悪い夢も全て消してあげましょう 暗い闇の中でも 私を思い出しなさい。 私はきっと 貴方の光となるでしょう ■天と地の狭間の英雄■        【見えない希望】〜暫しの憩い〜 空が黒い。 今にも落ちてきそうな稲妻は、何とか堪えているようで雲の中だけでゴロゴロと唸っている。 冷たい空気は、肌に刺すほどの冷気で、その中に薄着の者がいるのだからそれがおかしい様に見える。 ここは魔界【タナトス】 天界【カイルス】とは全く逆の世界。 タナトスの意味を司るは「死」 全てが静寂に包まれていて、本当に魔族の本拠地なのかも分からない。 「・・・・・ロマイラ。」 「・・・・・・」 その暗い一室にいるのは三人の男女。 一人は黒と白の羽根が生えており、魔族と判断するのも難しいが紛れも無い魔族。 そして真剣な顔つきでいる男女。ジャスティとアルフィスだ。 「ワザとじゃなかったのよ。あの天使殺そうと思ったら・・・・」 「そうね。ワザとだったら困るわよ。」 「死んでいない事が幸いだったな。」 「・・・・だってさぁ。」 「ロマイラ。」 厳しい口調で黙らされたロマイラはグッと押し黙った。 純血の魔族で、しかも殺戮を好む彼女なのであるがどうもジャスティには頭が上がらない。 不服そうに下唇を噛んでいると、ジャスティは静かに言った。 「・・・今回は私の不注意もあったから厳しくは言わないけど、謹んで頂戴。  ちゃんと任務に出て欲しいときはちゃんとこちらから連絡をいれるから。」 「・・・・・」 「それから、今度の捕獲計画はロマイラは出動することを禁止するわ。」 「えぇぇぇええ!!何でよぉ!!!!つまんないじゃないぃぃぃぃ。」 「自粛しなさい。これ以上あの方を目覚めさせるのに時間を費やしたくないの。  その気持ちはロマイラも良く分かるでしょう?」 「・・・・・・・だって・・・」 むすっと拗ねて、頬を膨らましているロマイラは、傍から見れば可愛らしい少女だ。 だが今の彼女の心の中は殺戮などの心でいっぱいに埋め尽くされている。 それを知ってか知らずか、ジャスティは呆れたように口を開く。 「・・・・・魔鏡からの邪魔者を排除するための魔法なら、まだ定員空いてるわよ。」 「っ殺る!!!」 「そう・・・。あのメンバー意外はいくらでも殺してもいいわよ。」 飛び跳ねそうなくらいにはしゃいでいるロマイラは、嬉しそうに鎌を握り締めた。 そしてひとしきり笑った後に、不気味なほどの怪しい微笑をした。 にやり、というよりはにたり、と表現した方が良いのかもしれない。 「ふふふふ・・・・楽しみだなぁ・・・・」 「程々にしておくんだな。」 小さく頭を振るアルフィスは、呆れたように聞こえない程度で溜息をついた。 彼女が暴走して、過去に酷い事が起こった事がある。 200年ほど前に起きた力天使との騒乱。 敵味方問わず、あの騒乱では多くの命が消えた。 軍を率いていた魔族の伯爵も、天界にいる天使達も、多くの命が消え去った。 (・・・といっても私達はその時代に生きていないけどね・・・・) ただしその説は他人から聞いて知った事。 全てが全て本当かどうかは定かではない。 どこかに矛盾があり、どこかに決定的な間違いがあるのかもしれない。 「とにかく、これで最後のミッションにするわ。  ・・・・・・・失敗は許されない。分かったわね?」 「は〜い。」 「了解。」 嬉しそうに笑ったロマイラは、それが合図だと言わんばかりに闇に溶け込んだ。 残った2人はただ佇むだけで、暫く全く動こうとしなかった。 場所は変わって未開英知。 地上界では考えられないほどの生命力を持つ木々が多く茂っている。 滅多に見かける事も無い全滅しかけの生き物や動物までもがここにいる。 空気は驚くほど澄んでいて、此処にいるだけで心が癒されるようだった。 「・・・・・ふぅむ。そうか、魔族もそろそろ切羽詰っているようだな。」 美しい樹の幹で作られている椅子に腰掛けている若草色の髪を持つ青年ルディアス。 だがその耳は尖っており、しかも本当の年齢は400歳を軽く越えている年長者。 この未開英知の族長を務めており、判断力などは村一番である。 「まぁ、その考えが妥当っすね。