『ありがとう』 それは感謝の意味を表す最高の言葉 たとえどんなに儚くとも 貴方の声さえあれば きっとどこまでもワタシは飛んでゆける                        貴方にあってワタシに無いもの                        それはどんな事があっても覆す事は出来ない                            だけどワタシにあって貴方に無いもの                          それも決して覆す事は出来ない                          『大丈夫』                         貴方には空を飛べる羽があるのだから・・・・ ■天と地の狭間の英雄■        【強く生きる者】〜今を生きろ〜 悲惨な事件の後は、やはり根強く残った。 それでも、人は強いもの。 決して諦めない。立ち止まらない。 そこから生まれてくるものは いかに弱く儚くとも これからの生きる道の中でかけがえのない物を生み出すだろう リカルア歴2688年夏の近づく汗ばむ季節。 小さな、のどかな村にひとつの火種が降り注いだ。 それが二日前。 その爪痕は大きく、人々は未だ知らぬ恐怖の中で細々と生きていた。 「で?そのジャスティは結局何をしにカイリアの村に来たの?」 ここはリビルソルト。 あの大きな事件があったのだ。国が動かないわけが無い。 初めの日は瓦礫を片付けるのを手伝ったりしていた。 今日、報せを受けたリーズは頬杖をついてリビルソルトの会議室にいるフェイル、リュオイル、アレスト。 そして何故かいるシリウスに尋ねた。 彼の視線は何度も直に受けているがやはりきつい。 刺すように、まるでえぐるように見るその冷たい視線は彼女を凍らせた。 「いや、それは・・・・」 「挨拶がわりに来たとか、そんな事言ってなかったっけ?」 口ごもるリュオイルとは裏腹に、フェイルはあっけらかんとした様子で話す。 それを聞いて驚いたのが彼本人だった。 魔族が必要以上にフェイルを追い回す理由、それをフェイルは分かっていないのか? 心配する彼等を他所に、彼女は知って知らずかどんどん詳細を話す。 勿論その事に口出しできるわけでもないし、今はとにかく情報が必要不可欠だ。 「・・・でも、そろそろここを離れないと。  きっとこの国に迷惑がかかる。多分、魔族は・・・・」 そこまで言った後に急にシリウスが喋りだした。 タイミングが悪いのか、それともわざとなのか。 リーズは驚いたようだが当の本人は気にした様子が全くない。 口を出そうとするものならば彼の眼力で押し黙らせるほど今の彼は不機嫌なオーラが 溢れんばかりに放出されている。 まぁそれは仕方がないといえば仕方がない。 彼の村を焼かれた挙句、忌々しい魔族と嫌な再会をしてしまったのだ。 村の皆に、そして何よりミラに怪我が無くて一安心だがこれからはそうはいかないだろう。 「それで?俺は何故こんなところまで連れてこられたんだ。  いい加減理由を聞かねぇと幾らなんでもぶち切れるぞ。」 シリウスは随分と機嫌が悪く、リーズを本気で睨みながら低く話した。 冷たい、厳しい空気が辺りを包む。 アレストも何かを言おうとしているのだが、言葉が見つからないらしく大人しく黙っている。 リュオイルは何かを他の事を考えているようで完全に上の空。 つまり彼を止められる者は誰もいない。 「・・・そうだね。  こっちの報せも重要とは思うけど、シリウス君を呼んだ理由。  言ってあげないともっと怒っちゃうよ?」 出された紅茶を飲みながら、今の状況に屈することなく微笑みながらフェイルはリーズを見る。 リーズは張り詰めた空気に暖かい空気が入ったのが助かったらしく頷いた。 この冷たい空気のせいで何処に誰が座っているなんて把握出来ていなかった。 いや、忘れてしまっていた。 だからこそ彼女に感謝したい。この異様な空気をパッと変えてくれたのだから。 「そ、そうね。ごめんなさいねシリウスさん。」 「ふん。さっさと用件を言え。」 さっきよりも大分ましにはなったが、睨むその視線が痛い。 