辛い事がたくさんあった 悲しい事が数え切れないほどあった それでも、もう後には引けない 己の信じる道をゆけ 言葉はなくとも分かりあえる仲間が傍にいるのだから ■天と地の狭間の英雄■        【英雄の故郷】〜凍結の眠り〜 あの惨殺な事件から一週間が過ぎようとしていた。 村は混乱で一時大騒動を起こしたが、異変に気づいた共和国の兵によって鎮圧された。 そう、あの惨劇から一週間もたったのだ。 時が過ぎるのは早い。そしてその記憶もどんどん薄れる。 決して忘れてはならない事、忘れてはいけない存在。 それでも時が経つにつれて人々の記憶の中から消えてゆく。 悲しい事件なら尚更。 フェイルの怪我はあの奇妙な光のおかげで完治した。 何故なのかは分からないが、そんな事を気にしているほど冷静じゃなかった。 ところが怪我は完治したものの、今だフェイルは昏睡状態で延々と眠っている。 だから時々思うことがある。 このままもう一生目を覚まさないんじゃないかと、錯覚してしまう。 「リュオイル殿。よろしいでしょうか。」 リビルソルトの兵隊長だろうか、その人物が敬礼をして僕を呼び止めた。 「ご苦労様。それで、私に何か御用でも?」 「はっ、そろそろ収拾もつきましたので本国への搬送を、と王から命を受けております。  如何なさいましょう。彼女は医師に診てもらっていますがいつ目を覚まされるかどうか・・・。」 「そうだな。ここに長くいては村民に迷惑をかけるだけだし。」 せっかく大人しくなってきているのに、これ以上僕たちがここに滞在すると逆効果かもしれない。 だけど・・・・・。 「彼女に負担をかけさせたくはないんだが。」 「こちらの方で何とか負担をかけぬよう努力するつもりですが。  如何なさいますか、もう1日2日休まれますか?」 出来ればそうしたい。 だが王を待たせるわけにもいかないし・・・・。 「いや、行く。そろそろ行かないと君たちの王に何言われるか分からないんでね。」 苦笑しながらそう答えると兵は大きく礼をした。 その大きな動作がやはりフィンウェルとは違う。 「はっ、かしこまりました。直ちに用意をさせますので今しばらくお待ちください。  準備が整い次第兵を迎えに行かせますのでゆっくりとしていてください。」 そう言い終えると、兵は踵を返し、ピンと姿勢を伸ばして歩いていった。 「フィンウェルとは全く違うな。規律が正し過ぎるのか。」 それとも彼の性分かな? 「リュオイルー。」 明るい、女性にしては少しハスキーな声が僕の足を止めた。 「アレスト・・・?」 彼女も精神的ダメージがかなりあったが、そのずば抜けた回復力で僕よりも先に復活した。 修行の違いだとは思うが、男としては少し悔しい。 「あぁ、さっき兵が言っていたんだがもう少ししたらここを発つ。  その時は搬送してくれるから大分早くリビルソルトに着きそうだよ。」 「えぇぇえ!?フェイルはどないすんの?まさか置いてくんじゃ・・・」 「まさか。兵が負担をかけないよう努力するそうだ。」 驚いていた顔が急にホッとした顔に戻った。 フェイルもそうなのだが、アレストはこのメンバーの中で一番喜怒哀楽が激しいかもしれない。 「それで?フェイルに何か変化はあったのか?」 そう話を切り替えると、さっきの顔が悲しそうに俯いた。 「いんや。全然反応をみせへん。医者が言うには大量出血が原因だって言うんやけど。」 「そうか。」 守れなかったその代償は大きい。 生きていること自体が奇跡なのかもしれない。 それだけでも喜ぶべきなのに、素直に喜べないのが現実だ。 僕も、アレストも。 「兎に角、さっさと準備して待っとこうで?  フェイルの荷物もまとめなあかんしな。」 にぱっと明るい笑顔を向けるアレストは本当に強いと思う。 傷ついても傷ついても、決して諦めず前を見ている。 こんな時に思い知らされる。 僕は弱い。 僕とは全くの逆だ。 「ほら、そんな所でボサッとしてへんでさっさと行くで!」 「うわっ!ア、アレスト、首を持つな首を!!!」 本気で死ぬから!! 大丈夫や、あんたは崖から落としても死にはせん。(断言) 前言撤回。 「んー。私の処置でも目を覚まさないとなると。  ・・・・王宮医師に頼むしかないかもしれないわねぇ。」 派遣されている女医は頭を抱えて悩んでいた。 