「こいつは・・・・・」 曇天だった空が、現れた青年により青空へと浄化される。 だが彼は何をした? 現れてその数秒間、彼は動いたのであろうか。 否。 それを知るには、まだあまりにも早い。 そして同じように、あまりにも遅すぎたのだ。 ■天と地の狭間の英雄■        【神族と魔族】〜消える事のない疑惑〜 「か、神族―――!?」 「そう、吾等の宿敵。最大の壁の、神族だ。」 現われた青年。 名は『シギ』 今まで感じた事の無かった何かの力がこの凍てついた空気を緩やかにする。 「エイフィス、様。」 ぽつり、とラクトが零した。 それにはっとしたようにアルフィスが後ろを顧みる。 顔色を真っ青にした彼は、自分の肩を掻き抱くようにして縮こまっている。 さっきまでの威圧感が、まるで嘘のように。 「ラクト、お前・・・・」 神妙な顔つきでラクトを見入る。 それに気づいた様子のシギは、一瞬寂しそうな顔をした。 「ラクト。神族を裏切った堕天使、か。  お前に何が起こったのかはまぁ大体は分かるが、あれはだな・・・」 「ち、違う!騙されるものか!!  神族の言葉なんか・・・・――――・っ!!」 半狂乱の様子でラクトが大声を上げる。 今まで宿していた無の瞳に、今は怒りの感情が見て取れた。 その様子に、小さく溜息をついたシギは大げさに肩をすくめる。 魔族2人に緊張が走り、知らず知らずのうちに後ずさりしていた。 今この彼と戦うには分が悪過ぎる。 戦っても、勝てる勝算は生憎ない。 「・・・・で?どうする。  ここで死ぬかそれとも本拠地に帰るか。  でもまぁ、もう答えは出てんだろ?アルフィス。」 固唾を飲みさほど悔しそうな顔もせず、どちらかと言えばホッとしたような顔つきで アルフィスは二人に目配りをした。 その穏やかな視線にホッとしたソピアは、察しがいったのか空に両手を掲げた。 「ラクト、ソピア。一時撤退だ。」 「・・・・分かった。」 「うん。」 撤退命令を出すと、すぐさまソピアは移転呪文を唱える。 数秒で完成させた移転魔法は、すぐに三人を包み込み何事もなかったように消え去った。 「・・・・ふぅ。1段落は着いたなぁ〜。  お、嬢ちゃん。その銀髪兄ちゃん見せてみな。」 恐らく去っていた方向を睨んでいたのだろう。 険しい顔を一変させて、人懐っこい笑みを浮かべてアレストの傍に近寄った。 当の本人は、何が起こったのか上手く整理で来ていない様子でただ頷くことしか出来ない。 意識を正常に保っていれば、警戒心剥き出しで抗議するのだろうが 今は半分放心しているので頭がついていかないのだ。 「・・・・む、こりゃあ傷が深いな。  よく頑張ったもんだ。大抵の人間の剣士は魔法が大の苦手だってのにそれを承知で庇ったなんてな。  ま、それは俺等にとっては好都合でありがたい事なんだけどよっ・・・と。」 傷口に手を当てて何か呪文を唱える。 明らかに人間の言葉ではないのは分かるのだが、その早く美しい呪文は思わず聞き惚れてしまった。 「こんなもんか。まぁ無理しない事が回復の近道だぜ。  暫くはしっかり休養して英気を養うんだな。」 ほいっと荷物を投げるかのようにして驚いたが、 さっきと比べ血の気が戻ってきているシリウスを見てアレストはホッとした。 呼吸も正常に戻り、体温も戻ってきている。 やっと緊張感が抜けたのか、彼女が暫くそこから動く事は無かった。 「さて・・・と。」 起き上がったシギは、未だ懸命に名前を呼んでいるリュオイルに目をやった。 いや、リュオイルでなく呆然としているフェイルにと言ったほうが正しいのかもしれない。 そこには我を失ったかのように少女の名を叫び続ける少年が1人。 