外側から見えない剣がチクチクと刺しているようで痛いのだ。 「・・・・単刀直入に言うわ。  お願い、シリウスさん。私たちに薬草を分けてもらえないかしら。」 「何度も言わせるな。その交渉は既に破談している。 冷たい空気がまた流れる。 どちらも一歩も譲らず、睨み合いが続いている。 本当ならば完全に逃げ腰のリーズなのだがここは何が何でも引けない。 国の民や村の民が困っている。 自分は腐っても医者だ。 自分に出来る事は薬を調合して傷ついた者を手当てすることぐらい。 でも、それでも役に立っているんだと信じたい。 誰かの傷が治ればリーズだって嬉しいのだ。 だから、皆の笑顔が見たくて今もこれからも医療に走る。 でも・・・このままいけば今までの中で最も最悪な状況が生まれるだろう。 「どうして分けてあげないの?」 ここの会議室は広いので、一人一人の声がよく聞こえる。 と言う事は今の小さな声も二人には聞こえたはず。 意外な人物の乱入で少し驚いた様子のシリウスだったが、露骨に敵意剥き出しにして 今度はフェイルにその矛先を向けた。 「何が言いたい?」 「じゃあさ、どうして私にはその大事な薬草使って助けてくれたの?」 「・・・・」 分からない。 それが俺の答えだ。 誰が何処で死のうが、俺には関係ない。 ミラさえ元気でいてくれれば、何もいらない。 じゃあ何で俺はこいつを助けた? ガキだったからか? いや、違う。 ミラに何処となく似ていたからか? ・・・違う。こいつとミラは似ていない。 じゃあ、なんでだ? 「・・・知らねぇよ、そんなこと。俺の、気分だ。」 はっきりと答えられない。 本当に分からないから。 「う〜ん・・・。  薬草を分ける事が出来なくても、育て方を教えることならいいんじゃない?」 「何で俺がこんな奴等に。」 あからさまに嫌そうな顔をして何かを言おうとしたシリウスだったが、 フェイルの気迫に押されて何も言えない。 出会った当初は、病み上がりだったから仕方がないがボンヤリとした気質の者だと思っていた。 けれどその第一印象は脆くも崩れ去って、今ではズケズケとものを言う子供。 ・・・・でも、不思議と嫌な感じはしない。 「でもさ、そうしないといつまでも家に訪問されちゃうよ?  ミラちゃんも迷惑だと思うし、育て方だけ教えるって条件で、  もう干渉してこないってのを前提にすればいいんじゃないかな。  育てて枯らせてしまえばそれはそれで酷だけど、それだけしか努力をしなかったってことで・・・」 ――――確かに、一理ある。 「・・・・・・・・」 「お、お願いします。育成の術でも何でも構いません。  私たちの民を助けてください。」 俺は、ミラを助けなかったこいつ等を許さない。 どんな事があっても、それは違えない。 けれど・・・・ こいつの、フェイルの言っている事も一応説得力があると感じられる。 「俺は・・・」 どうすればいいんだ? これ以上しつこく家に来られてもミラが迷惑がるのは予想しなくても分かる。 はっきり言って、というか俺もいい加減にしろ。と剣を向けてでも言いたい。 それくらいこいつ等は何度も家に押しかけてきた迷惑極まりない連中なのだ。 まぁ内容が内容だから分からないわけでもないが。 「・・・・・」 「シリウス君大丈夫。  本当にリーズさん達はこれ以上シリウス君やミラちゃんを追いかけ回さない。  私は今のリビルソルトの人たちは信頼する値があると思うな。・・・・ね、リュオ君。」 「・・・・・」 フェイルの声に反応しないリュオイルが珍しいらしく、アレストは向かいに座っている彼の顔を覗き込んだ。 顎に手を当てたまま、そう言えばさっきからピクリとも動いていないような気がする。 寝ている、なんてまずあり得ない。 だとすると考えられるのは一つ。 何か他の考え事に没頭しているのだろう。 「リュオイル?」 「・・・・・・・・・・・・え、あぁ、何?」 やはり今までの話しを全く聞いていなかったようで反応が遅い。 心なしか顔の表情も冴えていない気がする。 いい加減苛立っているアレストは、机越しにリュオイルの頭を軽く・・・・多分軽く殴った。 ――――ゴッ!! 