もうすぐ もうすぐだ 私はこの深い眠りから覚める事が出来るのだ もうすぐ もうすぐ あの忌々しき神を 葬り去ることが出来る・・・・ ■天と地の狭間の英雄■         【戦乱から死の国へ】〜崩壊〜 「よっと。」 無事リグ大陸【アイルモード帝国】の港に辿り着いた6人は、初めて見る異様な光景に言葉を無くした。 結局着いたのはあれから1時間後で、その時よりも大分暗くなっている。 そして何より寒い。 異常なほどのこの寒さに、全員肩を震わせていた。 初めて違う大陸に降りたアスティアは、ただただ呆然として町の風景を見ていた。 「・・・・着いたのは良いんだがどうする?  早速帝王にルマニラスへの船を出してくれるように頼むか?」   そう言い出したのはリュオイルだった。 確かに早く事を済ませた方が良いかもしれない。 こんな極寒の地で立ち往生すれば、全員凍死しかねないほどなのだ。 「そうだね。  でも、外からの訪問者はよく思われないんでしょう?大丈夫かなぁ・・・・。」 「まぁ、何とかなるんじゃないか?そん時はそん時ってことでさ。」 説得力の無い事を言われても・・・・・ だが今またここで立ち尽くすよりはましだろうと思い、6人は城へ足を運んだ。 「・・・・ターゲット確認。こちらの準備は万全です。」 まだ声変わりのしていない優しいアルトの声がこの極寒の地に響いた。 それは誰に言ったのだろうか。 周りには何も無い。 路地裏に潜んでいる陰は、誰に言うことも無くその場から一瞬にして消え去った。 「これはこれは・・・・・外の国から入らした方々。  この様な辺境の地にどういったご用件で?」 門番にいたのは薄気味悪い年老いた老人だった。 どこか作ったように笑う老人は、穏やかな声ではあるが鋭い目つきで6人を見据えた。 その態度にムッとするアレストであったが、今は我慢。 「我々はフィンウェル国家から勅命で来た者です。  どうか我々に次なる大陸へ移るべく船を出していただきたい。」 「・・・・・許可証は。」 疑わしそうにしてジロジロと観察する老人に、リュオイルはフィンウェルからの許可証ともう一つ。 リビルソルトからの許可証を渡した。 それを受け取ってマジマジと見ていた老人だったが、何を考えたのか「少しお待ちを。」と言うと、 城内の中に入って行ってしまった。 「なんだ?あの爺さん。」 「あんな老人が門番してるってのも変な話しやなぁ。」 この大きな城の門番をたった一人。 しかも今にも死にそうなあんな老人を雇って大丈夫なのだろうか。 不思議そうにしているシギとアレストは、お互いの顔を見て首を傾げた。 「・・・・・」 「どうしたの。リュオイル。」 ずっと黙りこんでいるリュオイルを不思議に感じたのか、アスティアは不思議そうにして顔を除いた。 その顔色はあまり良いものではなく、疑心を抱えて入るようなそんな表情だった。 「どうかしたのか?」 「・・・・・いや、何かこのパターン。前に聞いたような気がして。」 「前?」 更に不思議そうな顔をするシギ。 フェイルも、今までの経緯を思い出すが全くそんな節は見当たらない。 訝しげに唸るリュオイルは、何とか思い出そうとしている。 そうでないと、明らかに何かが起こりそうなのだ。 そう・・・悪い予感がする。 「あいつ等だっ!!!!ひっとらえろっっ!!!!!!」 「――――っ!!?何だってぇええ!!!」 バンッ!!とけたたましい扉の開く音と共に、大勢の兵士が6人を一気に取り囲んだ。 それに驚きながらも反射的に武器を構える6人。 一体何が起こっているのか分からず、ただ襲ってくる相手を殺さないようにして殴る。 「・・・・しまった。思い出した。」 ぽつり、と呟いたリュオイルだったが既に遅し。 「気様等っ!!兵にこれほどの仕打ちをするとは何事だっ!!!!」 兵は驚くほど弱かった。 数秒もしないうちにあっという間に倒した。 だが、それを見計らったようにしてさっきの老人が扉から出てくる。 「なっ、何言ってるんやっ!先に攻撃を仕掛けてきたのはあんた等やで!?」 「えぇえい黙れ黙れ!!気様等全員牢獄行きだっ!!!!」 そう言った途端、待っていました。と言わんばかりに新たな兵士が6人を取り囲んだ。 明らかにさっきの兵士とは違う。 かなり強いとすぐに判断できた。 「―――っ!2年前もフィンウェルの派遣者を同じ方法で牢獄に入れたのはお前かっ!!」 「ほう。そういえばそんなこともあったな。だが騙される方が悪いのだ。」 「何言って――――!!!」 ガンッと鈍い音がした。 驚いて振り返ると、頭を殴られ倒れるアレスト。 