だがその声に反応することは絶対に無かった。 「フェイル、フェイル!僕だよ、分かる?」 「・・・・・・」 「フェイル、・・・フェイル!!」 何度大声で叫んでも、軽く頬を叩いても、何処か遠くを見ていて視線を合わす事も出来ない。 返ってこない返事が怖い。 もう二度と何も答えなくなるかと思うと、恐怖で身が竦んでしまう。 「フェイ・・「俺に任せな。」 ずいっと割り込んできた先ほどの青年。 リュオイルも見上げなければ目が合わせられないほど背が高い。 「何を・・・・」 半ば呆然としてされるがままになっているリュオイルは、暫く硬直して動くことが出来ない。 リュオイルが固まっている間に、シギは同じようにまず軽く頬を叩く。 「・・・・起きているか?」 「・・・・・・・・・」 「確か、フェイルだよなぁ。」 どこか戸惑ったように苦笑しながらフェイルの名を呼ぶ。 それでも彼女の反応は全くない。 少し寂しい感覚に陥ったが、シギは持ち前の明るさでその感情を吹っ飛ばす。 「って、お前・・・フェイルに何をするつもりだ!!」 暫く思考がついて行かなかった頭も戻り、我を取り戻して揺すられていたフェイルを奪う。 シギは少し驚いた様子できょとんとしていたが、いきなりくっく、と笑い出した。 逆撫でされたような感覚になったリュオイルは顔を真っ赤にして抗議する。 「な、何がおかしい。」 「くっ、いやちょっとな。」 「ちょっと、じゃ分からないだろ!?」 (とんだ道化話だな。これは・・・) 「・・・?」 警戒心剥き出しにしてシギを睨みつけるリュオイルは、急に静かになった相手に不信感を覚えつつ 奪い取ったフェイルに再度声をかける。 悲しい事ながら相変わらず彼女の返事はない。 意識はあるのだが焦点が定まっていないのだ。 「フェイル。」 「・・・・・・リュオ・・君。」 「――――!!そうだよっ。僕だよ!!」 「あ、れ?  何か、ボーっとしてたんだけど・・・。」 目をぱちぱちと何度も瞬きを繰り返し、キョロキョロと辺りを見回す。 そして、緊張感の欠片も無い声で。 「あれ?魔族は?」 「・・・・」 だが本人は至って真面目。 首を傾げていたが、それは倒れているしているシリウスを見て表情を変えた。 ザッと真っ青になったフェイルは肩を震わせながらそっと腕を伸ばす。 「シリウス君・・・・。」 「フェイル、覚えてないのかい?」 さっきまで緊迫した雰囲気の中であんなに名前を呼んだというのに。 思わず脱力してしまう。 フェイルの視線は未だ眠っているシリウスで、そんな事を思っているリュオイルとは裏腹に 何かを思い出そうと必死だ。 「・・・・・私、確か魔法を跳ね返されて・・・それで・・・・」 シリウスに庇われた。 そこまでははっきり覚えている。 悲痛に叫ぶアレストの声も その間にも、必死で戦っているリュオイルも 覚えている。 だけど、そこで全てが闇に呑まれた。 「シリウス君は!?大丈夫なの!!?」 焦ったように、今にも泣き出しそうにリュオイルに掴みかかる。 少し驚いたが、安心させるため頭を撫でた。 それに更に目を細めて悲しそうな顔をするフェイル。 見ているだけで痛々しいし、いつ泣いてしまうか分からない。 涙は、苦手だ・・・。 「大丈夫。  あいつは・・・・そこにいる変な奴に助けられたから。」 「そこいいる変な奴なんて人聞きの悪い。  『絶体絶命の中、突如現われた勇敢なる無敵で素敵な素晴らしい神族のお兄さん』って呼んでくれ。」 「・・・・・・・・」 「・・・・・・・・」 「・・・・・・・・は、置いといて、次の話しにいこうか。」 「おい。」 ちょっとまてぃ、とでも言いたいようにリュオイルの肩をガシッと掴む。 