■天と地の狭間の英雄■
       【遺跡】〜突如現るトラブルメーカー〜












イルシネス港を目指す前に、2人は一旦アンディオンに向かう事にした。
アンディオン。通称スパイの町。
そこに生まれた者は、拒否権なくスパイになるための運命を辿らなければならない。


「スパイ・・・・。私、そんな言葉あんまり聞かなかった。」

「フィンウェルではよくあるよ。
 王族のスパイとか、けっこう凄腕だから信頼してるんだ。」


彼等の情報は的確で、しかもその話を上手い具合に聞きだす事が出来る。
勿論、典型的なスパイでなければそうはいかないが、その多くがアンディオンで生まれている。
戦争なんてものを起こせば、スパイはとても重要な者なのだ。


「ふーん。私の村はそんな事全くないからね。
 良く分からないけど・・・・会ってみれば分かるかな?」


村を出るまでは知らない単語が多すぎた。
この大陸に来るまでだってかなり時間が掛かったものだ。


「そうだね。
 彼等は結構警戒心強いから特徴が分かりやすいかもしれないよ。」


が、あくまでその考えは書物から得た知識に過ぎない。
もしかすれば愛想の良いスパイだっているかもしれないのだ。
それにリュオイル自身、ほとんどスパイを見た事はないし必要もなかった。
特殊部隊は、スパイに頼ることが全くと言っていい程ない。
殆どが独自で動き、情報を入手している。
スパイの人達と比べれば大した情報ではないだろうが、それでも少しは役に立っているのだ。


「そっか。
 じゃあ楽しみだなー。どんな人達に出会えるんだろ。」


見るもの聞くもの全てが新鮮で、森の中で育ったフェイルは何もかもが珍しい。
これまで外部との接触がなかったので尚更なのだが、その楽しそうな姿を見るとこっちまで楽しくなる。
リュオイル自身も、外に出る事は久々なのでフェイルと同じ気持ちだ。

少しだけ、自由になれた気がした。



「大分歩いたけど、もうすぐかな?」


地図と睨めっこして前方を睨むフェイル。
この小さな少女のおかげで僕は自由になれた。
騎士という定めから、解放してくれた。
育ちも何もかもが違うけど、初めて出来た友達。仲間なんだ。
彼女はどう思っているか分からないけど、本当に感謝している。


「そうだね。もうそろそろ着いてもよさそうだ。」


フェイルから地図を受け取ると、位置確認をした。
道は間違えているわけがない。
外に出るのは確かに久々だが、何度もイルシネス港に行った事もあるしアンディオンにも行った事がある。
よほどの事がない限り迷うことはまずない。


「1日かかってこれくらいの距離・・・・。うん。もうすぐだよ。」


そろそろ日も暮れてきたし、出来れば今日は野宿を避けたい。
昨日の夜もそうだったが、相変わらず外の世界は治安が悪い。
猛獣やら夜盗やらなんやらかんやら、引っ切り無しに出てくる。
昨日は無理言ってリュオイルが見張りをしていたためあまり眠れていないのだ。



「リュオ君、大丈夫?」



心配そうにリュオイルの顔を除きこむフェイル。
出来るだけ早く着くために、今朝はかなり早くから出発したのだ。
ずっと歩きっぱなしだというのに中々アンディオンに辿り着かない。



「え、あぁ。僕は大丈夫。」



にっこり笑って、心配させないように、安心させるようにして優しく笑った。
本当に1日くらいの徹夜なら、城にいた頃はよくあったので慣れている。
そのつどにリティオン達に叱られていたが、今思えば懐かしい記憶だ。

昔の事を思い出していると、前方に茜色に染まる建物が見えてきた。
こじんまりとしていて大きいとは言えないがあれはまさしくアンディオン。



「あっ!!リュオ君もしかして・・・。」

「うん。あれがアンディオン。
 取りあえず今日は野宿は避けられそうだ。」



まだ夕日が出ていて安全だが、もう少し暗くなればまた戦闘は避けられないだろう。
夜になれば魔獣達は、昼間より強い。
下手に労力を使うよりは効率よく使った方がいい。

そう思いながら、2人は歩く足を速めるのであった。








「・・・・こんな遅くに、若い旅人が2人どういった御用件でしょうか?」



歳若い青年が、松明を持ちながら2人の顔が良く見えるように照らした。
穏やかそうな顔つきをしているが、それでも流石スパイの町。
身のこなしは実にしっかりしていて隙が全くない。



「こんな夕刻にすまないんだが、一晩宿を貸してほしい。」
「・・・・・その身のこなし。そしてその声。
 ま、まさかっ!!ウィスト様ですか?」



最初の方こそ胡散臭げに眉をひそめていた青年だったがリュオイルを見た途端驚いた様子で瞠目した。
そんなに大声は出さなかったものの、混乱しているようで目が泳いでいる。
一方のリュオイルはというと、何故自分の名前を知っているのかが不思議だった。