一般の病気でもないし、先ほどいたアレストと言う女性の前では大量出血と言ったが 本当はそうではなさそうにみえる。 「これは、もしかしたら最近流行りだした感染症かもしれないわね。」 真剣な顔をして、その容姿に似合わないくらい眉を寄せている。 そして、おもむろにテントの外にいた兵士を呼び集めた。 「どうしましたか、リーズ殿。」 「悪いけど搬送時間を早めてくれない?  私の推測だけど、下手したらとんでもない事になるわこの子供。」 「はっ、直ちに連絡を入れてきます。」 「ええ、お願い。」 駆け足で兵士が去っていくのを見届けると、女医のリーズはその子供をもう一度見た。 真っ青で、体が冷たい。 一体どんな戦い方をしたかは分からないが、生きていること事態が奇跡なのだ。 「・・・・困ったわね。あの薬はもう城では底をついたと思うんだけど。」 はぁ、と大きく溜息をつくと手元に置いてある資料を片っ端から読みはじめた。 「もう搬送するのか?」 思わず問いただしてしまった。 さっき来たばかりの兵が数十分もしないでまた来たのだから。 その兵も苦笑してリュオイルを見る。 相変わらず敬礼したままだが、どこか親近感を感じられるのは彼が微笑んでいるからだろう。 「はっ、それが、彼女の様態があまり思わしく無い様で。」 「え、フェイルがかいな!?」 椅子が倒れるほど乱暴に立ったアレストは、もう一度確認するべく兵士に尋ねた。 「は、はい。他の兵が聞いたようなので細かい事は私には分かりませんが。」 「そうか、ありがとう。アレスト、行くぞ。  もう用意は出来てるからそっちの用意も急いでくれ。」 「か、かしこまりました!!」 アレストの気迫に恐れたのか語尾が上回った調子で急いで出て行った。 その姿を追うように二人も馬車の所まで走る。 「な、なぁリュオイル、フェイルは大丈夫やろか。」 「・・・分からない、でも信じていよう。」 以外に馬車は近くにあり、リュオイルは荷物を預けると医療班のテントに駆け込んだ。 「あら、急ぐようには言ったけど随分早いのね。」 「フェイルは、フェイルはどうなんだ!?」 さっきアレストに言っていた表情とは打って変わって焦った表情で女医のリーズに尋ねた。 実際彼女の顔を見ると、そんな考えは一気に吹っ飛ぶものである。 「まぁ落ち着きなさい。彼女は大丈夫。命に別状はないわ・・・・・けど。」 「けど!?」 「推測だから断言できないけど、この子は多分感染症に引っかかっているわ。」 「感染症?」 「そ。・・・詳しい話は馬車の中でしましょうか。  さぁ、フィンウェルの坊やも早く乗りなさい。」 細腕でフェイルを担ぎ上げると、リュオイルに扉を開けるように指示をした。 それになんの迷いもなく従うと、既に準備が整っている馬車へ入った。 ガタンガタンガタン 「さて。ここからリビルソルトは小一時間って所かしら。  改めて自己紹介をするわ。私は医療班派遣部隊のリーズ=ルシオルよ。  宜しくフィンウェルの将軍さんに、アンディオンの娘さん。」 にっこりと大人の笑みを浮かべる若い女医は挨拶も早々に済ませると 真剣な顔つきになって二人に事情を話し始めた。 片手には分厚いカルテが持たされている。 それを何枚かめくり、ふと彼女はその手を止めた。 「君にはさっき言ったけどあの子は感染症になっていると思われるわ。」 「感染症?それは一体どんな・・・。」 「詳しい事は上層部に聞かないと分からないわ。  私のような下っ端医療班はその事については何も聞かされていないから。  まぁ、知り合いがいるからその辺は大丈夫。それで感染症の内容だけど・・・。」 半月前から村々で流行りだした【凍結の眠り】 その病にかかった者は一生目を覚ますことなく静かに死ぬ。 死ぬ期間は人によって異なっているが、大体大人が1ヶ月半。子供が3週間。 これまでの死者は100人を越えた。 「【凍結の眠り】・・・治す方法はないのか!?」 「あるわ。最近発見した【思環草】と呼ばれる薬草を煎じて飲ませれば目を覚ますの。  けどここ最近その感染症が広がっていたからもう薬草の底をついた可能性が高いわ。」 「そんな!!じゃぁフェイルはこのままにして置いたら・・・。」 「死ぬわね。それに私が言った死期間は健康状態での話しよ?  この子の出血量と比較するともってあと1週間、もしかしたら5日かも。」 