■天と地の狭間の英雄■
       【覚悟】〜分化した意思たち〜




















「な、何するのよソピア!!!!」






邪魔をされたロマイラは、目の前にいきなり立ちはだかった女を激怒した。
最後に振り絞った力はもう彼女に残されていない。
先ほどのフェイルの攻撃がかなりきいているのだ。
怒りの対象とされた女性ソピアは、まるでその声が聞こえないのか、
涼しげな顔をして目の前にいるフェイルの顔を正面から見据えた。






「答えてアブソリュート。
 貴女のその意志。嘘偽りなく、そしてやり通す覚悟がその身にあると?」






ソピアの声は厳格だった。
その声に押されそうになりながらも、嘘の事を口に出していないフェイルは固く頷いた。
邪魔される事は分かっている。
でもそれでも叶えたいと真に思っている。
甘ったれで、現実味のない世界創造だが今の世界に不満があるからそういう考えに行き着いた。

大好きな人達を守りたい。
そして、全ての人々が幸せになって欲しいと、心から願う。







「ソピア!!!」







後ろかの罵声に今気付いたのか、ソピアはゆっくり振り返った。
その表情に感情はこもっていない。






「それだけの神気をその身に受けて、死ぬ気でアブソリュートに襲いかかったの?」

「う、うるさい!!あたしに倒せないものなんてないんだから!!!!」

「流暢に言うのは大いに結構よ。
 でも、自分の力量と体力に思いあがっているとその内に痛い目にあう。」







図星を突かれた様で、ユデダコになるほど顔を紅潮させたロマイラはギリ、と奥歯を食いしばった。


こんな奴に。
神から魔力を頼らないと覚醒出来なかったクズ同然の魔族のくせに・・・!!!
どうしてあたしがこんな奴に屈しなければならない。
どうしてあたしはこんなくだらない連中に負けなければならない。
あたしを、あたしを止められる者なんていない。存在しない。

・・・そうだ。
何故あたしがこんな奴の命令を聞かなければならない。
その必要は、無いんじゃないの?
だって、あたしが従っているのはあんたじゃないのよ。
あんたじゃなくて、ムカつけど、あの落ちぶれた元大天使だもの。
あいつの命令なら、・・・鬱陶しいけど聞く。

あんたみたいな、クズ同然の同胞の命令なんか、いらない!!







「・・・るさい。」

「ロマイラ?」






皆がロマイラの異変に気付いたのか、相変わらず表情を変えないソピア以外は真剣な表情で彼女を見据えている。
少女の身体からは恐ろしいほどの負の気配が流れている。
それに当たれば、人間と言えども平気ではない。
すぐに足がすくんだ。
ゾクッ、と背筋が凍るほどの冷たさが感じられる。
その標的が自分ではないと分かっていても、頬を伝うのは嫌な汗。






「何であたしがあんたの言う事聞かなきゃいけないのよ。あんただって、あいつに従ってるんでしょ!?」

「・・・・私は、最善の判断を下したまでよ。このまま突っ込んでも、私は助かるけど貴女は死ぬわ。」

「そんなの、やってみないと分かんないじゃないっ!!!
 あたしは指図されるのが大嫌いなのよ。天使と同じくらい、そしてあんたも大嫌いよ!!!!」






喚くような高い声に思わず耳を塞ぎたくなる。
その衝動を抑えてミカエルは真剣に彼女達の言葉に耳を傾けた。
彼女達は何故決裂しているのだ?
本来ならば自分達を倒すために、少しでも同胞と協力して攻撃してくるはずなのに。
それなのに、ロマイラが向けている殺意はフェイルでもシリウスでもない。
姿形が丸っきり変わったが、ソピアだ。