「どうして、僕の名前を?」

「あ、いえ。
 以前町長が任務から戻られた時にお話していたのです。とても勇敢で素晴らしい方だと。
 紅色の髪を持つ少年と聞いていましたのでそうではないかと思い・・・。」

「・・・・・買いかぶりすぎだよ。」



ぽつりと零したリュオイルの言葉は青年に届かなかった。
敏感に反応したフェイルは、リュオイルを凝視している。
その姿はどこか寂しそうで、今にも消えてしまいそうだった。



「・・・そうですね。
 夜間の他国の出入りは控えているのですが、ウィスト様なら大丈夫でしょう。」



どこか安心しきった笑みに2人はお互いの顔を見合わせて苦笑した。
まさか顔パスでこの場所に入れるとは思わなかったからだ。
そう思っていると、もう1人の青年にこの場を任せ、その青年は2人を宿屋に案内した。



「申し遅れました。
 俺はこの町の自衛団のイレス=バッドウィル=レイルと申します。
 宿屋はこの先の角を曲がった所にありますが・・・如何なさいますか?」

「あ、いや。町長に挨拶した方がいいかなって。
 町長宅はどこにあるんだい?」




いきなり他国の者が入ってきたのだ。
挨拶をするのが礼儀だろう。



「町長宅、ですか?
 そこまではかなり入り組んだ道になりますので俺が案内します。付いて来てください。」



薄く微笑すると、彼は松明を片手にどんどん歩き出した。
アンディオンに着いた時はもう夕日は隠れていて暗かった。
町の中も暗いわけではないのだが、フィンウェルと比べると松明の数が少ない。
いらない。と思ったところは削っていって節約をしていると思われる。




「それにしても、随分と静かなんだね。」



ふと疑問に思った事を口に出したフェイル。
それがイレスにも聞こえていたようで、彼は苦笑しながら後ろを振り返った。



「あぁ。
 でもそれはこの数日だけなんですよ。」

「数日?」

「はい。
 アンディオンに生まれた子は皆、一定の年齢を超えると試練を受けなければならないんです。」

「試練?」



何とも物騒な・・・・。
そんな複雑な思いになりながらも、フェイルは黙って聞いていた。
各町の掟などにいちいち突っ込みを入れていればあっという間に日が暮れそうだからだ。



「そんな大層な事はしないんですけどね。
 ここから東にある森の奥に、クラード遺跡というものがあるんです。
 そこは代々アンディオンの管理下であり、そして修行の場でもあるのです。」

「修行?そんな話、聞いたことないけど・・・。」



胡散臭そうに顔をしかめたリュオイルにイレスは苦笑するばかり。
何か隠しているようには見えないが、その微妙な変化が気になる。
この辺りの情報は一応フィンウェルに届くが、それでもガードは固い。
かなり重要な事は、何が何でも彼等アンディオンの人間が守り通している。
王もそれに対して何も言っていなかった。




「・・・・そんな隠すものではないんですけどね。」




そう言ってその話しは中断された。
リュオイル事態もそこまで気にしていないのかそれ以上追求する事はなかった。
大体今は他の任務についているのだ。
他の事に気を取られている時間はない。



「そっか。
 子供がいないなら静かなのも納得がいくね。」



キョロキョロと辺りを見回すフェイル。
家々からの明かりは漏れているものの、人の声が殆どしない。
少し寂れているようにさえ感じられた。



「そろそろ町長宅ですよ。」



さっきから喋っていて気がつかなかったが、そういえばかなり歩いたと思う。
グルグルと道を曲がって、やっと辿り着いた。
坂やら階段やら・・・・・。今思えば喋っていて良かったのかもしれない。





「ここが、町長さんの家?」



ついっと指差すところには一軒の家。というか建物。
町長の家にしては少し小さめな、こじんまりしたとは言い切れないがそれほど大きくない。
窓からは明かりが零れていて、そこから話し声も聞こえる。


コンコン。


イレスが立派な扉を叩くと、扉越しから女の人の声が聞こえた。
恐らくメイドか何かだろう。
話をしているみたいだが、小さな声なので聞き取れない。
小高い場所から下を見下ろすフェイルは、町を一望できるこの場所に驚いていた。



「わぁ・・・・。すごーい。」



今はどこも明かりが少ないが、恐らくその試練とやらが終わればここはもっと活気が出るだろう。
フィンウェルも、こことは比べ物にならないほど活気があったが、
フェイルはこの素朴な感じのする風景が好きだった。



「へぇ。ここは風もよく通るね。」



心地よい風がこの町を包み込む。
フィンウェルなどの都では、建物が多くありそれなりに高層なので風通しはあまり良くない。
リュオイルもこの場所が気にいったようだ。



「あ、ウィスト様。」



どうやら話しが終わったようで、イレスはリュオイルに近づいてきた。



「俺はここでお暇させて頂きます。
 道に迷いましたら町の者にでも聞いてください。皆優しいですから。」

「分かった。ここまでありがとうイレス、助かったよ。」



「いえ。」と短く返事をすると、イレスは門の所にまで走って向かった。
彼が言った通り、この町の人間は皆優しそうだ。
ここに来るまで、何人かと顔を合わせたが、不思議そうな顔をして皆すぐ笑う。
笑顔が似合う町だ。
リュオイルは痛切にそう思った。
自分には、考えられないと・・・・。


