君と始まる新しい未来。



それは、何を得るためなのか



そして、何の為にか分からない。



だけど



君と共に歩く事が出来て凄く嬉しい。



こんな弱気な僕だけど



よろしくね。フェイル。












■天と地の狭間の英雄■
       【双子】 〜行ってきます〜












あの夜が過ぎて今日。
僕は早朝から実家に帰った。
その時、母上と父上はとても驚いていたけど、でもすごく嬉しそうにして僕を抱きしめた。
まるで、何かを察したかのように。



「リュオイル。
 私達では止められない事が起こっているのね?」



察しの良い母上は、悲しそうな瞳で僕を見上げていた。
父上もやりきれない顔で見下ろす。



「お前は、一体何を課せられたのだ。」

「・・・・魔族侵略妨害。及び魔王の抹殺です。」



重い口をやっとの事で開けた。
自分の言葉で言うのも、こんなに苦しい。
両親の顔を見る事が出来ない。


ただ、怖くて。


どんな風に思っているのだろう。
どんな表情をしているのだろう。



「・・・・リュオイル。」



固い声が僕の耳に聞こえた。
この声は、父上だ。
強くて、部下に慕われていて・・・・。
僕やクレイスの自慢の父。



「父上?」

「・・・俺は、お前が帰ってくると信じている。」



その言葉が聞こえたと同時に、母上のすすり泣く声が聞こえた。
ばっ、と顔を上げればそこには今まで見た事の無い父の顔があった。

それは、酷く悲しそうだった。
とても、辛そうだった。



「俺は、お前が無事に帰ってくると信じている。」

「父上・・・。」



大きな手をリュオイルの肩に乗せると、辛そうにだが笑った。
こんな父を見たのは、初めてだ。



「っ私も、貴方が無事に帰ってくることを、信じて待っています。
 ・・・・約束しなさい、リュオイル。」




どうか、無事で帰ってきて。

どんなに時間が掛かってもいい。

だから

帰ってきてください。




「母、上。」




嬉しかった。


「・・・はい。」



こんなに、僕の事を大切に思っていることが


「必ず、帰ります。絶対に・・・・・。」



すごく、嬉しかった。





















「・・・・・・本当に行くのだな。」



ここはフィンウェルの王室。
僕がこの任務を請け負ったのは国家機密なので、多くのものには知れ渡っていない。
恐らくリュオイルの部隊には、他の命令が下ったと言われているだろう。
だが、薄々感ずいているものもいるかもしれない。
特殊部隊の人間は、決まって勘が鋭い。



「はい。私リュオイル=セイフィリス=ウィストは今日より国家機密を果たすべく、
 長期の間城を御守りする事が出来ませんが、必ずこの命を成し遂げて帰ってきます。」



ここには数名の男女がいた。
1人はこの国の王。
そしてリュオイルの傍にいるフェイル。
その後ろで複雑な顔をしているリティオンとカシオスの合計5名。



「成し遂げて、か。」



そんな甘い考えが、この世界には通用するのだろうか。

その言葉はあまりにも小さかったために、リュオイル達には聞こえなかった。
後ろで控えている2人は、口を出そうかどうしようか迷っている。
本当は行かせたくなんかない。
帰ってこない確立の方が大きすぎる。
大事な仲間だから
大事な同僚だから

行かせたくない。



「大丈夫です。
 リュオ君1人じゃありません。私も、一緒に行きます。」



ふいにこの暗い空気の中から場違いなほどの明るい声が響いた。
リティオンとカシオスはぎょっとしてフェイルを見ている。

((そういえば、なんでこの子がここにいたんだ?))



「・・・・そうか。
 フェイル殿も、リュオイルと共に?」

「はいっ!
 でも、勘違いしないで下さい。
 私はこの国のために行くんじゃなくて、自分のために行くんです。」




リュオイルに同情したつもりも、この国に同情したつもりもない。
上手く言えないけど、でも自分のために行くのは確かなのだ。



「フェイル・・・。」



昨日の事が頭に過ぎった。
彼女の声があったからこそ、今僕はここにいる。



「この判断が間違いだって構いません。
 私は、リュオ君と一緒に旅に出ます。」



何年経ったって、何十年経ったっていい。
答えを見つけ出すまで私は逃げない。

その固い意思に王は暫く目を瞑って黙っていた。
リティオンとカシオスは今にもフェイルに抗議しそうで見ていられない。
ハラハラした様子のリュオイルを他所に、フェイルはずっと王を見つめていた。