そしていつの間にか他のメンバーも地に伏せている状態だった。 「皆・・・・っ!!!」 一瞬の隙で、リュオイルも殴られる。 激しい痛みに目の前がかすんできて、意識が遠のいていく感覚が分かった。 「・・・お、のれ・・・・・・」 恨みを込めた瞳が段々閉じていくのを見た老人は、兵に担がせ牢へ放り込む事を命じると 今まで何も無かったような顔をして、また同じ様に門番をはじめた。 《リュオイル様お気をつけ下さいませ。》 《・・・何を?》 《あの帝国の帝王でなく、門番にです。》 《門番・・・・どうして、そんな奴に?》 《我々はそいつの出任せで牢に入れられたのです。  口は上手い事を言いますが・・・・・。  とにかく、隊長ならもしかすればその大陸に参じられるかもしれません。  どうぞお気をつけてください。》 そういえば・・・・ 彼等が帰ってきて間もない頃 そんな事を言っていたような気がしていた。 どうして、もっと早く気づかなかったんだろう。 どうして あの不気味な笑みを疑わなかったのだろう。 迂闊だった。 「・・・ル。」 誰だ? 「リ・・・・・・イル。」 懐かしい声。 忘れてはいけない声。 「リュオ・・・・・・・」 何度も傷つけた。 何度も泣かせてしまった。 「リュオ・・・ん・・」 守りたいと思った。 命を懸けて、守りたいと・・・・ 「リュオ君っ!!!!」 叫び声にカッと目を覚ましたリュオイル。 体は驚くほど冷えていて、生きているのが疑わしいほどだった。 声の主の方向を見ると、泣きそうな顔をしているフェイルの姿が檻越しに見えた。 「・・・・フェイル?」 「良かった。気がついたんだね。」 ホッとした様子で胸を撫で下ろすフェイル。 リュオイルは訳が分からず、ぐるりと辺りを見回した。 「・・・・ここは。」 「牢獄だ。俺等はまんまとあのくそジジイにはめられたんだよ。」 「・・・・あいつか。」 シリウスの声がしたのは右側だった。 他の話し声をしっかり聞くと、左側にアスティア。前にフェイル。 フェイルの左側にアレスト。逆が側がシギだ。 最後に目覚めたのが僕だったみたいで、他のメンバーは皆起きて何かを話している。 「さーて。リュオイルも目を覚ました事だし、脱出する方法を考えるか。」 「脱出って・・・そう簡単に出られるもんなん?この檻もかなり頑丈やで?  さっきうちが壊そう思て力入れたんやけど、びくともせんかった。」 不満そうにして檻を睨みつけるアレスト。 それに顎に手を当てて考えるように唸るシギ。 アレストの馬鹿力でも駄目。フェイルの魔法だと周りにかなりの影響が出るから駄目。 ・・・・・踏んだり蹴ったりだ。 「何か、大きな衝撃でもあればいいんだがな・・・。」 まぁ、そんな都合のいい事があるわけないんだけどね。 ひらりひらり。 この場に似合わない白い雪がチラチラと降り始めた。 ここはフローラの加護が最も届かない大陸。 真っ暗な空の下。 小さな影が3つあった。 その3つとも、普通では考えられない何かを持っている。 そして後ろに控える多くの大群。 それは何か呻き声を上げるもの。大きな羽根を羽ばたかせるもの。様々だった。 大小関係なくいるそれらは、一体何をするのだろうか。 人と思われる小さな影が動き出す。 何かの合図と共に、その群れは一気に動き出した。 「・・・・殺せ。何もかも、焼き尽くせ。」 低い声がこの空いっぱいに広がった。 その声が発せられると同時に、多くの群れが人の住まう場所へ降りていった。 「殺せ。何も残すな。人一人、断じて残すな。」 ふと、雲の隙間から出てきた月光によりその顔がさらけでた。 その顔は端整で、そして何度も見た覚えのある顔。 3人全員の顔がはっきりすると、頷いた途端アルフィスとギルス。 そしてラクトは拡散してそれぞれの方向へ降りていった。 「・・・・これで、ルシフェルが蘇る。」 アルフィスは誰に言うわけでもなく、自嘲したようにして笑った。 その顔は、どこか悲しみを持っているような、何ともいえない複雑な顔だった。 「お、王っ!空から、空から魔族がっ・・・ま、魔族の集団がっ!!!」 「何ぃ!!?ならぬ。この城を落とさせてはならぬ!!  全員戦闘に備えるんだっ!!!」 切羽詰った声に、城中は大慌てだった。 老若男女問わず、動けるものは皆戦闘にかりだされた。 それは子供も含まれる。 バタバタと慌しく動いているのを、牢屋に入れられている6人は何事だと思い不思議そうな顔をする。 「何やろ?随分バタついてるけど・・・」 「・・・・戦争か?」 「いや、これは・・・」 静かな顔を一変させたシギは、檻越しから気配を辿る。 