最近は頻繁に襲うようになったから・・・・」 同じく、彼の前に座っているのはシギ。 お互い真剣な顔つきでうんうんと唸っている。 この部屋には誰もいないが、扉の前には2人の青年エルフが護衛していた。 この真剣な話しをする前まではアレスト達もいたのだが、深刻な話をする事を察知したのか つい先ほど出て行ってしまった。 「ところでゼウス神はどうお考えなんだ?」 「・・・・・いや、どっちも五分五分で判断がつきにくい状態だ。」 「ふむ。どうしたものか。」 ふぅ、と溜息をつくとルディアスは目を細めた。 その目線は先ほど出て行った4人の方向だ。 「・・・・どうかしたのか?」 「あ、いや、な。」 歯切れの悪い様子で、しかも滅多に顔をそらす事の無い族長の彼の目が泳いでいる。 これは何か隠している様子だ。 「何ですかねぇ。族長とあろうお方が隠し事っすかぁ〜?」 にやにやしながら、半分からかっている様子でシギは頬杖をつきながら言った。 嘘をつくことが苦手らしい彼は、諦めたように大きく溜息をつく。 「・・・・全く、お前には敵わないよ。」 「いやいや、族長が分かりやすすぎるんですって。」 そんな人聞きの悪い。と聞こえるか聞こえないか分からない程度にシギは呟いた。 恐らく聞こえてはいただろう、何せ五感が最も鋭い種族なのだから。 「・・・・・・」 「で、何ですか。その隠し事とは。」 「いや、前々から考えていたことだからな。」 「じれったいなぁ。男ならちゃきちゃきしろって。」 「・・・・・・お前が弾けすぎてるんだよ。」 ハイテンションな彼についていけていない族長は、何処か沈んだ様子で下を見つめた。 どうやら彼は元々静かな性格のようだが、この派茶滅茶大天使によって彼の運命は大きく変わったと思う。 だが、そのかわり付き合いが長い分、彼の行動パターンはすぐ読める。 どこと無く沈んでいた顔を持ち上げて、真剣な顔つきに戻ったルディアスは腕を組みながらこう言った。 「アスティアがいるだろう。」 「ん?ああ、あのお嬢ちゃんね。」 「見た通りあの子はこの世に生を受けてまだ数十年しか経っていないまだまだ幼いエルフだ。」 「そうみたいだなぁ。一体誰に似たのやら、あの性格。」 「・・・・性格は置いて・・・・」 こめかみを押さえながら、げんなりした様子の彼は気を取り直して、今度はシギの瞳を見ながら言った。 付き合いはそこまで長いわけでは無いが、彼の性質をすぐ読み取ったルディウスはすぐ彼と仲が良くなった。 こんな馬鹿げた性格をしていながらも、本当は真面目で優しい心を持っている。 だからこんな他愛も無い話をしているのだ。 何の関係もなく、そして自分勝手な天使だったらとっくに追い返している。 「あの子に世界の知識を教えてやってくれないか?」 「・・・・また急な話しだなぁおい。」 少し困惑気味な笑顔で、頬をガリガリと掻いていたシギはそれが本気なのか冗談なのか いまいち理解できずにいた。 ルディアスは嘘を言う事は無いし、至って真面目な人物だ。 その堅物がこんな時に冗談をかますはずがなく、やはりシギは我が耳を疑うしかない。 「・・・・本気か?」 「勿論本気だ。」 双方の目が鈍く輝いた。 世界の知識を教える。つまりそれは、共に旅をする事という意味であるのだ。 勿論ルディアスはそれを理解してわざわざシギに頼んでいるのだからそれがおかしい。 「あのなぁルディアス。戦争が終われば幾らでも世界を旅させてやる。  でもな、今は一番大事な時期なんだ。たとえお前の願いであってもその決定権は俺に無い。」 「分かっている。世界の知識を学ぶためには外の世界に出ねばならない。  そして今が大変な時期だと言うこともわかっている。」 「なら・・・・」 「だからこそ、あの子を連れて行ってくれ。」 彼の目に嘘偽りは無い。 だが、何故こんな時期に? だからこそ。この意味が理解出来なかった。 「・・・・・あんた達にとって大事な大事な若エルフを危険な旅に出す本当の理由は何だ。」 ルディアスの言った意味が本当に理解できず、ただ動揺しながら彼は言った。 若いエルフはとても重宝とされているこの村にとって、彼女を旅立たせると言う事は考えられない。 