時が止まる 人々の悲鳴が世界に響き渡る 食い止めなければ・・・・ あの悲劇を再度蘇らせるその前に・・・・・ ■天と地の狭間の英雄■ 【新たなる仲間と共に】〜目指す道〜 「・・・・お兄ちゃん・・・・・」 ずっと臥せっている兄、シリウスをその妹ミラが付きっ切りで看病して丸一日が経った。 魔族に突如襲われた4人であったが、危機一髪の所で「シギ」と言う青年に助けられた。 以外や以外。 その青年はフェイルと面識があり、言葉を交わした事があったと言う。 それにまず反応したのは引きつった顔のリュオイル(通称ブラック)だったが、アレストのフォローで 何とかその場はしのぎ切れた。 一同カイリアに戻り、そして突如現われた自称神族から詳しい事を聞いている。 「本当に神族なのか?」 「はぁ・・・。 お前って疑り深いのねぇ、神族なんだから神族って名乗って悪いかよ。」 「開き直るな。」 鋭い反撃に、涙も堪えて(シギ談)ずっと質問攻めの彼に流石に哀れを感じたのか、 ミラに断ったフェイルは、お茶を出した。 カイリア特産のハーブティーである。 爽やかな匂いと共に現われたフェイルは、苦笑しながらそれを皆の前に出す。 「おーサンキュー!! さすがフェイル。俺の痛みを分かってくれんのね。」 「・・・・ごめんね、分かんない。」 「・・・・・。」 さらっと流されて少し心にダメージをくらったが、ゴキブリ並の生命力ですぐ笑顔に戻った。 その姿を呆然と見ていたアレストは自分でも少し顔が引きつっていると認識した。 さすがと言うべきなのかなんと言うべきやら・・・。 「まぁ、一息いれながらでもいいだろ? 俺ってどっちかっていうとアウトドア派だから一気に質問されても困るわけよ。うんうん。」 「アウトドアとは繋がりがないだろう。」 「そこはさらっと流せ。さらっと。」 ずずっと手渡されたハーブティーを飲み干すと、ご満悦のようで表情が明るい。 ・・・明るいのだが、こちらの調子が狂いそうなほど本当におちゃらけている。 似たもの同士のアレストはにこにこと聞いているが、それとは正反対のリュオイルは これでもかっ!というほど青筋を立てている。 かなり不機嫌なようで、さっきからずっとシギを睨みっぱなしだ。 「ふぅ・・・・まぁ冗談はさておき。」 「さっきまでの話は冗談なんかい!!!」 一応真剣に聞いていたアレストも、流石にそこはつっこむ。 本当にこの男の話はどこからが冗談なのか分からない。 そう。だから信用する気すら起こらない。 神族だと認めてもらいたいのならこの性格をどうにかすればもっと早く話がついただろうに。 「・・・・・。」 「まぁまぁ、まぁそう苛立つなって。」 「素性の分からない奴を信じれるほど僕は人間出来ていない。」 「・・・・・絶対にはげるぞ。お前って。」 「だーかーらーっ、余計なお世話だ!!!」 どこからともなく出してきたハリセンをアレストはリュオイルに素早く手渡し、 風の神様もびっくりなほど速いスピードでシギの頭をぶん殴る。 殴る、ではなくてぶん殴るのでとても痛い。 それはもう言葉に表すことが出来ないくらい痛い。 パシコーンッ!!と乾いた音が鳴ったかと思うと、シギの体は前につんのめった。 「あだっ!!!!」 「・・・・・・真面目に話せ。」 そろそろ切れかけてきたリュオイル。 更には二重人格者になりかかっている彼の黒いオーラに 流石のシギも身の危険を感じたのか、待ったをかけてきた。 酷く慌てており、額からも冷や汗が流れている。 多分ずっとこのままのノリだと彼の愛用の槍でグサッと一刺しされるだろう。 いや、もしかしたらミンチになるまで刺され続けるかもしれない。 あまりにもリアルすぎるそれにシギの顔色が変わった。 「わ、悪かった悪かった!! 頼むからその凶器(ハリセン)を降ろせって!!!!」 「・・・・・・」 「ま、真面目に話すって。 真剣にいこうぜ?真剣に穏便に平和に友好的にっ!!」 その真剣さが伝わったかどうかは怪しいところだが、懸命さに納得したのか 持っていたハリセンをアレストに返して椅子に座った。 何とかこの場を逃げ切ったシギだが、 彼の恐ろしい本性を目の当たりにしてさっきまで笑っていた顔が嘘のように引きつっている。 「・・・・で、もう一度聞くけどどこから来たわけ。」 「天界。」 「・・・・・・」 「な、何だよその目は。