どれくらい前なのかな。



もう大分経って、あんまり覚えて無いけど



それでも私は、あのぬくもりを忘れない。




忘れてしまえば、私は・・・・・







きっと








もう生きることが出来ない気がする
























■天と地の狭間の英雄■
    【闇に飲まれたあの時】〜記憶〜
























いつも優しくて、でも時々厳しいリュオ君も

いつも明るくて、ずっと笑顔のアレストも

いつも無表情で、でも本当は凄く優しいシリウス君も




どこからかな。





あの時の暖かさと重なってきたのは・・・・。























私って、案外自分の事知らないんだよね。

まぁ、捨て子だったから仕方ないんだけど・・・。

一番最初の記憶は、そこまで遠いものでは無い。

きっと数年前くらいじゃないかなって思ってる。



村の外に出た事が無い私は好奇心いっぱいで、

だからね、ちょっとだけ村の外に出ちゃった。

村長様は危ないから絶対一人で外に出ないようにっていつも言われてたんだけど、

その頃の歳は大体8〜10歳位。

やっぱりこのくらいの歳だと何にでも興味が出ちゃう年頃だから仕方ないよねぇ?



少しだけ、少しだけならいいよね。って言い聞かせて出た場所は、初めて見る森や動物や

とにかく凄かったのは覚えてる。

危ない事もちょっとはあったけど、でも私は外の世界に感激してた。





やっぱり、子供って大変だよね。

もうちょっとならいいかなって思って予想以上の所まで出て行ったんだ。

そしたら大変。








「・・・ここ、どこ?」






迷子になったんだよねぇ。生まれて初めて。

とにかく来た道を戻ってみたけど、行けども行けども村には着かない。

夕日が見え初めて、段々寒くなってきた。


よく分からない怖い気配も、腕や首にチクチク刺さるようで、泣きたい気持ちだった。

こんなことなら外に出るんじゃ無かった・・・・・。





「・・・・ふぇ、村長様。」




段々暗くなってきてお月様が見える頃、とうとう泣き出しちゃったんだ。

怖くて、寂しくて、動けなくなった私は膝を抱えてうずくまった。

泣いてた、いっぱい涙が零れ落ちて頭が痛かった。

でも、しゃくり上げることなく、ずっと下唇を噛んで耐えていた。

どこからともなくガサガサッと音がして、私はビクビクしながら耳を押さえていた。

でも、私だって何も出来ないわけじゃない。

もしも魔獣が出ても、倒せなくても逃げれる自信はある。








生まれつき、私の中に眠っていた『魔法』という力。







村長様は、今の私で無闇に使うものじゃない。と言っていたけど

私の力を知った時は凄く驚いてた。

あの時の私は、何でかよく分からなくて首を傾げてたけど・・・。

でも、アレストが仲間に加わった頃にそれが分かった。

私は、捨てられた子供。

本来は気味悪がられて死んでいくはずだった。










「・・・・お爺様・・・・・・」









寂しい、怖い。

一人きりの夜なんて初めてだから、無性に人肌が恋しい。

誰でもいいから、私を助けて。




ただ、それだけを願ってずっと泣いていた。







ガサガサ・・・ガサ、ガサガサガサ・・・






びくりと大きく震えた私は、魔獣だと思い混乱する頭をどうにか回復させキョロキョロと暗い森を一瞥する。
底知れぬ恐怖が私を包み、更に寒気が走る。



「・・・・ま、じゅう?」




ガサ・・・・・ガサガサガサガサ!!!!!