見事なアレストの拳がリュオイルの頭を直撃し、本人は涙目になりながらも 痛そうに頭をさすりながらアレストをきっ、と睨んだ。 「何するんだ!!」 「それはこっちの台詞やで!!  あんた何悩んでるのか知らへんけど、聞く気がないんやったらこっから出ていきな!!!  さっきフェイルの言った事も聞いてへんかったやろ!!?」 容赦のない厳しい声がリュオイルの身に降り注ぐ。 本人は、図星なようで何も言い返せれず、ただ項垂れている。 それを一部始終見ていたフェイルは、目をぱちくりさせて2人を静かに見ていた。 でもアレストがリュオイルを殴った瞬間に今度はオロオロしだした。 今もどうすればいいか分からず、交互に心配そうに2人を見比べている。 「ごめん。ちょっと席外させてもらうよ。ごめんね、フェイル。」 「え?ううん、別に構わないけど・・・大丈夫?」 「大丈夫。ありがとう。」 高価そうな椅子を引いて出口に向かって行ったリュオイル。 いつもの自信溢れる様子はなく、幼い子供が母親に叱られた後のように背筋を曲げて出て行こうとした。 そんな姿を見るのは初めてなので、ちょっとだけ言い過ぎたかな、と思うアレストであった。 (・・・・僕は、どうすればいいんだ?) ――――バタン 乾いた空気の間に出来た扉の閉まる音は虚しく響いた。 扉を閉める際にリュオイルの零した声は誰かに聞こえたのだろうか。 フェイルは動揺しているらしく、アレストやシリウスの顔を交互に見つめている。 「ア、アレスト。あんなに言わなくても・・・・」 「いいんや。最近あいつおかしかったのは気づいとったけど、  そろそろいい加減本腰に入らな旅の方にも支障が出るやろ?  厳しい言い方やけど、あいつに今は慰めは通用せぇへん。」 何を悩んでるかは・・・うちではいまいち理解できへんけど、 今リュオイルは自分の心と戦っとる。 その決着が付くまで、うちは何にも言えへんのや。 リュオイルが出て行ったほうの方角を睨みながら、いつもなら冗談を言うアレストが 厳しい目つきで見据えていた。 その姿は生憎フェイルには死角なので見えない。 「で、でも、でも・・・・」 「フェイル。」 今まで一度も私の事を、と言うよりも誰の事も名前で呼んだ事がなかったシリウス君が 急に名前で呼んだのでびっくりした。 しっかり相手の目を捉えたシリウスはフェイルから目を離さない。 けれどリュオイルの事が心配な彼女にとっては、その視線はただ困惑させるものに他ならない。 「ちょっと黙ってな。・・・おい女。」 「は、はい?」 「薬草の苗はカイリアの村から奥に進んだ『護法の森』にある。  お前等がせいぜい入れるのは手前だけだが、それで十分だ。  奥に進めば恐ろしい魔物がいるとか・・・・そんな事婆さんが言ってたな。」 「は?」 状況が上手く読み取れていないリーズは唖然とした様子でシリウスを見つめた。 そりゃそうだ。 何故ならさっきまであんなに薬草引渡しを頑なに拒否していた彼。 それが一変して「譲る」と言っている。 自分の聞き間違いだろうか、耳が遠くなっただろうか、と心配するリーズを見て、 それが不愉快だったのかシリウスは眉を寄せた。 「はっきり言ってお前等の言う民がどうなったって俺等には関係ない。  ただ・・・・それで死んだ奴の事を考えたら、胸くそ悪くなるだけだ。  育成の仕方はミラか隣のばあさんしか知らない。  間違ってもミラに聞くんじゃねぇぞ。」 「・・・は、はい!!あ、ありがとうございます。」 がたん!!と、大きな音を立てて椅子から立ち上がったリーズは「今すぐ行って来るわ!!」 と言い残し、会議室からあわただしく出て行ってしまった。 「・・・・報告はどないすんねん。」 この声は果たしてリーズに届いたのであろうか? アレストの願いも虚しく、それからリーズが帰ってくる事は無かった。 「・・・・・面倒ごとが一つ減ったとこで、おい。フェイル。」 「な、何?」 厳しい、とは言い難いがシリウスは真っ直ぐフェイルを見抜く。 だが明らかに表情が硬いので自然とフェイルも身構える。 