全ては平等にして一つなり 万物の神であろうとも 世界を支配する屈強の戦士でも それを覆すことは許されはしない。 ■天と地の狭間の英雄■ 【届く想い 繋がった心】〜ごめんね〜 フェイルが目覚めてからも、それからすぐに出発する事は無かった。 目覚めてから、少なくとも2人の様子が変わっていたのだ。 いや、この場合一人だけの様子が変わったと言おうか。 それはあの赤髪の少年。リュオイルの様子が少しおかしい。 よそよそしくなったわけではない。 ただ、フェイルを見る目があまりにも遠すぎる。 まるでフェイルが『此処』にいないかのように。 「あ、シリウス君。」 やはりフェイルはシャシャムニを一目見てかなり気にいっていた。 更に言うなら当たり前なのかもしれないが、かなり懐かれている。 シャシャムニの集まる場所で座り込んでいる。 戯れていたようで、満面の笑顔で俺を呼んだ。 「・・・・」 「あのねあのね。ここのシャシャムニ数えたらね、239匹いたんだよ!!」 「・・・・・よく、数えたな。」 あまりのフェイルの笑顔に頬の筋肉が緩む。 微笑ましい、とは思うのだがやはり彼女の言動には呆れを越えたものを感じた。 そこまで長い時間を共にしたわけではないが、やはり彼女には毎回毎回驚かされっぱなしである。 「可愛いね〜。」 よしよし、と必要以上にそれを撫でる。 もしもフェイルに子供が出来たのなら必ず彼女は親バカっぷりを披露するだろう。 甘やかしているわけでは無いのだが、如何せん可愛がりすぎであろう。 「ニ〜ゴ。」 まぁ、可愛がられている当のシャシャムニはご満悦のようだが・・・・ 「あのね、分かったのはシャシャムニって飛ぶんだね。」 「・・・・その短い手足でか?」 「うん。だって此処に来る時にこのこがあの木から飛んできたんだよ。」 シリウスはちらりとその木を見た。 高さはまぁまぁ。だが決して低いわけではない。 フェイルは飛んで。と言ったが、どう考えてもこれは落ちてきたのではないか? 「・・・・・・」 あえて突っ込まなかったのも彼なりの優しさか、はたまた呆れなのか。 そしてまたはしゃぎだすフェイル。 年相応といえばそうなのだが、今のフェイルはずっと幼く見える。 無邪気で純真な心は、この戦争の最中唯一の救いなのかもしれない。 「・・・・そういえば、あいつはどうした。」 「あいつって?」 「赤髪。」 きっぱりそう言い放つと、フェイルは苦笑してシャシャムニを置いてから立ち上がった。 「うーん。見てないんだよねぇ。どうしたんだろう。」 「・・・・・シギ達と何か話しているのかもな。」 「あ、そっか。」 妙に納得した様子のフェイルは、大きく伸びをしてからシリウスの手を掴んだ。 掴まれたシリウスは、それが何を意味しているのか分からずただされるままになっている。 「・・・・・・」 「・・・・・・」 じー、とシリウスの手を眺めていたフェイルが急に顔を上げると、真面目だった顔つきから一変して にっこりと笑うと、急かすようにしてシリウスの腕を引っ張った。 それには少し驚きつつも、訳の分からない様子でシリウスは口を開く。 「おい、何だ?」 「海見に行こう!!海!!」 「は?」 「私達が漂流して到着したところっ!!行こう?」 フェイルに対して断る、という術を知らないシリウスは観念したようにして歩き出した。 それを、しっかりと手を繋いだままフェイルも一緒に歩き出した。 「リュオイル〜?」 森の中でアレストの声が響いた。 だがその名を呼んでも返ってくるのはアレストの木霊だけ。 さっきからずっと探しているのだが一向に見つからないリュオイル。 はぁ、と溜息を吐いたアレストは肩をすくめて近くの木の幹に腰掛けた。 (何かこないだからリュオイルの様子おかしいんやなぁ・・・・) シリウスもシギもそれに感ずいている。 知らないのはフェイルだけだ。 