さよならは言わない。 きっとまた会えるんだから。 だから 「いってきます。」 「いってらっしゃい。」 ■天と地の狭間の英雄■        【再会】〜また会えるその日まで〜 ――――――ヒヒィィイイン!! 爽やかな風が草原を駆け巡る。 ギラギラと光り輝く太陽は、少し肌寒いこの気温を少しだけ暖かくしていた。 それはさておき、今の馬の声。 シンプルに飾られた1つの馬車。 茶褐色の体付きの良い見事な馬は、胴体にリビルソルト国家の紋様を付けていた。 それだけ見ても名馬と呼べるが、この馬の走りを見た方がもっと納得するだろう。 急ブレーキをかけたため、馬の声が辺りに響く。 急停止したその馬車の中から、まだ若い少年少女が数名ずつ降りてきた。 「ありがとう。リーズさん。」 「いいえ。・・・・ここでお別れのようね。」 「世話になったな。・・・元気でなリーズ。また会いに来るさかい。」 「ふふっ。その時はシリウスさんも連れてきて頂戴。  必ず思環草を増やしてみせるわ。」 「・・・・せいぜい努力するんだな。」 憎たら口を叩きながらそっぽを向くシリウス。 それに苦笑するアレストとシギは、宥めながらその場を乗り切った。 そして彼女と再度向き直る。 あぁ、ここでお別れなんだ。 「会おう」と言っていてもいつ会えるか分かったもんじゃない。 もしかしたら、会えなくなるかもしれないのに。 「きっと・・・会えるわよね。」 「大丈夫や。  うちらは王様に帰るように言われてるんやさかい、絶対に帰ってくる。」 「・・・・そうね。  信じて待ってる。皆さんどうかご無事で。」 深々と頭を下げた後、リーズは再度馬車に乗る。 馬の声が聞こえた後に、馬車は来た道を逆戻りした。 「・・・行ったね。」 「あぁ。」 「そんな辛気臭い顔してないで、ほらさっさと行こうぜ!早く船に乗らないと乗組員さんらが  待ちくたびれるかもしれねぇぞ。」 リュオイルの首根っこを掴んでずるずると引っ張っていく。 「うわっ!!放せ放せ!!!」とかなり慌てた様子のリュオイルを尻目にシギはどんどん奥に進んだ。 それに唖然とした3人は、ポツン。と取り残され、置いていかれないように急いで追いかける。 きっとこれも彼なりの優しさなのであろう。 変わらない笑顔で、悲しそうな表情一つもせずいつもニコニコしている。 「大丈夫だ。お前達を死なせたりしない・・・・絶対帰らせてやるから。」 この声はリュオイル達に届いたのであろうか。 海の潮風と波と共に、ぽつりと零した一言は掻き消されてしまった。 「ん?何か言ったか?」 「いんや。それよりも見てみろ。  あんな大きな船用意してくれてたなんてな。」 進める足を止めると、港にあるその大きな船に全員が感嘆した。 貿易船並の大きさの船は、質の良い材木で構成されており頑丈だという事が目に見てとれる。 さらには威厳をするかのようなリビルソルトの紋章が船に埋め込まれている。 厳重に警備されているのか、その四方には複数の兵士がいた。 それぞれ何かを話しながら船を見上げているが、彼等もこの船に乗るんだろうか。 「・・・・目玉飛び出るくらいすんごいでこの船。」 「わぁ。こんなに大きな船初めて見たよ。」 白い帆は風に大きく揺れ、錨は今まさに引き上げるところだ。 大きな水飛沫をたてて、乗組員たちは忙しそうにあちこちにと回っている。 「あ、兄さん!!!!」 見上げていたその船の上から突然声が降りてきた。 聞き覚えのある声にすぐさまばっと上を見上げると、そこには懐かしい姿がある。 同じ赤い髪の少年。 赤髪はこの地方では珍しい方なのですぐに誰だか分かる。 「クレイス!?」 自分と全く同じ、双子の弟のクレイス。 どうして弟がこんなところに? 「兄さんって・・・・」 「ほぉ。瓜二つだな。」 驚いたようにリュオイルとクレイスの顔を交互に見るアレストとシギは、暫し呆然としていた。 