■天と地の狭間の英雄■
       【新たな村へ】〜迷える旅人〜












ダンフィーズ大陸。
旧リビルソルト都市国家、今はリビルソルト共和国となっている。
ここは英雄の住まう大陸。
そして英雄が救った大陸である。




「んでもまだまだ到着せんのやわ〜・・・・・一体全体何故やっ!!?」

「答えは簡単だ。道を間違えた。」

「あっさり言うなぁぁぁあああ!!!」




リュオイルの頭部にアレストの拳が見事クリティカルヒットした。
物凄い音がしたがそれほどダメージはないので放っておこう。
リュオイルは涙目になりながらアレストを睨む。
だがそれに怯むことなくアレストは踏ん反り返った。



「何するんだアレスト。
 元はといえばアレストが思いっきり道を間違えたんじゃないか!」

「ええいっ!過ぎた事あれこれ言うんやないわぁ!!」



図太い精神持った元将軍やろうが
図太い精神は関係ない。てか今も一応将軍だ!

アレストとリュオイルが喧嘩している中、フェイルは一人機嫌良さそうにしていた。
そう、もうにこにこにこにこと ・・・・(決して怒っているわけではない)




「大丈夫だよリュオ君。まだ太陽は沈んでないから、
 取り合えずこの辺の特長調べて地図に沿って歩こう?
 今日中はちょっと無理かもしれないけどこの大陸は小さくても町や集落がたくさんあるし、そこまで頑張ろう。ね?」




このメンバーの中で最もまともなフェイルがニコニコとご機嫌にリュオイルを宥める。
そんなフェイルに「やっぱフェイルはうちの味方やなっ!」とアレストが言っていたが
リュオイルはそんなこと全く聞いていない。



「・・・・分かった。フェイルがそこまで言うなら。」

「うん。それでね、この辺は川が急じゃない?
 だからぁ、絞るのはこことここと、あとここ。」



アレストとリュオイルが痴話喧嘩(?)をしている間にフェイルは少し離れて
今の場所を的確に調べていた。

これでいいのか?年上組。
よくない。



「そうか、・・・じゃあ今度は・・・」

「え?でもここは・・・・・・。」

「なんやなんや見せてみぃっ!!」




こうして地図の取り合いが始まる。









30分後・・・




「う〜ん。断定は出来ないけど多分この、えーと、ロマリ村? この辺の近くだね。」

「ロマリ村?なんや、その村にはうちの知り合いおるで?」

「スパイのか?」

「せや。確かそこの大富豪の『ビート=ゴンドス』っちゅう奴や。
 ・・・・・せやけどあんま二人には進められん奴やで。」



『ビート=ゴンドス』、そういった途端アレストの顔が不機嫌そうに崩れた。
明らかに毛嫌いしている様子。
アレストの不機嫌さに驚いたものの、聞いた事のない名前に首を傾げる。



「そのビートって言うのはどんな人物なんだ?」

「何や、フィンウェルにおったのにその名前しらんのかいな?」

「この大陸は共和国があるだろう? 
 そこの騎士団が全部取り締まっているから大した情報はフィンウェルに入ってこないのさ。」



ビートのところには昔仕事をしに行った事があるが、良い思い出なんて何も無い。
思い出すだけで気分が悪くなる。
アレストは複雑そうな顔をしてロマリ村での事を思い出していた。
出来れば、出来れば近づきたくない。
だけど、そろそろ道具を補給しないと大変なことになるのはこっちのほうだ。