ソピアは貶された言葉を浴びせられながらも、ピクリとも動く事なく少女の話を聞いていた。
いや、聞き流していたと言った方がしっくりくるかもしれない。
何故なら彼女はロマイラを見ていないからだ。
目線は向けていても、その瞳にロマイラは映し出されていない。
姿を捉えなくても彼女の甲高い声は嫌でも耳に入るはずだ。
普通ならここで反論が来るだろうが相変わらずソピアは何を考えているか分からない。





「嫌われて光栄よ。ありがとう。」




返ってきたのは無機質な感謝の言葉。
本当にそう思っているのか疑わしい。
だが彼女達の事にとやかく言える権利はないのであえて口を挿まない。
ここで何か言ったとしても、2人ともさらりと流すからだ。






「だから何。気に入らないからと言ってあの方の意志から反するつもり?
 そうしたいのならそうすればいいけれど、ジャスティは黙っていないよ。
 彼女の命令が下れば、すぐにでも貴女を殺してあげる。」

「出来もしないことを、軽々しく言うんじゃないわよ!!」

「・・・ロマイラ。」







呆れた溜息と混じっていたのは確かな殺気。
素早く出された両手からは既に魔法陣が完成されていた。
その禍々しい気配にやっと気付いたロマイラはザッと顔色を変えて空に飛び立とうとする。
だが、ソピアの方が速かった。
複雑な形をした魔法陣は素早くロマイラの身体に巻きつき、瞬時に漆黒の大蛇と化す。
締め付けられた途端にロマイラの悲鳴がこの一辺を覆う。
少女特有の甲高い声と、今にも死にそうなほどの絶叫にフェイルは肩を震わせた。

慈悲も何も無い、残虐なやり方だ。
既にロマイラには魔力は殆ど残っていないと言うのに、何故ここまでする必要がある。
分からない。苦しめて、何になる。
敵だからと言って自分達は彼等を苦しめさせたいんじゃない。
ただ、戦争が終わればそれでいいのに。






「1つ言っておくわロマイラ。」





多分、ソピアの瞳に色が出たのは今が初めてだろう。
透き通ったアメジストの瞳はどこかくすんでいて、本来の輝きを忘れている。







「貴女は私を捨て駒と思っているようだけど、違うわ。
 





 ―――――――――――捨て駒は、お前なんだから。」








堪えきれなくなったのか、ソピアはクツクツと低く笑った。
大蛇に更に魔力を吸い取られているロマイラにその声が聞こえたかどうかは分からないが、
彼女がロマイラを『仲間』と思っていないのは確実だと言える。

瞬時にグッと右拳を力強く握った。
すると大蛇は更にロマイラを強く締め上げる。
そうすると自然に彼女の悲痛な叫び声が木霊する。






「やめてソピアっ!!!」





耐え切れなくなったフェイルは泣きそうな顔でソピアに訴えた。
だがその声が届く前にソピアはロマイラを消す。
残ったのは彼女の悲鳴の木霊と、ソピアが操る大蛇だけ。




「・・・何をそんなに怯えているの?
 あぁ、大丈夫。まだ使える駒をそう簡単に潰しはしないわ。強制送還しただけ。」




晴れやかに言う彼女に少なからず、フェイルは怒りを通り越して悲しみを覚えた。
変わった変わったと思っていた彼女だったが、あまりにも良心というものがない。





「どうしてそこまでするの。仲間なんでしょう?同じ種族の人なんでしょう?」

「仲間・・?勘違いしないで。ロマイラは殺傷能力が高いから生かされているのよ。
 彼女には上に逆らう権利は1つもないわ。」

「上って、誰?ルシフェル?それともソピアなの?」






敵に情けをかけるな。
自分達の有利になる事だけ考えろ。

本当ならば、この正しい言葉に従うべきだ。
けれど見て見ぬ振りは出来ない。
あんなに苦しそうに悲鳴を上げて、今にも死んでしまいそうなほどの絶叫。
それを聞いて何故貴女は何も思わない。
『強制送還』?
もっと、別のやり方があるはずだ。ソピアほどの力があるのなら。