―――――カタ・・。


急に音がして、2人は一斉に振り返った。
後ろを振り返ると、そこには1人のメイドが微笑して立っていた。
彼女に近づくいた2人は早速町長に会う事にする。



「長旅お疲れ様です。
 主人は奥の部屋でくつろがれていますので、少々お待ちください。」



その扉の前まで来ると、また待たされてしまった。
こういった事はリュオイルは慣れているだろうが、フェイルはそうでもない。
不思議そうにしてリュオイルの顔を見るが、彼は苦笑するばかり。



「長いね。」

「まぁ、そんなものなんだよ。もう少しだけ辛抱しようね。」



どう考えても一般人には長い。
ここまで待たされるのもどうかと思うが、せっかく快くここまで案内してくれたのだ。
待っていなくては礼儀がなっていない。






「お待たせいたしました。どうぞ中にお入りください。」


ギィッと扉の開く音がすると、そこからさっきの女性が出てきた。
中に入るように言われて、とりあえずリュオイルから入る。
室内はシンプルな造りで、飾りなど殆どなくほぼ一般人の家と同じ様なものだった。



「これはこれは。
 ウィスト将軍がはるばるこのような地に足を運んでくださるとは・・・。」

「初めまして。
 ご存知の通り、私はリュオイル=セイフィリス=ウィストです。
 この度はアンディオンに入れた事を感謝します。」



姿勢を伸ばして、堅苦しく挨拶をする。
というよりもこれ以上以下の挨拶の仕方を殆ど知らないリュオイルにとっては当たり前の事なのだが、
町長は少し驚いた顔をして、そしてすぐにこやかに笑った。



「そう固くならないで下さい。
 私はこの町の長を務めていますレイジ=ウィン=アドネスと申します。」



スッと差し出されたのは、幾分かしわの入った大きな手。
それを驚いて見たリュオイルは、どこか納得したようにして手を出す。
握手をした2人は薄く微笑すると、レイジは2人に座る事を進めた。



「して?そちらの娘さんはどなたでしょう。
 この辺りでは見かけない顔ですが・・・・。」

「あ、初めまして。
 フェイル=アーテイトって言います。」



ぺこりと頭を下げてお辞儀をすると、それに満足したようにして彼は笑った。



「長旅ご苦労様です。
 この様な町の宿で良ければいくらでも使ってください。」

「いえ。こちらこそ、無理言って入らせてもらって・・・。」



本来ならこの時間は警備体制に入り、町の者でしか出入りする事が出来ない。
それを無理して入ったのだから、彼等には本当に感謝しなければならない。



「いえいえ。気にする事はありませんよ。
 最近は治安も悪くて・・・誰がどんな人間か。
 それを判断するのも我々の役目ですからね。」



門番の人間は特に注意して外の人間を見ている。
彼等が2人に何の疑いの目を持たずこの町に入れたのなら2人は正真正銘の善客なのだろう。
それに、この町の町長がにこやかに話しているのだから間違いはない。
ほっとした様子でフェイルは胸を撫で下ろした。
リュオイルは兎も角、フェイルはごく普通の一般人なので入れなかったらどうしようと思っていたのだ。




「それはそうと、お2人はお急ぎなのですか?」

「え?」



急に話しが変わり、そしてどこか真剣そうに話すレイジに2人は眉をひそめた。



「どうか、なさったのですか?」

「いえ・・・・。
 あなた方も気づいておられると思いますが、今殆どの子供はクラード遺跡という所に行ってましてね。」

「あ、確か試練がどうとかこうとかってイレスさんが。」



ここに来るまで長々と話したものである。
途中でその話が切られてしまったから、細かい事が分からない2人は余計に不思議そうな顔をした。



「それが、どうかしたんですか?」



意を決してリュオイルが尋ねると、レイジは少し難しそうな顔をして唸った。



「その付添い人が、私の娘でしてね。
 3日前に行ったきり、子供も娘も帰ってこないです。
 本来試練は1日で終わるんですが、一体何をやっているのか。」

「3日って・・・・2日間も戻ってきてないじゃないですか!?」



驚いて、思わず大きな声を出してしまったフェイル。
けれどそれを制されることはなかった。
表情に出してはいないが、リュオイルもフェイルと同じ気持ちだ。



「まぁ、娘がいますから大した事は無いと思うんですけどね。
 あの辺りの魔物はこの辺りのよりは遥かに弱いですから。」



何を言うんだこの人は。
といった感じで、呆れたようにしてレイジを見つめる2人。
幾ら魔物が弱いからって、子供がいるのだ。ましてや自分の娘まで。
どうやったらこんな平気な顔をしていられるだろうか・・・・。