そんな事を考えているうちに、クレイスは船から下りてきた。 やはり双子であっても何処か雰囲気が違う。 リュオイルは生真面目で神経質な性格のせいで、何処か近寄りがたい雰囲気がある。 そしてそれとは対照的に、クレイスは至って温厚で誠実そうな歳相応の青少年である。 「兄さん、久しぶりです。」 「クレイス、どうしてお前がここに?城のほうはどうした。」 「王からのご命令が下りまして・・・・兄さんが出て行って暫くしてからここに回されたんです。  その頃はこの海岸沿いで魔物が増発していまして、だからその魔物退治をしていたんです。」 「フェイルさんもお久しぶりです。」と優しい笑みを浮かべて深々と挨拶をするクレイス。 それにつられて「あ、どうも久しぶりです。」と同じように深々と頭を下げるフェイル。 ほのぼのとした空気が二人を覆いつくして、他のメンバーは入る隙が見当たらない。 彼と彼女は性質が何処となく似ているので何だか邪魔するのも悪いような気がするのだ。 けれど裏の話しではクレイスはリュオイルを超す黒さを持っているらしい・・・。 byカシオス 「・・・・ク、クレイス?」 「はい、何ですか兄さん?」 「あ、いや。  魔物退治の件は分かったけど、この船で何をしていたんだい?」 「あぁ。思ったより早く方が付いたんで、忙しそうだったのでお手伝いをしていました。」 「・・・・・・・クレイス。」 久々の再会で喜んでいたと思ったら今度は肩を落して大きく溜息を吐くリュオイル。 ちいさく「またか・・・」と呟いたのをアレストは聞き逃さなかった。 「何がまたなん?」 「・・・・クレイス、お前は何度言ったら分かるんだ。  あれだけ仕事が済んだら期日より早くても早急に報告を済ませろって言ったのに・・・・  更に言うなら、知らない人についてったり何でもかんでも助けようとしない!!!!!!」 こめかみを押さえていつもより数倍低く声を上げるリュオイルに一同は驚いたものの、流石双子。 クレイスはと言うと全く動じた様子なくケロリとしている。 あぁ、フィンウェルで別れたあの時とは形勢逆転している・・・・・。 「でも・・・凄く困っていましたし、人手が増えたほうが早く終わるでしょう?」 ニコニコとそう言われてリュオイルはどう反応すればいいか分からなくなってしまった。 「それにどうやらこの船を使用する方は兄さん達らしいですし終わり良ければ全て良し。です。」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 「兄さん、どうかしましたか?」 あぁ、ここいもいたよ天然が・・・・・・ 出来れば一生このままの方がまだいいんだけど。 きょとんとしながら不思議そうにリュオイルの顔を除きこむクレイス。 げんなりとした表情のリュオイルは、言葉も失ったようでもう完全に諦めていた。 「あー、何だリュオイル。その弟君を紹介してくれよ。」 「・・・そうだね。」 「あ、初めまして。兄さんの双子の弟のクレイス=セイフィリス=ディオと申します。」 「どうも〜うちはアレストやで。」 「・・・・・シリウスだ。」 「んでこのクールビューティーな俺がシギね。」 「えぇっと、アレストさん、シリウスさんとクールビューティーなシギさんですね。」 どこかで聞いた事のある返答の仕方にリュオイルはまた盛大な溜息をつく。 「リュオ君。溜息ばかりだと幸せ逃げちゃうよ?」 「・・・・そうだね。」 この派茶滅茶なコンビで僕の幸せはとうに逃げてってるけどね。 「それで兄さん。怪我はしていませんか?あと・・・」 「いや、大きな怪我は無いよ。クレイスの方もどうだい。」 「僕は平気です。兵の皆も優しいし、私なんかはまだまだで。」 「そんなことないさ。お前は誰が見たって頑張ってる。  努力は必ず報われるから諦めるんじゃないぞ。」 「はい。