この様に真っ直ぐ見られることがあまり無かったため どうしても目線が泳ぎそうになるが彼の視線はそれを許さない。 「お前は、誰かを信じるとか、そんな事を何も考えずに他人に言ってるのか?」 「え?」 シリウスの真っ直ぐな瞳に押されつつもフェイルは頭がパニックになりかけた。 もう一度その意味を整理したが、分からない。 「・・・多分、これは俺が勝手に考えている推測だが、あいつはお前の言葉に迷いを抱いてる。  それが良いほうなのか悪いほうなのかは流石に分からねぇがな。」 「私の、言葉?」 「そう。傍から聞いてればお前の言っている事はただの気休めにしか過ぎない。  「信じれ」と言われてそう簡単に信じられる奴がいると思うのか?」 「・・・・それは。」 「答えは否定。特にあいつは騎士だ。  騎士というものは常に疑心感と警戒を持たなければ生き残る事が出来ない。  それは放浪する旅人であっても同じだ。  お前も旅をしているなら分かるだろう、常に死と隣り合わせだという事が。」 怒っているわけではない。 ただ、いつもより随分と冷めた目つきでフェイルを見透かす。 他人に加担するつもりはこれっぽっちもないが何故か口が勝手に開く。 こんなに延々と喋ったのは何年ぶりだろうか。 それほど長い間、妹以外喋った事が無かったような気がする。 ―――リュオ君が元気がなかったのも、私が原因だったの? 今まで自分が言ってきた言葉を思い返していたフェイルは1つの答えに辿り着いた。 だがそれはあまりにも利便で他者の事を考えていない気がする。 思った事を口に出してしまう性質故、この失態は辛い。 自分でも気付いているからこんなに胸が痛くなるのだろうか・・・。 「私は・・・」 「確かにお前の言っている事は正しい。それは誰もが分かる。  だが、それが出来ない奴も大勢いる。」 「・・・うん。」 「お前には出来ても、あいつに出来ない事だってある。  お前は巧みに魔法を操る事が出来る、だがあいつは出来ない。  結局は、それと一緒だ。」 すっかり落ち込んでしまった様子のフェイルは目線を下に降ろしたまま微動だにせず固まっている。 話を沈黙して聞いていたアレストも流石に心配になったようでフェイルに声をかける。 だが帰ってきた言葉はアレストに対するものでも、シリウスに対するものではなかった。 「・・・・ごめんね。」 か細い小さな声に、二人はハッとしてフェイルを見た。 顔が下に向いているので表情は分からないが、手の甲にポタポタと落ちている透明な雫は涙だ。 彼女が泣いている事に気付くと、さっきはあんなに憤っていたアレストは 心配そうに眉を細めて彼女の肩に手を置いた。 「フェ、フェイル?」 「・・・・私、都合の良い事言って結局はリュオ君やアレストを困らせてたんだよね。」 しゃくり上げることなく、ただただ涙を流す小さな少女にシリウスも気まずくなったらしく何も言う事が出来ない。 ポツリポツリと、今はここにいない赤髪の少年に語り続けた。 その姿を見たシリウスは、チッと舌打ちしてバツが悪そうに彼から目線を逸らした。 「・・・でもね、そんなの窮屈じゃないかな。  いつもいつも気を張っててたら、私、心配だよ?  誰も信用しないんじゃ、きっと心が壊れちゃう。  私じゃ、全然役不足だけど、いつもいつも迷惑かけてるけど、  それでも、私はリュオ君を仲間として信頼してる。尊敬もしてる。」 私も、最初はちょっと疑ってた。 幾らなんでも初対面の人と親しくは私でも出来ない。 でもね、旅をしてから、リュオ君と旅をしてから、少しずつだけどリュオ君の事が分かってきた。 どんなに小さな事でも、それは仲間を信頼する大きな進歩だと思う。 悪い場所も、良い場所も、全部理解すればお互いが信じ合える。 だから頼って欲しい。もっと本音で話せる仲になりたい。 信じようとしないのは・・・きっと怖いから。 誰だって裏切られたら悲しいし傷つくよね。 心が痛くなるよね。 こんな悲しい思いはもうしたくないって思うよね。 でもそのままいちゃ駄目だよ。 「誰でも信じてあげたいって思ってると思う。  リュオ君は優しいから、一度は必ず思ってると思う。  