「どぇぁぁぁああああああああああああああああああっ!!!!!!」
「あぁぁぁああっ!!またアレストか!!?」
「ひゃぁぁぁああああ!!」
「今度はフェイルっ!!?」
罠にかかり、中々最深部に行けない3人(2人)であった。
■天と地の狭間の英雄■
【イルシネス港】〜世話になるで〜♪〜
「・・・・・・・・・・。」
「・・・ゼェ、ゼェ・・・。」
「ご、ごめんね。リュオ君。」
肩で息をするアレストと、トラップから落ちたアレストを治療するフェイルの姿。
そして、こめかみを押さえて、何か言いたげな顔をしたリュオイルの姿がそこにあった。
「・・・・・・・・。」
「いててて。
わ、わざとや無いんやで!?」
本日12回目。
ちなみにこれは、罠にかかった数だ。
更に言うならばその半数がアレストで占めている。
フェイルもちょこちょこ引っかかっているが、事の元凶はアレストなのだが今もずっとヘラヘラ笑っている。
最初は「仕方ないな。」と言って何も言わなかったが、いい加減ほどがある。
そろそろリュオイルの堪忍袋の緒が切れそうなのだ。
「しかも、アレストの引っかかる罠は全部出口に戻るやつばかり。
それだけならまだましだけど、挙句の果てには魔獣の巣に放り出される始末。」
「・・・・・・・すんまへん・・・。」
段々語尾が小さくなってきているアレストは、肩身が狭いのか随分項垂れている。
流石に可哀想だと思ったのか、フェイルは宥める様にして彼女の肩をポンポンと叩いた。
「まぁまぁリュオ君。
私にも非があるから、アレストばかり怒らないであげて。」
「誰がどう見てもわざと罠にかかってるようにしか見えないんだけど・・・。」
「き、気のせい気のせい!!」
とは言うものの、フェイルも少しだけ気になってた。
アレストが引っかかる罠は全てこちらが不利になるものばかり。
フェイルの場合は、床が抜けたり、天井から槍が落ちてきたりする比較的優しい(?)ものばかりである。
「でもこれだけ罠にかかった場所が分かればもう大丈夫と思うけど?」
「・・・・違う意味で君達を尊敬するよ。」
ふ、とリュオイルは目線を下ろした。
顔は引きつったままで、青筋も立ち始めている。
この広くない、遺跡にしては狭い通路にあるトラップの数は並大抵ではない。
こんな道歩けるか!!と言いたくなるほど、ボコボコ穴が開いている。
よくこんな場所を試練の遺跡にしたな、と改めてアンディオンの人達をずれた方向で評価する。
「さ、流石に、もう罠は無いと思うよ。・・・・・うん。」
これ以上この狭い通路に罠があったら命が幾つあっても足りない。
そこの角を曲がれば最深部なのだから余計に苛立つのだ。
「さっ!!気を取りなおして行くでぇ!!!!」
「はいはい。」
半分投げやりな形でリュオイルは適当に返事をした。
その後ろから付いて来るフェイルは2人を交互に見ながら苦笑するしかない。
「よっと。」
――――タン・・・。
最後の一歩を踏み出したアレストは、息を呑んで右足を前に出す。
これ以上罠にかかればリュオイルが切れるのは目に見えている。
穏やかそうな顔をしているが、ああいうタイプが一番怒ると怖いのだ。
恐る恐る体勢を直すが、何も起こらない。
床が抜けるときのあの揺れは感じないし、それに壁が動く音も全く聞こえない。
「よ・・・・・よっしゃ!!!」
「わぁ!!やったねアレスト!!!」
「やっと到着か。」
ガッツポーズを決めたアレストは、嬉しそうにはしゃぐフェイルと手を合わせた。
その横でげんなりとするリュオイルは盛大に溜息を吐いた。
何とか彼の怒りをかうことは無くなった様だ。
「レイラスーーーーーーーっ!