彼女が追放されるほどの何かをしでかしたのか? それとも、地上人が未開英知に踏み入ったことがそんなに不味かったのだろうか。 「シギ、そんな難しそうな顔をしないでくれ。  別にあの子は何かをしでかしたわけじゃないさ。」 「じゃあどうしてなんだ?  悪いが俺達は彼女のお守りをする余裕なんて無いぞ。」 何度聞いても結論を出さない彼に少々苛立ってきたシギは、いつもの声より大分低い声だ。 その苛立った気配に苦笑しながらも、ルディアスは微笑みながらシギを見つめた。 「・・・・・我々も協力しようと思ってな。」 「はい?」 真剣なルディアスの声とは全く逆の声でシギは呆れたように声を上げた。 「・・・いや、お前が物凄く突発的で、  しかもそれが悪気と自覚が無い自然の行為なのは十分分かってる。  だがな、これは遊びじゃないんだぞ!!!?」 「誰が遊びでこんな事を言うか。戯けもの。」 さっきまで全く逆の立場だったのに、今はルディアスの方が奮然している状態だ。 頭を抱えているシギに、ある意味違った追い討ちをかけるかのように彼は言葉を紡ぐ。 ルディウスが何を考えているかさっぱりなシギは、うーんうーんと唸っている。 それを見て苦笑しているのはこの原因を作ったルディウスだ。 「だから言っているだろう。お前達神族と協定を結ぶとな。」 「きょ、協定だぁぁぁあああ!!?」 ますます分からなくなっている様子のシギは、突発的思考の彼についていけず驚いて声を上げた。 未開英知の住人と、天界の者同士仲が悪いわけではないのだが交友が薄い。 それはエルフ達の警戒心のせいでなったわけなのだが、でも今更どうして協力するなどと言うのか。 一体どういう風の吹き回しで? 「酷い言い様だなぁ。我々もちゃんと考えているのだぞ?」 「いや、我々ってレベルじゃなくてあんた一人の意見のような気がするのは俺の気のせいか?」 「そうとも言う。」 「・・・・って、あんな頑なに拒否してたあんた達がいきなり協定を結ぶなんて考えられない!!」 「まぁ落ち着け。それもこれもちゃんとした理由があるんだよ。」 「それを早く言え!!!」 簡単な話がこうである。 最近増えはじめた魔族と神族の騒乱。 そしてその戦火は地上までにも降り注いでいるのである。 しかもそれはこの未開英知にまで。 木々は燃え、草花は消し炭になり、悲惨な状態になっている。 今は少し落ち着いているものの、花と豊穣と春の神「フローラ」の加護がなければと思うとゾッとする。 「・・・・・で、ようするにだ。あんた等の領地が荒らされている事は納得出来ない。  だからその発端である魔族を打つのを協力しよう、とか?」 「その通り。」 「いやっ、それでも納得できない!!!!  協定結ぶだけならあんたが天界に行ってゼウス神のところでそう言えば方が済む。  彼女を同行させる理由が見つからないぞ?」 「馬鹿者。さっきから言っているだろう。知識を身につけるために、と。」 上手く会話が成立していないこの2人は(主にルディアス)ひとしきり溜息をつくと、 もう一度真剣な顔で双方の顔を見た。 複雑で、そして難しそうな顔をしているシギ。 彼をこんなに困惑している訳は勿論分かっている。 だがシギには、これと言った対処法が見つからなかった。 「・・・今は駄目だ。  治安も悪いし、何も知らない嬢ちゃんを連れ回すのは骨が折れる。第一、足手まといだ。」 「その辺は心配無用。あの子はこの村でも5本の指に入るほどの弓使いだ。」 まだまだ未熟な部分が多くあるが、あの技の技量は稀に見るもの。 そしてそれだけでなく古代文字にも長けている。 いつどこで何が起こるか分からないのだから心強いはずだ。 しかもまだあんなに幼いのに、だ。 勿論物心ついているであろうその時期に狩の仕方、弓の扱いをしっかり学ばせていた。 それがこの村に生まれた者の定めなのだから。 「・・・・」 「足手まといになればいつでも送還してくれればいい。  お前ならその程度の事なら造作もないだろう?」 にっこり、と笑う姿をみると、まるではめられた様な心境になる。 しかもそれが無意識の内にやっている事なのだからたちが悪すぎる。 「・・・この野郎、確信犯かよ。」 「確信犯とは失礼だな。  