あと一歩って所で信頼出来そうなのに、出来ないのはきっと怖いんだよ。」 「怖い?」 「そう。皆その事に、恐怖を抱いてると思う。  私もね、昔から人を信じてたわけじゃないんだよ。」 勇気を出して、あと一歩頑張ったから、今の私がいる。 「私に出来る事はリュオ君は出来ない。・・・そんな事ないよ。  誰でも、努力次第で・・・そりゃ勿論完全にとはいかないけど近づくことが出来る。  完全な、完璧な人間はこの世に存在しない。  それは神様でも魔王でも一緒だよ。」 こんなの、私のわがままだと思うけど でもね、裏切られることも悲しいけど 信じてもらえない事のほうがもっと悲しい。 「やっぱりね・・・寂しいんだ。」 エゴなのかもしれない。 リュオ君は困っているのに、こんな事言って 本当に私は駄目な子だなって改めて思っちゃう。 「仲良くなった友達に、仲間に信頼されてないのって・・・・凄く胸が痛い。」 前に、ロマイラと戦闘したあの日のように、 リュオ君が言ったように・・・・私も信頼して欲しい。 信頼してくれと言ってくれた時、凄く嬉しかったから。 「フェイル・・・・・」 ギィと音がした。 今までフェイルの話を静かに聞いていた二人も、リュオイルが戻っていたことに気づけなかった。 そこに立っていたリュオイルはどうすればいいか分からず、そして目を合わせる事も出来ず途方に暮れいてた。 でも、彼女の真意を聞いた途端心の中でうごめいていた何かが綺麗に消えたと感じた。 痛切に、彼女に会いたいと。 仲間なんだからこれから嫌ってほど顔を見合わせるのにおかしいよね。 けれどどうしようもないんだ。 「フェイル。僕は・・・」 今までの話を大方聞いていたのだろう。 何とも言えない、表現しにくい顔つきで、少し悲しそうに泣いているフェイルに近づく。 違う。 僕は、フェイルにこんな思いをさせたかったんじゃない。 僕は、ただ・・・・ 自分のこの半端な気持ちに苛立っていた、焦っていた。 完全に癖となっている警戒心。 それは、さっきシリウスが言ったように僕は騎士だから神経質になりやすい。 そしてシリウスの言った事は正論だ。 でも、フェイルの言った事も、正論なのだ。 一言で言えばただ怖かった。 仲がよくなればなるほど、離れるときが怖い。 戦争で部下が死んで、一人生き残ったあの恐怖は・・・計り知れない。 あの日から、僕は変わったと思う。 いや、はっきり言えばそれに気づいているのはリティオンとカシオス、そして王。 ポーカーフェイスは完璧なはずだから部下には全く知られていないはず。 それでも、三人の目は誤魔化せなかった。 「ごめんフェイル。僕は、自信がなかったんだ。」 「・・・・?」 「関係が深いほど、信頼も高まる。  君が言ったように僕は、その信頼を失った時が怖い。」 だから最低限の人間しか信じる事が出来ない。 そう言い聞かせて今まで生きてきた。 失う時のあの瞬間が怖いから。 裏切られて傷つきたくないから。 「僕は、君を、フェイルやアレストを信じたい。  けどまだ僕には迷いがある。」 「・・・うん。」 「でも、僕は離れたくない。  こんな事を言うのは我が侭だと思うけど、これからも一緒に旅をしたいと思う。」 「・・・うん。」 「僕に、勇気をくれて・・・・ありがとう。」 たった一言。 それでも僕たち人間はためらってしまう。 それでも、僕は君の優しい微笑みと力強い言葉に勇気付けられた。 『ありがとう』 それは感謝の意味を表す最高の言葉 たとえどんなに儚くとも 君の声さえあれば きっとどこまでもボクは飛んでゆける                           君にあってボクに無いもの                           それはどんな事があっても覆す事は出来ない                           だけど君にあってボクに無いもの                           それも決して覆す事は出来ない                           『信じよう』                           ボクには空を飛べる羽があるのだから・・・