「戦闘開始やでぇぇぇえええええ!!!」 今日も彼等は忙しい。 ■天と地の狭間の英雄■        【とある日常の中の戦闘風景】〜旅の途中で〜 『 神の息吹は優しさなり 我の息吹は旋風なり             速急な微風ごとく 地に舞うは風の精                  触れ合う者の魂を 切り裂け 』 ―――――テアウィンディス!!!―――― 魔法陣から生まれた竜巻は、目の前にいる魔獣を全て粉々に引き裂いた。 その引きちぎれた所からボタボタとどす黒い血が飛び散り、 原型を留めていないそれは、跡形も残らず余韻の風によって何処かへ飛ばされてしまった。 「ひゅ〜♪さっすが・・・・」 「シギ!後ろやで!?」 ――――――ゴスッ!!!! どこからともなく繰り出されたシギの拳は、見事に魔獣の頭を貫いた。 その腕には異様な臭いのする血で塗れている。 彼が仲間になって数日。 一番驚いたのは、以外にもシギは素手でも何でも戦えることだ。 「俺を誰だと思ってや、・・・がる!!!」 跳躍した彼は、まだ逝き絶えていなかったそれに止めを刺す。 鈍い音がその腹から聞こえ、低い断末魔が途絶えるまでシギは決してその獲物を手放さなかった。 「ギィィイイイヤァァァア!!!」 耳を塞ぎたくなるほど、あまりに悲痛な声にアレストは眉をひそめた。 彼女もこれまで数え切れにほど魔獣を殺してきている。 自分が殺している時は感じられなかったが、 誰かが何かを殺すとき、それはあまりにも辛い場面だと感じさせられる。 「シギ、もうええんとちゃうか?」 「甘いなアレスト。  最後までとどめを刺しとかないとこいつ等は再生する可能性だってある。」 「せ、せやかてそれは・・・ちとやり過ぎとちゃうか?」 素手で殴るのが一緒のアレストは、今は敵である魔獣に同情してしまった。 先も言った様に今まで数え切れないほど戦闘もしたし、殺してきた。 それでも、シギの殺し方には思わず吐き気がしてくる程なのだ。 「・・・アレスト。」 さっきまで魔獣に取り囲まれていたフェイルは、さっきの魔法で全滅させた後すぐアレストの傍に駆け寄ってきた。 いつも明るくて、罵声が絶えないアレストが今は真っ青である。 不安そうな顔をしたフェイルは、背中をポンポンと叩くとやりきれない複雑な笑顔を向ける。 「フェイル・・・」 「シギ君が言ってたみたいにこの魔獣は再生を何度も行うの。  確かに同じ生き物として可哀想とは思うけど・・・・でも此処で情けをかけたら私達が死んじゃう。」 決してシギが無情なわけではない。 分かっているからこそ、時には心を鬼にしなければならない。 それをきっとアレストに教えたいのだ。 戦争で、そして戦闘に情けは無用。 それは一歩間違えれば命取りになるのだから。その恐怖は身にしみて理解している。 死にたくないのなら前を向かなければならない。 誰かを守りたいのならその手を赤く染めてでも走らなければならない。 「だから今は耐えて。」 「・・・・・すんまへん。」 しょんぼりと項垂れたアレストが、いつもより小さく見えて流石に言いすぎたと思ったのか シギはフォローを入れる。 シギもアレストも、にぎやかなことが好きで似たもの同士ではあるが、 感じることもまた似ていたのであろうか、どんな時にでも明るく努めているのもまた同じだ。 仲間の気配りも決して忘れない。 それがシギの良い所の一つである事を、仲間達は皆知っている。 「まぁアレスト嬢ちゃんは優しい心がちゃ〜んとあるってこった。  きっと生まれ変わったら天界で天使になれるぜ〜?」 「そうだね。アレスト優しいもんね。」 それに賛同するようにフェイルもにこにこと笑う。 気を利かしているみたいで、妙に照れくさい。 「・・・・ありがとな。」 はにかみながら笑うアレストにほっとした二人は、気を取り直して戦闘に参加する。 今の今までずっとリュオイルとシリウスが持ちこたえていたのだ。 が・・・何と言うか。 二人とも個性がありすぎると言うか、協調性が無いと言うか。 とにかく凄い戦闘になっている。 「邪魔だっ!どけっ。」 「それはこっちの台詞だっっ!!!」 相性の悪いらしい二人は、最後の魔獣にとどめを刺そうとしている。 だが右にはリュオイル、左にはシリウスが回っている。 しかも二人とも大きな武器なので、ちょこまかと逃げ回る小さな敵に悪戦苦闘していたのだ。 リュオイルが刺そうとすれば敵は逃げ、シリウスが叩き潰そうとすれば敵は跳ね飛ぶ。 その繰り返し。 ・・・・・どちらかが引けば問題は無いのだが・・・・・・・ 「あぁ!!!シリウスっ!!  今のは絶対に当たっていたぞ!!!?」 「知らん。お前こそとっとと引け!!」 大きな槍では到底命中する事は無いと悟ったのか、服の下に隠していたナイフを魔獣に投げる。 ・・・が、後一歩の所でシリウスの剣の波動で塞がれ、ナイフは跳ね返されてしまったのだ。 それに激怒したリュオイルと、わざとやったわけではないのに怒られて 不満そうに怒鳴るシリウスの声が響いていた。 「「・・・・・・・・」」 「相変わらず仲良いよね〜。あの二人。」 ((・・・どこをどう見たらそんな考えになる!?)) いいなぁ。とぼやきつつ、そして静に心の中だけで二人は突っ込む。 このある意味派茶滅茶、そして見事な天然っぷりに溜息を吐きたくなる2人であった。 ・・・・さっきはあんなに真剣な話をしていたのに。 「あぁぁぁあああああ!!!またお前かぁ!!?」 「煩い黙れ!!」 ついでに言えばこっちの二人は本当に派茶滅茶ぶりを余すことなく披露してい、て溜息ではなく冷や汗が流れる。 下手をすればこちら側に彼等の怒りの矛先が向きそうな気がして気が気じゃないのだ。 ビュンッ!! グサッ!! 「・・・・・・・」 「・・・・・・・・・・・・・・だ、大丈夫か、アレスト。」 そう、少しでも気を緩めばどこからか飛んでくるこの凶器によって真っ二つになってしまう恐れがある。 さっきの一撃はアレストの頭上を掠めただけで、髪が数本はらりと落ちただけであったが その被害にあった本人はフルフル・・・と震えている。 ついでに言えばそのこめかみに青筋が立っているのだが、シギはそれを軽く無視した。 「あーーーんーーーーーのぉぉおお!!!!!」 「落ち着けアレスト!!さっきまでの優しい心はどこに行った!?」 「捨てた!!!!!(きっぱり)」 うがーーー!!と今にも飛び出しそうなアレストを後ろから抑えて宥めるシギ。 そして何処か勘違いしている天然さんはぼーっとその(恐ろしい)戦闘を見ている。 「・・・・はぁ。しゃあねぇなぁ。」 「うがーーーーーーー!!!!!!!」 片腕でその見事な金色の髪を掻き揚げると、今言った言葉とは対照的に穏やかな笑顔を向けている。 それに気づくわけでもなく、ただ暴れているアレストは置いておこう。 「ああもうっ。ちょこまかちょこまかとっっ!!!」 「煩い。あれは俺の獲物だ。引っ込んでろ!!」 相変わらず戦況(くだらない)は変わらない一方で、それとはまた別に彼等の険悪さは更に増していった。 ああいえばこういう。こういえばああいう。 ・・・・ずっとこんな状態で、しかも普段あまり喋らないシリウスさえもこんなに怒鳴っていては 明日は雨か雹か、はたまた槍でも降ってきそうな勢いだ。 「踊る火達磨」 ――――ボォッォォオオオオ!!!! 二人の間から飛び出してきた灼熱の炎は、今までちょこまかと動いていた魔獣を呑み込み、 焼け跡からは灰しか残っていなかった。 その絶大な威力を目の当たりにした2人は、喧嘩をしていた事すら忘れてピタッと立ち止まる。 「「・・・・・・」」 一瞬何が起こったのか分からないリュオイルとシリウスは、そのままのポーズで固まっていた。 一番最初に動いたのはリュオイルだった。 重い首をギギギギ・・・とゆっくり回し、炎の来た道の方向を見る。そして遅れてシリウスも。 今放った魔法らしきものは明らかにフェイルのものではない。 彼女は岩に座って観戦していたのだから。 「はっはっは、わりぃな。獲物は俺が貰ったぜ?」 「「・・・・・・・・・シギ。」」 ((お前かっっ!!!!)) 「これで一件落着だな〜♪」 まだ消えていない炎を遊ぶように指でクルクルと回しながら、 青年年齢を越えているはずのその屈託の無い笑顔。 傍から見れば無邪気で微笑ましいが・・・・・その炎は脅しにしか二人には見えなかった。 「あ、ありがとう・・・・」 「・・・っち。」 ちなみにリュオイルの言ったありがとう、とは「喧嘩を止めてくれてありがとう+(恐怖)」 であるのであしからず。 「あ、もう終わっちゃったの?」 「・・・・フェイル。」 「いいなぁ、二人とも仲良くて。・・・・私ももっと仲良くなりたい!!」 そう言って近くにいたシリウスの腕を掴んだ。 いきなりの展開で思考が固まったが、シリウスは気にした様子もなくフェイルの頭を撫でる。 それが嬉しかったのか、満面の笑顔で今度は抱きついた。 「ぁぁあああ!フェイル!!!」 ピシィィイイ!!と石のように固まっていたリュオイルは、フェイルが抱きつくまで全く声が出なかった。 だがハッとしたように我を取り戻したリュオイルは、引っ付いている二人をベリッと引き離す。 その原因の本人は、ただ単に友好を深めようとしただけであってリュオイルの行動が理解出来ていない。 「なになになに?」 「フェイル、知らない人に付いていったり物を貰ったり引っ付いちゃ駄目だろ!?」 「おい・・・・・・」 誰が知らない人だ。誰が。 「それよりもたちの悪いこんな無愛想で無口で更にはシスコン野郎なんかにっっ!!」 「し、しす・・・こん?」 「そうだよフェイル!!こいつは・・・・」 ――――――ゲシッ!!! 「・・・・・どうやら魔族を倒す前に先にこいつを倒さねぇと世界が滅びそうだな。」 「・・・ふっ、それは同感。  たった今・・・いや、出会ってからずっと思っていたがお前は僕にとって邪魔な存在だ。」 シスコンが!!!! うるさい!!!!←(否定はしないので自覚はある) 険悪なムードが漂っている中、呆れていたシギとそれを面白そうに眺めているアレストは 数メートル下がって茶をすすりながら見ていた。 そしてどこからともなく出してきた煎餅を頬張りながらバリバリと食していた。 お茶を入れていたフェイルは、ふと思いついたように首を傾げた。 「ねぇアレスト。」 「ん〜?何や〜〜〜?」 「しすこんって・・・なあに?」 「・・・・・・・・・・・・」 「フェイルって・・・世間知らずなのか?」 「「絶対ぶっ倒す!!!!!」」(黒リュオ降臨) 「ねぇねぇ。しすこんって何?」 今日も平和だ。