忘れやしない。 忘れる事も出来ない。 この忌々しい気配。 「・・・・魔族が・・・・・・来たっ!!」 ――――――ドォォォォォオオオオオオオンッ!!!!!! 「うわっ!!」 「きゃぁぁ!!」 「くっ・・・・」 シギが大声を上げた直後何かがこの城に衝突したらしく、城は大きく揺れた。 特に脆いこの地下牢の壁は所々崩れ落ちて、見るも無残な様子になっている。 土埃が立ち込めている中、最初に起きたアレストは、この悲惨な状況に息を呑んだ。 「・・・な、何なんや。これ・・・・」 天井は半分以上が崩れており、その開いた空を見上げると、今にも襲ってきそうな魔族がいる。 幻獣キメラ。 100の目を持つアルゴス。 上半身は美しい女性だが下半身は大蛇のエキドナ。 まだまだ数え切れないほどの魔族がこの城を覆いつくしている。 空を見上げたまま唖然とするアレスト。 その背筋は凍って入るように冷たい。 「・・・・くっ。一体、何なんだ。」 暫くして土埃が治まると、他のメンバーが起き上がってきた。 はっ、としてアレストは皆の無事を確認した。 「大丈夫かっ!?」 「な、何とか。」 「煙たいわね。」 「あたたた。」 ゴホゴホ、とむせ返っているものの、奇跡的に皆無事だった。 ほっと胸を撫で下ろしたアレストは一つの違和感に気づく。 「・・・・・あ。」 「ど、どうしたの?」 「檻が、さっきの崩壊で壊れとる。」 キィ、と片手で少し動かすとそれはすぐに開いた。 さっきの衝撃と崩壊で、運良く檻が壊れたらしい。 少し潰れていたので、屈んで外に出たアレストは他の仲間の檻を調べる。 「どうだ?」 「うーん。・・・あかん。  リュオイルとシギとアスティアはあんまり被害無いから壊れておらへん。これは鍵が必要やで。」 そう言って今度はシリウスとフェイルの場所まで歩いてきたアレスト。 そこではっとして走り寄って来たのフェイルの檻だった。 それは自分の入っていた檻の壊れ方と殆ど似ている。 完全に壊れていないものの、これはアレストの拳で壊せれそうだ。 「フェイル。ちょいと後ろ下がりや。」 「う、うん。」 狭い檻の中の片隅に身を寄せたフェイルは、目を固く閉じてその衝撃を待っていた。 「いっくでぇぇえっ!!虎鳳津っ!!!!」 バキッ!!!ガタァァアン!!!!! 見事な右ストレートで檻を完全破壊したアレストは、金属を殴っているのにも関わらず、 全く動じていない様子で、中にいたフェイルを出した。 半分放心しているフェイルを頬を軽く叩くと、最後にシリウスの檻の様子も見る。 「あちゃー。あかへん。  運良く壊れとったのはうちのとフェイルくらいやった。」 「そうか・・・。どちらにしても鍵が必要だな。」 「んー。鍵じゃなくても何かでっかい斧とか、そんなもんでも何とかなるかもしれんな。」 「斧かぁ。誰も装備していないな。」 「せやな。  ごつい剣はシリウス持ってんやけど、あれはあれでちょいと無理あるで。」 考える動作をしたアレストは、とりあえず鍵を見つけてくると言い、外にいる魔族を睨みつけた。 「2人で大丈夫か?外にはもっと魔族がいるだろう?」 「・・・・でも、何とかしないと皆生き埋めになっちゃうし。」 「だが2人でも限界があるだろう。」 困ったように笑うフェイルは、両腕を上げて大丈夫だ、というポーズをとった。 「大丈夫大丈夫。アレストもいるし、まともに戦えそうじゃなかったら一旦戻ってくるから。」 だから。と言ってフェイルはいつものように笑った。 (・・・・・・駄目だ。) 「それじゃあ、行って来るね。」 (駄目だ。今、行ってはいけない・・・。) 「待ってフェイル!!!」 そう言って呼びとめたのはリュオイルだった。 その顔は不安でいっぱいで、鈍感なフェイルにも一瞬で分かるほどの青白さ。 「・・・なあに?」 不安を与えないために、懸命に笑うフェイル。 その笑みさえも、今のリュオイルには悲しかった。 「これ。」 すっと、檻の隙間から渡されたのはいつもリュオイルがつけている対魔用の銀のブレスレット。 この旅に出る前、クレイスが密かにくれた餞別品だった。 「・・・・これは?」 「必ず、帰ってきて。  次に会う時に返してもらえればいい。・・・・だから・・・」 どうか無事で。 「・・・うん分かった。大丈夫。私は絶対帰るよ。」 そう言ってアレストの元に戻ったフェイルは少しずつ瓦礫を退かした。 瓦礫を掻き分けて上の通路を歩く2人は、あっという間に見えなくなった。 残ったメンバーは、不安そうな顔をしながらもどうする事も出来ないので黙っていた。 (フェイル・・・・・) ただ一人。 真っ青な色をしたリュオイルを除いて。 《 大丈夫大丈夫。》 あの変わらない笑顔が焼きついて離れない。 《 私は絶対帰るよ。》 何を焦っているんだ? 何を、怯えているんだ? もう一人の僕が、行かせてはいけないと訴えている。 何故? フェイルとアレストは鍵を探しに行っただけなんだ。 そう それだけなのに どうしてこんなにも心が冷え切っているんだ。 《 まともに戦えそうじゃなかったら一旦戻ってくるから。》 違う。 違う。 今、行ってはいけない。 フェイル。 フェイル。 早く戻ってきて。 早く、あの優しい笑顔を見せて。 どうか 早く・・・・・・・ 「ははははっ!死ね死ね死ねぇぇぇぇええええ!!」 何かが切れた様に、漆黒の髪を持つギルスは次々と人を殺していた。 ブンッと掲げた両手に宿るのは黒い気配。 負の感情が溜まった悪魔の源。 魔法を放った後に指を鳴らし、控えていた下級悪魔を召喚する。 その数は並大抵ではない。 数え切れない魔族達が、このアイルモードを黒く包み込んでいた。 悲鳴をあげてる者。 泣き叫んで命乞いをする者。 必死に戦おうとする者。 全てが 全ての場所が 血に染まっていた。 「死んじまえ・・・・何もかも、死んじまえっ!!!」 怒号したギルスは、非難している住民の場所に突撃し、全てを赤に染め上げた。 『 あまねく大地は負の神           そぐわぬ光は我が御身                幻獣を守りし才気を今ここに召喚せん 』 ――――リヴァイブデーモン!!!!! 小さな少年の浮かんでいる空間に出来上がったのは黒の魔法陣。 禍々しいほどに出来上がったそれを一気に浮上させた彼は、そこから多くの魔族を召喚した。 主にキメラを召喚した少年は、「行け。」と小さく号令すると、待っていたかのように、 そして血を求めるために、魔族は地上へと降りていった。 「・・・・・・これで、いいんだ。これで・・・・・」 俯いた少年ラクトは少し頭を振って、今はここにいない小さな少女へ心を繋げた。 神経を集中させ、遥か遠くにいるソピアと心を通わせる。 (・・・・ソピア。後は、頼んだよ。) 雷が鳴り響くこの場所は魔界【タナトス】 そこにいるのは桃色の長い髪をそのまま垂らしている純血の魔族ソピア。 全ての指揮をこなす金色の髪のジャスティ。 そして、薄紫の髪を横に一つに束ねた同じく純血の魔族ロマイラ。 「・・・・どうやら頃合のタイミングのようね。」 ジャスティが魔境を除くと同時に、ロマイラの顔が大きく変わった。 その目は恐ろしいほど冷たく、それでいて血に飢えた獣のような瞳をしている。 驚くほど口の先端を伸ばした彼女は、嬉しそうにして呪文を唱える。 それに少し遅れたソピアも、戸惑いながらも懸命にその小さな唇を動かした。 『 闇が支配する虚空の神よ         冥府の王ハデスの意志により             今ここに死の審判を下さん 』 ――――デスセビア!!! 『 母なる大地、混沌なる世界に           滅亡し忘れられた古代の禁忌                その大いなる恵みを我等に称えん 』 ―――ドリップダークネス!!! 眩い、とは対照的な闇の光が、魔境を通じてアイルモードに向けて飛び交った。 恐ろしいほどの魔力を秘めるそれは、一体どれだけの人間を殺すのであろうか。 一体、どれだけの人間が血を流すのだろうか・・・・。 「・・・ふふふ、あははははっ!!!  足りないっ!足りないよっ?もっと楽しませてよっ!!」 簡単に死なせるものか。 魔族の血が騒ぐ。 多くの血を欲している。 飢えているのよ。 私のこの心は。 もっと足掻いて。もっと悲鳴をあげて。 もっともっともっともっと 死ぬ事を懇願するくらいにまで痛ぶってやる。 死んでからも苦しむように、呪い殺してやるっ 「・・・・・・・」 ちらりとその様子を見るジャスティは、表情一つ変えずにいた。 傍で加勢しているソピアは、同じ悪魔でも怯えて震えている。 それほど彼女の狂った気配は恐ろしいのだ。 傍にいるだけで、まるで心臓をわしずかみされたような感覚。 恐怖で身がすくむ。 ただ、その怒りの矛先が自分に来ないように、願う。 「死ね。死ね。死ね。皆真っ赤になっちゃえ・・・・。」 そう言って、ロマイラは次の呪文を唱えだした。 『 紅蓮の炎に燃え出で立ちたる空の色                紅き闇に染まる海よ                    我が目の前にいる愚者どもに灼熱の劫火を放て 』 ――――エクスプロード!! この極寒の地に一つの炎が立ち昇る。 