それに皆どこやーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」
アレストのアルトの声が広い空間に木霊する。
最深部は、出入り口の所と比べるとかなり冷えており地面はかなり湿っている。
こんな所で1夜を過ごした子供達は生きているのだろうか。
アレストの声には何の反応も無い。
まさか、と思いつつ、3人は手分けして子供達を捜す事にした。
「いない。」
リュオイルは祭壇のある辺りを捜索していた。
小さな階段があり、隠れる場所には絶好の場所だ。
だが捜している子供達はいない。
念のために隙間を除いて見るが、やはりいなかった。
「まずいな・・・。」
早く見つけないと、凍死している可能性がある。
昼はどうか知らないが、ここは外からの光を遮断されている。
しかも今は夜。
それなりに着込んでいるリュオイルでも、寒いと感じるのだ。
「いないいないいない・・・・・・。」
少し離れた所でフェイルも捜していた。
壺や花瓶が立ち並ぶ場所を中心に捜しているが一向に見つからない。
更に端の方でアレストが懸命に捜しているが、やはり彼女も見つけられないようで焦っている。
(寒い・・・。)
フェイルは少しだけ溜息を吐いた。
溜息を吐くと、体内にあったぬくもりの一部が外に出されてしまったような感覚になる。
子供達は、大丈夫なのだろうか。
寒い上に飲まず食わずなのだから、無事でいる事の方が奇跡だ。
「レイラスーー!!
あとメディにラナクにリーティスっ!!!」
あとは・・・・忘れた!!
「迎えにきたでー!
返事せなお姉ちゃん帰るさかいなー!!」
口調はいつもと変わらない、明るい声で言っているが流石に焦っている。
キョロキョロと辺りを見回して、懸命に子供達の姿を捜している。
生きていると信じていたい。
でも、頭の片隅に浮ぶのは最悪の事態。
「・・・・。」
ブンブン、とアレストは勢いよく首を横に振った。
死んでいるわけ無い。
子供ではあるが、仮にもアンディオンで育った子供だ。
何度も修行を積み重ねて、それなりの対処法は分かっているはず。
でも
まだ小さい子供な事には変わりは無い。
「・・・・返事せんかーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!」
不安が、苛立ちが、
大声を上げる事で解消される。
リュオイルから見れば単細胞だろうが
今この気持ちを晴らせるのはこの時だけだ。
「・・・・・アレスト、姉さん?」
子供の声にしては低い。
恐らく声が枯れているのだろう、ガラガラした声が闇の中から響いてきた。
その声に酷く反応したのは
でも無いアレスト。
バッと顔を上げると、声のした方向へ、アレストの真逆の場所に駆け出す。
聞き覚えのある声。
つい先日まで、言葉を交わしていた少年の声だ。
「レイラス!!」
入り口の近くに段差があるなんて知らなかった。
そこに佇んでいるのはアレストの捜していた少年、レイラスだった。
目立った外傷は無く、フラフラとした足取りだが生きていることは確かだ。
「アレスト、姉さん。」
「大丈夫かレイラス!!」
彼の元に走り寄ると、小さな体を、凍え切った体をアレストは抱きしめた。
そのぬくもりに居心地が良かったのか、レイラスはほっとしたように笑う。
「僕は、大丈夫。
でも・・・・メディ達が。」
レイラスはふ、と目線を下にやった。
それと同時にフェイルとリュオイルも駆け寄ってくる。
レイラスを見習うかのようにしてアレストも目線を下げた。
「――――っ!メディ!!」
そこでぐったりとしていたのは、最年少のメディという小さな子供だった。
「・・・・大丈夫。
発見が遅れていれば死んでいたかもしれないけど、奇跡的に一命を取りとめたわ。」
「せ、せやか。」
ほっと胸を撫で下ろしたアレストは、緊張した顔を綻ばせる。
それを見てフェイルもリュオイルも、互いの顔を見て微笑んだ。
ここはアンディオン。
つい先日、アレストと子供達を捜すべくクラード遺跡に向かっていた。
思いのほか時間が掛かったが、何とか全員救出する事が出来た。
だが、その内の子供2人は完全に衰弱しており、大変危険な状態だった。
すぐに町に戻った3人は、アンディオンにいる医者にその子供を診せて今に至る。
「アレスト、それに貴方達も疲れているでしょう?
