、ほら。あそこ見てみ。」
アレストが指を指したところは東の崖。
そこは人が通るにはあまりにも過酷だ。
だがよく目を凝らしてみてみると、簡素にだが手綱が設置されてある。
「手綱・・・・?」
「というか、そんなもの設置する暇があるならこの毒キノコを燃やしたほうが早かったんじゃないか?」
リュオイルは半分呆れたように呟いた。
彼自身、今回のキノコ事件(?)のせいでキノコが嫌いになったかもしれない。
「そろそろ太陽が真上に昇るな。」
「あのキノコのせいで大幅に時間くったからなぁ。まだまだ油断出来へんってことやな?」
予想以上に時間が掛かってしまったため、到着予定が完璧にずれてしまったのである。
更に言うならば、まだナマスギロウタケが生息している可能性が高いため
明るいうちに下山できるかが疑わしくなった。
果たして三人は無事に下山することが出来るのだろうか?
それは神のみぞ知る・・・。