「君が決めた事に私等が口うるさく言う権利はない。
 君は君のやりたい事をしなさい。」

「じゃあ・・。」

「だが、たとえこの国の者でなくても、帰る時はリュオイルと共に顔を見せなさい。」

2人が旅立つのなら
帰ってくるときも2人でないといけない。
どちらが欠けてももいけない。
それを分かってくれ



「・・・・王。」



安堵した様子で微笑するリュオイル。
その言葉に嬉しそうに笑うフェイル。
大きく頷くと、彼女はいっそう強く笑った。



「はいっ!!行ってきます。」



帰ってきます。


ここが、始まりの地だから・・・・。












その日の昼。
2人は一旦今後の事を話すために会議室を使って相談していた。
勿論そこには何故かリティオンとカシオスも。
複雑そうな顔をして歪めている具合からすると、まだ2人は完全に認めたわけじゃなさそうだ。



「さて、と。
 旅に出るのはいいんだけど、どこに行くかが問題だね。」

「んー・・・。
 昨日リティオンさんとカシオスさんと話してたんだけど、イルシネス港に向かって
 そこからまた違う大陸を目指せばいいかなって。」

「イルシネス港か。
 じゃあ一旦アンディオンで休憩した方が良さそうだ。ここからは・・・・。」



確かアンディオンまではそこまで時間は掛からないはず。
1日もあれば十分に行けるだろう。




「リュオっ!!
 あんた本当に行く気なの!?それにフェイルちゃんまで。」

「リティオン。」



淡々と話を進める2人に苛立ったリティオンは、居ても立っても居られなくなってとうとう怒鳴りだしてしまった。
2人の考えに付いていけず戸惑っている。
どうして彼等が!?という気持ちも入り混じっている。
「そうだ。大体どうしてお前達がそんな危険な目に合わなければ行けない。
 単独行動で魔族をどうにかできるわけないって、王だって御存知のはずだろう?」



最もらしい質問を次から次に出してくるカシオス。
彼もリティオンと同じ意見のようで、明らかに不満そうな顔をしている。



「僕だって、好きで行くわけじゃない。」

「じゃあ・・・。」

「でも、護るものがあるから。
 国でも無い、家族や部下やリティオンとカシオスみたいに護りたいものがあるから、僕は行く。」



途中まではもう投げやりな気持ちだった。
自分はもう用済みだと、そう思っていた。
でも、本当は違った。
フェイルも励ましてくれた。
この旅で、何かが得られると信じて僕は行く。



「大丈夫。死なないよ。」



帰ってくるんだ。
どんな結果になっても
絶対に死なない。
故郷がある限り、家族が居る限り、仲間が居る限り
僕は、戦う。



「偽善者ぶってるかもしれない。でも、それでもこの気持ちに偽りはない。」



僕がそうしたいと願う。
僕がそうしなければならないと思っている。



「・・・でも。」



それでも、どこかやりきれない表情でリティオンは呟く。

誰かを護りたいとか、そういう問題じゃない。
残された人は、家族は、仲間はこんなにも辛いというのに・・・。



「大丈夫。フェイルもいるし、僕は1人じゃない。」



共に歩む者がいる。
それだけでも心強い。



「きっと、帰ってくるから。」



そう言ってリュオイルは笑った。
笑った?
どうして?
死ぬかもしれない場所に赴くというのに
どうして笑う?




「・・・・・リュオ。」




酷く悲しんだ顔でリティオンは同僚の彼を抱きしめた。
昨日まであんなに弱気になっていたのに今日は全く違う。
あの迷った瞳がない。
何を護れればいいのか、何の意志を貫けばいいのか。
でも、今はこんなにも活き活きしている。

もしかすれば、こうなった方が彼には良かったのかもしれない。

若すぎて騎士に入ってしまった彼。
まだまだ幼い時に、父親の薦めで騎士になるための試験を受けてしまった彼。
そして、運悪く合格してしまった。
あの頃からずっと一生懸命で、
毎日毎日訓練を受けてここまで成長した。
でも、その代わりに失ったのは自由。