何も言わないから、無理強いをして聞こうとは思わないがここまで変わるとやはり心配になる。 信頼されていないのか、それともまだ心の整理がついていないのか・・・ 「・・・・・フェイルは、そんな変わってへんのやけどなぁ。」 顔色も大分良くなって最近は外へ出てシャシャムニと遊んでいる事が多い。 その代わりリュオイルと話すことがめっきり減った。 いや、正確に言うとリュオイルが姿を表さなくなったのだ。 だから此処最近はリュオイルよりもシリウスが話しかける事が多くなった。 シリウスも薄々何かを感じている。 だが彼もリュオいる自身に聞く気はまだ無いようで、気にかけないようにしている。 此処最近、一体リュオイルはどこで暇を潰しているのだろうか。 2日ほど、昼間は殆どと言っていいほど見なくなった彼。 しっかりしていて根が真面目なのは良いのだが、なかなか心の内を開けてくれない。 彼自身はそんな事気づいていないだろうが・・・・ 「何をしているの?」 ふと後ろから声がかかった。 それは知っている声で、すぐに誰のものなのか理解できた。 「あー、アスティア?」 間抜けな声で思わず返事をしてしまったが、アスティアは気にした様子も無くアレストの元へ近寄った。 片方の手には弓矢が所持されている。 「んー、狩でもしとったん?」 「するつもりだったのよ、でも・・・・」 アスティアはそれまでの経緯をアレストに話した。 それはアレストにはとても良い報告だった。 「・・・・・・・え?」 「聞こえなかったの? だからあの赤い髪の男・・・・リュオイルだっけ、そいつがいたのよ。 何か思いつめていた顔だったから、引き返してきたの。」 アスティアが向かったのは浜辺だった。 この村から大して離れていないので狩をするには絶好の場所だ。 最近は森中心の狩が多かったので、いざ浜辺へ行くと既に先客がいた。 「リュオイル、海に行ったん?」 「・・・・いたのよ。」 これだけ探しても見つからないわけだ。 海に行っている彼を森で探しても見つかるわけが無い。 すっくと立ち上がると、それを不思議そうにアスティアは見つめる。 アレストは、いつもの調子でにまっ、と笑うと「あんがとさん」と言って走り去って行った。 「わぁー!!すごいすごいっ!!」 「・・・はしゃいでると転ぶぞ。」 「平気だよ〜。」 途中からフェイルに手を引かれてこの浜辺に来た二人は楽しそうに(1人だけ)していた。 今まで何度か船に乗った事があるのだからそこまではしゃがなくても・・・ そうは思っていても、やはり緩んでしまう頬。 この厳しい現実の最中に少しでも休む方がいい。彼女の事なら、尚更。 ただでさえ無茶を繰り返すフェイルは表情には出さなくても心身共に疲れ果てているはずだ。 だから今は目いっぱい休息を取ればいい。 「はわっ!?」 「――――フェイルっ!!!」 言っている傍から、お約束のようにフェイルは漂流している丸太に足を引っ掛けて前へ倒れた。 が、寸前の所でシリウスの大きな手がフェイルを捕まえた。 シリウス自体もぎょっとしたようで抱き留めた後にほっ、と溜息を吐いた。 「ご、ごめんね。」 「だから、言ってるだろうが・・・・・」 「うん。今度からはちゃんと気をつける。」 「あぁ、そうしてくれ。」 脇腹を抱えるようにしていたのでフェイルには少し体勢がきついのかもしれない。 そっと降ろすと、彼女は恥ずかしそうに顔を赤らめて舌を少し出している。 本当にフェイルからは目が離せない。 何となくリュオイルの気持ちが分かったような気がしたシリウスであった。 「でも本当に綺麗な場所だね。 空気も綺麗だけど、海の水がここまで透き通っているなんて思わなかった。」 「確か花と豊穣と春の女神「フローラ」の加護を強く受けている。そうシギが言っていたな。」 「・・・・・・そうなんだ、花と豊穣と春の、女神。」 