それは襲ってくる魔族を焼き払い、浄化していった。 だがそれで全ての魔族がいなくなったわけではない。 「飛揚炎帝撃っ!!!!」 炎の属性を持つアレストの技が、その列にいる魔族を粉々に引き飛ばした。 けれど、倒しても倒しても一体どこからなのか魔族がウジャウジャとやってくる。 これでは埒があかない。 「倒しても、きりが無いやんかっ!!」 「アレストっ。時間稼ぎをお願いっ。何とかやってみるよ!!」 「了解や!!!!」 その直後、バッとアレストが前線に出た。 ふと空を見上げると、そこには魂の宿っていないドラゴンが数対いる。 その他にも・・・・今まで見た事が無い魔族が空から舞い降りてきた。 「ここは・・・・一歩も通さへんでぇぇぇええ!!!」 勢いをつけて、アレストは魔族が群れている所に駆け込んだ。 『 響く稲妻は神の怒り       定められた地の運命は強く儚く              念じるは精霊の脅威 』 「このぉぉおおっ!!緋鳳演義武勇!!!」 『 見透かすその地の意志       大いなる自然の原理を越え              崩壊する大地を再度呼びたたん 』 ――――サンダーブレードッ!!!! 空からは雷鳴が。 下からは押し潰すほど、地面が崩壊した。 二つが交じり合った時、それは何もかもを打ち消していった。 ギャァァァァァアアア!!という魔族の叫び声は、その衝撃により断末魔のようにして五月蝿く広がる。 しかし、数秒もすると残るのは空を飛んでいたと思われる黒い羽根。 そして中途半端に残った胴体。 切れ切れと残るは顔の部分。 死んでもなお、ギロリとこちらを睨みつけている様に見えた。 「・・・・お、お疲れさん。フェイル。」 「ふぅ・・・。」 額にじんわりと出ていた汗を拭うと、真剣な目つきで空を見上げた。 今さっきの上級呪文で、ここらにいる大半の魔族は消したが、いつどこからまた襲ってくるか分からない。 そんな恐怖を抱きながらも、二人は奥に向かおうとした。 「あれは・・・・。」 何かを見つけたフェイルは、おそるおそる指を指した。 そこにいたのはあの恨むべく門番の老人。 ガタガタと震えて机の下に潜んでいる。 頭隠して尻隠さず。 見事にこの言葉がその老人の状態を示していた。 「こんのくそジジイっ!!よくもうちらを牢獄へ放り込んだなぁ!!!」 「ひっ、ひぃぃ!!どうか命だけはっ・・・・」 かなり怯えきった様子の老人は、机の下から出てこようともしない。 むしろ、いきなり怒鳴りつけられた事で恐怖で身がすくんでいる様子だ。 その様子がかわいそうに思ったのか、フェイルは目線が合うように屈み、優しい声で老人に話した。 「大丈夫。この辺りの魔族は私達が倒したから。」 「・・・・・・・・」 「フェイルっ!!こんな奴放っておいてさっさと鍵探しに行こうで!」 「でも、ここに置いておくと魔族の餌食になっちゃう。  確かに私達にとってこの人は悪い人だけど今そんな事言ってられない。  助けられる命を助けないのは駄目だよっ!!」 バッと振り返ったフェイルは、とても悲しそうな顔だった。 その懸命さが彼に伝わったのか、老人は恐る恐る顔を上げた。 最初であった時よりずっと青ざめている。 「・・・・あ、あんたら鍵を、探しに来たんだって?」 「そうやっ!あんた何か知ってるんなら余すことなく全部話しや!!」 「か、鍵の場所を教える。だからワシを守ってくれ!!頼むっ!!!」 あの威圧はどこに消えたのだろうか。 弱々しく懇願する彼は、アレストの足元に来て土下座をしてまでそう言った。 そこまでして言われると、今まで責めていたのがなんだか間違っていたような気がする。 仕方ない。と呟いたアレストは、肩をすくめて溜息をついた。 「・・・・分かった。その代わり絶対に教えや!?  もしも間違ったところ教えたら・・・・・・魔族の巣に放り込んでやるで覚悟しとき。」 語尾はかなりドスの聞いた声だった。 これこそ蛇に睨まれた蛙。 完全に怯えきった老人は、何度も何度も強く頷いた。 「で?どこにあるん。」 腰に手を当ててふんぞり返るアレストに、老人は震えながらも懸命に話した。 「こ、この通路を真っ直ぐ行き、そ、その突き当たりにある部屋の  多分、今は崩壊して部屋という確認は出来ないだろうが・・・。  そ、その部屋にある大きな箱に、ち、地下牢の鍵は全部ある。」 「・・・・ほんまやな?」 「ほ、本当だっ!!神に誓ってもいい!!!」 今にも泣きそうな彼は、必死な形相で訴えた。 