その頃から、自然に笑えなくなった彼。


それを、たった数日でこんなにも変えた少女。



「大丈夫ですよ。
 リュオ君は最後はちゃんと、何が何でもここに帰します。」

「フェイル。君も来るんだからね。
 さっき王が言っていたのちゃんと聞いてた?」



頭を抱えてフェイルに注意をするリュオイル。
ある意味バランスの取れた2人。
それに、この子といる方がリュオは楽しそうだ。
よく喋るしよく笑う。
長い時をカシオスと共にリュオとも歩いてきた者の身になれば、それはとても喜ばしい事なのだ。

リュオイルを離すと、リティオンは半ば諦めたようにして苦笑した。
その態度の変わり方に不思議そうにしているカシオス。



「リティオン?」

「・・・もう、いいんじゃない?」


だって、あの2人は




「リュオ、あんなに楽しそうにして笑うんだから。こっちの毒気抜かれちゃったわよ。」




自分達に足りない分を補い合っている。



「こっちのほうが私は好きよ。」



今まで自由という言葉とは一切無縁だった彼。
それは、隊長になってから痛切に感じられた。
でも、彼は根が真面目だからそれを耐えて来ていた。
辛くても誰にも打ち明ける事が出来なくて、1人で悩んでどんどん壊れていって。



「このまま壊れていくよりは、自分のしたい事をさせた方がいいって思うじゃない。」



そうリティオンはカシオスに笑って言った。
こんなに楽しそうな顔をしていては、「行くな」なんて言えない。
どうせなら、自分の意志を貫き通してほしい。

滅多に笑わないリティオンが笑った。
造った笑顔ではない。
心から、そして穏やかに笑っていた。



「リティオン、お前・・・。」

「私達には2人を止める事も、ましてや止める権利なんか無いわ。
 ここで待って、あの子達の帰りを待ちましょう。」




帰ってくると約束したんだから。
どれだけ時間が経っても良い。
信じて、待っていよう。









「兄さんっ!!!!」



突如バンッと扉が勢い良く開いた。
そこにいたのは、肩で息をしている赤い髪を持つ少年。
リュオイルと同じ顔をした双子の弟だった。



「クレイス!?
 な、何でこんなところに。というかお前会議はどうした!!」

「そんな事よりも兄さんが旅に出る事聞いていません!!どういう事ですか!?」



ズカズカと会議室に入ってきた彼。
彼の名はクレイス=セイフィリス=ディオ。
リュオイルの双子の弟でカシオス隊の魔法軍福隊長でもある。
今彼等はこの時間帯には必ずと言っていい程会議をしている。
それなのに・・・・。




「代理に任せてここまで来ました。
 それよりも兄さんっ!!」




バンッと机を叩くと、憤慨した様子で怒鳴るクレイス。
彼はここまで怒る性格ではない。
元は大人しく、更に大声を上げるなんてもってのほか。
こんな実の双子の弟にここまで言われたリュオイルも、唖然として見るしかない。



「ク、クレイス。」

「大体兄さんは1人で何でもかんでも勝手に決めて・・・・。
 挙句の果てには父母には事実を告げても、弟には告げられないことなのですか!?」

「お、落ち着くんだクレイス。」



自分の上司であるカシオスが仲介する事で、クレイスははっとして落ち着いた。
だが、この事を知らされていなかった事に怒りを覚えている心は静まる事は無い。
目線を合わす事が出来ないリュオイルは、何度か口篭るが中々いい言葉が見当たらなかった。





「あ、あの・・・。クレイスさん?」





おずおずと話しかけたのはフェイルだった。
同じ顔でほぼ同じ声で怒鳴られては、どうも気が滅入る。
ただ誤解している事はちゃんと訂正しなくてはならないので、何が何でも怯むわけにはいかない。



「あ・・・。」



見知らぬ少女がいた事で、すっかり熱が冷めたクレイスは律儀にお辞儀をする。
それに見習うようにフェイルもお辞儀をした。



「えっと、どちら様でしょうか。」

「あ、初めまして。フェイル=アーテイトといいます。」



やっぱりどこをどう見てもリュオイルと重なってしまう。
この口調と服装を除けば、全てが同じ様に見えるのだ。
服装は白でほぼ統一された魔法騎士の服。
丈が長く、思わず踏んでこけてしまいそうなのだが慣れれば平気なのだろう。