「・・・ロマリ村かぁ。」

「悪いけど我慢してくれ。こっちもそろそろ体力が持たない。」



話しに付いていけないフェイルはあらぬ方向を向いてボケーとしていた。
その話しに興味がないようだ。
むしろ彼女がこの話しに食いつけばまた後で面倒になりそうだ。

東の空が妙に暗い。
こっちの西の空は青々としているのに。




「・・・・雷雲、かな?」




ポツリと呟いた声は二人には届かなかった。



















「さて、兎に角進まなければ意味がない。と、いうわけでこれから進む道を選ぶ。」



片手に地図を、片手に木の枝を持って言われても何の迫力もない。



「リュオ君。その枝何に使うの?」

「使い方は単純明快。この枝が倒れた方向に進む。」



来た道に倒れたらもう一回だけどね。
うん、分かった。
そこで納得すんな。



「でも随分アバウトなやり方だね。リュオ君にしては珍しい・・・」

「どっかの誰かさんが道に迷わなければこんなことしないさ。」

「うっさいいっ!過ぎた事気にしとったらええ大人にならへんで!!」

「僕は正式に大人になったよ?」



リュオイルは今年で18になった。
指定された成人年齢は男子18、女子も18。
アレストはすでに19でこのパーティーの中で一番年上だ。
フェイルなんてまだまだお子様の15歳。



「それじゃあやるぞ。」

「「いーちにーの、」」





「「さん」」






カラン。






「・・・・・・・」



「・・・・・・・・もう一回だね。」



「せやな。」





カラン・・・









10回目。



「「「・・・・・・・・」」」



カラン・・・




「・・・なんで後ろばかりに倒れる?」

「このままやと埒あかへん。フェイルの杖貸してみ。」

「うん。」






ボスッ・・・・(重みがあるから)






「・・・・右斜め上。」

「とりあえずこの道でいくか。」

「・・・・最初から私の使ったほうが良かったんじゃない?」


「「・・・・・・・・・・・・・・」」


やっぱり情けない二人であった。




















――――こ・・・せ―――



―――よこ・・・せ――――ー



――英雄の・・・・・・まし・・・・・・―――

―・・・・・魂・・・・・・――




「・・・・・・五月蝿い。」



――・・・・・・・・・・・・・・―――




「少しは待てないのか。貴様のその欲望の固まりはいつになれば直る。」




―――我に歯向かう気か、何の力も持たないクズ同然のお前が・・・――




「クズ・・・ね。それは貴様だな。
 そんな封印でくたばる貴様には俺にクズだなんて呼べる義理は無い。」



――・・・・・・・・・―――




「・・・そう焦るな。歯車は既に動きはじめている。
 時を待て。それまでの辛抱だ。」




――・・・・・・そうだな。――




「・・・・・・・・」




―我は眠ろう、もう一度・・・・―――




「ああ、次に目覚めるときは何かが変わっている事を信じておくんだな。」





「・・・・そう、次までに・・・・・・・」















三人は川の流れに沿って少し早めに歩いていた。
急がなければ日没までそこまで時間は無い。
それにそろそろしっかり休まないと体力的にも限界が来る。
・・・・・特にフェイルが。



「大丈夫か、フェイル。」

「うん、ありがとう。」



つまずきかけたフェイルの手をしっかり握って戦闘を歩くリュオイル。
その中心にフェイル。そして最後尾がアレスト。
もしも敵が現れたとしてもすぐに体型になれるベストポジションだ。



「やばいな、あと1時間も経てば真っ暗になるで。
 此処まで来て野宿は勘弁やなぁ・・・・・」

「だから早足で進んでるんだ。もう少し頑張れ。」

「大丈夫?アレスト。」

「ん。大丈夫やで。まだまだ歩けるし戦闘も出来る。」

「・・・・いや、戦闘はなるべく避けたいんだけど。」



そろそろ日が沈む頃なので魔物の数も段々増えてきていた。
フェイルの体調も考えて、できれば戦闘は避けたい。



「あ、あの先に何か見えるよ?」

「どれ?」



ひょいっとフェイルの背中を越えて目を凝らして見て見ると
うっすらとだが建物らしき物体が見えてきた。
そこまで1kmも無いだろう。どうやら野宿はせずにすむようだ。



「どうやら・・・運良く道は間違っていなかったようだな。」

「うん。適当だったけど本当に良かったのかなぁ?」

「終わり良ければそれで良しや。とにかく急ごうで。」



さっきよりも断然速いペースで・・・いや、走っているといっても過言では無いだろう。
アレストが先頭に(火事場の馬鹿力)、リュオイルが真ん中(フェイルの手を引いて)
最後がフェイル。(ばてた)