俺は正真正銘の神族だぜ?」 「・・・・怪しぃ・・・・」 今度はアレストも参戦してリュオイルと共にシギを睨む。 流石に二人にも睨まれるのは気分が悪いのか、急に立ったシギはにいっと笑う。 まるで勝ち誇ったような邪気のない楽しそうな笑みに思わず2人は呆然とする。 「証拠があればいいよな?」 「は?え、まぁ。それはそうだけど。」 「じゃあ簡単だ。 あぁ、最初っからこうしとけば俺は苛められなくてすんだんだよなぁ・・・シクシク。」 「・・・・・・・・今度は地獄に逝かせてやろうか?」 今度はハリセンなんて可愛いものでなく、愛用の槍を構えたリュオイル。 そこにはうっすらと赤い何かがこびり付いている。 かなり急いでいたため手入れをまだしていない。 さっさとこの馬鹿げた話を終わらせて手入れをしないと錆びていしまうだろう。 「わりぃ、わりぃ。だからそれ降ろせ。」と焦った様子のシギをもう一度睨み、静かに仕舞う。 「・・・そうだな、フェイル。」 「へ?な、何?」 今までの口論のなかで一度も振られていなかった自分が急に呼ばれたため、思わず緊張してしまう。 それに苦笑しながらも、シギは確かめるようにこう言った。 「神族。いや、天使の特徴っていえば何だ?」 「て、天使の?」 「そう。天使な。」 「・・・翼とか?」 「ビンゴー!!!ナイス、フェイル!!」 嬉しそうに、無邪気な子供のように笑ったかと思うと、急に真剣な顔つきになった。 その様子に三人は何も言えず、ただ見守るだけである。 ほのぼのした空気が一変して冷たい空気となった。 けれど嫌な感じはしない。 多分これは、緊張しているから冷たく感じるのだろう。 「そう、今いる神族殆どはその象徴である羽根を隠している。」 「・・・・シギ?」 「この翼を出すのは、何年ぶりだろうね・・・。」 懐かしそうに目を細め、神経を集中させる。 すっと目を閉じた途端、シギの周りから白く鮮やかな光が溢れだした。 目を瞑らなければはっきり見えないほど、それは眩しく、そして美しかった。 「・・・・・・シ、ギ?・・・・」 「これが俺の本来の姿。神族の大天使『シギ』だ。」 一体幾つの翼があるのだろうか。 普通考えられる枚数を優に越しいるその純白の翼は穢れがない その羽根はまるでシギを守っているようにも見えた。 柔らかく暖かな光がシギを包み込んでいる。 思わず見惚れてしまうその神々しさ。 息を呑むのが分かった。 それほど、彼の力に圧倒されている。 魔族とは全く逆の清らかな気配。 悪と化したものを浄化しそうなほどこの力は鮮明だ。 彼を人間ではないと確信できること。 それは、シギが地に足をつけていないからだ。 「これでもまだ信じられないか?」 「・・・・・いや、疑うほうがおかしいだろ。」 「さっきまでこれでもかって言うほど疑ってたの誰だよおい。」 「せやかて・・・大天使って・・・・・。」 普通の神族はいわゆる普通の天使だ。 大天使ともなると、地位がかなり高いはず。 それが・・・・どうしてこんな争いの絶えない地上なんかに。 争いを好まない神族は常に孤立している。 ごく稀に、神の気まぐれで加勢してくれる時があるらしいが、そんな力最初から当てにしない方が良い。 「ちょっとしたお使いだな。 神から命じられたのさ。フェイル=アーテイト、及びその仲間を天界へ運べってね。」 「またフェイルか。 ・・・・フェイルに、彼女に何があるって言うんだ!?」 「・・・そうか、魔族にはもう出くわしたもんな。」 「真面目に答えろ!!」 妙に納得したような顔をしたシギは、怒鳴るリュオイルに全く気にもせず頷く。 その態度が更に彼の怒りに触れたらしく、リュオイルの怒りが治まる様子はない。 何でフェイルが。 何で、彼女がこんな目にあわなければならない。 何もしていないのに。 ただ彼女も、フェイルも平和を望んでいるだけなのに。 「リュオ君。落ち着いて。」 そっと手を握ると、それにはっとしたかのようにリュオイルは手を掴んだ相手を見入る。 フェイルは悲しさと不安さを混ぜたような表情になっていた。 そんな表情を見てリュオイルは自分の未熟な心を呪った。 まだまだ、子供なんだと。 「私は平気だよ?魔族には捕まらなきゃいいもん。」 「フェイル・・・。」 さっきまであんなに怒りに満ちていたのに彼女のたった一言でリュオイルは平静を保った。 