死ぬ可能性の方が高い・・・・そう彼女は言いたいのだろうか。 そう考えるだけで心臓が冷える。 あまりのショックで一瞬声が出なくなった。 「何か手は無いんか!?こんな形でフェイルが死ぬなんて・・・。」 「ごめんなさい。薬草の生息している場所を知っているのも上層部なの。  この大陸の村にあるという噂なのだけど・・・・・。」 そういって手に持っている資料に目を通す。 (たとえ城にあったとしても順番待ちで彼女には薬は回ってこない。  ・・・・やはりあの方に聞くしかないわ。) めくっていた資料をぴたっと止めて二人に見せる。 そこにはリーズより少し大人びた青年の写真があった。 長々しくその青年の履歴などが書かれているが、あまりに細かい字のため解読は難しい。 「これは・・・」 「医学教授のマッフェル=カリアス様よ。35歳という若さで医学界の上層部を駆け回っている偉大な人物。   さっき話した知り合いはこの方よ。」 「それじゃあ、そのマッフェル殿に会うことが出来たら・・・。」 「ええ、情報提供はしてくれるはずよ。あの方はとてもお優しいから。  たとえ違う大陸から来た貴方たちでもちゃんと面倒を見てくださるわ。」 そう。何度か彼とは交渉している。 ただ彼と私の地位の差があまりにも開きすぎているので滅多に会う事が出来ない。 そう言いあっているうちに、既に一時間が経ち、リビルソルトに入ったようだ。 ガヤガヤという声が聞こえてきた。 シャッ、とカーテンを開けるとリーズは微笑んで彼等に言った。 「英雄の町リビルソルトへようこそ旅の方。  このまま城に行くのでもう暫くお待ちくださいね。」 窓のカーテンを少し開けた途端、そこは何処か違う世界に来たような場所だった。 「英雄の町・・・ここが、リビルソルト。」 「僕も初めて見た。こんなに素晴らしい町だなんて。」 感嘆の様子で声も出ない二人にリーズは面白そうに二人を眺めていた。 フィンウェルとは全く違う造りの建物や服。 広大な敷地面積は有効に使われ、国民がより良く住めるように建物が配置されている。 行きちがう人々の表情もとても楽しそうで、ここが平和なのだと直に感じられた。 店の数も半端じゃない。 流石英雄の町。 世界各地から商人がここを訪れているのだろう。 フィンウェルの産物も幾つか並べられている。 「さて、着いたわ。この子を降ろすの手伝って頂戴。」 「あぁ。僕がやろう。」 馬車を降りると城の城門は巧妙な造りで出来た完全な魔法壁。 魔族や悪しき者を通さないために、英雄の活躍する300年以上前から施されていたという。 そんな昔から技術が普及してたのだから、もしかしたら昔の人達の方が賢かったのだろうか。 少し考えると、この世界には英雄達の時代に残された遺産が数々ある。 全ては魔族を倒すために造られた兵器なのだろうが、そんな古いものが今も使えるなんて素晴らしい。 「すごい、傍にいるだけでこんなに威圧されるなんて。」 「ふふ、驚いた?でもまぁ、初めてくる人は皆そんな反応だったわ。」 「で、でかい。」 「さ、医務室はこっちよ。  ・・・・・・あ、ただいま戻りました。」 廊下を曲がろうとしたとき、いきなりリーズが止まった。 敬礼のポーズをとり深々と礼をする。 背の高いリーズなのでアレストはひょこっと首を曲げた。 「やぁ、お帰りルシオル女医。長旅お疲れさま。  ・・・・・おや?君の後ろにいるのが例の・・・」 「はっ、彼等がロマリ村の事件を阻止し魔族と戦った方々であります。」 「なるほど・・・。初めまして、私はここの守備隊長のカイ=ラグドラス=デスだ。  君はフィンウェルの特殊部隊将軍だね。聞いてはいたがこんなに若いとは。  そしてアンディオンの長の娘さん。君のお父上には我らもお世話になっている。  あと・・・・・彼女は・・・」 「先日お送りした資料の彼女です。  ラグドラス守備隊長、申し訳ありませんがカリアス教授をお呼びしてはもらえないでしょうか。  資料の方に記していた通りならば、この者は大変危険な状態であります。」 はきはきとした軍人らしい喋り方で説明するリーズはさっきとは別人のように見える。 その深刻さが伝わったのか、ラグドラスは大きく首肯するとリーズの肩に手を置いた。 余談だがこの城の皆は笑顔が多い。 いや、城の中だけではなく城下町もそうだ。 