「おやおや、こんな辺鄙なところに珍しいねぇ。」

「あやぁ、おばちゃん。ここってロマリ村やな?」

「ああそうだよ。こんな寂れた村だけどようこそ、旅の方。」

「あ、ビート=ゴンドスはいるん?」

「――――!!!!!」




それまで優しく受け答えしていたオバサンが急に顔をこわばらせた。
まるで何かに怯えているように。


「おばさん?大丈夫?」


フェイルが心配そうに顔をのぞく。
それにはっとしたように明るそうな優しい笑みで答えた。
その笑みに毒気を抜かれたのか、彼女は安堵したように溜息を吐いた。
その様子を見て顔を歪ませるアレスト。



「え、ええ。大丈夫よ。お嬢ちゃん、ありがとう。」

「・・・・・・・・・」

「そうですか?あんまり無理しないでくださいね。」



親切なオバサンに案内されて一行は宿屋で泊まる事にした。
どうやらさっきのオバサンはこの宿泊施設の女将さんだったらしい。
先ほどの緊迫感が嘘のようにてきぱきと作業をする姿は流石と言うべきか。



「さてと、今日はもう休んだほうがいいな。」

「うん・・・。リュオ君。」

「・・・?」

「あのオバサン何であんなに怯えた顔したのかな。」






「ビート=ゴンドスや。」





ふいにアレストがその話しに加わった。
いつもの明るい顔はどこへやら、真剣な面持ちで語り始めた。



「そいつはこの村の大富豪ってのは教えたやろ?
 ビートのおっさんはな、この村民の税金を巧みに奪い取ってそれで暮らしてるんや。
 ・・・でもこれは共和国の連中どもの推測で証拠がまだ見つかってへん。けど十中八九、間違いない。」

「税金の巻上げ、ね。フィンウェルでもよくあるよ、特に管理下の薄い村ではね。」

「そうなの?」

「ああ、でもアレストが言う通り、証拠不十分で中々起訴出来ない始末だ。」

「どこいってもそんな卑怯な真似するやつがおるんや。自分が全ての支配者って勘違いしてな。」



険しい表情をしたアレストが拳を握り締めた。
このままずっと握っていれば出血する可能性がある。
だがそんなアレストの拳をふわっと包み込んだものがった。
それは彼女の拳より小さくて、でも暖かな仲間の手。



「フェイル?」

「大変なのは分かったよ。
 だからさ、私たちで何とか出来ないかな?
 決定的な証拠を見つければ訴えることも出来るし、村の人も安心するんでしょ?」

「でもな、どうやって証拠を掴むかが問題なんや。
 うちも仕事で数回ビート氏に世話なったんやけど、ビート氏は根っからの騎士嫌いなんや。
 おまけに人見知りがごっつう激しいし、近づきようがないんよ。」

「アレストだったら中に入れるんじゃないか? 
 数回仕事をしていたのなら顔も覚えられて少しは警戒心が解けるんじゃ・・・」

「ああ無理無理。仕事っちゅうてもうちの職業スパイやし?一般人よか警戒心剥きだしされるで。」

「うーん。どうしようか。」



アレストは苦虫を噛み潰したような顔をした。
本当は、この村には来たくなかった。
愛想も悪い、村人の扱いは酷い、挙句の果てには自己中心的な性格。
対面した回数は少ないものの、一度その顔を見れば忘れる事は無いだろう。

でも、やはりこの管理の仕方に腹が立つ。

やりきれない思いを抱えたまま、とりあえず3人は休む事にした。