「思いあがった魔族を屈するには、これが手っ取り早いでしょ。」





フェイルの質問に答える事無く、ソピアは淡々と語りだす。
意思のない瞳は何を映すのか。また彼女の瞳はユラリと変わった。





「従わないのなら殺せばいい。そうする事で私自身の願いは叶うのだから。」

「それでも・・それでもやり方が酷すぎる!!!」




苦痛を味わせて何が楽しい。
願いを叶えるからと言って、どうして周りの犠牲を考えない。








「・・・・それが貴女に言えるの?アブソリュート。」








ソピアの空気が変わった。
見据えられた意志のない瞳に絡まれたフェイルは、その視線から外す事無く相手を見返す。







「貴女は貴方の願いに嘘偽りなく、そしてやり通す覚悟がその身にあると肯定した。」

「な、にを・・・。」

「それは『多くの犠牲を出しても、自分の意志を曲げる事はない』と言っているのと同じよ。
 小さくても大きくても犠牲は犠牲。貴女の願いのために、どれだけの命が消えるか分かっているの。」







それを覚悟したのは貴女だ。
それはいつか魔族を、神を、天使を、時には人間でさえ犠牲にするだろう。
大きな願いを抱えるものには、それに対応する大きな壁が待っている。
乗り越えなければ結果は生まれない。説を立てるだけでは願いも叶わない。

貴女は、覚悟があると言った。
嘘偽り無く、その願いを真に願うと。
皆が幸せになる世界を創りたいと。







「あれしきの事で非難をする貴女に、私を殺せるの?
 私だじゃない。ルシフェル、ジャスティ、アルフィス、ロマイラ、・・・・ラクト。」








敵とは言え皆生きている。
同じ大地を踏み、同じ空気を吸っている小さくて尊い生き物だ。
彼等とて生き物としての感情は少なからず持っている。
愛する者のために命を懸けて戦うもの。
死にたくないと願い戦場に身を置くもの。
本当の自分を確かめるために剣を振るうもの。
真の価値を手に入れたくて、死を覚悟して身を投じるもの。





「少なからず私達は貴女の考えに耳を貸さない。寧ろそれを、潰す。」





そうすれば貴女は私達を殺さなければならない。
話し合いでどうにかなる相手じゃない事ぐらい分かっているはずだ。





「アブソリュート、貴女はさっき私に『居場所はすぐ傍にある』と言った。
 でもどこをどう探しても、私の居場所は魔界でしかない。」






あの方は救ってくれた。
私も、皆も、流れてくるものを全て。その優しさで包んでくれた。

だから、あの場所が好きだ。
暗くてどうしようもない場所だけど、あの場所にはルシフェルがいる。
初めて手を差し出してくれたのは堕天使だった。
けれどその心は真っ直ぐで、元敵だったとは思えないくらい私達に優しい方で。





「私の居場所を、奪うことは許さない。」




そして、ルシフェルを殺すことも許さない。
もしもそれが実行に移された時は、容赦無く敵を斬る。
敵であっても味方であっても、その思いは変わらない。




――――――――それでも貴女は、私達を殺せる?
































(何かを得るためには必ず何かを失う。それは自然の摂理に則っている事。
 例え我であっても、お前の強き想いでも捻じ曲げる事は出来ない楔の法則。)











想いを描くものには重大な事に気付いていない者もいる。
正義感と優しさだけでは変えていけない事がある。
今回が、いい例だ。
お前の願いは清く正しく、そして間違っていない。全ての民の願いをそのまま表している。


だが、綺麗過ぎた。


願いが純粋で真っ白で汚れがないから、気付く事が出来なかった。
根本的な事をすっかり抜かしていた。
お前は、フェイルは、人を殺す事が出来ない。
殺せば殺したで、今度はフェイルが自殺するかもしれない。
殺傷で、全て変わる事もある。
思案者が崩れれば、その願いは絶対に叶える事は出来ない。