それをアレストはホッとした様子で見守っていたが、シギは何処か複雑そうである。 何に対して複雑そうなのかは分からないが、二人をジッと見ている。 それに全く気付いていないフェイルとリュオイルは、真剣な表情で向かい合っていた。 空気は和らいだものの、やはり彼等魔族の行動が気がかりだ。 その意味を、神族であるシギならば知っているかも知れない、と考えたフェイルは今度はシギに向き直った。 「でもやっぱり私も気になる。 どうして魔族や神族は私の魂が必要なの? 魔王を復活させるのは分かってる。けど・・・でもどうしてそれが私なの?」 「・・・魂? 違う、俺たち神族は・・・魂なんか必要としていない。」 「じゃあ何を?」 不思議そうに見上げるフェイルとは裏腹に、シギはぎこちなく目を泳がせる。 真一文字に唇をしめて、何も語ろうとしない。 その様子に気付いたフェイルは首を傾げて彼を見つめた。 だがシギにとってその視線は辛い。 素直で、邪気のない優しい双眸。 見透かしているのではないか、と疑いたくなるほどそれは透き通っていた。 「シギ?」 「俺には荷が重過ぎる。 それは、天界でしか・・・ゼウス神からしか言えないことだ。」 「ゼウス?」 「神族最高峰の神。 天を司り、天空を主帝とする神だ。」 「ちょっと待ちぃや。それやと更に分からへんで。 そのすんごい神さんが何でフェイルを必要とするんや? そりゃあ、フェイルの魔法は他の魔法使いと比べたらずば抜けてるけど・・・。」 訝しげにアレストが口を割った。 その素朴な疑問に「もっともだ。」とでも言わんばかりにリュオイルも彼に視線を送る。 3つの視線が同時に注がれたシギは、少しだけ困ったような顔をしてフッと笑った。 「・・・これでは駄目か?『その答えを言えば俺は死罪と同じ扱いになる』」 唖然とした空気が流れた。 どうしてそんな、とでも言いたげにアレストは目を見開いている。 リュオイルも深刻そうな顔をしてシギを見上げた。 その重大な事を言ったにも関わらず相変わらずシギは笑っている。 時々「頭おかしいんじゃないか?」と疑いたくなるが、それはこの人物の強さなんだと、分かった。 「・・・とにかく、俺はゼウス様の所にまでお前達を連れて行かなければならない。 そして俺は神族であることに間違いはない。フェイルを守り抜く使命もある。 魔族にフェイルが渡ればルシフェルは復活する。これは紛れもない事実なんだ。」 「ルシフェル?」 次々に新しい言葉が出てきて、全く頭が追いつかない。 「ルシフェル。まぁ、なんだ。 魔族が言ってなかったか?魔王って・・・」 「あぁ、そいや言ってた気がする。」 「魔族で思い出したけど・・・シギってラクトと面識あるの?」 ポンッと手を叩いてフェイルがシギを見る。 その質問を聞いた直後、シギは羽根を消し去り地上へ足を降ろした。 その表情は真剣そのもので、思わず身を強張らせてしまう。 どこか傷ついた表情の大天使は、ぎゅっと拳を握り締めた。 「そうだ、ラクト・・・あいつは本当は天使だったんだ。」 「だったって・・・・」 「数年前に天界で事件が起こってな。そんな大きな被害も何も出なかったが。 ただ、その巻き込まれた夫妻が同じ神族に殺された。」 「・・・同族殺し?」 「そう、そんな事は滅多に起きない。本当に稀に起きる事なんだ。 そしてその夫妻には一人の息子がいた。それが・・・ラクトだ。」 痛みに耐えるかのように、悲しそうな目をしたシギは腕を組み椅子に座る。 心の底から大きく溜息を出すと、俯いていた視線をそのままに重く口を開いた。 「夫妻が死んだ事の怒りが爆発して、永遠に眠るはずだった力が暴走してしまった。 その同族殺しの奴等を殺したんだ。まだ今よりずっと幼い時だったが・・・。」 天界の神であるゼウスはその行い激怒した。 同族殺しのメンバーは既に死に絶え、もうどうする事もなく魂だけを地獄へと送った。 そしてその同族殺しを殺したラクトも勿論ゼウスは地獄行きにしようとした。 だが、そこへゼウスがたった1人愛した『ヘラ』が情けをかけた。 あまりにも幼いラクトに同情し、天界を追放という形で。 つまり堕天使。 もう二度と天界には戻れないが、ヘラの情けがなければラクトは完璧に地獄行きだった。 その頃の自分と言えば、長い長い出張で天界を空けていた。 