・・・・まだ出港まで少し時間がありますね。  取り合えず荷物を船に置きましょうか。案内しますのでついてきてください。」 歩きやすく整備されている橋を、ゆっくりと歩く。 それに続いて皆クレイスに付いて行った。 「ここが皆さんのお部屋となっております。一般の方たちも数名乗り合わせていらっしゃるみたいなので  お部屋は間違えないように気をつけてくださいね。」 「わぁ〜でっかい部屋やなぁ。」 奥にある部屋の扉を開けると、そこは今まで見た事のない高級感漂う一室だった。 リュオイルは慣れているのか大した反応は見せないが、暫くはゆっくり出来そうなので安心した。 「えーっと・・・出港時間は1時間後です。その間に休息を取られても良いですし、  何か買出しがある方や、降りて港を見たい方は時間内に戻ってきてください。」 「ありがとう、クレイス君。」 「いいえ。それでは僕はまだお手伝いをしなくちゃならないんでお暇させていただきます。」 「あ、クレイス!!  僕も行くよ。手伝うから。」 「・・・そうですか?じゃあお言葉に甘えましょう。  皆さん、暫く兄さんを借りますがそのところはご勘弁願いますね。」 そう言い終えると、双子は何処かへ行ってしまった。 残された4人は、これからどうするかで悩んでいる。 「うーん。どないする?  買出しはもうしてあるし・・・あ、でもうち港の方見てきたいんやけど。」 「うん。行ってきたらいいよ。」 「お、じゃあ俺も見てみるとするかな?人間界の町は面白いし。」 「そうか?んじゃ、一緒に行くかえ?」 「喜んで。」 冗談を言いながらもシギはアレストと共に下へ降りて行った。 そして最後に残ったフェイルとシリウスは、どうしようかと未だ悩んでいる。 「んー・・・シリウス君も下に降りる?」 「いや、あんな騒々しいとこにわざわざ行く必要もない。」 「そっか。・・・じゃあさ船の中探検しない?何か面白いもの見つかるかもしれないしさ。」 「探検、ねぇ。」 「ね。行こうよ。きっと楽しいからさっ!!」 楽しそうに笑うフェイルに頭が上がらないシリウスは、小さく溜息を付いてから椅子から立ち上がった。 そして愛用の大剣を忘れず。 「行くぞ。」 「うん!!!」 嬉しそうに笑うフェイルに、まんざらでも無さそうな表情のシリウスは、すぐに部屋から出て行った。 それに慌てながらも、楽しそうにフェイルは付いていった。 「良いんですか兄さん。こんな事をしていても・・・」 「手伝いの事か?  心配するな。どうせ出港まで暇だったし、久しぶりに会話も出来るしね。」 「ならいいんですけど。」 「そうそう、変な気を使わなくてもいいんだぞ。家族なんだからさ。」 「そうですね。・・・・じゃあこの荷をまとめてもらえますか?」 「分かった。」 ほのぼのとした雰囲気の中、2人は地下の倉庫に足を運んでいた。 お世辞にもきれいとは言えないこの乱雑した部屋には、縄やら樽やらその他もろもろとごちゃ混ぜにある。 一体誰がこんな物を船に置いたんだろうか。 「そういえば、リティオン様やカシオス様たちもご心配されていました。  またお時間がある時にでも構いませんので、一度故郷に顔を出されてはどうですか?  大変な旅だと言うのは百も承知です。  ですが、誰にでも辛い時や悲しい時があります。  そんな時、一番頼れるのは生まれ育った故郷や、家族の暖かさだと僕は思うんです。」 せっせと荷をまとめながら、顔も上げずにそう言うクレイス。 弟は一体何を悟ったのであろうか。 驚いて手を止めている兄に苦笑しながらも、彼は手を止める事はない。 「どうしたんだ、いきなり・・・?」 「いえ、旅立ちの頃の兄さんと比べると、今は何処か悩みを抱えているような顔つきでしたので。   あ、でもこれは私の推測であって決して本当ではありませんから。」 後半部分でやっと顔を上げて慌てて修正をする。 