歯切れの悪い様子でそう言ったフェイルは、海の水に濡れない程度の場所まで来ると 長い裾を持ち上げ、屈んでその海水をすくった。 その海水はまるで湧き水のように透き通っており、汚れなど全く無い。 清らかに、涼やかに、そして穏やかに流れるそれは此処が海だということを忘れさせる。 きっとその女神「フローラ」がいなければここまで澄んでいなかっただろう。 だが、たとえ澄んでいなくともここのエルフ達は何とか美しい環境を作ろうとするであろう。 なぜなら此処にいる全てのエルフは皆、自然を愛して止まない。 「・・・・・私達の住んでいる所までは、フローラの加護も薄いんだね。」 「・・・・・」 人間と言うものは実に欲深い生き物だ。 本能のままに行動し、たとえそれが多くの被害を出そうとしても成し遂げてしまう。 全てがそういうわけではない。 此処にいるシリウスも自然を愛する優しい心を持っている。 アレストも自然から得る物に対しいつもありがたみをもっている。 ・・・・きっと彼もそうだ。 でも、それでは人間は神に見放された生き物に見えて仕方が無い。 「・・・・皆、一緒だよね。」 「・・・?」 「皆、同じだよね。平等でいるべきだって、思わない?」 「・・・・・」 シリウスはこれまでの事を少しずつ思い出した。 村が襲われたこと、ミラの病気の事、父親の事、国のとった行動の事、そして彼女達に会った事。 決して綺麗事で片付けられないこの現実。 貧しいからこそ願うのは「平等」 裕福だからこそ思うのは「差別」 二つが交差しながら今の世界が成り立っている。 間違っている世界。 だが、決して覆す事は出来ない真実。悲しい現実。 誰もが願う事はそう簡単に叶えられない。 それは、もう手遅れなほど人間界が歪んできてしまっているから。 権力を持つ者は誰かを従わせ多くの税を取り上げる。 一人、また一人とそういった者が出てくる。 貧しい者の意見など聞く耳を持たない。 それが、今の人間界。 じゃあ、それは人間だけと言い切れるのか? たとえ神であろうとも魔王であろうとも、欲の無い者などこの世にいない。 神が人間を生み出したのは何故だ? 魔王が世界を手に入れようとするのは何故だ? 結びつくのは全て己の欲。 始まりは神と魔王から。 全てが全て人間が悪いわけではないのだ。 「・・・・・・皮肉なもんだ。」 冷静に、そしてよく考えればこんな簡単な問題すぐに分かるはずだ。 だがそれを人間は殆どしない。 遥か彼方へ置いてしまった古い記憶はもう残っていないのだ。 その真実を理解し、受け止められるのは極僅かなのだろう。 それを、フェイルは理解していた。 だが、それでも何かがおかしい。 決して間違っているわけではないその答え。 「皆、一緒だよね。」 どこかで何かがずれている。 シリウスはそう感じた。 「・・・フェイル?」 だが呼んでも返事は無い。 何かを見ている。 どこか遠く、ずっと遠くを・・・・・。 「リュオ君・・・・」 フェイルが見ていたのは遠くで座り込んでいるリュオイルの姿だった。 空とは対照的な紅の髪は、此処には場違いなほどにして浮き出ている。 どこか悲しげな表情をしているその瞳はずっと水平線を見て入るように見えた。 そしてさっきから何も言わなくなったフェイルを見ると、彼女も何とも言いにくい複雑な顔で 向こうにいるリュオイルを寂しそうに見つめている。 「・・・・・・。」 シリウスは沈黙のまま歩き出した。 それに驚いたフェイルは呆然としたままで、そこから動く事は無かった。 (苛々する。) それはリュオイルの態度にだろうか。 それとも、2人の間に微妙な亀裂が入ったことだろうか。 歩くスピードを下げず、ズカズカと歩くとあっという間にリュオイルの元までたどり着いた。 途中から気配に気づいたのか少し顔を上げたがそれっきり何の反応も無い。 