その様子を胡乱げに、冷たく見ているリュオイルは面倒くさそうにしている。 だが彼の反応は決して間違いでも理不尽でも何でもない。 目の前に現れた「シギ」と言う人物の素性が、今の彼の台詞でかなりあやふやになったからだ。 ・・・と思うのに何だかちょっとだけ彼が可哀想な気がしてきた。 「何か?」 「えーと、『絶体絶命の中、突如現われた勇敢なる無敵で素敵な素晴らしい神族のお兄さん』だっけ?」 長い名前だねぇ。 いや、違うから。 「・・・よく覚えれたねフェイル。」 僕は冒頭部分は聞いてたけど最後は全く聞いてなかったよ。 「フェイル=アーテイトだよな?」 顎に手をそえていたシギは、考える様子でフェイルの名を再度呼ぶ。 当の本人は、名乗った覚えはないはずなのに知っている事に驚いて目を丸くしている。 警戒心を持たれたのだと気づいたシギは、深刻そうな顔を一気に崩した。 その無邪気な笑みを見て少しずつ記憶が蘇ってきた。 そういえばこの顔と声は確か・・・。 「・・・・・・あ。え、あ、あれ?」 「お。思い出したか?」 おちゃらけたように笑うシギに毒気を抜かれ、 フェイルは唖然しながらも何かを思い出したように小さく声を上げる。 それに満足いったようにシギは更に顔を崩した。 一方リュオイルはというと、未だ不審そうにシギを睨みつけていた。 フェイルとシギが面識があるっぽいのは分かったのだが、どう見ても怪しい。 一体何処から現われたのか。 そりゃあ確かに魔族に気を取られていたが、彼の登場の仕方はおかしい。 全く気配が感じられなかったのだ。 「さっきも魔族相手にそんな事言っていたな。」 「お、信用してねえの?駄目だぞ坊主。  まだまだ若いもんがそんな神経尖らせるような事してたらしまいにゃその髪が無くなってはげちまうぞ〜?」 「・・・・・・余計お世話だ!!」 不服そうにそっぽを向いたリュオイル。 思わずはげてしまった自分を想像して嫌気がさしたようだ。 ぽんぽん、と頭を軽く叩かれ「何する!」と叫ぶが如何せん、 相手は得体の知れぬ自称神族。そしてこのおちゃらけた性格なのだ。 大分背の低いリュオイルに何を言われても「ははは、若いねぇ」と軽く流されてしまう。 思わず「あんたも若いだろうが!!」と口にしかけたが心の中に留めておこう。 何を言われる分からない。 上手く話しの輪(リュオイルにとっては迷惑)に入りきれず、1段落ついた様子のところですかさず聞く。 それにはシギも少し驚いたようで、困惑気味な笑みを浮かべた後、 どこか懐かしいような、暖かい眼差しでフェイルを見つめた。 「シギ、君だよね。リール港で、色々教えてもらった。」 「そうそう。やーっと思い出したか。お兄さんは悲しいぞ・・・・。」 「ご、ごめんなさい。」 およよ、と情けない効果音が付いているようにも感じ取れるこの状況に全く話しが見えないリュオイルは 首を傾げたままであった。 勿論。疑いの目はシギに向いたままだが・・・。 「フェイル。誰この変人。」 「おいっ!どさくさにまぎれて何言うか!!」 「えっと。リール港でちょっとお世話になったの。  ラゼン諸島とか、色んな地方の話を教えてくれたの。」 「フェイルも否定してくれよ!!」 何の気にした様子のない笑顔のフェイルにリュオイルは頭痛を覚えた。 頭を抱えながら、そして大げさに、もしかしたら本当なのかもしれない大きな溜息を吐いた。 「あれだけ知らない人には注意しろって言ったのに。」 「う・・・・・ご、ごめんなさい。」 すっかり縮こまってしまったフェイルに哀れを感じたのか、苦笑しながらシギがフォローを入れる。 「まぁ、声をかけたのが神族でよかったな。」 「神族・・・。あの、幻の?」 