その事件を知ったのは今からさほど昔ではない。 ラクトと面識があるからこそ、その報せはシギの心をズタズタにした。 「それは、良かったやんかって言いたなるんやけど。」 「そう、俺達だって安心したさ。 ヘラ様の情けがなければラクトは死より恐ろしい地獄へと送られていた。 ・・・・・それなのに、どうして魔族になんかに・・・・。」 分からなかった。 ラクト、たとえあの時暴走していたとしても逆恨みをするような子供ではなかったはずなのに。 彼が魔族へ加わった事により、天界の機密事項や禁忌など、 ラクトが知っている範囲でだがその情報が完全に漏れた。 一時期も、神族の命が危険にさらされたこともあった。 俺はその時たまたま戻っていたため神の傍にいたから守る事は出来た。 ・・・・だが、一歩間違っていれば神族は完全に滅んでいただろう。 神であるゼウスや、ヘラ達以外の天使は全て・・・・・。 「こうしてラクトには裏切り者という汚名がきせられたのさ。」 「・・・・・納得いかない。」 静かに聞いていた三人だったが、それにいくつか疑問を感じたフェイルは思わず口に零してしまう。 何に納得がいかないのか驚いた様子のシギは不思議そうに目の前にいるフェイルを見る。 その本人は、むむっと唸って目線も合わさず下を向いている。 他の仲間もシギと同じ事を考えているのか、互いに顔を見合わせて首を傾げていた。 一体どうしたのだろう、と。 「確かにラクトは悪い事をしたよ。 たとえ同族殺しをした悪い人でも、殺しは絶対に駄目。」 「・・・じゃあ、何に納得がいかない?」 「どうして追放になるの? この地上界だって、悪い事をしたら牢獄に入れられるけど、 それでも追放なんてものはそうそうないと思うんだけど・・・・・ねぇ、リュオ君?」 急に話を振られたリュオイルは、少し戸惑ったが話しの内容が理解できていたので その答えを出すのは現役騎士団の自分には簡単なことだった。 確かに彼女の言い分には一理ある。 外からの交際を一切遮断していた小さな村の人間にしては読みが深い。 決して彼女を馬鹿にするつもりはないが、良くそこまで考えられたと思う。 「あぁ、確かにどこの国にでも追放という刑はあるが、 それは反逆や王の意志に背いた者のみに、与えられる刑であって ・・・・殺人者を追放するほど落ちぶれてはいないぞ。」 第一そんな危険な人物を外に出したら収拾がつかなくなる。 本当に償いようのない人物には速攻処刑が言い渡されるのだ。 国家の反逆者とか、王族を暗殺した者ならば見世物にして首を跳ねられるだろう。 リュオイルが生きてきた中でそれは1度しか見た事がないが、やはりそれはあまりにも悲惨すぎる。 リュオイルの意見を聞いてなるほど、と小さく何度か頷いたシギは納得したかのように目を合わせた。 「そうか、人間と俺たちでは、造りが違うからそういった考えになるわけだ。」 「造りって・・・あんたもうちらもさほど変わらんとちゃうん?」 理解不能な言葉にアレストは眉をひそめて唸った。 造り? 何故そんな事が今この話しに持ち出されるのだ。 「確かに、見た目もさほど変わらないが中身はどうだ? 普通の天使が地上に降りても別に支障はない。 だが、堕天使は違う。堕天使は地上に舞い降りた後は幾つかの時を経て死ぬんだ。」 「死ぬって・・・どうして!?」 驚いた様子のフェイルは思わず椅子から立ち上がった。 それもそうだろう。 彼等の本当の姿を知って、何も言わない者はいない。 その気持ちは他の二人も同じようで、驚愕の瞳でシギを見る。 その様子に、これでいくつ目になるのか分からない程の大きな溜息を吐いた。 「堕天使ってのはな、天使として認められなくなった中途半端な生き物。 もう天使でもない、ましてや人間でも魔族でもない不完全な形の生き物。 形を保つための資格を奪われたとなると・・・数日で死ぬだろうな。」 「・・・そんなの、間違ってる。形を保つための資格なんて。 そんな資格は必要ないじゃない!! 私たちは、人間も神族も魔族も、皆みんな生きてる。 資格なんて・・・・そんなの間違ってるよ。 私が私であるのも、皆が皆であるのも、それは変わらないことなのに。」 悲痛な叫びがこの小さな部屋に響き渡る。 リュオイルもアレストも、気持ちは同じようで何も言わずただジッとシギを見る。 