ザッとリュオイルの目の前に立つと、表情を変えないままシリウスは冷たく見下ろした。 その視線に気づきながらもリュオイルは決して顔を上げる事は無い。 「おい。」 「・・・・・何?」 「ここ最近お前に何があったのかは知らないしその事に口を挟む気はないがな・・・」 そう言うといきなりシリウスは膝を曲げてリュオイルと目線が合うようした。 それに驚いたリュオイルは、目を逸らすことも忘れ唖然としながらシリウスの瞳を驚愕して見た。 「フェイルが関係しているなら話は別だ。 お前のくだらないそのプライドさっさと捨ててあいつに謝るんだな。」 「くだらない・・・・だと?」 「あぁくだらねぇな。何悩んでるか知らねぇけどな、 お前のそのウジウジした態度でどれだけあいつが傷ついていると思っているんだっ!!」 シリウスの怒号が響き渡った。 その声はフェイルにも聞こえているはずだ。 「フェイルが・・・」 一瞬リュオイルの瞳が変わった。 だがそれっきりであとは何も変わらない。 本人はかなり動揺しているようだが、それでもはっきりとしない彼にシリウスの怒りは更に高まる。 「お前のくだらないプライドで、今までどれだけ成果を出したかは知らねぇ。 だがなぁ、今となってはそのプライドがお荷物なんだよ。」 がっ!!と胸倉を掴んだシリウスは無理矢理リュオイルを立たせた。 シリウスの言った事に何も反論できないリュオイルはされるがままになっており表情も固い。 「お前みたいな奴が最後一番後悔するんだっ!! 最後になってからまた落ち込んで、自分を崖から落ちる手前まで追い詰める。」 「・・・・・・」 「・・・お前、そのプライドにどんな価値があるってんだ? 本当に今必要な物なのかよ。大切なものさえも犠牲にするほど、それほど大切なプライドなのかよ。」 僕の、プライド? 任務をこなすこと? 確かに重要だ。プレッシャーだって大きいし、国レベルの問題じゃないのだから。 価値? そんなもの、今の僕にないって分かっている。 僕のせいで、フェイルが傷ついていることも分かっている。 だけど・・・・・ 「だけど、僕には分からないんだっ!! どうすればいいか・・・・」 分からないんだ・・・・。 そう言って泣きそうな顔をしたリュオイルは項垂れて口を閉ざした。 どこかやりきれない表情をしたまま、シリウスは胸倉を離すことなくじっと黙っていた。 「何しとるんやっ、2人とも!!!!!!」 森の方からアレストの声が聞こえた。 その声は明らかに怒っている。 持ち前の足で走ってくると、胸倉を掴んでいたシリウスの手を無理矢理剥ぎ取った。 「あんたら、喧嘩はかまへんけどなぁ、暴力はあかへんで!!!!」 「い、いや、アレスト。暴力はやってないよ。今の段階では。」 「こいつがはっきりしないからだ。」 まだ怒りが治まっていない様子のシリウスは不服そうにしてリュオイルを睨みつける。 それを直に受けているリュオイルは何もいう事が出来ずにただ沈黙を守る。 今までに無い険悪なムードに、流石のアレストも少々引いてしまう。 だが、今ここで引いてしまえば、また掴みかかりそうな雰囲気だったのでそれはさせない。 「とにかくっ、その喧嘩の原因はなんやっ!? あんたらの痴話喧嘩なんか今までようけ見てきたけど、今のは今までとは全然違ったやないか。」 語尾が段々小さくなってきているアレストは心なしか悲しそうな表情をしている。 彼女がそんな表情をする事は減ったに無いので、それを見た2人はさっきよりは幾分か落ち着いていた。 「・・・・違うんだアレスト。僕が、全部悪いんだ。」 俯いたまま、リュオイルは弱々しげにそう呟いた。 それを静かに見守るのはシリウス。 アレストは心配そうな顔をして、それでも静かに聞いていた。 「フェイル。」 ふいに後ろから声をかけられたフェイルは、驚いた様子で振り返った。 そこにいたのは見上げなければならないほどの長身であるシギ。 