私は思っている事をそのまま、遠まわしに言っただけだよ。」 「だぁぁあああっ!何かムカつくぞ!!」 「はっはっは、形勢逆転。やはり年の功だな。」 「・・・・・それ言ってて虚しくねぇか?」 最後まで聞いてやっと彼の言う事に理解を示したシギは悔しそうに睨みつけた。 だがそんな行動は、彼に通用するわけなくあっさりと流される。 そしてシギは重大な事に気づいたようにあっ、と声を上げた。 「・・・で、その事は彼女知ってるわけ?」 「知っているわけが無いだろう。  お前達が来た少し前にふと思ったのだから。」 「・・・・どこまでも突発的な奴・・・・」 むすっとしたようにあさっての方向を見ながら頬杖をつくシギ。 今此処にリュオイルとアレストがいれば必ずこう言うだろう。「あのシギが押されてる・・・」と。 そして次の日からの笑い者にされるに違い無い。 ・・・・よかった。ここに彼等がいなくて。 「それにあの子を天界に送った方が事が早く済むぞ?  あの子は弓だけでなく判断力も良いし決断力もある。  私が天界に行けばまた面倒な事になりそうだからな。」 「あ〜・・・・お前が来ると確かに面倒な事にはなるかもな。」 これで結構優柔不断なんだよなぁ・・・・よくこれで族長務まるよ。 違う方向で感心しているシギはもう彼の世界に引きずり込まれている。 普段は茶滅茶な彼も、このマイペースなエルフにはペースを崩されるようだ。 最初はシギのペースかと思ったら、いつの間にかルディアスのペースになっているのがいつもの事。 「ところで、何の反論も返ってこなくなったわけだが、肯定とみなしていいんだろうな。」 「へいへい。俺の降参っすよ。でもな、それは彼女の承諾を得てからの話し。  もしも断ったらその時はその時だからな。」 「分かっている。私はあの子を無理矢理同行させる気なんて毛頭も無いよ。」 「んじゃあそれで交渉成立だな。」 ふぅ、と一息ついたシギは、納得した様子で出されている紅茶を飲みはじめた。 かれこれ1時間程度話していたのかもしれない。 そのせいなのか、紅茶は既に冷え切っていてあまり美味いものではなかった。 「これがシャシャムニ。」 「ニ〜ゴ。」 アスティアが抱えている小さな生き物。 モゾモゾと忙しく動いていて、抱き上げられているのが気に入らないのか不服そうな顔をしている。 耳が垂れていて、まるで猫のような兎のような・・・・何だこりゃ? 手足共々短く、耳と尻尾には良く分からない模様がある。 「うっわ!!めっちゃ可愛いやんっ!!」 「へぇ、可愛いね。」 「・・・・・変な生き物。」 上からアレスト、リュオイル、シリウス。 此処はエルフの村からほんの少しだけ離れた小さな広場である。 すぐ目の前に村が見えるので、安全だし若いエルフがこの生き物「シャシャムニ」の世話をしている。 足元にぞろぞろといるので、気を緩めたら踏みかねない。 何故か面倒くさそうにしているシリウスのところに多くが寄っていて、挙句の果てには頭に乗る始末。 一瞬嫌そうな顔をしたものの、振り落とすのも面倒なのか、そのままボー、としている。 そしてその彼を見て驚くのはアレストとリュオイルだ。 まさかあのシリウスに懐くなんて誰が思うだろうか。 まさに天変地異!!! 「ニゴ〜。ウニゴ〜!!」 「ニゴニゴ。ニニニニッ!!!」 「・・・・・何て言ってんの?」 「さぁ?」 二匹のシャシャムニが喧嘩をしているようで、ペシペシと殴り合いをしている。 傍から見れば可愛らしい行動なのだが、本人達は至って真剣のようで短い手足で懸命に殴っている。 ・・・・恐らく手足で攻撃するよりも耳と尻尾の方がダメージがあるだろう。 「はいはい。全く、少しは静かにしなさいよね。」 ひょいっと両方の首根っこを掴み、少しブラブラと揺らしながら説教をはじめるアスティア。 今度は首根っこを掴まれて更には揺らされて事に不満を感じたのか、アスティアに向かって鳴いている。 「ニニニニニ!!!」 「ニゴーーー!!!!」 「はいはい。」 いつもの事のようにあっさりとかわした彼女は、片方をアレストに、もう片方をリュオイルに渡した。 「わーわーっ!!!可愛い可愛い!!」 