■天と地の狭間の英雄■ 【英雄の大陸】〜秘められた新しい想い〜 これまでの道のりは決して楽なものではなかった。 進めば必ず困難という壁が立ちふさがる。 短い時間ではあったが、【魔族】にも何度も会った。 そして・・・・その力が恐ろしい事さえも分かったのだ。 そして今だに眠るフェイル。 彼らはこの少女を狙っている、それは確信できた。 あどけない寝顔で無防備になりながら夢の中に居るその少女。 いつも絶体絶命、という時に必ず助けてくれる少女。 「・・・・はぁ・・・・」 離れで自己流訓練をしているアレストに気づかれぬようにこっそりとため息をついた。 別に疲れているとか、そんなわけではない。 ただ、傍で昏々と眠り続けるフェイルに不安を覚えていたのだ。 「・・・フェイル。」 ―――――――君は一体何者なんだ・・・・・?――――――― 声が、その独特のエメラルドの瞳が。 何も聞こえない、見えない。 まだ旅を共にして数週間だというのにこんなにも心が空っぽになってしまう。 「フェイル。」 先ほどより強く。 そうしないと僕自身が壊れそうだから。 「フェイル、早く・・・早く起きて。」 いつも振り回されて、心配もたくさんかけさせられてうんざりした日も少なくは無い。 この少女の無邪気さに心身ともに疲れ果てる日もある。 でも・・・たとえどんなにうんざりしようとも、疲れ果てても、決して嫌ではない。 それよりも共に居ることが出来て、僕に笑いかけてくれて・・・・。 はっきり言おう。嬉しいんだ。 「フェイル・・・。」 情けない。あまりにも情けなさ過ぎる。 フィンウェルの将軍が、この少女より年上の自分が。 こんなに心が開かれることなんてありえないと思っていたのにな。 変わったんだ、僕は。 いつの間にか将軍という名に縛りつけられていた僕を、 ここまで変えさせた。 自分よりも人の心配ばかりして、誰よりも一生懸命で 決して諦めるという言葉を使わないし、変なところで頑固で 更にいうならお人好し。 放っておけないんだ。あまりにも危なっかしくて。 ・・・・過保護って言われても何も言えないわけだ。 だから。 「起きて、フェイル。」 「ふぁぁあい?」 緊張感のかけらも無い、トーンの高い少女の声が聞こえた。 もしかしたら幻聴か?と思ったが残念だがそうではない。 「・・・・へ?」 「うぅぅぅ・・・・朝?」 「フェイル?起きたのかい?」 思いが通じたのかそれとも単に眩しかっただけなのか・・・・ フェイルは目をゴシゴシと擦って決して大きくは無い欠伸をした。 「ふあぁぁあ。・・・おはよう、リュオ君。」 「お、おはよう。」 「う〜ん。何か体中のあちこちが痛いような気がするんだけど・・・気のせいかな?」 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 「どうしたの、リュオ君。鳩が豆食らったような顔して。」 「・・・苦しくないか?」 「へ?」 「どこか、どこか苦しくないか?痛いところはあるか?」 いつもよりおかしなリュオイルに困惑の笑みを返しながら、実際にフェイルは困っていた。 あれぇ?何か私大変な事でもしちゃったのかなぁ? とんでもない事に頭突っ込んでいるのは確かに事実だけど・・・・。 でも今日は呆れているんじゃなくて、何かほんとに心配してる表情だなぁ。 まだ太陽は真上にあるし、出発するのも大丈夫だよねぇ? 「どうしたのリュオ君。何か大変な事私やっちゃった?」 少しビクビクしながら尋ねた私にリュオ君は固まった。 やっぱり私何かしちゃったんだ。 「ご・・・ごめんね。何でリュオ君が固まっているのは分かんないんだけど。 何か私が仕出かしたのは事実っぽいし・・・・・」 「・・・・・・・・」 「ご、ごめんなさい。」 ――――――・・・・・昨日の事を覚えていないのか!?――――――― 僕自身でも相当な間抜けな顔になっているのはわかっていた。 だが日常生活の中で常にポーカーフェイスを保っている僕の顔は他から見れば 無表情にしか見えないはず。 いい例に、今目の前にいるフェイルも縮こまっている。 「・・・・フェイル。 昨日の事覚えていないのか?」 「ん?昨日は〜山脈歩いたね!! それでね、ナマスギロウタケをドカーンって倒してね、 あとー・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あれ?」 