どんな人間でも、最後はやはり自分が可愛いのだろう。 あそこまで威張っていた人物がここまで変わるのだ。 窮地に追い詰められたその時、その人物の本性が出るのかもしれない。 「・・・・・んじゃあ、行くかフェイル。」 「え・・・。でもこの人どうするの?」 「その辺に隠れとったら大丈夫やろ。さっきまでずぅ〜っと隠れとったんやさかい。」 面倒そうな顔をしたアレストは、さっきまで隠れていたと思える場所を指差した。 それを見てギョッとしたのはフェイルでなく、老人本人だった。 そんな、とんでもない!!とでも言いたそうな顔をして、大きく首を振っている。 「な、な、な、・・・そんなっ!!  わしも連れて行ってくれっ!!!一人で残るのは嫌じゃ!!」 「なぁにアホな事にぬかしてんねんっ。  あんた連れてったら、もしも魔族に出会ったらどないすんねんなっ!  うち等はこれでも自分の身を守るので精一杯なんやで!?  そんな中、あんた連れてったら足手まといになるだけや。」 だが、ここに残しても魔族が襲ってこないとは限らない。 それでも、今ついてこられるよりは何倍かはましだ。 魔族は何の力も持たない非力な人間が太刀打ちできる相手ではない。 更に言うなら今まで戦った事も無い、初めて見る魔族も多くいるのだ。 彼の身を守るどころか、自分達の身を守るのも限界がある。 「・・・・・結界を張っておこうか?」 ぽつり、と言い出したのはフェイルだった。 それを聞いたアレストは、何を言っている。とでも言いたげな顔をして後ろを振り返った。 対照的に老人はそれはもう喜んでいる。 「フェイル?何言ってるんや。」 「だから、結界を張っておけば少しはましになると思うから・・・・」 「あかんあかん!!  そんな事しとったら、あんたの集中力が途切れ途切れになるやろっ!?」 「で、でも・・・・」 大声で怒鳴るアレストに気押しされながらも、フェイルはちらりと老人を見た。 完全に震えた体。 これではついて来る、と言っても無理な話だ。 けれど・・・ここに残せば、自分達はどうする事も出来ない。 魔族に襲われても、助ける事は出来ない。 「大丈夫。すぐ戻るんだもん、平気だよ。」 そう言って笑うフェイル。 いつもこうだ。 何度言っても聞かない。変なところで頑固なフェイル。 (リュオイルの気持ちも痛いくらい分かるな。これは。) 自分自身がどんなに傷ついても どんなに泣き崩れても 優先するのは他人。 仲間。友人。そして赤の他人でも。 何に変えても守ろうとするその優しさ。 だけどそれは その心で どれだけの人を悲しませる? 「・・・・やっぱあかん。  第一あんたはまだ病み上がりって言ってもおかしくないんやで?」 アレストの意思は固かった。 もう二度と、あんな彼女の姿を見たくない。 傷ついて傷ついて。それでもまだ傷ついて。 一体この子は、どれだけの痛みを抱えようとするのだ? [でも、わたしは・・・・」 俯いたフェイルは、力無く言葉を紡ぎはじめる。 「・・・・助けたいと思っている。それが私に対してどんなに不利になっても。」 「・・・・・・」 「助けたいと言う気持ちは・・・・・  この気持ちは変わらない。皆、生きてるんだから。」 皆、同じ様に生きている。 育ち方は違っても それでも、皆生きている。 同じ空気を吸って、同じ光を浴びて、同じ空を見あげて・・・・ 皆生きているのだから。 「後悔したくないの。」 もう、あんな思いはしたくない。 「・・・・・・・・・ったく。しゃあないなぁ。  分かった。フェイルがそうしたいんならそうすればええ。」 「アレスト・・・。」 「しかーしっ!!  フェイルがやばそうになったら絶対にあいつの結界解くんやで!?」 観念。 また諦めたのかのようにしてアレストは大きな溜息を盛大に吐いた。 もうこのフェイルに何を言っても無駄だ。 とにかく、無理をさせないために自分が何とかフォローを入れなければ。 「うんっ!!!」 了解を得たフェイルはそれはもう嬉しそうにして、花が咲いているかのように微笑んだ。 すぐさま結界用の魔法陣を地に書き写すと、呪文を唱え始める。 その場所に、青白い光が天に届きそうなほど昇ると、その場所に老人を入れた。 幅はそこまで広くない。 せいぜい大人が2人ほど入れる程であろう。 「この魔法陣の中にいれば、とりあえず大丈夫だと思います。  どんな恐ろしい魔族が襲ってきても絶対に出ないで下さいね。」 そう微笑んで言うと、老人はホッとしたようにして安心した溜息を吐いた。 それを確認したアレストは、早速その鍵のある部屋に急いだ。 それにフェイルも続く。 