少し恥ずかしそうな笑みを見せながらも、彼は彼なりに兄の事を心配しているのだ。 それを悟ったリュオイルは、同じように柔らかな笑みを見せ、荷物をまとめはじめた。 「ありがとう。でも大丈夫だよ。僕にはフェイルやアレストやシギ。  ・・・・・・・・何かムカつくけどシリウスもいるから、僕は大丈夫。」 ゆっくりと、まるで自分に言い聞かせているような形でリュオイルは答える。 不思議そうな顔をしているクレイスに苦笑しながらも、彼はこういった。 「そう、最近まで僕は皆を信じきれていなくて自己嫌悪したときもよくあった。  自分と誰かを比較してしまった事もある。  その時に本当に僕は最低だなって・・・思ったんだ。」 「兄さん・・・」 「でも、フェイルとシギが教えてくれた。  僕は僕なんだと・・・誰でもないリュオイルだという事をね。」 大切な事を教えてくれた。 どの道を進めばいいか分からない僕を、ちゃんとした道に導いてくれた。 こんなに醜い僕を知っても 笑って手を伸ばしてくれた。 「本当に感謝しているよ。  ふふ、でもそれと同時に2人とも変なんだよね。  共通点があると言えばあるし、でも根本的に何処かが全然違う性質の2人。」 「そうですか・・・・・でも、賑やかそうですね。」 「賑やかを通り越して騒々しいパーティーになりつつあるんだけどね。  でも、皆個性があって、それでちゃんと支えあっているんだ。  良い仲間に出会えたよ、本当。」 時には喧嘩もするし、時には意見が食い違って険悪になったりもする。 でも、それでも皆ちゃんと考えていて、一人一人の心が強い。 それぞれが補い合って、今の僕達が成立している。 「・・・・安心しました。」 「え?」 「会ったばかりの兄さん、雰囲気が変わっていたから何かあったのかと思っていたんです。  そしてそれは間違いじゃありませんでした。  そして、今の兄さんは前の兄さんよりもずっと強くなっています。」 「僕が・・・・強い?」 「はい。力の強さも以前と比べ威圧感が出ているのが目に取れます。  ですが、本当の強さ。心の強さが全然違います。」 「心・・・。」 「私は力という強さよりも心という強さの方がたい大切だと思います。  力では何も生まれません。  ですが、心がある限り、私達は強く生きられるんです。」 「・・・・クレイス。」 「あ、お喋りが過ぎましたね。  すいません、私の考えなんか言ってしまって・・・」 慌てて口元を押さえるクレイスは、はっと我に戻ったように目を大きく開けた。 それまでずっと黙って聞いていたリュオイルは、薄く笑うと止まっていた手を再度動かし始めた。 「ありがとう。クレイス。」 「・・・いいえ。」 2人とも顔を見合わせて微笑んだ。 「わぁ!!!すごいすごいっ!!」 「あまり暴れると落っこちるぞ。」 「むー。私そこまで子供じゃないよ!!」 甲板に出ていたフェイルとシリウスは、海を見下ろしていた。 ・・・というかフェイルは身を乗り出しているので、シリウスは少々ハラハラしているのである。 勿論そんな気配は微塵も感じない。だが内心がかなり動揺している。 「フィンウェルから出た船も大きかったけどこの船が一番凄いね〜。  私こんなに大きな船乗れるなんて思いもしなかった。」 「そりゃそうだろ。俺だって乗れると思わなかった。」 「あれ、シリウス君って船乗ったことないの?」 「いや、ガキの頃に1回程度乗った事がある。確かその時はミラもいたな。」 その時が懐かしいようで、目を細めながら故郷の方向を見る。 それにすまなそうな顔をしたフェイルに気がついて不思議そうな顔をする。 「何でそんな顔するんだ?」 「だって本当はシリウス君、ミラちゃんの傍にいたかったんじゃ・・・」 「・・・・ばーか。」 頭一個分以上小さいフェイルの頭をグシャグシャと撫でる。 「わわっ!」とびっくりしているが、何も言わずにひたすら撫でられていた。 