「幻、ねぇ。  どこで誰がそんな事言ったかは知らないんだが、俺たちは人間と同じように生きている。  多少時の流れが違えども、俺たち神族もそしてその最高峰である神さえもちゃんと生きている。」 「ちょっと待て。神族のお前が何でリール港やら此処にやらいるんだ。  第一神が生きていることも、証明できないだろう?」 疑わしげな表情のリュオイルは、忙しそうに何度も顔色を変える。 頭の堅い奴かと思えば今度は百面相。 冷静だったり冷たかったり怒ったり笑ったり。 それがおかしかったのか、思わずシギも噴出してしまう。 「まぁ、話はこいつを村で休ませてからでも遅くはないだろ?」 くいっと顎をそちらの方向に向けると未だ看病しているアレストと、横たわったシリウスがいた。 事の重大さに気付いた2人は納得したように頷くと、ひとまずカイリアの村に戻る事にした。 「それは、本当なの?アルフィス。」 少し低めの女性の声が暗闇から小さく響いてきた。 その薄暗い部屋にいる人数は4人。 小さい影2つと、大人の影が2つずつ。 「あぁ。ほぼ、いや間違いはない。あの顔には見覚えがある。」 「そう・・・・困ったわね。」 そうは言うものの、本当に困っているのかいまいち分からない表情で軍服を見にまとったジャスティは 腕を組み、何かを考えているように黙り込む。 その仕草さえも絵になるのだから本当に彼女の美貌には驚かされるものである。 「まぁいいわ。  それが本当なら神族もそろそろ焦りだしたんでしょう。・・・いい兆候だわ。」 何か考えが浮かんだのか、怪しく微笑するとラクトの顔を除きこむ。 驚いたラクトは、上手く呂律が回らず硬直している。 「あ、あの・・・」 「いいのよ、ラクト。あなたは何も悪くない。  裏切り者の堕天使。・・・本来は神族の天使。」 「あ、の・・・・僕は・・・」 「でも本当に堕ちた天使は貴方じゃなくて神。  可哀想なラクト。貴方はこんなに辛い思いをしているというのに・・・・。  ラクトの痛みを知らない愚かなる存在。  私たちの幸せを踏みにじった、恥ずべき存在。」 何かの呪文のようにつらつらと述べるジャスティ。 それを無表情で眺めるアルフィスに対し、傍にいるソピアはおろおろとして今にも泣きそうだ。 ジャスティの言葉を聞いているうちに、ラクトの中で何かが切れたように急に怒りの感情が出てきた。 遥か彼方へ飛ばした感情が、今此処に再び蘇る。 「・・・・・神族・・・・・・・」 「そう、貴方は捨てられた。  神なんて所詮心の狭い我が道を通す愚かなもの。  少しでも気に障ればすぐに見捨てる。  貴方はその中の一人、堕天使。裏切り者のラクト。」 「僕は、あいつ等を・・・・・あいつ等を―――っ!!。」 「お、お兄ちゃん。」 突如怒鳴りだしたラクトに、怯えながらもソピアはラクトの裾を握る。 それにはっとしたように急いで下を見下ろす。 そこには涙をいっぱいに溜めた、唯一の理解者がいた。 全てを知りながらも、ずっと傍にいてくれている優しい存在。 「ソピア・・・。」 「お兄ちゃん怒らないで。怒っちゃ、駄目だよ。」 「・・・ごめん、ごめんね。ソピア。」 怯えて、震えている小さな肩にそっと手を置くと、 さっきまであんなに怒りに満ちていた瞳が嘘のように消え去った。 ホッとしたソピアは、花のように笑うと差し出されたラクトの右手を握る。 そしてラクトは未だ表情の読み取れないジャスティの顔を見た。 さっきまであんなに動揺していた虚ろな顔は消え失せ、変わりに何か光を見つけ出したような そんな奇妙な顔つきになっていた。 「大丈夫です。僕は、もう神族なんかじゃない。  あの人が僕を救ってくれたんです。あの人が・・・」 「そうね。