「分かってた、つもりだったんだけどなぁ・・・。」





ぽつりと零れた言葉に1人の少年は少し難しい顔をして聞いていた。
ここ、天界のとある庭にいる男女。フェイルとリュオイル。
対照的と思われる金の髪と紅の髪はどこからどう見てもかなり目立っていた。
けれど誰も彼等の傍に寄ろうとしない。
庭の入り口付近には銀の青年とエルフの少女がいる。
どちらも腕を組んだまま、空を見上げて動かない。





「いざ言われてみると、やっぱり覚悟出来てなかったのかも知れない。」





苦笑するフェイルにリュオイルの反応は無かった。
同じく少し俯いたまま、地面と睨めっこをしてる。

彼等が地上から戻ってきたのは数時間ほど前のことだ。
魔力を削がれたシリウスは、ミカエルとアレストに運ばれて今現在治療中である。
無事3日間以内に帰って来たことに安堵していたゼウス神の顔が離れない。
彼は、フェイル達が魔族と対峙していた事を知っているからあんな顔をしたのかもしれない。
・・・もしかすれば、フェイルが寝返って魔族についてしまうんじゃないかと疑っていたのかもしれない。

とにかく、今は休憩時間だ。
これから本格的に始まる戦争に、他の天使達は慌しく武器やら何やらを運んで行っている。
こんな時なのだから手伝うのが当たり前なのだが、天使達はフェイルの申し出を真っ青になって断った。
フェイルがアブソリュート神だと言う事は既に天界では知られている。
それでも人懐っこい彼女なので、そう構える者はいなかったしフェイルもそれを喜んだ。
けれど、大仕事を手伝わせるほど天使達は馬鹿ではない。
ただの会話ならいいだろうが、あちこちに走りまわさせるのはフェイルが許してもゼウス神が許さないだろう。
速攻にでも落とされそうな勢いだ。





「やっぱり、間違ってたのかな。」





思い出せばすぐにでもソピアの怒りの表情が思い浮かぶ。
あれは無表情なんかじゃない。隠してはいるが、怒りの兆しが見えた。
「奪うな」と断固した。
居場所を取るなと言い放った。
それがぐるぐる頭の中で回って、上手く整理がつかない。


自分のしていた事は間違っていたのだろうか。
皆が幸せになってほしいと願うのは、罪だろうか。


私がソピア達の居場所を奪おうとしていた。
これじゃあ、どっちが敵なのかさっぱりだ。
彼女達にも帰る場所があって、そして信頼する者がいる。そして皆同じ様にルシフェルを敬っている。
勿論、例外はいるが、彼等とて決してルシフェルに逆らったりはしない。
最後は必ず彼の意思を貫くのだ。






「・・・けど、それは当たり前だろう?」






初めてリュオイルが口を開いた。
本当はどのタイミングで話そうか悩んでいたのだが、そんな事フェイルは全く気付いていない。
俯き加減だった頭を起こし、日の光に照らされた紅の少年を見た。
いつもより眩しく見えるのは、きっと光の反射のせいだ。




「僕は、フェイルの意見は正しいと思う。でも間違ってもいるんだと思う。
 ソピアの言っている事だって筋は通っているし、間違った事は言っていない。
 でもだからと言ってそれが全て正しいとは限らない。」




相変わらず難しそうな顔をしているが、フェイルは真剣に彼の話を聞いていた。
第三者からすれば何とも曖昧な事を言っているように思えるが、
入り口で立ったままのシリウスとアスティアも、彼の真意は分かっていた。




「フェイルの言っている事は誰もが考えていて、綺麗な理想だと思う。
 でもそれを実現させるためにはソピアが言っていたみたいに必ず犠牲が出る。
 それは、どうやっても避けられない事なんじゃないかな・・・・。」




段々語尾が小さくなっていっているのはフェイルの表情が優れないからだ。
彼なりに意思表示しているのだが、相手がフェイルであると何故なのか上手く言葉に表すことが出来ない。
伝えたい気持ちは溢れんばかりにあるのに、口から出るのは何とも無責任な言葉。
思わず自分の頭を殴ろうかと思ったほどの勢いだ。