偽善ぶった笑みではなく、心の底から笑っている。 嘘偽りのないその笑みがリュオイルには少し悲しかった。 「分かった。緊急で伝えよう。急いで彼女を運びたまえ。」 踵を返し、地下の階段を降りるラグドラスを見送った後、リーズは急いで医務室に二人を連れてきた。 その場所は白で統一されており、かなり衛生面でもきっちりしていると思われる。 だが見慣れないものも幾つかある。 良く分からないコードや医療機器。 この国は軍力よりも医療に関する知識が豊富で、どちらかと言えば医者が多い国だ。 だからこんな歳若い彼女も実力があるから各大陸に派遣されたりするのだろう。 「どこでも好きなところに掛けて頂戴。」 「あの、リーズさん。さっきの人は?」 忙しそうに走り回っているリーズに悪いと思いつつ素朴な疑問を尋ねた。 機嫌を害した様子なく答えるリーズはやはり親切だ。 「第一門の守備隊長【カイ=ラグドラス】様よ。  気さくでとてもお優しい方で人望も熱いから王からも気に入られているのよ。」 「そうか。・・・・何かする事は無いか?」 「そうねー。じゃあこのケーブルそっちに繋いでくれない?赤は青の所に、黒は白に。」 「分かった。・・・・しかしこの装置は初めて見るぞ。  一体に何を調べる装置なんだ?」 「これ?これは身体に異常が無いか測定するための装置よ。  一般では使われないけど・・・・私が許すわ。」 慣れた手付きでキーを滑らしていくとすぐに結果が出た。 横で真剣に見ているリュオイルとアレストだったが、2人は首を傾げてお互いの顔を見る。 読めない。 一体何語なのだろう。 今まで見た事のない文字がそこに記されてあぅた。 「・・・・出血多量、体力、精神疲労、・・・・あ、残念だけどやっぱり感染していたわね。」 「【凍結の眠り】」 「じゃあ回線を外して・・・・」 「リーズ!!!帰ってたのか!!!」 医務室の扉を思いっきり開けた青年はリーズの傍まで走ってきた。 この青年は確か馬車で見た写真の・・・。 「マッフェル教授!?」 「無事みたいだね、良かった。」 安心したように息をつくと測定装置の上で寝かされているフェイルを見た。 その表情は固い。 フェイルのもとまで近づくと、彼は彼女の額に手を当てた。 体温が恐ろしいほど低い。 「ラグドラスに聞いたよ。彼女がそうなんだね。」 「ええ、マッフェル教授。思環草の残りは・・・。」 「あるのはあるんだが、既に順番が回っていて、彼女に届く分は残っていない。」 ――――ガタン!!! アレストが立ち上がりマッフェルの前に出てきた。 「そんな・・・あんた医者なら何とかしぃな!!  何か、何か他に手がかりは無いんか!?」 掴みかかるような勢いだったのでリュオイルはアレストをなだめさせ、謝罪をする。 こんなところで何か起こせばフェイルを助けるどころかこっちがあの世行きだ。 「申し訳ない。マッフェル殿、薬草は城に無くても何処の村に生息しているかご存知ですか?」 「リーズ?」 「ごめんなさい。どうしても見捨てられなかったの。」 半分驚いたようにリーズを見下ろすマッフェル。 どうやら何処かの村に生息している。というのは企業秘密のようだ。 彼女が本当にすまなさそうな顔をしているので、マッフェルは怒りたくても怒れない、と言った感じで苦笑した。 元々穏やかな性格なのでこれくらいでは彼は怒らない。 「・・・リビルソルトから半径20km以内にある村。  一つは君たちのいたロマリ村。だがその殆どはビート氏が保管していたため入手困難。  しかも爆発で全部消失。  二つ目は西の位置にあるロックレイム村。  そこは以前から育成されていたが、とうとう枯れてしまった。    残るは東に位置するカイリアの村。」 「カイリア?」 「そう。澄みきった森に囲まれて暮らしている剣術の栄えている村。  ・・・・そこには確かに薬草がある。  万全の環境と十分当たる太陽の光で多くの薬草が生息しているんだ。」 苦そうな顔をして説明をするマッフェルの顔は痛いほど通じた。 だがここで引き下がるわけには行かない。 何かを隠している表情の彼にすかさずリュオイルは真剣な眼差しで彼を見据えた。 一応騎士であるため、人間の表情の変わり具合はすぐに判断できる。 だからこそ、その真意を知ってしまった時はこちらが申し訳なく思ってしまうが。 