「安心してください。
 私の娘は武道家ですから。この町でもかなり強いですよ。」



もう少しおしとやかになって欲しいのだが・・・・。
ブツブツと何やら叶わなさそうな願いを呟いていたが気にしないでおこう。
それよりも、ここはスパイの町なのだ。
それなりに戦う術を持っていても、女性が武道家なんて。
信じきれていないリュオイルは眉をひそめるばかりで、中々理解が出来ない。



「で?私達に何か要求でもあるんですか?」

「要求だなんてとんでもない。
 ただ、心配でも私達大人も手が空いていないんです。
 探しに行きたくても行けないのが現実なわけで・・・。」

「あ、じゃあ私行きます。」



レイジが言い終わらないうちに、フェイルはすかさず手を挙げた。
嫌な予感がしていたリュオイルは、「やっぱり・・。」と呟いたがそれは2人には聞こえなかったのだろう。
話を進めるフェイルに、頭痛がしながらもリュオイルは初めて待ったをかけた。



「フェイル。
 僕達にはちゃんと旅をする目的も理由もあるだろ?」

「でも、困ってる人がいるのに・・・放っておけないよ。」

「あのねぇ。」



こういった性格は身近にいたから慣れている。
慣れてはいるのだが、やはり苦労するのものだ。



「あ、大丈夫。私1人でも何とか出来るよ。
 リュオ君はここで待ってて?」



何を言い出すんだこの子は。と言わんばかりにリュオイルは大きな溜息を吐いた。
1人でどうこう出来るほど簡単な事ではないことを彼女はちゃんと理解しているのだろうか。



「そっちの方がもっと駄目だろ。
 ・・・・しょうがないね、僕も行くよ。1人より2人の方が早く終わるからね。」



それを聞いた途端、フェイルは嬉しそうにして両手を合わせた。



「わー!!本当!?
 ありがとう、リュオ君!!」



飛び跳ねそうなほど喜ぶフェイルに、リュオイルは少し照れたように笑った。
ここまで喜んでくれたのなら、この決断は良かったのかもしれない、と。



「そうですか、引き受けてくれますか。」

「まぁ、成り行きですけどね。」

「頑張りまーす!!」



・・・・・やっぱり先行きが不安だ。









東の森の奥に位置する遺跡。
その名をクラード。
古代族が残したと言われる遺留品や書物が保管されている重要な場所である。
今となっては古代族の情報も少なくなり、大変貴重な遺跡として登録されている。(有効期限は50年。)



「有効期限って、何?」

「・・・・さぁ。」



ここはアンディオンの資料館。
リュオイルは、やはり遺跡の事が気になり2人はこの資料館に足を運んだ。
思っていた通りに資料は見つかったものの、あまりの古さと埃っぽさに2人は少しながら不審に思っていた。
嫌な予感が見事に当たり、リュオイルは思わず脱力した。



「これ、確かに昔に登録されていたんだろうね。
 ほら。フィンウェルの認定書があるし、何よりこのサインが一世代前の王だから。」

「放っておいていいの、これ?」



指差すのは埃だらけで、今にもむせ返すような古い本。
分厚くは無いが薄くも無い。
恐らく数十年前の、しかも50年以上も前のものだろう。
ここまで放置されているのもどうかと思われるが・・・・。



「うーん。
 詳しい事は分からないけど、50年の期間が過ぎてからまた認定書申し込みしてないんじゃないかな?
 結構時間掛かるし、面倒だからって言ってやらない場所も幾つかあるんだ。」



ついでに言えばお金もかかる。
コストが高い分、50年の有効期間が過ぎると大抵の町や村は申請書を出さない。
逆に言えば、この世界にはかなり重要な遺跡があっても何の保障もされていないのだ。



「・・・・・お金、取るんだ。」

「うん。
 昔よりはコストも下がってるから、大分申請しやすくなってると思うんだけどなぁ。」



申請が無ければ、国も動かない。
重要な物があると知っていても何もしないのだ。
第一認定するには各大陸の王からの印を貰わなければならないのだが
手間暇かけてやっと認められるものなので、やはりそれを利用する人は少ない。



「色々と面倒な事ってあるんだねぇ。」

「まぁ、これくらいならいいとは思うんだけど・・・・。」



クラード遺跡は一応一度でも申請してある。
一度登録された物は、国がその資料を保管しているから今の所は大丈夫だろう。
ただ有効期限が過ぎてからかなり月日が経っているのなら別だが・・・。




「・・・・へぇ。
 古代族の、それも魔力の高い種族が建設した遺跡らしいよ。」

「魔力が高い種族?
 古代族にもそんな振り分けあったの?」

「振り分けと言うか、古代族は能力に応じて集落を作っていたらしいから。
 力のある者同士、魔力の高いもの同士、とね。」



今となっては考えられない事だ。
そんなバラバラで共に生きるより、バランスよく人々を集めないと今はやっていけない。
それに今そんな生き方をしていれば、力あるものは魔力あるものに殺されてしまう。
またその逆も然り。