昨日から付きっ切りで看病していたのだから、少しは休みなさい。」
結局昨日帰ったのは夜が明ける3時間前だった。
寝静まっていた町に急いで帰ってきた3人は、医者を叩き起こして治療してもらっていた。
医者は後ろにいた3人に休むように、と言ったが全く聞き入れられず、仕方無しに付き添うことを承諾したのだ。
ずっとクラード遺跡で探し回っていたアレストも、
フィンウェルからここまで歩いて来た2人も、相当疲れているはずだ。
医者として、1人の人間としてそれを見逃す事が出来ない。
「でも。」
「大丈夫。
メディなんかもう体温が正常に戻ってきてるもの。
目を覚ましたらすぐ食事させるように両親にも言っておくから。」
だから休みなさい。
有無を言わせない彼女の鋭い瞳が優しくこちらを向いた。
「・・・・・りょーかい。」
「よし、いい返事ね。
貴方達もご苦労様。今日はゆっくり休んで頂戴ね。」
渋々といった感じでアレストが頷くと、機嫌を良くした医者はフェイル達に目を向けた。
流石に昨日今日との殆ど徹夜と言える日を過ごした2人には疲れの色が出ている。
子供達の無事を確認した後は、緊張の糸が切れたようでほっとしていた。
そのせいか、眠気を誘われるのは気のせいではないだろう。
「そうだね。今日は流石に疲れたよ。」
「僕も同感だ。
お言葉に甘えて今日はゆっくり休もう。」
「それじゃあ、明日。」
「うん、アレストお休み。」
2人が立ち去った後、アレストはここに来て初めて溜息を吐いた。
(生きてた。)
クラードからここに戻るまで、本当に真っ青になるような事ばかり考えてて
(しっかりしてアレスト!!
今アレストがしっかりしなきゃ・・・子供達が不安になる!!!)
まさかあのフェイルに怒られるなんて、思ってなかった。
でも、それで立ち直れたのも事実。
「・・・・・。」
決心した。
「アレスト?」
変わらないだろう。
この、強い思い。
「いんにゃ、お休み!!」
うちも、2人と旅がしたい。
あの後2人は相当疲れていたのか、ベットに入るとすぐに寝てしまった。
歩きっぱなしで戦闘ばかりしていたせいでかなり体は堪えていた。
それでも次の日起きて平気そうにしていたのは、やはり鍛え方が違うからなのだろうか・・・。
「わぁ、いい天気。」
「そうだね。
これなら今日中にイルシネス港から船で出れるよ。」
次の日、朝早く起きた2人は準備を整えてアンディオンを出ようとしていた。
朝早くと言っても、彼等は昨日の朝方に寝たわけで、正確に言えば一日中寝ていたのだ。
そのおかげで体は大分元に戻り、フェイルもこのように元気である。
「アレストにも、お別れしなくちゃ駄目なんだね。」
「うん。」
「・・・寂しいね。」
たった一日でも生死を共にした2人にとって別れは辛い。
少しだけ悲しい顔をしたフェイルだったが、気を取り直したように明るい顔で宿屋を出る。
2人は昨日世話になったアレストの元へ足を運んだ。
「おや、アレストなら町に出てしまわれたぞ?」
屋敷にいる人物に片っ端から聞くと、どうやら彼女は出かけてしまったらしい。
そのあまりに酷な返事に2人はがっくしと肩を落とす。
「そうですか。」
「待ってるとあの子は夕方辺りにならないと帰りませんからねぇ」
「夕方かぁ、流石にそこまでは・・・・」
しかたない、と踵を返して2人は門に向かった。
別れの挨拶が出来なかったのは心残りだが、いつまでも此処に留まるわけにはいかない。
逆に言えば、何も言わなかった事で足止めをくらう事も無いのだ。
「アレストびっくりしないかなぁ。」
「何でや?」
「だって急に私達がいなくなっちゃうんだから。」
「そりゃ誰でもびっくりするで?」
「うん、でも・・・・・・・・」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「「・・・・・・ア、アレスト!!」」
「ピンポンピンポン、ドピンポーン。」
思わず2人ともはもってしまい、咄嗟に後ろを振り向く。
そこにはたいした驚きも無く、平然としたままで2人を見るアレストの姿があった。
しかも何故か大きな袋を抱えて、その体には昨日と違う装備がしてある。
町の中をいつもこの姿で移動するには重装備過ぎるから、これから何処かへでかけるのであろうか。
「び、びっくりしたぁ。」
「ア、アレスト。僕らはもうここを発とうと思っているんだ。」
「はいな。」
「それで、世話になっ・・・」
「はい、すとっぷな。」
言葉をさえぎられアレストの手がリュオイルの顔の前に出された。
「お世話になりました、元気でね。はあかんで?」
「は?え?」
「聞いて驚け見て騒げっ!うちもあんたらについていく!!