「・・・けど、だからと言ってソピアの考えが正しいとは言えない。
 殺戮からは何も生まれないし、また苦しい戦争が起こるだけだ。
 大切なものがあったとしても、自分の考えだけをただ真っ向に通すだけでは世界は成り立たない。」





これも本心だ。
ソピアの気持ちも、あの一件で良く分かった。分かったつもりだ。
思いあがっているかもしれないが、僕の気持ちはこれで変わらないと思う。
どちらも正しい。けど真っ直ぐ過ぎて何か足りない部分がある。
気付けばそれでいいが、問題はその後だ。
フェイルはきっと意志を変えないつもりだろう。
僕だって、変えて欲しくないと実は思っている。
だが立ちはだかった壁は予想以上に大きくて、僕ではないフェイルを戸惑わせる。
けれど、僕はここからは手を出す事は出来ない。
これはフェイルが越えなければならない壁だ。
第一、僕や皆が手を貸した所でどうこう出来る問題ではないのだから。







「・・・でも僕はフェイルの思いに付いて行きたい。」







間違っていても、それを僕達は止める事が出来る。
いつしか君がくれたように、迷った心に手を差し伸べれる。
君が間違わないように、僕達はずっと後ろから見ているよ。




「リュオ君・・・。」




ここでフェイルが顔を上げた。
その表情は笑っているのか困っているのか少々判断しづらい。
だが、さっきのような暗い表情はきれいさっぱり取り除かれていた。
まだ迷いはある。けれど、強い瞳だ。
自信に満ち溢れた、と言えば大袈裟だがそんな表情が読み取れる。




「まだ選択はあるよ。きっと。」




それだけが全てじゃない。
遠回りだろうけど、間違った選択をするよりはましだ。





「・・・・そうだね。まだ、大丈夫だよ。」





何か考えた素振りをしながらフェイルは笑った。
久々に見る笑顔に一瞬呆けてしまったリュオイルだったが、いつものような元気が出て安心していた。
帰って来たときは本当に真っ青で、今にも自殺しそうな勢いがあったのだ。
それはいささか言いすぎかもしれないが、こうして誰かが傍にいないと溜め込んで誰にも話そうとしないから。
心配なのはリュオイルだけじゃない。
すぐ傍にいるが、決して寄ろうとしないシリウスやアスティア。
ここにはいないがアレストやシギ、そしてミカエルだって心配している。

どういった経緯でも、フェイルの理論に反対するものは今の所いない。
特に地上側の人間は反対するどころか賛成しているのだろう。
ただ厄介な問題が山積みなのが気掛かりだが、それでも戦争を終わらせて皆が幸せになる、
そんな理想的で幸せな世界なら誰も反対などしなかった。
・・・もしもフェイルの言う世界が創れたとしても、必ずどこかで小さくても戦争は起こる。
止めようとする者がいない限りきっと人々は変わらないだろう。
けれど自分達には止めることが出来る。
戦争の悲惨さを知っているからこそ、その思いは更に強くなる。







「・・・・・きっと、大丈夫。」






ポツリと零された言葉は風に吹かれてリュオイルに届く事は無かった。
空を見上げたフェイルの瞳はとても力強くて、きっと誰も止められない。












―――――――貴女のその意志。嘘偽りなく、そしてやり通す覚悟がその身にあると?










意志は変わらない
嘘偽りも勿論ない
ただ、切に願う









―――――――貴女に、私を殺せるの?








・・・・・ごめんね。
気付くのが、遅かったんだ。
貴方達の苦しみを、悲しみを知ろうともしないであんな事言って。









「・・・・ごめんね。」









風に攫われた彼女の声は、誰にも聞こえる事はない。


届いたのは、彼女のうちにいるもう1人の私だけ。