「でも何となく事情は呑み込めたし、後はその迷子の子供達を救助すればいいんだね。」

「迷子と言うか、救助と言うか。」

「えっと・・・確か。」

「東の森だよ。
 町長は明日の朝でも構わないって言ってたけど、善は急げって言うからね。
 取り返しのつかない事になってたらそれこそ重大事だ。」



かなりの日数を空けているのだからそれくらいの予想は出来る。
本当はそんな嫌な予感が当たってほしくないのだが、
今までに何の連絡も取れていないのなら考えられない事は無い。
寧ろそちらの確立の方が高いから今焦っているのだ。
外は暗くなっているものの、まだ時間帯は夕方と言えるので問題は無いだろう。
心配なのが方向だ。
こう暗いと、途中で道を間違える可能性がある。




『外は危険ですから、これを持って行ってください。』




町長から手渡されたのは、松明ほどの明るさを放つ物体。
光明種(コウミョウシュ)と言われる小さなランプのようなものだ。
踏み潰すか何かをしない限り消える事は無い光。
遺跡の中も松明は幾らかあるが、やはり夜は暗いためこれを持たせてくれた。



「それじゃあ、行こうか。」

「うんっ!!!」

















ぽた・・ぽた・・。



「・・・・う”ー・・・・・。」



冷たい雫が頬に伝った。
その冷たさで目を開ける女性。
薄手の服を見にまとい、拳にはなにやら物騒なものをはめている。

ムクッと起き上がると、女はガリガリと頭を掻き、まだ覚醒しきれていない目を擦った。



「・・・・・・ここは・・・・・・。」



真っ暗な世界で包まれたこの場所。
女はハッとした様にして勢いよく起き上がると、一つの道を走り始めた。




「っ、レイラスーーーーーーーっ!!!!!」














「ん?リュオ君、何か言った?」

「え、いや。何も・・・。どうかしたのかい?」

「うーん。空耳かなぁ。
 何処からか声がしたと思ったんだけど。」



真っ暗な星空の中、2人は光明種を片手にクラード遺跡に近づいていた。
思っていたほど離れていなかったおかげで、最短の時間と距離で来る事が出来た。
2人が立ち止まったのはその遺跡の入り口。
正確に言えばフェイルが急に停止したため、リュオイルが首を傾げていたのである。



「遺跡の中からだとしても、聞こえるわけ無いと思うけど。」

「そうだよねぇ。うん、空耳・・・かな?」



あれ?と首を傾げながらも、それ以降全く声はしなくなったのであまり気にしなかった。
こんな時間帯に誰かがいるわけが無い。
第一自分達が探してきているのは町長の娘と村の子供達だ。



「ほらフェイル。急ごう。」

「うん!!」



ふっ、とフェイルは後ろを振り返った。
だがそこにあるのはただの森。
どこか複雑な顔をしたフェイルは、一瞬戸惑ったもののそのままリュオイルの後についていった。




「うわっ。
 中はかなり湿気ってるな・・・・。一体何年放置してたのやら。」



本来なら遺産として登録されているこの遺跡。
登録さえしていれば、国の援助もあり大分ましになると思うのだが。



「あらら、これって苔だよね。
 湿気があってジメジメしてるから滑らないようにしないと。」

「それは僕がフェイルに言いたいんだけど。」


危なっかしいし。


「わ、私は大丈夫だもん。」

「そうかなぁ。
 そのうちこけそうな気がするけど・・・。」

「そんな事な――――――ひぇぇぇぇえええ!!!」


ずしゃっ!!




「・・・・・大丈夫?」



予想していなかった(ちょっとしていた)展開に、唖然とするリュオイル。
さっき注意したはずなのに。と、少し虚しさを覚えながらも苦笑して倒れているフェイルに手を伸ばした。
「う”ーう”ーう”ー・・・・・。」と唸っているが、多分大した怪我はしていないのだろう。



「ははは。
 まさか本当にこけるとは思わなかったよ。」

「・・・・・・・・。痛い。」

「そりゃあ前からこければね。どこか痛むかい?」

「ううん。ちょっと鼻擦りむいた程度だから。」



そうは言っているものの、真っ赤になった鼻はとても痛そうだ。
本当にそれ以外外傷は無い様なので、リュオイルはこっそり溜息をついた。




(良かった)




倒れた瞬間は頭がついていかなかったが、理解した時は流石に焦った。
恐らく顔には出ていないだろうがリュオイルはかなり心配している。
ただそれをどうやって表すのか分からないだけだ。