瓦礫で通路が埋もれているものの、人一人は何とか通ることが出来そうだ。 周りの瓦礫が崩れないように確かめながら歩くと、案外近かったようですぐに辿り着く事が出来た。 「あちゃぁ・・・・。やっぱここも崩れ落ちたみたいやな。」 「どうしよう。」 2人が頭を抱えて悩んでいるのはこのせいだった。 元は丈夫な扉であっただろうそれは完全に大破していた。 更にそこには、崩れ落ちた天井の瓦礫が山積みになっており、二人の力を合わせても時間が掛かりそうだ。 「うちの衝撃破で何とかなるやろか?」 「で、でもこれはちょっと量が多すぎない?」 その高さはアレストの身長を優に越えている。 もしかしたら仲間の中で最も高いシギを越えているかもしれないのだ。 更にかなり厚さがあるので、ちょっとやそっとの衝撃ではすぐには崩れないだろう。 「うーん。私の魔法攻撃の後に、アレストの打撃攻撃をすれば何とかなるかな?」 試行錯誤で考えた結果、一番手っ取り早いその策に決定した。 だが、フェイルが炎系の魔法を使うと、その部分が恐ろしいほどの温度になるのでそれは無し。 かと言って水で流せるものでもないし、ましてや風でどうにか出来るスペースじゃない。 そう考えると残るは雷。 これも最小限の被害でおさまらせないと後が大変だから慎重にしなければならない。 「大丈夫?アレスト。」 「任しときぃやっ!!うちのこの鉄拳をなめたらあかへん!!」 「・・・分かった。じゃあ、いくよ。」 そう言って少し下がったフェイルは、力強い言葉で呪文を唱え始める。 唱えるのは一つではない。 下級魔法ではあるが、何度か連発すれば少しはましだろう。 『 天津彼方から舞い降りる貫通の稲妻 』  ――――ショックストーム!! 『 空から鳴る光の一撃 』 ――――ライトニング!! フェイルの放った二つの魔法が瓦礫を粉砕する。 だがそれはごくわずかな部分で、全部が大破したわけじゃない。 その奥にある瓦礫を狙うべく、アレストが懇親の一撃をひびの入った瓦礫に打ち込んだ。 「演舞光波乱!!!!」 ガンッ ドゴォォオオオオッ!! 物凄い量の土ぼこりが辺りに広まった。 ケホケホ、とむせ返った2人は、暫くそれが治まるのを待つ。 「あたたたた・・・。」 「大丈夫?」 「な、何とかなぁ。  でもやっぱいつも生きてるもん倒してきてるさかい、こういう物殴るのは痛いなぁ。」 ちらりと自分の拳を見ると、わずかではあるが血が滲んでいた。 今ここでフェイルに知られたらすぐさま回復魔法を行うだろう。 だが、今は彼女の負担を軽くするため。 言ってはいけないとアレストは心に誓った。 「・・・・・げっ!!」 モワモワとした煙が下に落ちると、アレストは我が目を疑った。 それはフェイルも同じだった。 瓦礫は全てではないがほぼ半分を粉砕しており、奥が見える。。 だが驚いたのはその事ではない。 その隙間から見える黒い影。 嫌なほど見知った顔がそこにあった。 「ア、アルフィスっ!!?」 ばっ、と飛びのいたアレストは、フェイルの手を掴んで狭い通路を走りぬける。 だがそれを見逃すわけが無く、アスティアは持っていた剣を具現化して目の前にある障害物を まるで紙くずを斬り捨てるかのように、簡単に瓦礫をなぎ払った。 「走るんやフェイルっ!!!」 フェイルの手を引いたまま走るアレスト。 今ここで追いつかれてしまったら・・・・・。 アレストの脳裏を嫌な感覚が襲った。 「・・・させるか。」 それほど低くない声を響かせて跳躍したアルフィスは、一気にアレスト達の前に出てきた。 もう逃げ場は無い。 後ろはアルフィスがなぎ払った瓦礫で歩くことも出来ない。 「さぁ、渡してもらおうか。」 「誰がっ!!」 咄嗟にフェイルの前に庇う形で出たアレストは、息を呑んでアルフィスを見据えた。 前に見た時と同じだ。 透き通った水色の目は何の感情も読み取れない。 それが逆に怖い。何も映さないその瞳が、綺麗すぎて恐ろしいのだ。 アルフィスが一歩出るたびにアレストとフェイルは一歩下がる。 それの繰り返し。 だが、そんなことをずっとしていれば確実に追い込まれてしまうのは目に見えている。 「その娘を渡せ。その方がお前にも都合がいいだろう。  大人しく渡せば殺しはしない。ただ・・・・。」 最後の語尾に異変を感じた2人は、アルフィスの取った行動に息を呑んだ。 「・・・・もしも抵抗するのなら、この騒々しい老いぼれた奴と同じ運命を辿るがな。」 すっ、とアルフィスの双眸が細くなった。 その視線の先には彼の後ろで結界の中に入って、こちらを凝視しているあの老人がいた。 