いつもの無邪気な笑みではなく、どこか気遣っているようなようすの穏やかな笑みだった。 「・・・シギ君。」 「どうやらま〜た、揉めてるらしいな。」 苦笑して向こう側にいる3人の姿を見ると、フェイルの小さな頭に大きな手を乗せた。 「・・・・・」 「そう固い顔するなって。大丈夫、あいつはちゃんとフェイルの事理解してくれる。」 「・・・・うん。」 ポンポン、とまるで幼い子供をあやすようにシギは優しくフェイルの頭を撫でた。 それが今まで繋ぎとめていたものが切れた様に、フェイルの瞳からポタポタと透明な雫が零れ落ちる。 ただ遠くにいる3人の姿を見ているフェイルはしゃくり上げることなく、泣いていた。 「本当は寂しかったんだよな。」 「・・・・・・うん。」 「よく耐えた。フェイルは頑張ったよ。」 ポロポロと零れ落ちる涙は、止まる気配無く白い砂浜に落ちている。 深追いをせず、ただ慰めるように気遣ってくれるシギの優しさがとても嬉しい。 ほんの些細なことだけど、ほんの小さな気遣いだけど それがフェイルの心を満たしてくれた。 「だから、今まで堪えてきた分、今全部泣いちまえ。」 「うん。・・・うんっ・・・」 今まで溜めていた何かが、それが涙として一気にあふれ出た。 それを見たシギは、もっと穏やかな顔でフェイルを撫でた。 「・・・夢?」 怪訝そうな顔でアレストはリュオイルの言った意味が理解できず、首を傾げた。 今まで何も聞かされていなかった2人は、少し驚いたようにしている。 「・・・この前、フェイルが目を覚ました夜、そう言っていたんだ。」 《 私、生きてるよね 》 愁いを帯びたあの真っ直ぐな瞳は、何か不安そうな顔をしていた。 「君は生きている。」そう言いたかった。 だけど、脳裏を過ぎるのは今までの彼女の行動。何度も助けられた奇跡の力。 人間業とは思えない程の強力な力。 ずっと前に、アンディオンを出た時に話していた捨て子の話。 あの時の会話が離れなくて彼女を信じると決めたのに、心のどこかでそれを拒んでいる。 そんな自分に腹が立って、でも、そのせいで彼女を避けてしまう結果になって もどかしい。 「・・・・予知夢か?」 「分からない。ただの夢なのか、それとも・・・・」 本当に現実に起きてしまうものなのか。 「・・・・んで、そんでリュオイルはフェイルを避けるようにしておったんやな。」 「・・・・・」 呆れたようにしてアレストは大袈裟に溜息を吐いた。 たかだかそんな事で2人の間に亀裂が入ってしまうと、見ている側の身が持たない。 だが、それはお互いの心があまりにも繊細なために起きてしまう事。 それだけはどうやっても変えられないだろう。ずっと、この先も。 「ごめん。アレスト、シリウ・・・・」 「ちょい待ちっ!!!その言葉はフェイルに言うもんやで!!?」 「そうだ。俺等に謝罪されても迷惑だ。」 そう言って、2人は穏やかな笑みを残しリュオイルの背中を押した。 トンッと押された背中は今までどうしても足りなかった勇気を分けてもらえたような、そんな感覚だった。 「・・・・・」 「何してるんやっ!フェイルあっちにおるやない。」 「・・・ああっ!!」 にっこりと笑うアレストを見て、リュオイルは更に勇気を分けてもらえたような気がした。 腕を組んですました顔をしているシリウスも、納得がいったようにしていた。 ごめんフェイル。 僕は、ちっとも君の事を見ていなかった。 君が「捨て子」という事に執着して、君が人間じゃないんじゃないかって・・・。 だけど、君は人間だ。生きているんだ。 僕に勇気をくれたのも、その優しさをくれたのも みんなみんな、本当の事なんだ。 こんなちっぽけな事に気づけなくて、本当にごめん。 許されることじゃないけど、それでも僕は君を信じる。 もう迷わない。 「ほら、フェイル。」 