「うーんうーん・・・・。
 これくらいなら後で傷薬塗っとけば大丈夫かも。」

「そう?
 今やっておいた方がいいんじゃないのか?」



放って置いたら最悪痕が残るかもしれない。
女の子の顔に傷をつけるなんて・・・・・。
どこか考えられない表情のリュオイルは、荷物の中から薬を取り出した。



「・・・・リュオ君、何それ。」

「傷薬。
 フィンウェルを出る時にリティオン達から貰ったんだよ。
 『怪我ばかりしているから心配だ。』ってね。」


会議や戦闘や治安維持やなどetc.。
数え切れないほどの激務をこなしてきたリュオイル達の部隊。
リティオンやカシオス達のように、剣なら剣。魔法なら魔法。といった決められた事を重視して
任務が出来ればいいがリュオイル達の部隊。『特殊』な部隊は違った。
いつもいつも、突然任務が与えられて瞬時の如くそれを片付け、また次の任務をこなす。
その将軍を務めているのだ。
他の部下より遥かに疲れも出ているはず。



「そっかそっか。
 うん、リュオ君大変そうだもんね。」



どこか納得した様子のフェイルは、ガクガクと首を上下に振るとその薬を塗り始めた。




「・・・・・しみる。」




やっぱり痛かった。



「そりゃ、薬だからね。仕方ないよ。」



瓶に入っている薬をしまうと、リュオイルは立ち上がりこの暗い空間に明かりをつけた。
光明種はぱっと勢い良く光を放ち、この暗い空間を一気に明るくする。



「・・・・・・。」

「リュオ君?どうしたの。」




下を見たまま微動だにしない彼にフェイルは戸惑いながら顔を除きこむ。
真剣な目をしたリュオイルは、はっと元に戻ると苦笑しながら指を指した。



「見てごらん。」

「・・・・・・・・足跡?」

「そう。それも最近のだよ。
 換気も掃除も殆どして無いから埃や苔にくっきりと残ってる。」



下に残っている足跡。
それはどれもこれも小さな、子供の足跡だった。
しかも複数。
歩幅が違うため、町長の娘と思われる足跡は大分先にあった。
それも真新しい。
しかも行きの分しか残っていないのでまだ中にいる事が分かる。



「じゃあ、中にいるのは確実なんだね。」
「そうだよ。でも3日間も一体・・・・。」





やはり魔物に襲われたか?





「だ、大丈夫だよ。生きてるって信じなきゃ!!」

「・・・・そうだね。
 まだ可能性が無くなったわけじゃないんだから。」

「そうそう!!」

そう言って2人は奥に入り始めた。
空気が悪いこの場所に3日もいればかなり気分が悪くなる。
一刻も早く子供達を捜さなければ。





「・・・・・・・・?」

「どうしたんだい?」



ぴたっと立ち止まったフェイルは、辺りを見渡した。
キョロキョロと、せわしく首を動かす彼女にリュオイルは不思議そうに首を傾げるばかり。



「どうしたのさっきから。」

「リュオ君、何にも言ってないよね?」

「?あ、あぁ。何も言ってないけど・・・・・どうかしたのか?」

「だって何か、何処かから声が。」

「声?
 さっきも同じ事言ってたね。一体・・・・。」








「どぇぁあああああああああああああああああああああああ!!!!!」



―――――――ずしゃぁぁぁぁぁぁ!!!


「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」



明らかに天井から落ちてきた「何か」
それは激しい音と埃と共に上からまっ逆さまに落ちてきた。
びっくりして声も出ない2人は、上下を交互に見ながら呆然としている。
それほど高くない天井だが、落ちるには高すぎる程の高さ。
その「何か」を確認しようとしたリュオイルは、何を感じたのか一気に後ろに飛びのいた。



「リュ、リュオ君!?」

「・・・・・・・・。」



何も話さないリュオイルにフェイルは困惑した様子で様子を見る。
すると突如その「何か」がモゾモゾと動き出した。
ビクッとして警戒するフェイル。
それとは対照的にリュオイルは少し真っ青になりながらその「何か」をずっと見ていた。





「あだだだだ。
 ・・・何やこの遺跡はぁぁぁぁああああ!!!
 トラップがあるなんて聞いてへんでっ!!!?」


ガバァア!!!



勢い良く起き上がったそれはまさしく人間。
しかも女性。
しかも変な喋り方。
しかも煩い。




「・・・・・・誰だ。」



いつもより幾分か低い声で睨みつけるリュオイル。
明らかに警戒心剥き出しなため、ピリピリする空間をフェイルは堪えなければならない。
だがその女性は、大した反応は見せずにただ不思議そうにこちらを眺めている。



「・・・・・なんや、あんたら。」



頭をガリガリと、警戒心を持っているリュオイルとは逆にへらっと笑う女性。
薄手の服を身にまとい、拳には武道家専用の装備がしてある。
腕や足に傷があるのは今天井から落ちてきた事が原因と思われるが。手当てをした方がいいかもしれない。



「僕はリュオイル=セイフィリス=ウィスト。
 こっちがフェイル=アーテイト。
 アンディオンの町長からこの遺跡に入った子供複数と、町長の娘を探しているんだが・・・・。」