「フェイルさん・・・・。えっと、貴女はどうしてこの場所に?」

「クレイス!!
 と、取りあえずお前も座って。それから話を始めよう。」




冷や汗を掻きながら、そして引きつった笑みで椅子に座る事を進めるリュオイル。
クレイスが怒る事は年に1度あれば良いほうで、本当に怒らない性質なのだ。
普段怒らないからこそ、本当に時々弾けるのが恐ろしい。




「・・・・分かりました。」




そう言って渋々とリュオイルの前の椅子に座るクレイス。
こう前後に同じ顔が揃うのも何とも言えない奇妙な感覚が。








「・・・で。  どういう事なのでしょうこれは。」







ギッとリュオイルを睨み付ける。
第三者から見ればそれほど強く睨んでいないのだが、やはり兄弟。
リュオイルはたじろいで口篭るばかり。
それほど、クレイスが怒った時は怖いのだと痛感した。










「成る程。大よその事は分かりました。
 ですがその決断をした兄さんも、そしてフェイルさんも自分で無茶しているということがお分かりですか?」



全てを聞いてもやはり納得がいかない。
そんな表情で2人を交互に見るクレイスは溜息を吐いた。
その彼の微妙な仕草で固まるリュオイル。
見ている方は楽しいのだが、そろそろお開きにしなければ。

「分かってます。
 私自身が、馬鹿なことしているのも分かってます。」



でも
それでも成し遂げたい事がある。



「これは命令された事だけど、でも決断したのは自分自身です。」



悔いを残すくらいなら
どれほど危険な場所にだって行ってみせる。



「私は、自分自身の足で行くんです。
 誰かに左右されたわけじゃない。」



私が決めた事。
だから、いいんです。



「・・・フェイル。」

「分かりました。フェイルさんが、そこまで言うのならもう私に止める事は出来ません。
 ・・・ですが、兄さんの決意は全くと言っていい程聞いていないので宜しくお願いします。」



彼女の決意がここまで固いならもう自分自身からは何も言えない・・・・・。
だけど兄さんは違う。
さっきから黙っててちっとも話さない。



「もしも王や評議員だけの命で動くというならば。
 私は兄さんを家の柱に縛り付けてでも行かせませんからね。」



いきなり自分に話を振られてリュオイルは固まった。
しかも語尾の部分がかなり怖い。
弟も根が真面目なせいで、一度言った事を必ずやり遂げる体質だ。
ここで負ければ確実にリュオイルは柱同然のような毎日を過ごすだろう。
それだけはある意味避けたい。



「え・・・いや・・・・・。」

「口篭る前に言うべき言葉があるでしょう。」

「え・・・・。」

「が、頑張れよリュオイル!
 私にはこれを止める事は出来ないからな!!」



なんたって裏の魔法団長って言われるほどだからだから。

それでいいのか!?現魔法団長!!!

だって、こいつ静かに怒るから怖いんだぜ?





じーと見つめられる(もとい睨まれる)と流石に疲れる。
兄弟だが彼の扱いにあまり慣れていないため、こう言い寄られると結構困るものだ。
第一、団長のカシオスがクレイスを見て顔がが引きつっている。
彼が普段どのように仕事をしているか知らないが、彼の性格上真面目なのは当たり前だろう。
どこか諦めた様子のリュオイルは、意を決して重い口を開いた。




「僕は、王や評議員の言いなりになっているわけじゃない。」



これは、事実だ。



「じゃあ、どうしてですか?」



不審そうな目でこちらの様子を探ろうとするクレイス。
彼は人の心理を上手く理解することが出来る。
それが兄弟でも少し怖い。 何もかもが見透かされているのかもしれない、と思うと不安になるのだ。


(でも、ここで怯むわけにはいかない。)



「僕は、彼等にも王にも言ったけど、護りたいものがある。」

「それは、国ですか?それとも名誉。」




違う。
そんな安っぽい言葉なんかじゃない。
決して言葉では言い表せれない。


「僕は、父さんや母さん。そしてクレイス達を護りたい。」


国のためじゃない。
上手いようにこき使われているんじゃない。
ただ、一心に思う願いがある。
それを護りたいと思った。
だから
自分の足で歩く。
後悔しないために。
もう、迷わない。