「俺がついてきたのは俺の目的があるからだ。  どうせいつかは旅に出ようとしていた身だ。いい時に出会ったんだろうよ。」 「いつか旅に出るって、何で?」 「これでも医者志望なんだよ。  ミラの病を治す方法を探す旅にでも出ようかと思ってたんだ。」 「・・・そっか。」 決して直る事はないと宣告されたミラの病気。 それは昔、魔族の襲撃の後分かった後遺症。 認めたくなかった。 絶対に治らないと言われても、諦めたくなかった。 「この旅でその事も何か分かるかもしれない。  少ない可能性でも、俺はそれにかけた。」 「・・・そうだね。諦めちゃ駄目だもん。  私も頑張るから・・・・一緒に頑張ろう?」 「・・・・・好きにしろ。」 「うん。好きにする。」 照れたように全く逆の方向を向いてしまったシリウスに優しく微笑みながら、 2人はまた別の所に去って行った。 「ほぉぉぉぉお〜〜〜〜。あ、何やろこれ。」 「あー、それはあれじゃないか?止血止めに使う・・・」 「あぁ!!な〜るほど!!」 2人仲良く歩いているのはアレストとシギ。 2人とも平均よりも高い身長なので、行き行く人々が珍しそうに見ている。 それに気にしていないのかそれとも全く気づいていないのか、さっきから港原産の食べ物やら 何処からかやってきた大陸の名産品などを見物している。 「ぅおおお!!?これむっちゃ安いやんっ!?  他の町で買ったら倍くらいの値段やでこれっ!!」 「まぁ大体港にある商品ってのは実価格よりも大幅安いものだからな。  直輸入品なら尚更さ。・・・どうするんだ?買うのかこれ。」 「うーん、でも後でシリウスあたりに怒鳴られそうやさかいな、今回は遠慮しとく。」 「そうか。」 妙に納得した様子のシギは、軽く頷くと持っていた商品を元の場所へ返した。 それからも2人は見た事のない品物を興味津々で見ている。 アレストは新鮮な気持ちで、シギはどちらかといえば天界の物と比較している。 「・・・・天界の物とは大体似てはいるが少し違うな。」 「天界のって一体どんなん?」 「あー、例えばこの解毒剤はもう根本的なところから違う。  どうやらこの港にあるのは即効性があるわけでは無さそうだ。  天界にあるのは大体すぐに効き目がある特効薬が多いな。」 「ふーん。」 「まぁでも、軽い怪我の場合だから酷い時は大体癒しの天使達が回復させてやってるけど。」 「癒しの、天使?」 「そ。俺たち天使にも色々と階級があってな、力天使。能天使。  その他諸々色々いるんだが一人一人にちゃんとした役割があるってわけよ。」 「ほ〜。・・・・で?シギは何天使なん?」 「ん。俺は、どっちかって言えば力天使かな。」 なにやら曖昧な答えだが、シギ自体もあまり良く分かっていないのかうんぬんかんぬんと悩んでいる。 どっちかっていうとって・・・・能天使の場合もありうるのだろうか? 「あー・・・・でも、まぁ、何だ?どっちかって言えば確かに力天使なんだが、  時と場合によれば能天使でもあるんだろうな。こんな性格だし。」 「性格で変わる事なんてあるんか?」 「まあな。天使の中にもこれが色々といるわけよ。  例えるなら天使ではないが神のゼウス。  この方は全てに置いて完璧な力をもっている。  能・力・治・技。全てに置いて神は最高峰といわれている。」 「ふ〜ん。なんやえらい難しそうな話しになりつつあるんやけど、とにかく神さんはすんごいんやろ?」 「一言で言うとまぁそうさ。」 戦争になれば完全に指揮をするのはゼウス本人である。 簡単な騒乱なら、他の大天使、能天使に任せてあるのだが・・・・ でも無茶苦茶な戦争をするわけでもなく、最小限の被害に抑えようとしているのだから信頼は厚い。 地上界に降りて気づいたのは、天界だけでなくこの地上の人間も同じ事を考えている。 