フェイルが寝てる間に後でリュオイルから聞いたんやけど、
魔族侵略を妨害するのはいくらなんでもあんたら2人だけじゃあ太刀打ちできやせんだろう。
そ・こ・で、うちもあんたらの手伝いするわな!!」
いきなり重大発表をされた2人はあんぐりと口を開いて固まっている。
フェイルはアレストの言った事が完全に理解出来ていないのか放心状態だ。
「なっ・・・じ、次期党首がそんなこと言って、第一そんな事、頭首が・・。」
「あー親父なら
「うむ、お前がそうしたいならそうするのだ。我が道突き進め!!」だって。賛成してくれはったで?」
恐らく父親の言い方を真似しているのであろう。
顎に手をあてて、歯を光らせながら言っている。
それでいいのか頭首よ、と思わずここにいない彼に突っ込みそうになった。
「でも、危険なんだよ?いっぱい怪我もするし、帰ってこれるか・・・」
「すとーーーーーぷ!!」
「え・・」
「帰ってこれるか分からん、とちゃって『絶対に帰るんや』って思わな!!」
にかっ、と邪の気が無い明るい笑顔で指を立てながら言うアレストの姿に2人とも黙ってしまった。
「それにな、うちあんたらといると楽しいんよ。」
「え?」
急に真剣な顔つきになったアレストは、優しい笑みで2人を交互に見つめた。
いつも無邪気な笑顔を浮かべているので、この笑顔を見るのは初めてだ。
「あんたらと一緒に、旅がしたい。」
「アレスト・・・・。」
仲間と言う暖かさ。
スパイには一切無縁の話し。
だから憧れもあったし、願いがあった。
「・・・・一緒に、来てくれるのか?」
「あったり前やんか!!うちら仲間やろ!!?」
驚いた様子のリュオイルの態度に、でも拒否されなかったことにアレストは更に笑みを濃くする。
それほど嬉しかったのか、リュオイルとフェイルの肩にしがみいた。
いきなり抱きつかれた事に驚いたが、2人は顔を見合わせて笑う。
「うん。行こう、アレスト。」
「よっしゃ!!」
フェイルの言葉を聞くと、アレストはリュオイルの背中をバンッと激しく叩いた。
叩かれたリュオイルはというと不意打ちだったせいか、少しむせ返っている。
それを気にした様子無くニカニカと笑うアレストは、「よっしゃ!!行くで!!」と言った。
意外な展開になったものの、それは凄く楽しくて嬉しい。
仲間が出来て、同じ目的を持つ者が増える事はこんなにも心強い。
アレストとフェイルが笑う中、リュオイルは痛切にそう思った。
「ところでこれからどこ行くん?
まさか何の当てなくこの広い世界、もとい大陸を横断するわきゃないやろ?」
「ああ、取り合えずイルシネス港にね。」
「イルシネス港?じゃあここの大陸とはしばらくお別れかいな。」
「うん、ルマニラスを目指すんだけど・・・」
そう言った途端、アレストはぎょっとしながら2人の顔を見た。
アレスト自身地理に詳しいわけではないがルマニラスはかなり遠い場所だとは理解している。
しかも船一本で行ける距離ではない。
幾つかの港を越え、何度か乗り換えしなければならないはずだ。
イルシネスから行けるルートは【ダンフィーズ】【モーリア】のみ。
その他に 【ルマニラス】【リグ】【サハライナ】等の大陸はリドヒリア大陸から出る船ではいけないのだ。
「ルマニラスっていったらこっから一番遠いとこやないか。
・・・・てことは降りるとこはダンフィーズ大陸やな。」
「その後がリグ、そしてルマニラス。」
「ルマニラスなら案内できるけど・・・あ、でもモーリアとか私あんまり行った事ないや。
どっちかといえばサハライナとかその辺にしか回ってないんだよね。」
メンバーの中で何だか詳しそうに話すフェイルにアレストは首を傾げた。
彼女が地理に詳しいなんて意外のほか無い。
「なんやフェイル、ルマニラス知ってるんか。」
「うん、私の故郷はそこだから。」
あんまり嬉しそうな顔ではないような気がしたが、それは気づかなかった事にしてアレストは話を進めた。
もしかしなくても彼女なりの気配りなのだろう。
リュオイルも同じ事を思ったのか、アレストと同じ様な顔をしている。
「えらい遠いとこからの訪問なんやな。
フェイルは何で旅してるん?前までは一人やったんやろ。」
「ん〜とね、簡潔に言えば記憶探しの旅なんだけど。」
「「記憶探し!?」」
アレストは兎に角リュオイルまでこの反応。
どうやら何も聞いていないようだ。
ひどく驚いた顔をしてフェイルを凝視している。
そういえば彼女は自分の任務に付いてきただけで、本当の目的を全く聞いていなかった。
「私、自分の記憶が曖昧でね。
何て言うのかなぁ?記憶が途切れ途切れになってて、昔のことあんまり覚えてないんだ。」
「はれ?ほんじゃあルマニラスの親御さんは?」
「何か話によると捨てられてて拾われたっぽい。」
何も気にしていないのか、笑いながら話す内容に思えない2人は言葉に詰まった。
簡潔に言うとフェイルは「捨て子」
そんな意外な答えに驚愕する2人だったが、フェイルはずっと笑っている。
どうして、そんなに笑えるのだろう。
「せやかて、何も思わないわけとちゃうやろ?」
「・・・・・」
流石に言い返せれ無くなったフェイル。
少し俯いて、少しだけ悲しそうな顔をした。
「捨てられた事にはそんなに辛いとは思わないんだ。
今の家族で十分幸せだし・・・ううん、幸せすぎるから不安なのかも。
皆がいなくなったらどうしようって、一人になったらどうしようって。」
何歳頃だったか、小さい頃に味わったあの恐怖
支えてくれる人がいなくなると悲しい、寂しい
不安 憎悪 怒り
小さくてもそれは感じ取ってしまう
今でも鮮明に思い出されるあの風景
「捨て子って事は、得体の知れない者でしょ?