「・・・・・・。」 「あの後確か魔族の人に追われて私崖から落っこちちゃって、上に何とか上がった。 ・・・・そこまでは覚えてるんだけどなぁ。」 ―――――ガクッ!!!! 全然覚えていない・・・。 それも、重大な事を綺麗さっぱり忘れている。 「あれ?リュオ君どうしたの?疲れた?」 「い・・・いや。そ、そこまでは覚えてるんだね?」 「うん。その後の事は殆ど覚えてないの。 おかしいなぁ。まだボケるには早い時期なんだけど。」 「いや、問題はそこで無く・・・・」 「あっ!!そっか。確か痴呆って病気が若くてもあるもんね! どうしよう〜、私まだボケたくないーーーーーーーーーーー!!」 「・・・・・・」 この超鈍感天然娘に勝てる相手はいない。絶対に(断言) 「あ、じゃあ昨日の夕飯はどうしたの? 私寝てたんだよね!?ごめんねごめんね。」 とんだ勘違いをしているけど、それも含めて全部好きなんだ。 「今日は絶対にやるから・・・・・・・はへ?」 まだ何か勘違いをして何かとんでもない事を言いそうなので兎に角、 無我夢中・・・・とまではいかないけど、フェイルを思いっきり抱きしめた。 当の本人は呆気ている。 僕でさえも一体何を仕出かしたのか、上手く理解出来なかった。 「・・・・大丈夫?リュオ君。」 「何がだい?」 「何か辛そう。どこか痛いなら私治すよ?」 さっきとは打って変わって真剣な、そして悲しそうな顔を見せた。 ぽんぽん、と軽くリュオイルの背中をリズム良く叩いている。 まるで、小さな子をあやすような感じだ。 「どうして辛そうだなんて思ったんだい?」 「うーん。顔は普通なんだけど・・・目が悲しそうな感じがしたの。」 ―――――表情を崩した覚えは無い。ましてはそんな風にも思っていなかった。 でも、君には全てお見通しなんだね。 嘘は、つけないんだ。 それ以前に、つきたくない。 「・・・・いや、どこも痛くもないし辛くも無いよ。 ただ心配をかけすぎている君に呆れたんだよ。」 「う”っ・・・。」 「でも、・・・良かった。」 こんなに力強く抱きしめたのは初めてなのかもしれない。 今まで何度も守った事はあったが気にした事は一度も無かった。 そして、彼女の華奢な体には驚いた。 こんなに細い体で今まで魔法やら更に家事も。 たくさん彼女の事を知った。 「リュオ君?」 心の底から護りたいと思った。 「おーい、リュオ君ってばー。」 この、屈託の無い笑顔に惹かれている。 「あ、そういえばアレストどこいるの? さっきから声は聞こえるんだけど姿が見えないし・・・・もしかしなくても修行かな?」 「もうそろそろ終わるはずだよ。呼ぼうか?」 そういって僕はフェイルの体を離した。 何だかぽっかり空いていた心が、何かによって暖められたような気分だ。 「おーーーい!アレストーーーーー!!」 満面の笑顔でアレストを呼ぶ声。 その声に素早く反応したアレストが猛ダッシュでフェイルの所に駆けつけた。 その動作に驚いていたフェイルだったがすぐに優しい微笑みに変わってしまう。 「フェイル!!起きたんやな!!!」 「うん。ごめんね。」 「はあぁ。あんたが無事で良かったわ〜。 リュオイルなんか真っ青な顔しながらずっと看病しとったんやで?」 「リュオ君が?」 考えられない。といった顔を思いっきりしてフェイルは答えた。 その表情が気に食わないのかリュオイルはむっとした表情になる。 2人のコロコロ変わる表情を見て、アレストは一歩だけ後ろに下がって嬉しそうに眺めていた。 「僕が心配したのがそんなにおかしいか?」 いつもよりやや低めの声に圧倒されながらもフェイルは慌てたようすで弁解した。 「や、そう言う意味じゃないんだよー。 ちょっとびっくりしただけだから・・・。 うん、ありがとう、それと、ごめんね。」 最初はヘラヘラと困惑した笑みだったが最後の部分には切なそうな、寂しそうな微笑を向けられた。 そんな顔をされたら怒るに怒れない。 顔には出していないがきっと心の中では沈んだままだろう。 このまま怒れば、更に元気が無くなるのは間違いない。 「いや、いいよ。 兎に角無事で良かった。」 まるで二人の世界(一人はそんな気は一切なし)の様な場面にアレストは苦笑して見守ることにした。