それは大陸によって異なるわけだが、やはり国民の事を第一に考えている事が分かる。 「あ、そういやさっき薬の事でどうこう言ってやん。」 「ん、ああ。」 「それならシリウスに教えて上げたらええんとちゃうか?  シリウスの妹の病気。治す方法もしかしたら天界の人なら何か分かるんとちゃう?」 「病気・・・・ああ、そういえばそんな事も言っていたな。  魔族の襲撃の後に出た原因不明の病・・・か。  うん、可能性は無いわけじゃないから、天界に戻った時にちょっくら探して見るか。」 「せやか。たのんます。」 「了解。」 にかっと互いが無邪気に笑うと、二人は船の方へ足を進めた。 「・・・・・・・・よし、こんなものかな。」 「そうですね、大分綺麗に片付きました。」 ふぅ、と一息吐くと綺麗に片付いた部屋を見渡す。 最初の頃とは全く比べ物にならないくらいしっかりと片付いていた。 残るはこの部屋からでた廃棄物。 大袋3個分のこの塊をどうしようか悩んでいたりもする。 「あ、リュオ君!!クレイス君!!」 「フェイル?」 「フェイルさん。シリウスさん。どうなされましたか?」 「用って訳じゃないんだけどたまたま通りかかって。  ・・・・・凄いね、このゴミの袋の数。」 「そうなんだよ、この馬鹿でかい塊をどこに持って行こうかとね。」 腕を組みながら少々疲れきった様子で溜息を吐く。 それに何か思い出したように、シリウスが小さく声を出した。 「・・・・・・船のすぐ下に廃棄物を出す場所があったな・・・・」 「あ、それ本当ですか?それなら私だけでも持っていけますね。」 「何言ってるんだ、こんな重たいもの一人で持てるわけないだろ?」 「大丈夫ですよ、往復さえすればすぐに片付きます。」 そんな事をニコニコと言うクレイスにリュオイルは呆れたように溜息を吐くしかない。 それを、黙って見ていたシリウスが動き出す。 ひょい、と明らかに重そうな袋を3つ全部担ぎ上げると、すたすたと船を下りようとした。 「シ、シリウスさん!!?」 「シリウス・・・」 慌てて追いかけるクレイスを余所目に、シリウスは歩くスピードを緩めようとしない。 「ま、待ってください!!私が持って行きますからだから・・・」 「俺が持って言ったほうが早く終わる。  お前もあれだけ散々働いといて、俺達よりもお前が休め。」 「そうだよ〜。クレイス君頑張ってくれてるもん。  だから、今日はもうこれでお終いにしてゆっくり休んだほうがいいよ。」 ポンポン、と幾分か背の高いクレイスの肩を軽く叩くとフェイルはもう既に行ってしまった シリウスの後を追いかけた。 唖然としているクレイスに苦笑が漏れてしまい、今の状況をちゃんと伝える。 「・・・手伝ってくれた相手に不満はあるが、まぁそういう事だよ。  お言葉に甘えて今日はもう休んだ方がいい。  それに今日この船が発つって事はもうすぐフィンウェルに戻るんだろう?」 「そ、そうですけど・・・・」 「だったら尚更だな。  此処何日か休まず働いてたみたいだけど、でもそれでクレイスが倒れたりでもしたら元も子もない。」 「・・・・・はい。分かりました。今日はこれで終わりにしようと思います。」 降参したかのように可笑しそうな顔で笑うと、リュオイルの方へ向き直ってもう一度笑顔を見せる。 「久しぶりに兄さんとお喋りが出来て楽しかったです。」 「おいおい、そんな過去形で言うなんて縁起の悪い・・・・」 「ふふっ。そうですね。」 「ちゃんと戻ってくるさ。それまでの事は頼んだよ。」 「はい。兄さんもどうかご無事で・・・」 どこか寂しさを残す晴れない顔に、リュオイル自身も少し寂しくなったが できるだけ悟られないように笑顔で返す。 きっと戻れる事はないだろう。 でも、きっと帰れる事を願おう。 待ってる人がいる。 それを楽しみにしている人がいる。 だから諦めるな。 絶対に生きて・・・・・・ 生きて帰れる事を願おう。