「なんやて!?
 うちがその娘のアレスト=ウィン=ラスターや。
 しっかし、親父がんな事言っとったんかいな・・・・。」



パンパン、と服についた埃を払い落とすとアレストはリュオイル達の前に現われた。
女性にしては長身の背丈に額には赤のバンダナ。
ニコニコ、というよりニカニカと笑っている屈託の無い笑顔が特徴的だと思われる。



「君が、アレスト?」

「せやで。
 帰ろうと思たら、子供がトラップにかかってな。
 今助けに行こうとしてるところや。」



その内、一番年長者の子供の名はレイラスと言う。
試練を終えた子供達とアレストは、町に帰ろうとしていた。
だが、道を踏み外して運悪くトラップに引っかかってしまった子供達はそのまま消えたのである。
それから何度も何度も罠にかかりながらも懸命に助けようとしていた。
その一場面を2人が目撃したのに過ぎない。

この遺跡の中の魔物は、強くは無いものの一般人の、それも子供相手だとそうもいかない。
小さな子供達が襲われれば生きて帰る事は不可能だろう。



「アレスト1人だと危ないよ。
 私達も子供達を捜すの手伝う。」



それほど広くない遺跡だが、奥には数多くの魔獣達がいる。
こんな物騒なところに1人だけ行かせるなんて出来なかった。



「・・・・そうやな。悪いけど手伝って貰えるか?」

「まぁ、成り行きだしね。
 じゃあアレスト、道案内よろしく。」

「まっかせとき!!
 もしかしなくても子供達は最深部に落ちてると思う。
 最深部まではここを右に曲がってその後また右に曲がった所にあるで!!」



案外近い所に休憩所があるので2人はホッとした。
遠い所にあれば、レイラス達を探すのにも手間がかかる。



「じゃあ、案内宜しく頼むよ。アレスト。」

「アイアイサー!!」



元気良く手を挙げたアレストは、楽しそうにして進んで行った。
さっき天井から落ちてきたというのに、ケロリとしている並大抵ではない生命力。
ただ単に丈夫なだけかもしれないが、そんな彼女が凄いと思うフェイルであった。






「そこにはトラップあるさかい気ぃつけや。
 ・・・・・・・あ、あとそこも。」



どんどん指摘していく数は増え、リュオイルは逆に疑わしくなり眉をひそめた。
いくらこの遺跡の管理する町の人間とはいえ、そうそう出入りするはずも無いはずなのにやけに詳しい。



「何で、罠の場所をそう的確に知ってるんだ?」

「んー?だって、なぁ。
 今の今まで全部うちが罠にかかったんやさかい。
 罠にかかって同じ場所でまたかかるアホなことはせえへん。」

「えっ!?
 ぜ、全部罠にかかったの!?」



ここまで来るのにかなり量があったはずなのだが・・・・・。
まさか全部かかって?



「せやで!!
 全く。なーんでこんなに罠があるか不思議なもんやで。
 おかげでうちのスベスベ肌が台無しやー・・・。」



ある意味器用な人物だ、とリュオイルは心の中でそっと思った。
アレストは露出している腕をさすると、まださっきの土埃が払いきれていなかった部分をはたく。
自然な行動と思っていたが、ふとフェイルが注意深く見ると、腕やら足やらに血がついている。



「アレスト、それって血だよね?」

「どぇぇえ!?
 ・・・・あぁ。さっき落ちた時に怪我したんやろうなぁ。
 まぁ舐めときゃ大丈夫やって。」

「えぇっ!?
 だ、駄目駄目!!!そこから菌が入って化膿しやすくなったりするよ。」



急にあたふたと焦りだしたフェイルは、アレストの腕を取り傷を確認すると
思いのほか大した事のない患部を見て安堵した。
だがだからと言って放ってはおけない。
不思議そうにして首を傾げるアレストを放っておいてフェイルは呪文を唱えだす。
小規模の回復魔法なので、詠唱時間は短く淡い光はすぐに消えた。
だが、初めて見る魔法にアレストは暫し呆然とするのである。



「へぁぁ、これが魔法っちゅうやつなんやな?」

「うん。・・・・よし、これでいいかな。」




満足そうにして頷くフェイルは、アレストの腕を離してにこやかに笑った。
綺麗さっぱりに消えた傷の部分を、マジマジと見たりなぞったりするアレスト。
治療していた時に感じられたあの暖かさの名残があるようで、不思議そうにしてフェイルを見つめる。



「あんがとな。
 うち等の町に魔法使いってのあんまおらんのよ。」



だから彼女にとって魔法使いも、そして魔法自体も何もかもが新鮮で珍しい。
「ほぉぉぉ・・・。」と、まるで珍獣を見るかのようにしてフェイルの顔を除きこむ。
当の本人は分かっていないのか、首を傾げて笑うばかり。
2人のやり取りを黙って見ていたリュオイルであったが、いい加減急いだ方が良い為そこで中断させた。