そんな私を拾ってくれた上に、暖かい目で見てくれて・・・嬉しかったの。」
「え、得体の知れないって、何でそんなこと言うんや!!
誰の子供だって、かわいい子供や!」
アンディオンには捨て子が多い。
ここ最近でも数人の捨て子がいた。
それでも皆それを受け入れる。
それがアンディオンでは普通の事。だからアレストには理解できなかった。
本当は見ず知らずの子供はどれだけ恐ろしいのかを。
「アレスト、アンディオンではそうかもしれないけど、
他の国でもフィンウェルでも、子供を捨てる事は許されていない。・・・勿論それはアンディオンもな。」
「リュオイル?」
「だけど我が子を捨てるやつはたくさんいる。
その原因はその子供にあったんだ。」
「子供に?」
普通人間から産まれてくる赤子は人間だ。
だが稀に人間と人間の間でも牙の生えた、まるで魔族のような子も生まれる。
その大抵は親が病名不明の病にかかったことのある、またはその後遺症がある者。
感染された遺伝子が子に伝わればその子は基準成育が出来ず、不完全なまま産まれてくる。
だから皆嫌うのだ、捨て子を。
たとえ外見でわからなくても中身で分かるのだから・・・
「・・・・」
「でもね、2人とも。」
気まずい雰囲気を紛らわすかのように、明るい声で話しかける。
「私は何にも気にしてないのは本当だよ?
それに捨てられている全ての子供がそんなのじゃないから。」
そしてどこの研究者が言っていたのだったか。
どこかの論文でも見たような気がする。
《 何か障害を持ったものは確かに我々とは違う。
だがそのおかげなのか、はたまたそれが元の性分なのか。
誰よりも心が強いのだ、そうやすやす壊されない強い心の持ち主でもある。》
「・・・そうだな、全ての子供がそんな扱いをされてる訳ではない。
悪いのは結局、それを認めようとしない我々人間に問題があるんだ。」
「うん!
でもきっといつかは、皆どんな人でもどんな生き物でも認められる日は来るよね。」
「せやでっ!少なくともうちらの町の連中はもうそうなっとる!!」
「ああ、誰もが認められる日が来るのはそう遠くないんじゃないか?」
今は無理でもきっと未来はそうなると信じて・・・
「このままで、このままで済ますかっ!