だから私たちは一刻も早く魔王様を復活させなければならない。  その事だけを信じて、生きなさい。」 何か含みのある言い方に一瞬目を細めたアルフィスだったが、 あえてその部分には触れず沈黙を守り続ける。 二人は敬礼した後、音もたてずに静かに消え去った。 魔界に戻ったのを確認すると、ジャスティは疲れたように小さく溜息を吐く。 「・・・・決着をつける時期が来た。」 「そうね。私たちは、ソピアやロマイラのように純血の魔族ではない。  私と貴方は人間、ギルスは人間と魔族の半々。そして、ラクトは・・・・・。  早く先手を打って魔王様を、あの方をを復活させないと。」 「魔王・・・・それは、本当にあの方を指す言葉であると思うか?」 「アルフィス?」 普段あまり喋る事の無いアルフィスが淡々と答えるのが珍しく、 それ以上に、今の自分にとっては明らかに不審な点があるので思わず聞き返してしまう。 一体彼は何を言っているんだ? 「何を、言っているの。」 「魔王。それは死の世界、隠された魔界の王『ハデス』を指すのか。」 「・・・・アルフィス、貴方どうしたの。」 「それともかの英雄に封印された堕天使『ルシフェル』を指すのか。」 曇りも何も宿さない静かな水色の瞳は、冷たくジャスティを見下ろす。 その言葉に唖然とするジャスティ。 切れのよい眉を更に眉間に寄せて険しい顔をする。 「・・・何が言いたいの。」 「魔王という言葉は本来純血なる魔族の王に授けられる最高の称号。  それが今となっては天界から堕とされた最高権力者の大天使。  ・・・矛盾だとは思わないのか?  天界と魔界。本来は神族と魔族が敵視する中に、何故堕天使が魔族の王となる?  本当の純血の魔族の王はどこに行った。」 「アルフィスっ!!!」 初めてこんなに長い話をアルフィスから聞いた。 だがそんな小さな驚きは見事に崩れ去り、ジャスティの頭の中は怒りで満ち溢れている。 殺気立ち、今にもアルフィスに突き付けた刀を更に食い込ませようとしている。 冷静沈着なジャスティが此処まで怒りに溢れるのは並大抵の事ではない。 「俺は、思っていた事を述べただけだ。  ジャスティ、お前も人間なら分かるだろう。  人間だけじゃない。ロマイラもソピアもギルスも、そしてラクトも少なからず感じている。」 「・・・・黙りなさい、あの方を侮辱する事は許さない!」 「俺達が知らない遥か昔、魔族はこの世にいなかったと聞く。」 「黙りなさい!!!」 少し力を込めたせいか、首筋に添えられている刀に伝って赤い鮮血が流れ落ちる。 それに気にした様子もないアルフィスは、何か諦めたように小さく溜息をつく。 「・・・・安心しろ。俺は神族にも、ましてや人間に見方する気はさらさらない。  俺が忠誠をたてたのは、俺を救ってくれたお前の言う魔王様、だ。」 やんわりと刀を首から放すと、アルフィスは暗い通路を歩きはじめる。 カツカツ、と足音が木霊になるまで小さくなるのを確認したジャスティはその場に座り込んだ。 普段滅多に乱れる事の無い呼吸が崩れている。 怒りに我を忘れた私は、今何をしようと・・・・? 「・・・それでも、たとえ堕天使でも、私にはすがるものが無かった・・・。」 崩れ落ちた体は弱弱しく丸くなり小刻みに震えている。 床に零れ落ちる冷たい雫は、また闇と化し消えてゆく。 「たとえ魔王様が天使でも、それでも私は貴方を・・・・・。」 闇から解き放ってくれた小さな、そして大きな光。 それがどんなに血で汚れていたとしても私はそれが、それだけが希望だった。 たった一人。 誰も手を差し伸べること無かった私に希望を与えてくれた。 「・・・・・ルシフェル様・・・・・・」