「とにかく、早いとこ最深部に行こう。詳しい事はまたそれからだ。」

「了解っ!!もうすぐそこやさかいな。」




仕切りなおしてアレストが先頭を歩こうとした途端、それはこの遺跡の住みついた魔物によって塞がれた。
一気に機嫌を損ねたアレストは、ムスっとしながら前方を睨む。
その目線の先には、蝶のように舞うカサヒラ。
鋭い爪を鈍く輝かせている図体のでかいのはデッドベアー。
そして、今にも火を吹き出しそうな真っ赤なドラゴンのリザード。
その3つの影が、3人を今にも襲いかかりそうな視線で睨んでいた。



「どうやら、避けられなさそうだな。」

「せやな。逃げ回っても罠に引っかかるだけや。」

「う、うん。分かった。」

各々の武器を構えた。
今は薄暗い遺跡の中にいるので分からないが、リュオイルの槍は鋭く光っている。
アレストの武器は十中八九ナックル。
武道を極めているようで、拳に所々傷があるのがその証拠だ。



「フェイル。僕から離れないで。」

「え、うん。」




杖を片手で持ちながらも、フェイルは言われた通りに傍に寄った。
この場合、接近戦に有利なアレストが前に出て彼が援護すれば効率がいい。
ある程度ダメージを与えて、最後にフェイルの魔法で止めを刺す。



「ほんなら行くで。うちらは今急いでんのやっ!!!!」



疾風の如く駆け出すアレスト。
それに少し遅れて動き出すリュオイル。
それぞれ敵の数は3対ずつ。
あまり広くないこの遺跡の通路で、大暴れするのは賛成し難いが今はそんな事を言っている場合ではない。



「っ全くーーー!!もう、すぐそこやのに!!」



ガンガン殴るアレストに対し、リュオイルは敵の攻撃を軽やかにかわしてはその槍で止めを刺していた。



「しょうがないよ。
 ここは何十年も放置してあったんだから。」



自業自得としか言い様が無いね。



「うっわ。あんた何気なく酷い事言ってるで。」

「事実だろ?」

「・・・・・。」




会話をするほど余裕があるのか、しまいには笑みまで出す始末。
後ろの方でフェイルはなにやら詠唱を唱えているが、それは小さな、呟くような声なので2人には聞こえない。



「グワァァァァアア!!!」

「気持ち悪いんじゃっ!!崩壊動っ!!」




地面を割るようにして衝撃を叩きつける。
その場所からデッドベアーの所へ真っ直ぐ波動が行き渡ると、ぴたっと止まったそれは一気に粉砕した。
威力の高いそれは、全長2メートルは優に越すデッドベアーでさえ粉々にしてしまう。
上手い具合に技が入っているおかげで、血は殆ど飛び出す事は無かった。



「ふぅ。まぁこんなもんかな。」



ぐいっと額に付いた埃を拭うと、アレストは少し離れた所に居るフェイルを伺った。
彼女の足元には、淡い色の魔法陣が浮き出ていていかにも魔法使いらしい。
しかもその魔力は、魔法とは縁の無いアレストでさえも感じられるほど。




「今だフェイルっ!!!」



突如リュオイルの声が響いた。 驚いて振り返ると、リュオイルは敵を弾き返し2・3歩下がった。
そこに待っていたかのようにしてフェイルの魔法が降り注ぐ。



「任せて!!」


―――――――イラプションっ!!!!




魔法陣から放たれたのは、灼熱の炎だった。
ゴゥゴゥと音を立てながらそれはリュオイルがさっきいた所に向かう。
そこには、あらかじめリュオイルが敵を誘導していたのか2体のカサヒラと1体のリザードが炎の中に呑まれた。
狭い空間なので、焼け焦げた異臭がする。
すでに炭化したそれを確認したリュオイルは、すぐさま残りの敵へ走る。



「さっすが。」



ヒュー。と口笛を吹くアレスト。
その表情は楽しそうで、口の端がにっと笑っている。

2人の動き。特にリュオイルには全く隙が無い。
的確に敵を倒し、そして効率よく止めを刺す。
無駄な動きは一切無く、使用する時間もかなり短い。
つい数十分前に初めて会ったはずなのに、この2人のバランスはかなり整っている。
フェイルの方はどちらかと言えば危なっかしいところも多々あるが、そこはリュオイルでカバー。
2つで1つ。
この言葉が一番似合いそうに思える。



「うちも、負けてられへんってわけやな。」



にかっと笑うと、アレストはリュオイルが対峙しているカサヒラの元へ走り出した。



(2人とも、面白い奴やなぁ・・・。)



アンディオンでは彼女と近い歳は既に働きに出ている。
働きと言っても、スパイなのだが、町を空けて暫く帰ってこないのはよくあることだ。
寂しい、とは言わないが、近い歳の話すことが出来て凄く楽しい。



「アレスト!!行くよーーーーーーっ!!!!」


「はいはい、了解やで!!」





離れたく、無いなぁ。