それにツカツカと近づくき、その魔法陣の所で止まったアルフィスは なにやら小さく呪文を呟いた後、さっとその場から数歩身を引いた。 それをただ怯えて見ていた老人は、何が起こったのか分からぬ様子でアルフィスを見ている。 「や、やめてっ!!!」 その時にフェイルの悲痛な声がこの場所に響いた。 だがそんな声は聞こえていない。という様子でアルフィスは最後の言葉を紡いだ。 「・・・・・施錠粉砕。」 パキッ!!! パキ・・・・パキパキ・・・・ 一瞬のうちにして消え去った魔法陣。 浄化の光に護られていたそれは見事に打ち砕かされ、残ったのは非力な老人だけだった。 「ひっ!!!」 「愚者め。ここで滅びるがよい。」 アルフィスの声が合図だったかのように、空からドラゴンが舞い降りた。 どす黒く、死んだようなその目を持つドラゴンは、老人めがけてその大きな口を開いた。 「うぁぁぁぁぁぁぁああああああああ!!!!」 バキィィイ! ベキ! ゴキッ!! 骨の砕ける音が 聞きたくない嫌な音が この場所に、酷いほど響いた。 その、全て噛み切っていない場所から 今さっきまで生きていた老人の血が 湖のように滴り落ちてきた。 「い、いやぁぁぁぁぁぁぁああ!!!!」 頭を押さえてうずくまるフェイル。 それを聞こえているはずだが、だが動けないアレスト。 呆然と立ち尽くす彼女は、今の光景を信じたくなかった。 ガタガタと震えて、座り込んでしまったフェイル。 それを、今助けなければならないのに・・・・ 怖い。 ただ、その一言。 恐怖で身がすくんで 一歩もこの場から動く事が出来ない。 黙りこんだアレストを確認したアルフィスは、彼女の傍で座り込んでいるフェイルの元へ歩き出した。 いけない!! 動け。 動け。 動け!! この足よ、どうか。 今だけでいい。 だから 動いて!!! 「フェイル=アーテイト。お前には我々と来てもらう義務がある。」 「・・・・・・・」 何も答えられない。 そんな様子のフェイルは、顔を上げることなくずっと震えていた。 「・・・・フェ、フェイルっ!!!!」 ―――――ドォォォオオオオオン!!!!!! アレストが叫んだと同時に、最初にあったあの衝撃と似たような衝撃が起こった。 いや、さっきよりもっと強いのかもしれない。 フェイルの元に駆け寄ろうとしたアレストは、その地震と崩壊で倒れこんだ。 天井からは更に瓦礫が崩れ落ち、ここにいる全ての物をそれで埋め尽くした。 パラ、パラパラ・・・・・ さっきの衝撃がおさまったようで、ここは静かな音を取り戻した。 これだけの瓦礫が崩れ落ちればもう助かった者などいないだろう。 「・・・・・ギルスか。」 空を浮かぶは銀の髪を持つアルフィス。 その腕には先ほどの衝撃で気絶したフェイルが抱きかかえられていた。 アレストはいない。 瓦礫の中に生き埋めにされたのであろうか、それとももう死んでしまったのであろうか。 「・・・・・任務完了だ。」 そう言って空を駆けようとしたその時。 下の方から何かの力を感じ取ったアルフィスは、少しだけ目の色を変えて止まった。 まさか・・・・・ 「こんのぉぉぉおおおっ!!!!」 瓦礫で覆い尽くされたところから、突如大きな力を感じとったアルフィスは その破片を浴びないためにすぐさま避けた。 そこで見たもの。 それは死んだとばかり思っていたアレストが、ボロボロになりながらも瓦礫を破壊して這い上がって来た。 「・・・生きていたか。」 「ゼェ、ゼェ、ゼェ・・・・・うちを、なめたら、あかへんで!!」 所々から出血をしており、立っていられるのもやっとだ。 だが、そんな事はどうだっていい。 アルフィスの腕に抱えられているフェイルを見て、アレストは殺気立った目でアルフィスを睨んだ。 「フェイルを返しやっ!!!」 「断る。」 そう言った直後、アルフィスのもう片方の腕から禍々しいほどの邪気が出てきた。 これは闇を属する攻撃魔法。 こんなものをくらえばひとたまりも無い。 それでも、大切な仲間が攫われそうになるところを見て無ぬ振りなど出来ない。 たとえそれを受け止める事が出来なくても、それでも構わない。 「ぁぁぁあああああ!!!!!」 闇を放つアルフィス。 そしてそれに立ち向かうアレスト。 まともにくらえば、アレストは死ぬ。 それでも うちも皆もフェイルが大好きなんや。 人の痛みを、自分の痛みに感じ取る優しい心を持ったフェイル。 大好きだから だからこそ護りたい。 「愚かな・・・・。死ねっ!」 「ぁぁぁああああ!!!!」 その時、その場所から恐ろしいほどの力がこの場所を覆いつくした。