必ずあの一族をぶっ殺してやる!!!」
「・・・・・・・・」
「お、お兄ちゃん・・・」
「大丈夫、大丈夫だよ。僕がついてるから。」
まだ2人とも幼い顔立ちで、大声を上げた男の側にいる少年と少女。
その少女には普通ならあるはずの無いそれを持っていた。
不安げにオロオロとする小さな少女は、優しい表情をした少年の手を強く握っていた。
「いやっほぅ!イルシネス港到着〜〜〜〜〜〜!!!」
「でもリュオ君一人でチケット買わせちゃっていいの?」
「心配あらへん、リュオイルは一応そこら辺の一般人とは違う将軍様や。
結構フィンウェルからも離れてるけどこの港にはフィンウェルからの使者がようさんおる。
緊急任務やさかい、はよ出してもらえるかもしれへんやろ?」
ここ、イルシネス港に着いたのはつい先ほどであった。
その途端リュオイルは船券購入のため奥に行ってしまった。
そのため残った2人で食料調達、道具補給、装備などを手分けして行おうとしていた。
と言ってもその数もそれなりにあるため、時間は掛かってしまうだろうが。
でも出来るだけ時間はかけたくない。
早く船に乗って荷物を置かないと乗り遅れたりでもしたら大変なのだ。
何せ便が少ない。
「ほんじゃあ、うちは装備品と・・・。ああ、あと情報屋に行ってくるな。」
「情報屋?」
「うちの本職覚えとるか?」
「ああ、なるほど!」
手をポン、とならせて理解した。
アレストにとって情報は大切なのだ。 勿論フェイルたちもなのだが・・。
「じゃあフェイルは食料と道具、頼んだで。」
「うん、集合場所は此処でいいよね。それじゃあ1時間後に」
量と重さはおそらくフェイルのほうが多い。
だがフェイルは料理をほとんど毎日担当しているので食料調達は彼女が一番最適だった。
残るアイテムは量さえなければさほど重くない。
本当の所、誰かもう1人いればかなり楽なのだが3人で手いっぱいなのだから我侭はいけない。
1人の時よりはずっと楽なのだから寧ろ感謝しなければ。
「うーん、先に食料にしようかな。 よく見れば道具屋さんは此処から近いし。」
港、といってもそれなりの広さがあるのだ。
今此処で見えているだけで5艘ほどの船。
貿易を盛んに行っているのでここはいつも活気に満ち溢れている。
「ええっと、パンは絶対いるでしょ、あと長持ちしそうなもの・・・」
パンやりんごなど果物や、野菜、肉など豊富に取り揃えている。
流石貿易の港、なかなかお目にかかれないものも揃っていた。
「こんにちはお譲ちゃん。何がほしいんだい?」
優しそうな中年の女性が微笑みながらフェイルに聞いてきた。
「長旅なんで長持ちしそうな物がいいんですよ。
うーん、ジャガイモもいいな、あと根野菜も。」
「ははは、これなんかどうだい?モーリア大陸原産のマムレット。」
少しごつごつとした丸い野菜。
色は真っ赤でトマトにも見える。
初めて見る食べ物に、思わずマジマジと眺めてしまう。
「これ、どんな味なんですか?」
「うーん、一言では言いにくいけど、疲労回復に効くんだよ。
少し甘いかな?果物と間違えてしまうかもね。煮込みの料理に使うといい。」
「煮込み・・・」
どうやら既にフェイルの頭の中で調理は出来たようだ。
長持ちするのなら買わない手はない。
「全部で2300リンツになります。」
無事食料調達も終わり残りは道具。
イルシネスに来るまでの道のりは少し長かったので道具の消耗は激しかった。
「ええっと、これとこれ・・・あとこれとそれ全部10個ずつください。」
「ありがとうございます、お会計1500リンツになります。
・・・・お嬢さん、もしかしてこれから船旅かい?」
「はい、そうですけど?」
「なら気をつけなさい、雲行きが怪しい。
晴れてはいるがすぐに天候は変わってしまうよ。」
空を見上げても全部青一色。
雲一つないのだが・・・・・。
でもこの近辺に住む人々を侮るわけにはいかない。
こういう場所に住んでいるからこそ気候の乱れを予測できる。
旅人にとって最も重要なのはその町に住む人々の情報なのだ。
「そうだ、雲行きが怪しいからこれをあげよう。
大分昔に商人がくれたものだが、どうやら一般人には使えないみたいなんだ。」
見たところお嬢さんは魔法使いらしいからね。
そう言って彼は1つの札をフェイルに見せた。
それは素人が見ればただの紙切れなのだろうが、内側に潜められた魔力の気配にフェイルは気付いた。
「これ・・・。」
「ははは、窮地になった時に使いなさい。
何が起こるかは私にも見当がつかんが、きっと役に立つよ。」
フェイルも初めて見る紙だった。
だけど、不思議な力を感じて離さずにはいられない。
出来れば窮地になってほしくないがお守りに代わりにはなるだろう。
「えっと、ありがとうございます!!」
ここにリュオイルがいれば「知らない人に物を貰うなといったろ」と言われるだろう。
頭から足の先まで黒い法衣を身にまとっている男を、
怪しいとまで判断できなかったのかフェイルは特に何も気にしていなかった。
否、この札だけは気になった。
悪い気配はしないから、多分大丈夫だと思うんだけど。
その後アレストと合流し、リュオイルとも無事に会い三人は無事に船に乗り込んだ。
これから起こる事を全く知らないで・・・。