目は暗闇で慣れていたため、物を見るのに苦労はしなかった。

でも、後ろから現われた何かには全く気づかず、混乱した私は固まって動けなくなる。



「あ・・・・・」



黒くて、大きな何かは、這いずる様に私の傍へゆっくりやってくる。

恐怖で身がすくんで震えていた私は、幼いながらもそこで死を覚悟した。









ごめんね、お爺様・・・・・・・














「・・・・何だ?これ。」













ぎゅっと目を瞑っていたが、いつまで経っても痛みはこない。

変わりに来たのは男の声。

不思議に思い、恐る恐る目を開くと

そこには月光で顔が映し出された背の高い青年が立っていた。




「お前って、人間?
 ・・・・いや、でも・・・・あぁ子供ね。」

「・・・魔獣さん?」

「魔獣・・・・・。この俺が?そんな顔に見えるか?」





小さくなった体をぎゅっと支えて、見下ろしている目を見ながらその青年に質問をする。


魔獣と間違われているのが悲しかったのか、肩をだらんと項垂れ大きく溜息をつく。




「・・・・・見た所は迷子だよな。名前は?どこから来た。」

「フェイル。ソディバスから・・・・抜け出してきたの。」

「フェイルね。ソディバスっていうと・・・・あー、お前そんな凄いとこ住んでるのか。」

「凄い?何が?」

「あー、いや。こっちの話し。・・・迷子って事は道は知らないんだよな。」




こくり、と頷くと、青年はまた溜息をつく。

怒っているのかと勘違いした私は、とにかく謝った。




「ご、ごめんなさい・・・・」

「あ?あ、いや、別にお前が悪いわけじゃない。
 気にすんなって、すぐ見つかる。」




頭をくしゃくしゃと少々乱暴に掻き回し、少し痛かったが、でも嬉しかった。




「お兄ちゃん・・・お名前は?」

「ん、俺か?俺はな・・・・そうだな、そう、『ユグドラ』でどうだ?」



今思えば、どうだって聞かれてもね・・・。

その時は小さかったから何とも思わなかったけど。




「ユグドラ、お兄ちゃん?」

「そうそう。」




名前を呼んだ事が嬉しかったのか、ユグドラは何度も頷き、その顔は笑顔でいっぱいだ。

その後何かに気づいたようにフェイルを凝視する。




「なぁに?」

「お前って、優しいから自分まで犠牲にしそうだから危ないんだよなぁ。」

「・・・・?」




何を言われたのかよく分からないフェイルは、小さく首を傾げるだけで何も反応がない。

それに気づいたユグドラは、あぁ、そうか。と言うとフェイルの手をとる。





「お前って魔法使えるだろ?」

「魔法?・・・うん。」

「そうかそうか、俺も使えるんだよな。」

「お兄ちゃんも?」

「おうよ。でも使えるものがかなり限られているからなぁ。
 その点お前はいいぞ?かなりの種類の魔法が使える。
 基本要素の他にもありとあらゆる自然の魔法を使えるな。」

「でも、火と水しか出ないよ?」

「それはまだお前が使いこなせてないしその精霊と心を通い合わせてないからだ。」

「・・・・?もっと上手くなれるかな。」

「修行次第でな。お前はかなり伸びるぞー。
 お前なら出来るさ、なんたって俺の妹だからな。」

「妹?」

「そう妹。今決めた。お前は俺の妹だ。」





初めはきょとんとしていたが、みるみるうちに表情が明るくなるのがみて分かる。

少数派の村では子供が少ないから、友達や兄弟なんてあんまりいなかったから。




「よし、可愛い俺の妹だからに忠告しといてやる。
 言葉は大切なんだ。言うのは簡単だけどそれを実行するのは難しい。
 だからあんまり難しい事を言わないで自分の出来る範囲の事を言うんだぞ?」

「・・・・?う、うん。分かった。」

「いい返事だ。」





もう一度頭を撫でると、少し寂しそうにどこか遠くを見る。





「おにい、ちゃん?」

「・・・お前なら出来る。そう信じてる。」

「お兄ちゃん・・・?」





段々薄くなっていく青年を、そのときはただ呆然と見ていた。

撫でていた手を降ろし、屈んだ形になって今度は小さい私を抱きすくめた。




「・・・お別れだ、フェイル。元気でな。」




それを最後にユグドラは一瞬のうちに消え去った。

消えたユグドラを懸命に探そうと首だけキョロキョロと忙しく回し、何度も名前を呼ぶ。







「ユグドラ・・・・お兄ちゃん?」






どれだけ時間が経ったのか、もう朝日が差していて、そしてどこからか自分の名前を呼ぶ村長の声が聞こえた。

咄嗟にそちらのほうへ向き直り、今までの中で一番大きな声を上げた。

今まで感じていた恐怖心は吹っ飛び、ただその方向へ走る。





「村長様ーーーーーーーーーーーー!!!!」



















《そう、お前なら、きっと大丈夫。
   

《不安になれば俺を思い出せ。


《お前は強い子。本当に優しい、希望の子。


《何事にも譲らない強い意志がある。


《お前なら出来る。そう、信じているから・・・・・・