叫んだフェイルを悲しそうに見つめながら、シギは再度頭を垂れて床を睨みつける。 そう、間違っているとは分かっている。 だがそれは俺たちにはどうする事も出来ない現実。 それを変えられるのは、もう・・・・・・・。 「シギ?」 「・・・・いや、それは、間違っちゃいない。神の下す判決も。 そしてお前の言うことも、どちらも間違ってはいないさ。」 だから、お前たちはゼウス神に会わなければならない。 人間という形である以上にこれは定められた運命。 必然的に出会ったこの若者たち。 遥か昔から定められていた、狂った運命。 「だからこそ、俺はお前達をあの方の所にまで連れて行かなければならない。」 それが生まれ持った俺の定めなのだから。 「・・・・行こう。天界へ。」 「フェイル?」 「こんな事、間違ってる。 間違っていることが多すぎて、神族でなくても私は怒ったーーー!!」 彼女なりに怒っているつもりであるのだろうが、 幼さの残る顔立ちでいきごまれてもいまいち迫力が出てこない。 さっきまであんなに緊迫した空気が流れていたのに彼女のこの一声で暖かさが戻る。 思わず噴出してしまったアレストも、苦笑しているリュオイルも その意見に反対は無いようで頷いてシギを見た。 「・・・だ、そうだ。 フェイルの言う事に反対も何も、僕も同じ意見だからね。」 「せやで。神さんに意見しに行くのも楽しそうやん。 そんな楽しみを独り占めさせへんで?」 最後の意見は何だか不安な要素がいっぱいだが、それでもシギに不意をくらわせるのには十分だ。 何度も瞬きをして、そして思いだし笑いをするように笑った。 「・・・交渉成立ってわけか。」 固い表情だったシギの顔も、いつの間にか崩れて笑顔が戻っていた。 それに続くように三人も明るい表情に戻る。 「・・・・で、だ。お前さんはどうする。 俺としちゃあ戦力は多い方が嬉しいんだがな〜?」 急に後ろを振り返ったシギは、さっき自分が治療して眠っているはずの男に目を向けた。 「・・・・・いつから。」 「シリウス君!?」 シギ以外の三人は全く気づかなかったようで、階段の上にいるシリウスを見上げた。 その傍らには兄を支えているミラが。 まだおぼつかない足取りだが、この短期間で目を覚ましたのはある意味奇跡とも言える。 もしかしなくても、シリウスの毎日の修行の積み重ねで強い体になったのだろうが、 それでもこの回復力は治療したシギさえも驚かせた。 「聞いてたなら分かるだろ?伊達に神族やってないって。」 「・・・・・・・・・助かった。礼を言う。」 不審そうに見下ろすシリウスは、 さっきまであんなに血の気がなかったというのに今ではすっかり元気そうに見える。 一応助けられていたことは分かっていたのか、そっぽを向きながらだがしっかり礼を言っている。 やはり律儀だ。 「別に神族と魔族の争いなんて興味ないんだが。それでも魔族との接触はあるんだな?」 「もう嫌ってほど。わんさかわんさかあるぜ?」 そんな祭りみたいに言わなくても。 だってそっちの方が楽しくねぇ? また始まったシギのふざけた言動にシリウスは頭を痛めた。 何とも言えない複雑な顔であるが、自然と頬は緩んでいる。 「・・・行ってやるよ。」 「シリウス君!? で、でもそれじゃあミラちゃんは?」 「私なら大丈夫。隣のおばさんや村のみんながよくしてくれてるし。 それにお兄ちゃんって以外と外出してるからそんなに変わんないよ。 ちょっと長めの出張って思えば平気だから。」 「ミラ、悪いな。」 「ううん。気をつけてね。 くれぐれも無理してフェイルちゃんやリュオイルさんたちに迷惑をかけないようにね。」 「・・・・どっちかといえば迷惑をかけられる立場だぞ。俺は。」 どこか不満、というかおかしな点があったので一応訂正をしておく。 それに「なにおぅ!!」と今にも掴みかかりそうなアレストとリュオイル。 それにどうどう、と宥めるシギの姿があったとかなかったとか。 「じゃあ、シリウス君も一緒?」 「まぁ、そうみたいだな。」 「本当!?やったー。嬉しいな。」 「・・・・そりゃどうも。」 「フェイルちゃん、お兄ちゃんを宜しくね。」 「うん!!」 時が止まる 人々の悲鳴が世界に響き渡る 食い止めなければ あの悲劇を再度蘇らせるその前に 目指すは永遠なる大地。 母なる大地ガイアが宿るという大陸。 ルマニラスへと