「どうして、私に相談してくれなかったんですか?」




先ほどとは程遠い弱弱しい声でクレイスは呟いた。
その表情は悲しみで溢れていて、まるでリュオイルが泣きそうな顔をしているように見える。
驚いたリュオイルは、どう対処していいか分からずただ焦るだけだ。



「え・・・。ク、クレイス?」

「兄さんはいつだってそうです。
 いつもいつも、御自分だけで物事を解決しようとして弟である私には何一つ頼ってくれない。」



時々悲しいと思う時がある。
もしかすれば、私は実の兄に頼られないほど情けない人間なのかもしれないと。



「私は、ずっと兄さんの傍で成長するのを見ていました。
 兄さんの事を誰よりも知っています。」



でも、それでも一緒にいる期間は少ない。
だからこそ、たまに会う時がとても楽しかったし楽しみだった。



「私が一番腹を立てている事は、何も相談してくれなかったことです。
 全て・・・・御自分を犠牲にして歩いていく兄さんを見るのは嫌なんです。」



昔から、小さい頃からずっとこんな調子の兄。
たまには休んでほしいのに
昔みたいに笑ってほしいのに
それを邪魔するのは全て国。
時々兄さんが怪我をすれば暫くは公務を休めれる、とまで思った事もあります。




「・・・・は?」




流石に冷や汗が出てきたリュオイルは、今自分が聞いた事を否定したかった。

(今最後に、とんでもない事口走らなかったか?)



「でも、事実をおっしゃってくださったのでこの件については取りあえず終わりです。」

「・・・・・・・この件?」

まだ何かあるのか?



「当たり前じゃないですか。
 さっきの件よりもっともっと大事なお話です。まあ、すぐに終わると思うんですが。」



明後日の方向を見ながらそう言うクレイス。
まだ何かしたであろうか、と困惑気味なリュオイル。
一体どっちが兄か分からない。



「クレイス。僕、何かしたかな・・・・?」

「何かしたとか、そういう問題じゃないんですけどね。」



きっぱりそう言うとクレイスは少し目を伏せた。
リュオイルはというと、どんな説教が来るかでたじろいでいる。
きっぱりさっぱり言うこの性質は、リュオイルも同じなのだが弱点を知っている彼はやはり強い。
逆に言えばリュオイルはクレイスの弱点など全く知らないのだ。
ビクビクしながら構えていると、彼はリュオイルの予想していた事とは全く違うことを言った。




「行ってらっしゃいませ。兄さん。」




「・・・・・え?」



ふわっと笑うクレイスにリュオイルは気が抜けたような顔をした。
予想外の言葉と態度に頭が回らず混乱している。
それを知ってか知らずか、クレイスは気にした様子なく続けた。



「これから戦場に向かわれる実の兄に、挨拶なしで見送るほど非情じゃありませんよ。
 兄さんが私達を護りたいと願うのなら、私達家族は兄さん達が帰ってくるのを願うだけです。」



貴方の本当の気持ちを知ったから
だから今度は私達が願いたい。
帰ってくると約束してくれた。
だったら、私達はいつまでも待ち続けます。



「クレイス。」

「約束です。
 必ず帰ってきてください。」



そう言って手を出すクレイス。
それの意図が分かったリュオイルは、同じく手を差し出した。



「あぁ。必ず、帰ってくるよ。」



双方の手を取り合い、固く握ると2人は笑った。
同じ顔が同じ様に笑っているのも不思議な感じだ。
何かを悟りあった2人は、すぐに手を離す。



「行ってらっしゃいませ、兄さん。」

「あぁ。行ってきます。クレイス、皆。」








別れもそこそこに、2人はフィンウェルを出発した。
門にまで付いてきたリティオンとカシオスとクレイスだったが、
最初見た顔よりずっと晴れていた。
それは、2人が見えなくなるまでずっとそこから離れる事はなかった。



「・・・・見えなくなっちゃったね。」
どこか名残惜しそうにして後ろを振り返るフェイル。
それを見たリュオイルは、つられるようにして振り返った。



「うん。」

「でもまた帰って来るんだから。大丈夫だよ。」




大丈夫。



きっと、きっと帰れるから。




2人の旅は
始まったばかりだった。