嬉しそうに撫でまくるアレストに対し、リュオイルは複雑そうな顔で渡されたシャシャムニを見下ろした。 シャシャムニの方は、愛らしく首を傾げている。 元々は大人しい方らしく、喧嘩相手が見えなくなった途端構って欲しそうにゴロゴロと鳴いていた。 だが、今まで動物と戯れた事が殆ど無い。と言っていいほどのリュオイルは、 どうすればいいか分からず、困ったような笑みでアレストを見た。 「何やリュオイル。扱い方も知らへんのかいな。」 「・・・・まぁね。」 「簡単やで。とりあえず撫でたり。うちは悪ぅ奴とちゃうって覚えさせるんや。」 簡単そうに言うがそれは慣れない人間にとって難しい。 元から動物は嫌いではないが、ふれあう機会が無かったため困惑気味にシャシャムニを見下ろす。 それがシャシャムニにも伝わってしまったのか、しょんぼりとした表情で「ニー」と鳴いていた。 (こんな時、フェイルだったらどうするんだろう・・・・) 今は治療中の彼女の事を今切なく感じさせられた。 きっと彼女だったら大喜びですぐに懐くだろうし懐かれるだろう。 動物というものは、本当に賢い。 相手が不安そうなら、それを察知して自分までもが不安そうな表情をするのだから・・・・・。 オズオズと、何もはめていない方の手でフワッと頭を撫でた。 毛並みはかなり良いらしく、まるでぬいぐるみのようだ。 女の子が好きそうな愛らしい表情のシャシャムニ。 だがそれは老若男女問わず、癒されるであろう。 「ニ〜ゴ。」 撫でられたのが嬉しかったらしく、気持ち良さそうに目を瞑って寄り添ってきた。 そんな愛らしい行動に、リュオイルは本当に優しそうな顔で笑っていた。 「良かったなぁ。リュオイル最近表情固かったもんな。」 少し離れたところでアレストはシリウスのいる場所まで来て座っていた。 相変わらず手にはシャシャムニを持ちながら。そしてシリウスの頭の上にはもう一匹。 真面目な話しだと確信したシリウスは、頭の上に乗っているシャシャムニを降ろしたが、 不満そうに「ニゴニゴッ!!!!」と鳴くので、仕方なく今度は肩に乗せた。 「まぁ、此処最近は全員そうだろう。俺も、お前も、あいつもな。」 「せやな。気ぃ緩める時なんて全然無かったしな。」 何度も魔族に襲われた。 何度も苦い経験をした。 苦しい戦闘を強いられた。 悲しい出来事もいっぱいあった。 同じ様に出会いもあった。 それは、本当に疑わしいほどの出会いだったけど。 でもだからこそ、今彼がここにいる。 それは紛れも無い真実。 「今思えば結構きつい出来事もあったんやな。」 「それに首を突っ込んで返り討ちにあったのがフェイルだろ。」 「返り討ちって。・・・・と言うよりも自分の身を犠牲にしすぎなんや。」 このメンバーの中で一番怪我をしているだろうと考えられるフェイル。 魔法で攻撃をしているはずなのに、誰かがピンチになれば後先考えずに前に出てくる。 そのたびに怪我をして、リュオイル達を困らせていた。 リュオイルなんて毎回毎回、冷や冷やしながら後ろばかり気にしていた。 そのせいでシリウスとの口論も絶えなかったのだけど、だがその気持ちはシリウスも同じだったのだ。 「まぁ、それがフェイルの良い所の一つでもあるんやけどなぁ。」 「欠点だろ。」 「何言ってんねん。シリウスもあんなフェイルが好きなんやろ?」 「・・・まぁ否定はしないけどな。」 「おんやまぁ。誰かと違ってえらい素直やないかぁ。」 意外そうな顔で、シャシャムニを撫でる事を忘れずアレストは小さく声を上げた。 その言葉に怪訝そうな顔でシリウスはアレストを見た。 「何がだ?」 「いんにゃ。うちの独り言や。気にせんといて。」 これがリュオイルだったら真っ赤になりながら肯定(場合によっては否定)するであろう。 リュオイルとシリウスの年齢は4つほど離れているだけなのだが、反応も大きく異なる。 それは育った環境にも大きく左右されるのであるが、まだまだリュオイルは初々しい態度だ。 あまり深く追求しても大した結果を得られなさそうだったので、シリウスは「そうか。」と言うと まだよじ登ってくるシャシャムニを何度も何度も降ろした。 その繰り返している行動を見て、アレストが大笑いしたのは言うまでも無い。