「・・・・何があるんだ?」 「・・・・」 「伐採出来ない理由は何です。マッフェル殿。」 リュオイルの鋭い声が医務室に響いた。 それに観念したのか、重い口を開けてマッフェルは言葉を紡いだ。 「そこに【シリウス】という若い剣士がいる。  彼の父親が族長を勤めていたのだが、いつの間にか何処かに行ってしまったきり戻ってこない。  ・・・族長代理のシリウス君がそこの領地権を持っているのだが何故か彼はしきりに我々を拒む。  外部との接触を嫌っているんだ。」 パラパラと何か資料を探しているリーズは、何かを見つけて本をめくる手を止めた。 それを机の上に置き、全員が見られるように広げる。 そこには今度は写真がないただの資料。 でもマッフェルの資料のように細かい文字が並べられてはいない。 簡潔に、しかも箇条書きで記されていた。 「シリウス=バンクレイタ=デュオン。  彼の妹、【ミラ=バンクレイタ=ジーアス】が原因不明の病に堕ちているの。  彼は医学に関してはマッフェル教授と並ぶほどの知識を得ている。  でもミラさんは6年前の魔族襲撃で成長の停止、そして失明したみたいだわ。」 「人を拒む理由がどこにあるんや?」 「私も教授もその頃はまだここで働いていなかったから良く分からないけど。  ミラさんの病気は決して治らないものではなかった。  でも治す為ののお金がなかったから・・・。それで彼は激怒しているんだと思う。」 「お金って・・・・」 「ざっと100万リンツ位じゃないかな。記録ではそう書かれている。」 100万リンツ。 それは一般庶民では程遠い莫大な金額。 一般市民がどう足掻いても手に入れる事は出来ない大金だ。 「ひゃ、100万リンツって、そんなの貴族でも無い限り絶対無理な金額やで!!!?」 「それに一般人で無理なんだ。  村だったら大富豪の家系でない限り不可能な値段だぞ。」 リュオイルの家系ならなんとか出せる金額であろう。 何せ彼の家系は一級貴族なのだから。 でもそれでも高すぎる。 確かに治療費は高つくが、こんな馬鹿げた値段聞いた事がない。 「兎に角よ。この村以外の薬草入手は皆無と言っていいほどの確率よ。  早くしないと彼女は死にます。」 何か決心したような顔でアレストはバッと顔を上げた。 強い意志を込めた瞳がマッフェル達を貫く。 「・・・・行くで。うちは絶対に諦めん。」 「そうだな。誰がこんなところで死なせるものか。」 二人は顔を見合わせて頷くとカイリアの村の位置を聞いた。 それに頷いた彼は、どこからかこの近辺の地図を広げた。 そこまで広くないこの大陸は、ぽつぽつと村がある程度だ。 「ここから東に10kmほど先にある小さな村だ。  村全体が樹に囲まれているからすぐ見つけられる。・・・・そうだな、馬車を用意させよう。」 「え、いいんすか?」 「あぁ。カイリアには前から使者を送って何度か交渉しているんだが、  毎度毎度門前払いされてしまっているからね。  今回の事も100%成功するとは断言出来ない。それでも構わないか?」 もしも断れればフェイルは助からない。 でも、彼女は教えてくれた。 可能性が0ではない限り希望はまだあるのだと。 だから、それを信じたい。 「少しでも可能性があるのなら、それを信じる。」 「うちもな。」 2人の意志の強さに圧倒されながらも、リーズは深く頷いた。 彼等にとって、本当にこの小さな少女が大切なのだと改めて痛感させられる。 声も聞いていない少女にリーズは目をやった。 どんな子だろう。 どんな優しい子なのだろう。 どれだけ多くの人々を救ってきたのだろう。 「分かったわ。・・・でもどちらか一名は後から追いかけてくれないかしら?  ビート氏の事とか、魔族の事とか、王に謁見して話さなくてはならないの。」 「じゃあ、それは僕が行こう。  魔族の事はアレストと出会う前から対面していたから。・・・アレスト、フェイルを頼む。」 「任しとき。あんたもはよカイリアに急ぎないよ。」 「じゃぁ私と彼が後から行こう。リーズにアレストさん。宜しく頼む。」 「分かったわ。教授もお気をつけて。」 そこで僕たちは別行動を取る事になった。 アレストとリーズさんはフェイルを連れて馬車でカイリアに。 僕とマッフェル殿は王の謁見を済ませるために城内へ。 少ない可能性を信じて僕たちは望みを賭けた。