そう言って、シギはフェイルの背中を軽く押した。 驚いて振り返ると、シギは大丈夫だと言わんばかりに優しく笑っていた。 不思議に思い、前を見るとそこにはこちらに走ってくるリュオイルの姿があった。 「フェイルっ!!!」 それに驚いて再度後ろを振り返るが、シギは相変わらず優しい笑みを浮かべていた。 戸惑いながらもフェイルは歩き出した。 もしも、拒絶されてしまったら・・・・ もしも、大嫌いだと言われたら・・・・ 何故私はあの夜にあんな事を言ってしまったのだろう。 あんな、くだらない事・・・・・何故? あの時にあんな事を言わなければ、拒絶される事はなかったかもしれない。 そんな気の滅入るような考えを持ったまま、フェイルはノロノロと歩く。 すぐそこにいるのは息を切らせてこっちに向かってくるリュオイルの姿。 近づけば近づくほど、フェイルの思っていた事が現実になりそうで、 とうとうフェイルはそこで止まってしまった。 目は既に潤んでおり、いつそれが零れ落ちても不思議ではない。 「フェイルっ!!!」 フェイルの近くにたどり着いたリュオイルは、走りながらも彼女が泣いている事に気づいた。 それは己の不甲斐なさを表されているようでもあった。 だがその前に、彼女が暗い面持ちで泣いている事の方がずっと辛い。 そんな姿を見たくなくて、でもそれは自分のせいなのに リュオイルはフェイルの元にたどり着いた途端、おもいきり彼女を抱きしめた。 走った反動があったのですこしぐらついたが、それ以外は何の被害も無かった。 でも、いきなり抱きしめられて困惑しているフェイルは目を大きく開けてリュオイルの顔を見ている。 「ごめんっ・・・ごめんフェイルっ!!!!」 「リュオ君?」 「僕が、少しでも君を疑ったから・・・・・僕が・・・・」 背中に回した腕に力を込めた。 予測もしていなかった事に、フェイルは驚いている。 ただ、拒絶されなかった。大嫌いと言われなかった。 そのことが嬉しくて、糸が切れたのかのようにまた泣き出してしまった。 それを違う意味で受け取ったリュオイルは、酷く沈んだ顔で俯いた。 「ごめんフェイル。こんな事で済まされるわけ無いのは分かってる。・・・・けど・・・・」 「・・・・・違う。私も、ごめんなさい。」 「フェイル?」 真っ直ぐとリュオイルの目を見て話すフェイル。 涙を拭くことも無く、真剣な顔でいた。 「・・・違うよ。僕があの時に、君に何も言えなくて・・・・。 少しでも疑ってしまって、そして挙句の果てには避けるようにして逃げてたんだ。」 どこか知らない土地を彷徨っているように見えたあの時の顔。 疑いを持ちながらも、今までずっとその顔が脳裏を過ぎっていた。 残ったのは後悔。 何故、あの時に何も言えなかったんだ。 ずっとずっと後悔をして、知らないうちに避けていた。 結果として、彼女を傷つけていた。それにも後悔。 「ごめん、フェイル。・・・・・・本当に、ごめんね。」 君を信じてあげられなくて こんな疑り深い、最低な男で 本来ならばあの時、シリウスに何度殴られてもおかしくなかったこの僕。 君を信じきれていなかったこの僕を どうか 許してくれますか? 「・・・・許すも何も私、ずっとリュオ君は私が嫌いだと思ってて・・・・」 「違うよっ!!フェイルを嫌いになるなんて、そんな事あり得ないっ!!」 大切だからこそ、大好きだからこそ 君を辛い目に合わせている僕自身が腹立だしい。 嫌いではない。 そうリュオイルが断言した途端、フェイルは花が咲いたのかのように笑った。 その笑顔に見惚れながら、リュオイルもつられる様にして久々に笑った。 その笑顔は、見ているだけで心を暖かくする優しい笑顔。 混じりけの無い、本当に奥底からの優しい笑みだった。 もう二度と君を疑わない。 君は君なんだから。 僕の大切な人だから。 たとえ何があっても 君を信じ続ける・・・・・・・